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終末のSSR ―魔法使いジャパン、ただいまダンジョン攻略中!―  作者: 白猫商工会
第09章

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第301話 パートナーシップ

再び巨大戦艦と戦っていた場所へ戻ると、そこには麗良が待っていた。


「どこに行ってたんですか?

ティナさんが、早く黒澤さんに来てほしいって言ってますけど」


……そうだ。


あの戦艦を黙らすために、由利衣を迎えに来たのだった。


すっかり忘れていたことはおくびにも出さず、努めて冷静に由利衣へと声をかけた。


「黒澤、ティナと協力してあの戦艦を攻略してもらえないか。

麗良、悪いが頼む」


麗良は「いいですけど……」と言うと、俺に状況を伝えた。


「天ヶ崎さんを探しているモンスターたちには、まだ艦内を捜索中だと伝えてあります。

あとは任せても?」


「ああ。入江たちを頼めるか」


麗良は頷くと、飛行魔法を展開。

由利衣を伴って上空へと飛んで行った。


俺はひとつ息をつき、アドラメレクへ向き合う。


「いろいろためになった。

まだ分からないことは多いけどな」


すると、アドラメレクは軽く片手を上げた。


「案内人だからな。

言ったが、二度は同じことはしねえ。

次にお前らが機械と式神のドンパチに飛び込んでも、知ったこっちゃねえぞ」


いや、充分だ。


魔界の式神が、あんなイカれた存在だと知らずに、迂闊に近づいていたら危なかった。


軽く頭を下げて、モンスターたちの方へ足を向ける。


そこに――


「大将、お宝拾いをしたので、カロリーが……」


背後に儚げな声。


「……そうか。橘と桐生院、たのむぞ」


何かを言いかけた梨々花の気配には構わず、スタスタと歩き出す。


残された梨々花は、少しだけ口を尖らせた。


一方の橘は、着物の上に割烹着を装着。


「リズはん、牛カツでもどうどす?

中はしっとりミディアムレア、外はサクサク。

柔こうて美味しいおすえ」


その提案に、期待の眼差しが突き刺さる。


梨々花は諦めて、アイテム袋からリブロースの塊を取り出した。


橘は米を研ぎながら、何やら思案顔。

ぽつりと呟いた。


「式神がなあ……

そりゃあ、大人しいのばかりでもあらしまへんけど。

ほんにおかしいわあ」


肉に包丁を入れながら、梨々花が問いかける。


「やはり、橘さんやティナの式神も、元は魔法使いなんでしょうか。

……うまくは言えませんが、さっきのあれとは少し違う気がしますけど」


そう、言葉にするのは難しいけれど。

いろいろ違和感がある。


橘は、目元を細めた。

炊飯器をセットすると、衣と油の準備を開始。

溶き卵をかき混ぜながら、梨々花へと言葉をかけた。


「そうやね。

うちのご先祖様がなんぞ工夫した、みたいなことを魔神はんが言うとりましたなあ」


そのアドラメレクは、いつの間にか姿が消えていた。

神出鬼没は、いまさら驚くことでもない。


橘はアドラメレクのいた場所から視線を戻す。


塩コショウを振られた肉を梨々花から受け取り、小麦粉をまぶしていく。


「それに……」


次の言葉を待つ梨々花に、しばしの沈黙。


衣をつけた肉を、熱した油へ滑らせた。


「式神は、術者の魔力を必要とするんよ。

あれは、そうは見えへんかったけどなあ」


手早く裏がえして、きつね色になったカツを引き上げる。

バットに置き、蒸らしを入れていく。


その間、作り置きのおばんざいを手際よく皿に盛る。


「ご飯が炊けるまで、しのいでおくれやす」


きんぴらごぼうや、おから炒めを並べる和装美人。


それを見た梨々花は、これは冒険者の新たな需要を喚起できるかもしれない。

そんなことを思う。


リズは白和えを流し込みながら、橘へ言葉をかける。


「私は式神に関しては素人ですが。

魔力を供給して言うことを聞かせる……

そういったものなのでしょうか?」


橘は穏やかな目元を崩さず、ひじきの煮物を十八号サイズの業務用すり鉢に盛っていく。

如才なく需要と供給のバランス調整に動いていた。


――さすが、一流の戦闘魔法使い。

ますます、欲しい。


梨々花の頭の中には、厄災神の世界に『小料理たちばな』を開く事業計画が描かれつつあった。


そんな総務課長の思惑には気付かずに橘は続ける。


「式神と式神使いの間には、上下関係はおます。

けど、そうどすなぁ……」


言葉を探し、リズの前にすり鉢をドンと置く。


「魔法使いは、精霊とのパスが通ってはりますやろ。

それを式神にも通す……そうやってひとつになる感じやね。

そのためには、お互いの合意と信頼は大切なんよう」


梨々花は、肉を切り分けながら「ふうん」と声を漏らした。


そして、思案を巡らせる。


魔界の外にいる式神は、術者がいてこそ力を発揮できる。

さっきの怪物どもと、何が違うのだろうか。


そしてアドラメレクは、橘の祖先は式神術を“改良”したと言った。

おそらく、制御可能にする仕組みを考案したのだろう。


それが、ここ魔界の式神に適用できないのだろうか。


梨々花は牛カツを皿に盛る。

それをリズへと差し出すと、たちまち目の前から消えた。


「これは……白米はまだでしょうか」


炭水化物を待つ儚げな食欲をステイさせる。


「まだお肉はありますから。

たくさん召し上がってくださいね」


そして梨々花は、橘へと言葉をかけた。


「さっきの、あの巨大な式神。

あれと仲良しになれたら……素敵ですね」


細い瞼の奥の瞳と、視線が重なる。


「桐生院はん……あれは元魔法使いどすえ?」


「それは聞きましたけど。

お友達になって、一緒に機械に立ち向かう。

何か、変ですか?」


橘は視線を外し、宙に彷徨わせる。


「まあ、そう言われたら、別に……やねえ」


「そうですよ」


梨々花は一気に畳みかける。


「私たちが嫌がる魔法使いを無理やり式神にした。

そういうことなら人倫にもとる所業ですが。

でも、戦いのために身を投じた魔法使いが、満足に力を行使できない。

そこへ式神使いが本懐を遂げる手助けをする。

私たちも力を借りる。

これはパートナーシップの話ですよ。

リズさんはどう思います?」


リズは、ひじきを胃に収めながら「いいんじゃないですか」と同意してきた。


「式神自身が納得しているなら、どうぞどうぞで……」


そこに、炊飯器が『アマリリス』のメロディを奏でた。


「そんなことよりも。

とろろのマリアージュで……」


梨々花はこくりと頷く。

そして、橘の目を真っすぐに見た。


「あれとコンタクトする手段を探りましょう。

魔界攻略はそれしかありません。

最強の式神使いの手腕に期待していますから」


そう言ってキッチンに戻ると、自然薯をアイテム袋から取り出す。


勢いよく擦りながら、渾身の声を張り上げた。


「牛カツとろろ定食一丁よろこんで!!

ガンガン行きましょう!!」


橘は、小さく笑う。


「さすが、精霊に選ばれただけのことはあるわあ……」


式神の謎。

ご先祖……その名は橘香流子(かるこ)


彼女は、ここ魔界で何を見て、その後に何を成したのか。


――やはり、ここに来て良かった。


橘の目の奥に光が宿る。


「箸休めによろしおすえ」


そう言って、切り干し大根を差し出す。


止まらない箸の音を背に、追加カロリーの投入へと向かうのだった。


***


俺と山本先生は手分けして、モンスター……いや、元魔法使いたちを労うため、携行食料と飲料を配布した。


彼らとコミュニケーションを図るには、まずは贈り物ということもあるが。


あの戦いの後だ。

疲れもあるだろう。


異形たちは感謝して受け取ると、しばし食事の時間となった。


その間、俺は山本先生へさっき見聞きした式神のことを伝える。


さすがにこの情報には驚いたようだが。

彼女もベテラン冒険者だ。

あからさまに表情に出すことはなかった。


そのうち、彼らの代表と思われる異形がこちらにやってきた。


俺にたどたどしい言葉をかけてきた。


「あ……魔法使い……いた……?」


どうしたものかな。


こいつらは、美柑のピンチに命を賭して駆けつけた。


しかし、彼女を保護して、どうするつもりなのか。

その点が引っかかっていた。


……いや、どうするもこうするも。


式神にする気満々。

そう考えるべきだろうな。


おそらく邪心からではないだろう。

彼ら自身がその身を捧げているのだから。


だとしても、だ。


美柑自身も悲壮な覚悟を持っているようだが、それが本心からとはとても思えない。


迂闊な行動はできない。

引き渡しの選択肢は、いまのところなかった。


「ああ……くまなく探してはいるけど。

もしかすると、声だけを流していた可能性もあるんじゃないかな」


すると、異形は明らかに肩を落とした様子を見せた。


「そうか……」


しかし、気を切り替えてきた。


「でも……SSRいる……大丈夫」


そうきたか。


悪いが、仲間を式神にするわけにはいかない。


こいつらは、いまは数を大きく減らして五十体を割っている。


しかし、それぞれが中堅戦闘魔法使いに匹敵する魔力。


とても元N魔法使いとは信じられないパワーアップだ。


……考えたくはないが。

最悪の場合は、やるしかないか。


村正のドラゴンスレイヤー形態は、一回ならいける。

少し数は多いが……制圧に時間をかけていられない。五分間が勝負だ。


表面上は笑顔をつくりながら、物騒なことを考えていた。


「そうだな、機械の連中は俺たちの敵でもある。

ここは協力できればとは思う。

同じ魔法使いだからな」


最後の言葉に、少し力を込める。

異形は頷いた。


「で、俺は佐伯って者だが。

あんたが代表ってことでいいのかな」


「あ、サエキ……マガキ」


間垣かな。


俺はちらりと視線を上に向けた。

森と霧で見えないが、空には巨大戦艦がいる。


「それで、間垣さん。

俺たちの攻略の一歩として、あの機械を分捕ろうとしてるんだ。

うまくいけば、他のやつも」


間垣は「お……」とだけ。

言葉にはなっていないが、感嘆の様子だ。


「それで、まだ時間はかかるだろうから。

今のところは一旦引き上げてはどうかな」


間垣の表情からは考えが掴めない。


山本先生が俺に話かけてきた。


「佐伯さん。

彼らの住まいは地下にあるので、私たちもどうかって」


地下に空間があるのは分かっている。

だが、入口はミサイルで散々にやられているのではないか。


そう言うと、間垣はたどたどしく答えた。


「あ……入口……まだある」


山本先生は、俺の反応を窺っていた。

間垣には悟られないよう、目だけで警戒を伝えてくる。


元魔法使いとはいえ、何があるか分からないのだ。


どうしたものかと思案していると、橘の声が鬼蜘蛛の通信を介して聞こえてきた。


「佐伯はんに山本はん。

虎穴に入らずんば虎子を得ず……

式神のことを知るなら、式神の中に入りまへんとなあ」


会話を聞いていたのか。


いきなり乗り気になっているのは気になるが。

だが、人類側の状況を探る必要はあるだろう。


小声で呟いた。


「橘は……来てくれるか?

桐生院とリズは、麗良に預けようと思う。

連絡を取ってくれ」


すかさず「はいな」の返答。


SSRを連れて行くのは危険かもしれない。

俺と橘で探ることを考えた。


すると、山本先生の声がかかる。


「佐伯さん、私も行きます」


「いや、山本先生は……」


まっすぐに俺を見つめる目。

そして、山本先生は間垣へと向き直った。


「あの機械の対応と、魔法使いの捜索に人手が必要なので。

地下へは私たちと、あと一人お願いしますね」


すると間垣は「おれ……も……探す」と言葉をかけてきた。


山本先生は、困ったように眉を下げる。


「それが……

艦内は通路がとても狭いらしくて。

ですよね、佐伯さん?」


いきなり振られる。しかし、


「まあ、そうだな。

人が活動するように作られてないから。

俺でもきついくらいでさ」


と、返した。


さすが山本先生。

俺の意図を汲んでアドリブを入れてくるとは。


普通にしているときは、本当に頼りになる冒険者だ。


間垣はどうやら納得したようで、仲間たちをまとめるために彼らの中に戻って行った。


山本先生へと言葉をかける。


「ありがとうございます。

でも、やはり危険なので山本先生は……」


「やっぱり、橘さんと二人きりの方が?」


光を失った黒目だけの瞳が、ずいっと近づいてきた。


「……………………………………いえ?」


呪詛の言葉が、山本先生の口から漏れる。


「橘さん、お綺麗だから……男の人って、着物姿がお好きですものね。

でも私のこのジャージ、曾祖母から受け継いだ西陣織なんですよ。きちんと着付けの先生にも通って……」


橘のクスクス笑う声が耳元で聞こえる。


そこから麗良が地上に降りてくるまで。

俺はジャージの織りの妙を必死で褒めるのだった。


***


俺たち三人は、異形と化して機械と戦う人類の拠点へと足を踏み入れることとなった。


梨々花は付いてきたそうな素振りを見せていたが、万が一また機械がやってきた場合に備えてくれと説得すると、大人しく従ってくれた。


その代わりとして、しっかり撮影してこいとカメラを押し付けられた。


「次のコンテンツは、先生たちにかかっていますから。

よろしくお願いしますね」


と、俺の尻を叩く。


巨大戦艦のハッキングでは配信的に地味だ。

お茶の間へワクワクのアドベンチャーを届けろ、と言い放ったのだ。


なお、美柑の救出シーンは流せない内容が多かったため、視聴者さんには結果だけ伝えている。


謎の魔法使いを発見、ということでいまは話題を持たせているが。

それも長続きはすまい。


さっきの式神vs機械の大戦争で引っ張るしかない。


俺は、コンテンツハンターとしてお宝映像の一つでも持って帰らないことには、敷居を跨げそうもなかった。


そんな静かなプレッシャーがかかるが。


――上等。


俺は口元を上げてカメラを構える。


「緊急企画、“元魔法使いさんのお宅拝見!! 全部見せますアンダーグラウンドライフ”だ。

魔界の日常回、期待してくれ」


梨々花にそう告げると、満足げな微笑みが返ってきた。


「食生活の取材もよろしくお願いしますね。

やはりグルメと動物は鉄板ですから」


心得たとばかりに頷くと、リズの儚げな疑問。


「地下で何を食べているんでしょうね。

もやしとか……」


そして、梨々花に眼差しを送る。

数秒の沈黙が世界を包んだ。


――さっきまで牛カツを食ってましたよね。


とは言えず、言葉を探す梨々花に代わって、麗良の軽快な声が響く。


「リズさん。もやしたっぷり、とん平焼き。

戦艦に着いたら、みんなで夕食にしましょうね」


儚げな圧が消えた。


さすがベテランの切り返しだと感心し、麗良へと声をかけた。


「悪いけど、頼むな。

お前しかまとめられそうにないからさ」


うちの三人はレイドのトップランカーである麗良のファンだ。

素直に言うことを聞いてくれるだろう。


だが、返事のかわりにじっと俺を見つめる眼差し。


「……なんだよ」


「いいですけど。次は私も冒険したいです。

イナンナの世界での探索のときみたいに」


ずっとサポートに徹してくれていたからな。

少しは動きたいのか。


手にしたカメラを軽く叩いた。


「そうか。じゃあ次はお前がコンテンツハンターだな。

期待してるぞ」


「先輩と、冒険したいんですけど」


まっすぐに見つめる目に、フッと笑みが漏れる。


理沙と一緒に冒険していた日々を思い出した。


俺たちの後をちょろちょろ付いて回っては、罠にかかったり、モンスターに殴られたり……。

SSRの三人よりも、ある意味手がかかったな。


「まあ次のターンまで辛抱してくれ。

まだまだ魔界編はこれからだからな」


すると麗良は、頬をほころばせた。


「こっちは任せてくださいね。

橘さんも、ミレーヌさんも気をつけて」


そう言うと、梨々花とリズを伴って巨大戦艦へと飛び立っていった。


その姿を目を細めて見送る。


「やっぱりあいつも冒険者だな……」


橘と山本先生へと振り向いた。


「それじゃあ、行くか」


歩き出す俺に、鬼蜘蛛を介して橘の声。


「佐伯はん。そういうところ、視聴者はんの評判が悪うおます。

男はけじめどすえ」


なぜ、何もしていないのにけじめをつけなくてはならないのか。


鼓膜に直接響く声を無視して、魔界の深部へと踏み込んでいくのだった。

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