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終末のSSR ―魔法使いジャパン、ただいまダンジョン攻略中!―  作者: 白猫商工会
第09章

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第296話 異質なる戦場

空を飛ぶ巨大な船。


魔力反応はないという。

科学だけで、あのような代物ができるのか。


およそ、俺たちの理解を超えたテクノロジーだった。


極度の緊張状態にありながらも、その圧倒的な存在感に心を奪われていた。


モンスターなら、巨大なものでも「そういうもの」と処理してきた。


だが、あれは違う。


人造物の見た目だからこそ、その異様さが際立って見えた。


もっとも。 あの機械も精霊が用意した存在なのだ。

今さら「あり得ない」と驚くのも、おかしな話なのだが。


しかし……。


こういうものが大好きなはずのうちのメンバーが、いっこうにはしゃがない。


肌で感じ取っているのだろう。

あれが、エンタメの演出向けにわざわざ用意してくれたものではないことを。


ただ一人、グレイスだけはリスクに反応して嬉しそうだった。


そして、さっきから鼓膜を震わせる絶叫。


声は、あの巨大戦艦からだ。


アドラメレクは“アピール”と表現したが。

誰が、何のために?


魔神を見るが、答える気はなさそうだ。


どうするかの選択肢は、自分たちのもの。

お好きにどうぞ。


そんな雰囲気だ。


「あぁぁあっっ!! 痛いっ!! 痛いぃ!! やめてえ、助けてぇぇぇぇ……」


女の声か?


由利衣を見るが、首を横に振る。


「魔力反応は、探れません。

囚われているのがモンスターなのかどうか」


モンスターを捕獲している、というのも妙な世界観だが。


だとすれば、一応は辻褄が合う。


なにしろ長年誰も来ていないのだ。

あの中にいるのが人間の冒険者とは、とても思えない。


そして、魔力反応が探れないということは、隠蔽されているのか。

そもそも本当に“囚われている”のかさえ分からない。


麗良が、俺の思考の続きを言葉にした。


「または本人は遠隔にいるか、もう存在せず音声だけ……かも。

おびき出すのが目的なら」


――おびき出す?


いや、あれはそういうことだろうが、獲物は誰だ。


対象と目的が不明。

少なくとも、俺たちだけを狙ったものではないはずだ。


そして、違和感はもうひとつ。


「地下の魔力反応が、出ます」


由利衣が簡潔に報告してきた。


そして梨々花は、狸ツインズへと声をかけた。

隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)の眷属の二体だ。


「……お願いできますか?

危ないと思ったら撤収してくださいね」


政臣に目線を向けると、ツインズにカメラを渡した。


空は鷹のゴーレム人形が見張っている。

だが、監視の目は多いに越したことはない。


ツインズは、カメラを持つと鳥に変化。


窓から飛び立つと、廃墟のビルに取り付き、今度は建物の一部に変化。

見事に擬態していた。


「地下から出ます」


由利衣の声と同時だった。


廃ビルの一つから影が出現し、次々と飛び立っていく。


――モンスター?


頭にはツノ、背中にはコウモリの翼。

ムチのような尾。

全身に鱗のような装甲。


悪魔と竜が合体したような、そんなフォルムだ。

体高は、ニメートル前後といったところか。


スマホの映像から目を離し、アドラメレクへと視線を向けた。


「魔界ってのは、あの悪魔みたいなやつらがいるからなのか?」


アドラメレクは「まあ、見てくれはいろいろだ」と軽く一言。


そして。


「視聴者さんお楽しみタイムじゃねえの?」


と、言い放ってきた。


すでに上空のドローンと謎のモンスターが交戦を始めている。


相変わらず絶叫は止まない。


お茶の間の空気感が、まるで読めない。


政臣に視線を送る。


「概ね好評です。

ダンジョンでロボットは予想外だったって」


コンテンツに新しい風を吹き込むことには成功しているようだが。


「ただ、ちびっ子たちからは、助けないの?

という問い合わせが多いですね」


これには来奈が色めきたった。


それを手で制する。


「誰がどう見ても罠だろう。

行くにしても、敵戦力がまだ分からない。

……お嬢も、遊びじゃないことは分かるよな?」


グレイスを睨むと、フンッと顔を背けられた。


スマホの中の映像は、ドローンの機銃掃射とモンスターが放つ炎や雷の応酬。


モンスター側の戦力だが、なかなか強力だ。


一体一体が中堅戦闘魔法使いにも匹敵するだろう。


攻撃魔法に加えて、その手にしている武器は魔導ギアだろうか。


魔力を帯びた剣や槍が、鋼鉄の飛行ドローンを絶ち斬り、貫いていく。


「冒険者向けのお宝ってあれかなー」


来奈の声。

まさか分捕る気じゃないだろうな。


それはそれとして。


巨大戦艦からは次々とドローンが送り出される。

こちらは、完全に物量勝負。


やがて、モンスター側にも被害が生じ始めた。


梨々花が疑問の声を上げた。


「モンスターに通常兵器が効いた……?」


ダンジョンモンスターを倒す手段は三つ。

精霊の力を顕現する魔法、もしくは魔導ギア。

あるいはダンジョン素材で加工された武器だ。


梨々花は独り言のように呟く。


「銃弾がダンジョン素材……なのかしら」


普通の銃器ではないのかもしれない。

俺たちが相手にしているのは、想像以上に厄介な文明だった。


すると、ティナが「シッ!!」と俺たちを制した。

矢継ぎ早に指示を飛ばす。


「ユリィ、防御結界の範囲をこの付近に限定して、もっと厚くして。

リリカは冷却の付与をいつでもできるように。

大規模攻撃がくる。

……ミサイルでしょうね」


「なんでわかるの?」


来奈が相変わらず能天気な声を上げる。


「大きな熱源反応よ」


ティナは短く一言だけ。


宣言通り、ミサイルが撃ち出された。

目標は、俺たちではない。


モンスターたちが出現した廃ビルの周囲。

ミサイルはアスファルトもコンクリートも突き破り、地中へと潜っていく。


そして、轟音と振動。


倒壊しかけていた周囲の建物が崩れ落ちる。


さらに終わらず、戦艦は地下へ向けてミサイルを次々と射出。


モンスターたちはミサイルに取り付き、妨害を始める。

だが、勢いは止まらない。


取り付いたモンスターは、無理と悟ったか自身の魔力を最大限に高めていく。


そして――自爆。


熱と光が、モンスターもドローンも、そして俺たちが身を潜めるちっぽけなビルまでも包み込んだ。


梨々花は咄嗟に防御結界に水魔法を付与した。


次々とミサイルはモンスターの自爆により迎撃。

……いや、こんなものは迎撃ではない。


戦艦からは響く絶叫。

地表近くでは銃弾とミサイルの嵐。


光と熱と衝撃が、終末世界のような廃墟を容赦なく吹き飛ばしていく。


アドラメレクが、何気なく声をかけてきた。


「なっ、ここは充分魔界だろ。満足か?」


口元が引きつる。


そこに、悪魔の誘惑の声。


「どうする?

さっきの飯の礼だ。

帰りたいってなら、聞いてやらなくもねえぞ」


ただし、と続けた。


「お前らはもう挑戦権はないけどな。

それくらい、安いもんだろ?」


……言い方はあれだが。

確かに、その通りだ。


準備不足とか、武装とか、レベルとか。

そういう話でもない。


こいつは、冒険者として挑むべき世界なのかどうか。


その価値判断が揺れていた。


しかし、その揺らぎを止めたのは儚げな声だった。


「私は、どんな世界だろうと本望だと言いました。

それは変わりませんよ」


リズは、この地獄のような状況で小さく微笑んでいた。


「世界樹イシェドは、なぜこのようなものを保存しているのでしょうね……

そこに意味があるのなら、私は知りたいんです」


そして、少しだけ困った顔をした。


「大将と女将さんのご飯を食べられなくなるのは残念ですが。

材料だけでも置いて行ってもらえませんか?」


次に、由利衣を見た。


「魔法薬学は、リハルトくんたちが指導してくれますから……

料理に活かすチャレンジ、ユリィさんならきっと成功します。

信じていますよ」


それだけを言うと、丼ぶりを手に取り炊飯器を開けた。


「それでは、みなさんお元気で……」


「どうしてそうなるんですか」


由利衣だ。

ツカツカとリズの側に寄ると、丼ぶりを引ったくって飯を盛る。


うなぎを乗せ、タレをかけ。

粉唐辛子を一瓶ぶちまけて渡した。


「つまんないこと言ってないで、カロリーぶっ込んでください。

戦闘魔法使いは、向かい合った敵を叩き潰す。

わたしに銃口向けたあの機械は、殲滅してみせますから」


由利衣は一気に言うと、こちらへと振り返った。


「だよね、梨々――」


「よく言ったわ、由利衣」


食い気味に被せて返すと、さらりと黒髪をかきあげた。


「ねえ、アドラメレクさん。

由利衣の言う通りよ。

あの機械とモンスターがどこのどいつで、どんな理由で戦争してるのかは知らないけど。

売られた喧嘩を買いまくるのが戦闘魔法使い。

お代にいいものをくれてやるまでよ」


カメラに向かって口上を決めると、政臣へと声を飛ばした。


「高柳くん……どうなの?」


政臣が少し慌てた様子を見せた。


「アプリなら、もう少し時間が……」


「そうでもないみたいよ」


ティナがスマホを操作していた。


「α版出てるじゃない。

さすが、仕事が早いわね。

バグ出ししてあげるから、感謝しなさい」


そう言うと、審判の魔眼が輝く。


「修整したソースコードは、ダンさんのチームに送ればいいのよね」


政臣は啞然とした顔。


「ティナさん、分かるんですか?」


「私には分かんないわよ。

審判の魔眼を舐めるんじゃないっての」


そして、カメラに向かってパーフェクトスマイル。


「もうすぐ戦いの準備整うから。

やられっぱなしだと思ったら、大間違いよ」


……まいったな。


正直、俺の頭には撤退の文字がよぎっていた。


勇んで飛び込んだはいいものの、これまでのダンジョンの常識が通じない、わけの分からない戦争。


なまじ戦闘魔法使いの経験が長いだけに、セオリーで対応できない敵に揺らいでしまっていたのは事実だ。


だが、こいつら。


これまでのセオリーが通じないなら、通じるものに切り替えるだけ。

そうやって冒険を前へ推し進めようとしてやがる。


「本当に、まいったな」


小さく呟くと、いつの間にか背後に回っていたアドラメレクがポンと肩を叩いた。


「お前、もう教え子に抜かされたんじゃねえの?

熱を持って行こうぜ」


――こいつ。


そこに声を飛ばしたのは来奈だ。


「大魔神のおじさんさー。

うちのおじさんがいるから、あたしら怖いものがないんだけど」


小生意気な目で、まっすぐに俺たちを見る。


「教官、あたしたちに火つけといて帰るなんて言わないよな。

まだお宝拝んでないんだけど?」


山本先生は、静かにコンロに火をつけた。


「熱源反応を消してくださいね、桐生院さん。

リズさん、次はひつまぶしいきましょう」


儚げな期待。


飯を流し込みながら、リズは由利衣へと問いかける。


「怖くないんですか?

……私は怖いですよ、とても」


由利衣はふわりと笑う。


「来奈も言ったけど。コーチがいてくれるから」


梨々花は平然とした顔で俺を見てくる。


「この程度のピンチは、ピンチの内に入りませんよ……

ですよね、先生?」


思わず口元が上がった。


こいつらはもう後悔を置いてきている。

俺を信じてくれているのだ。


――なら。


「その通りだ。切り抜けていこうじゃないか」


そして、全員へと声をかけた。


「両陣営の目的はわからんが、あのモンスターどもを損なうのは不利になりそうだな。

ひとつ、加勢といこうじゃないか」


それでいいよな、と麗良にも視線を向ける。


「先輩。何が正義で、何が悪かなんて関係ない。

冒険者は信じたほうに突き進め。

そう言ってくれたじゃないですか」


「そんなこと言ったか?」


麗良は口をパクパクさせる。

はあー、と大きなため息。


「まあ、そういう人でしたね。

私も、どっちかと言えばモンスターに肩入れしたいですよ」


そして、響き渡る悲鳴に眉を寄せた。


「あんなこと……なんとかしましょう」


それだけ言うと、リズへの追加カロリーの支度に入る。


橘は、ふぅと小さく息を吐いた。


「ほなら、一仕事の前に、うちも少し入れておきまひょか」


静かに着席し、鰻重を流れる所作で口元に運ぶ。


「ほんに、えげつない世界どすなあ。

……まあ、ダンジョンの外もそない変わりまへんけど」


橘もここに来たからには覚悟を決めているようだ。


そしてグレイスは言うまでもなく、ヴァジュラを構えて出撃の意欲を見せている。


仲間たちの意思は確認できた。


ティナへ声へと声をかける。

この世界において、戦術の要は審判の能力だ。


「そうは言っても、まともにやってあの巨大戦艦に太刀打ちできる自信はないな。

何か考えはあるか?」


「いただくわよ、機械の連中を」


予想していなかった方向だ。

そんな映画のようなことができるとは思ってもいなかったからだ。


「鹵獲するってことか? どうやって……」


ティナは顎に手をやって考える。


「あいつらの指示系統を、どうにかハックできれば……

うまくすれば、親玉まで辿り着けるかもしれないし」


審判のネットワーク介入能力。

この魔界の機械に通用するのかどうか、想像もつかないが。

俺の中で期待が膨らんだ。


そこにグレイスの声。


「親玉はいないんじゃなかったかい?」


皆の注目が集まる中、言葉を続けた。


「さっき、アドラメレクが言ってたよ。

誰かに命令されてるなら、その誰かを叩けば終わり。

そうじゃないんだろ?」


ひつまぶしに出汁を注ぎながら、リズは思案顔。

ぽつりと言葉が出た。


「私は専門ではありませんが。

中央集権のデメリットは、誤った判断をしてしまったときに、機械全体が従うことでしょうね。

彼らには人間のような意思も感情もないのだから」


さらさらと儚げに茶漬けを流し込みながら、仮説を唱える。


「おそらく魚の群れのように、個々で動きつつ、ゆるやかに情報を共有し、互いに連係しているのではないでしょうか」


政臣はカメラを構えつつ、手元のスマホを確認。


「ダンさんからです。

各個体がノードとして働くネットワークなら、情報共有用のプロトコルがあるはずだと」


続きの画面を読む。


「そこをハックできれば、あの戦艦を中継点にして“敵はいない”という偽情報を流せるかもしれない。

群れの中に潜む攻略法、ってことですね」


そして、政臣の顔がぱっと明るくなる。


「アプリ、β版が上がったらしいですよ。

ダンさん、『これならいけるはず』だそうです。

……ティナさん、開発チームで働かないかってスカウトきてますけど」


ティナは、フッと軽く笑う。


「まあ、考えとくわ。

それよりも、いくわよユリィ」


由利衣は頷くと、ティナの側に寄る。


さっそく魔力のシンクロを始めると、二人の魔眼が黄金に淡く輝いた。


俺はスマホのアプリをアップデート。


確認すると……。


「なるほど、機械どもとモンスターの反応が色分けされているのか」


スマートグラスを装着。

これで戦いながら敵反応を探ることができる。


さらに由利衣は、梨々花へと声をかける。

魔術師の魔眼も輝いた。


スマートグラスに、戦艦の内部構造が映し出される。


ダンジョンに……いや、この世界そのものに遍在する原初の精霊。

その力を借りて得た情報を、魔術師の魔眼とシンクロした由利衣が地図へと落とし込んでいた。


俺は構造をくまなく走査する。

指を動かし、立体映像を動かしながら。


「中は狭いんだな……

まあ、人間が操縦する仕組みじゃないからな。

メンテナンスに必要な程度なんだろうけど」


その中でも、少しだけ開けた空間があった。

あの悲鳴の主がいるとすれば、ここだろう。


「行くか。

お前ら、カロリーばっちりだろうな」


「先生も、ぶっ込んどいてくださいね」


梨々花が飯をよそい、うなぎを乗せてテーブルに置いた。


そういえば、まだ俺は食ってなかったな。


こうして、戦場の真っ只中で急ぎ補給は進む。


それが終わったとき。


魔法使いの反撃が始まるのだった。

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― 新着の感想 ―
ここまで一気に読み進めさせて貰いました。 教え子に気づかされるシーンは否が応でも熱くなりますね あと、うなぎ食べたくなりました…
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