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終末のSSR ―魔法使いジャパン、ただいまダンジョン攻略中!―  作者: 白猫商工会
第09章

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第294話 開幕エスケープ

扉を潜ると、そこは小高い丘だった。


そして、石造りの建物が点在している。


建物は、第四層の世界樹の麓にある遺跡と少し似ているかもしれない。


空は暗い雲に覆われ、ところどころ朱く染まっている。


生ぬるい風が吹き、微かな鉄の匂いが鼻腔をくすぐった。


既に扉をくぐっていたアドラメレクは、姿を現した俺たちを見ると、ニヤリと笑った。


「チャンスは与えたんだけどな」


俺は軽く肩をすくめた。


「チャンスってのは、どっちのことなのかな?

逃げ帰るチャンスの方なら要らないぜ。

……親切にどうも」


そして、遠くに目をやる。


――あれは。


先に転移して周囲を観察していたティナが、俺のほうを向いた。


「ねえ、やっぱりそう思うでしょ?

あれ、ビルだよね」


遥か遠くに見えるのは、高層ビル。


現代の魔法使いにとっては別に珍しくもないが。


……ダンジョンの、魔界に?


するとアドラメレクが声をかけてきた。


「ぼやぼやしてんじゃねえ、来るぞ。

……こんなんだから、すぐ終わるって言ったんだよ」


俺は由利衣を見るも、軽く頭を横に振ってきた。

魔力の索敵レーダーには反応がないということか?


だが。


「確かに。

数は五……いや、六ね」


ティナだ。


彼女の指さす方向。


遠くのビル群から、小さな黒い点が飛来してくる。


グレイスはさっそくお供の気狐と狸ツインズを呼び出す。

九尾と隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)から預った小さな鈴を振ると現れた。


気狐は、さっそく嫌な顔を隠さない。


「お前、本気で魔界に来たんですか。

……どうしようもないイカれです」


その言葉にどこ吹く風のグレイスを見て、小さくため息をつくと憑依開始。


「なんだよ、手下だろ。

バトルは一緒にやるもんだ」


「はいはい」


一人で二人分の会話。


狸ツインズは、盾と翼に変化。


その間、こちらも戦闘態勢を整える。


「麗良はグレイスに付いていてくれ。

黒澤、防御結界。入江は俺とだ。

山本先生と桐生院とティナはバックアップ……リズを頼むぞ」


そして、橘を見る。


「鬼蜘蛛のサポートを頼むぞ」


橘は、「はいな」と頷いて式神を展開した。


アドラメレクは腕を組んで見ているだけ。

お手並み拝見ってやつか?


……まあ、元々頼りにするつもりはない。


村正を抜き放ち、魔力を込める。

刀身が青白く輝いた。


「来るぞ」


飛来してきたのは、流線型の物体。

鋼鉄のボディに鋼鉄の羽根。


小型のレシプロ戦闘機……いや、ドローンか。


熊耳の召喚魔法のような、魔力を具現化した物体ではない。

本物の機械兵器……。


あのビル群に、誰かがいて侵入者の排除に動いたのか?

警告もなしに?


だが、考えるのは後だった。


「入江、どうやらモンスターじゃないようだな。

ここは慎重に……」


言葉が終わる前に、来奈は小生意気な瞳を輝かせて左脇のホルスターから銃を抜いた。


「何が相手でも、戦闘魔法使いは向かい合った敵を潰す!! じゃね!?」


「……そうだな。

だから、頼むから俺から離れるなよ」


軽快な返事とともに、来奈はマジックバッグから飴玉を取り出し、口に放り込んだ。


そして、銃を構える。


イナンナの世界から帰還し、真っ先に魔王領の工匠に打たせたアダマンタイト製の銃身。


しかし、いかにアダマンタイトと言えども、いまの来奈の制御不能の竜魔法のフルパワーには耐えられない。

どうやら、大砲並みの銃身が必要になるらしい。


だからこの銃は、竜魔法をそのまま撃ち出すのではなく、一度、銃身が耐えられる出力まで落として射出する設計になっている。


ハンドガンサイズで運用するための、苦肉の策だった。


星の魔眼が輝き、来奈の頭上に円形の魔法陣が現れる。

魔力が具現化した翼がばさりと広がり、頭には竜のツノ。


迫りくる機械に、ぴたりと照準を合わせた。


「入江……なかなか様になってきたじゃないか」


来奈は、ぱっと明るい顔になる。


「じいちゃんに教えてもらったこと、毎日練習してるからさー!!」


来奈と由利衣のために銃の指導として来てくれたゼファス。

いまでも第三層の訓練施設には顔を出し、見てくれている。


だが、来奈は言われなくても毎日の反復は欠かさないようだ。


他のことは雑だが、積み重ねだけは怠らない。

そういうやつだ。


「そうか。じゃあ、魔界編の開幕いっとくか。

桐生院も譲ってくれるよな?」


「ぶちかますのよ、来奈。

……最後はもらうけど」


梨々花はセトのウアスを構え、さらりと黒髪をかきあげる。


来奈の銃から鋼鉄の弾丸が射出された。

瞬時に魔法陣と翼とツノが消失し、盛大な腹の虫が鳴る。


さっそくカロリーを使い果たしたようだ。


――しかし。


来奈ほマジックバッグからフランクフルトを取り出し、もぐもぐさせながら銃を連射。


そう。フルパワー竜魔法の魔力を一旦ストックし、出力を抑えながら連射できる機構なのだ。


威力を抑えているとはいえ、一発一発が強力。

ハンドガンとは思えない威力と射程距離で、迫りくる飛行物体を貫いた。


「っし!!」


来奈は軽く左拳を握りしめると、政臣のカメラへと渾身の笑顔を放つ。


「兄ちゃん、ありがとうね!!

この番組は、魔法アイテム一筋6,800年。

イクシオン・アンド・ハント商会の提供でお届けしていまーす!!」


この銃は第五層隠しダンジョンのガンショップの店員の設計。


銃身以外のパーツは既存品の移植だが。

わずか三日で工匠とのタッグで仕上げてくれた。


次々と撃ち落としていく。


グレイスが予想通りの文句を飛ばした。


「こっちに来ないじゃないか。

まったく、魔界って言ってもこんなもの…………」


言葉を切るグレイスに被せてティナの声。


「来るよ! 空から追加三百! 地上にも反応!! ……まだ増えてる!」


視線を下にやると、ワラワラと二足歩行の機械兵。

何百体いるのか、一目では判別できない。


そこにアドラメレクの声。


「あんな斥候を落としたくらいで、能天気な連中だなおい。

来るぜ、休みなく。地の果てまでも。

お前ら、もう補足されちまったからな」


梨々花の魔術師の魔眼が輝く。


セトのウアスを振りかぶると、爆炎嵐を地上と空に向けて放った。


次々と撃ち落としていくが、なにしろ数が多い。


そして、向こうからも一斉射撃が開始された。


由利衣の防御結界が厚い壁となり防ぐ。

魔法攻撃ではない、実弾だ。


不可視の障壁に何千何万発もの鉛が撃ち込まれていく。


「……黒澤、どうだ?」


「まだ耐えられます。

でも、敵戦力と目的が分からない以上は、囲まれる前に退避を考える必要があると思います。

ティナさん、防御お願いできますか?」


ティナは式神・暁鶴を召喚。


由利衣に代わって防御結界を張る。


梨々花は、渾身の風刃嵐を放つ。

機械兵の一群を吹き飛ばし後退させると、由利衣とシンクロを始めた。


原初の精霊の力を借りてのマップ作成だ。


暁鶴の防御結界も強力ではあるが、由利衣ほどの範囲がない。


地上部隊は抑えているが、すり抜けて航空戦力がやってきた。


「麗良、頼むぞ」


グレイスはもう飛んでいる。

麗良も飛翔魔法を自らに展開してフォローに入った。

山本先生は、矢で援護。


橘の声が聞こえた。


「佐伯はん。

いきなりえげつない洗礼きはりましたなあ」


その言葉と同時に、上空の機械兵器の動きが止まる。

目に見えない魔力糸に絡めとられ、羽をもがれた虫のようにもがいていた。


「相変わらず頼りになるやつだな」


半径一キロメートル圏内に張り巡らせた魔力糸の強度は自在。


まったく違和感も抵抗もなく通信に利用できるし、強力なモンスターですら拘束することもできる。


上空の守りは鬼蜘蛛が担当してくれていた。


「入江、まずは桐生院たちが道を見つけるまで凌ぐぞ」


そう言って、村正の残像の刃を空に飛ばす。

来奈も竜魔法で援護。


「おじさん、地上、デカいのが来るよ!!」


ティナの言葉に視線を向ける。


地平線の向こうから現れたのは――


巨大な回転刃を前面に備えた重機。

その隣には、超大型の杭打ち機のような機械。


三十メートル級。


どちらも、一直線にこちらへ向かってくる。


防御結界に歩兵が阻まれているのを見て出動してきたのだろうか。


……あれは、まずい。


「ティナ、俺が行く。

通るとき、防御結界の壁を開けてくれ」


村正の刃を実体化させ、足場を作る。

それに飛び乗り、地上スレスレを進む。


鉛玉の嵐が見えてきた。


いまは暁鶴が頑張っているが。

あれを破られれば一気になだれ込んでくる。


しかし……。

それにしても、この機械兵器はなんだ。


「魔界ってのは、もっと違うものを想像してたんだけどな……」


「だよねー。あたしも」


……。


来奈が俺と並走していた。


「おい、入江。なんでいるんだ?」


「離れるな、って言ったの自分じゃん」


そういえばそうだったな。


「じゃあいくぞ。

近接戦闘に備えろ。戦闘衣装に魔力を流すのを怠るなよ」


「了解!!」


来奈はフランクフルトをもう一本、流れるように食うと、串を投げ捨てる。


清純派で売ってるとか自称してなかったかな。


それはともかく。


突撃する俺たちに合わせて、防御結界の一部が開いた。


侵入してきた機械兵に、刃を飛ばす。


竜魔法の乗った刃は、鋼鉄の体を引き裂いて道を空けた。


すかさず、防御結界の壁を突破。

すり抜けた一体や二体は、後ろの仲間が片付けてくれる。

構っている暇はなかった。


たちまち銃弾の嵐にさらされる。


オリハルコン繊維の服に魔力を通していれば、ちょっとやそっとのダメージは通らない。


加えて、暁鶴は俺たちの体にも多重防御結界を張ってくれていた。


村正の刃を飛ばし、押し寄せる機械兵を斬り伏せる。


来奈は俺の側で混鉄棍を振るう。

機械兵が宙を舞い、破壊の力が粉々にしていく。


思わず、ほう……と感心の声が漏れた。


「ずいぶん腰が入ってるじゃないか。

見違えたぞ」


銃弾を浴びながら金棒を振り回す。

その目が笑った。


「一日一万回の成果かなー。

まだ、あのおじさんには全然敵わないけどっ!!」


イナンナの国で日村たちと一線交えたあと、俺の同期の木暮にスイングの手ほどきを受けていたのだ。


……なんだろうな。

ずっと自信を持てなくて、梨々花や由利衣の才能を羨んでいたこいつが。

いつの間にか、自分だけの戦闘スタイルに誇りが持てるようになっているようだ。


来奈を引き連れ、巨大重機へと駆ける。


「合わせるぞ、入江」


巨大刃が唸りを上げて回転しながら、猛スピードで迫りくる。

村正へ魔力を最大限に込めていく。


黄金の光の軌跡を残し、来奈の渾身のフルスイングが刃に撃ち込まれる。


破壊の魔力が鋼鉄を砕き、粉々にしたところで、村正を振るう。


残像の刃を伸ばし、一刀両断。


続けて、巨大杭打ち機にも、村正と混鉄棍が撃ち込まれた。


二台の重機は屠ったが……


そのとき、俺の懐のスマホが震えた。

ここはもう鬼蜘蛛の圏外だった。


スマートグラスをかけて着信に応答する。

かけてきたのはティナだ。


「おじさん、やっぱダメだわ。

後続どんどんきてるし、こんなの消耗戦よ」


やはり、そうか。


どうしたものかと思った、そのとき。


「はい、お前らゲームオーバー」


不意に、アドラメレクの声。


魔神の拳が、銃弾を浴びせてくる機械兵を薙ぎ払った。


村正を振るいながら、俺は疑問を口にする。


「……どういうことだ?」


アドラメレクは、やれやれと言った顔。


「こいつら機械は、お前らをぶっ殺すためだけに作られてるんだよ。

例えば、こいつ」


そう言って、一体を拳から放った衝撃波で遠くに吹き飛ばす。


途端に、吹き飛ばされた機械兵の胴体が赤く明滅し、轟音とともに爆炎が周囲の機械兵ごと飲み込んだ。


「抱きついて自爆なんて、当たり前だな。

いまので、残機ひとつマイナス」


冷静な魔神の声。


「そんで、あれだ」


遠くのビル群から向かってくるミサイルのような物体。


アドラメレクが右手を向けると、瞬時にして強力な炎で焼き尽くされた。


「毒ガス。

まあ、俺には効かないけどな。

お前らは、くらっても平気な自信あるのか?」


梨々花の炎でも、あそこまで高出力での焼却は無理だ……。


そんな俺に、さらに魔神の言葉がかかる。


「ま、死ねるならそっちの方が幸せかもしれねえけどな」


そう言うと、俺の肩を軽くポンと叩いた。

口元は、なぜか楽しそうだ。


「こいつらに捕まるなよ。

視聴者さんドン引きだからよ。

せっかくだし体験してみるか?」


来奈は「あたし、拉致られるのけっこうトラウマなんだけどー」と言いつつも、容赦なく金棒を振るう。


俺は少しだけ嫌な顔を作って、アドラメレクを見た。


「なあ、ここは本当に魔界なのか?

もっとこう……いわゆる地獄のような場所だとばかり思ってたけどな」


「血の池とか、針山とかを想像してたのかよ。

……ここも同じだぜ。

終わりのない終わりの世界だ」


そして、俺たちに強力な防御結界を張る。


「チュートリアルで死んでもらったら、俺が文句言われるんだよな。

……見ろよ」


機械兵からピピッと電子音が聞こえたかと思うと、腕が折り畳まれ、別の銃身へと換装される。


暁鶴の防御結界へ向けて銃弾を放つと、見る間に削れていくのが分かった。


「武装も学習しやがるからな。

これで三分かからず全滅。

嘘だと思うか?」


……言葉が出ない。


ティナの切迫した声が耳に届く。

だが、その内容を整理する余裕がない。


この魔神がいなければ、俺たちは今頃挽き肉か毒殺。

いや、この機械どもに捕まったら……一体何が待っているのか?


とにかく、来奈だけでも守らなくては。

アドラメレクのおかげで助かってはいるが、こいつが心変わりしないという保証は何一つないのだから。


思考を回転させる俺に、ティナの大声が突き刺さった。


「おじさん!! 聞こえてんの!?

さっさと戻ってきなさい。

逃げるよ!!」


マップが完成したか。


来奈へと声をかける。


「入江、撤退だ。

不意討ちからの物量攻撃じゃ、どうしようもない」


来奈がこくりと頷いた。


「ほんとに呑気なやつらだな」


アドラメレクの声。


上空を指さしている。


「捕捉されてるって言っただろ。

逃げられるといいな」


遥か上空からの機械の監視?

まさかダンジョンで宇宙空間でもないだろうが、精霊は何をしでかすかわからない。


こめかみを汗が伝う。


「とにかく。撤退だ、入江」


来奈を促し、背を向けた。

その俺の頭を、ガッシと掴む大きな手。


「お前……

どこに行こうってんだよ」


アドラメレク……こいつ。


こめかみの汗がもう一筋落ちた。


無理やりに首を回される。

サングラスの奥の瞳と目が合った。


「捕まるなって言っただろ。

嬢ちゃんから目を離してんじゃねえよ」


――何を?


来奈を見る。

特に変わったことは……。


だが、その足元。

何だこの違和感は。


そう思ったのと、叫びは同時だった。


「入江!! そこを離れろっ!!」


星の魔眼が輝く。


今まで来奈のいた空間。


そこに、大口を空けたワームのような機械が地下から飛び上がってきた。


捕獲用の――


咄嗟に村正の刃を撃ち込む。


同時に、足場を実体化。


「入江、乗れ!!」


来奈は地下からの思わぬ襲撃に、呆気に取られていた。


「入江!!」


「あ……うん」


来奈が乗ると同時に、飛び立つ。


……魔力反応がないと、こうも戦いづらいものか。


次々にワームが地下から飛び出してくる。


それを間一髪で躱しながら全速力で飛ぶ。


暁鶴の防御結界が破られた。


防御結界の無くなった空間を通り過ぎて、仲間の元へと飛ぶ。


追ってくる地上部隊。


もう由利衣の防御結界でも、持たないかもしれない。


「おじさん、早く!!

何とかするから!!」


もうティナの顔が見える位置まで来た。


「何とかってお前……」


「審判舐めてんじゃないわよ。

いいから、巻き込まれないように下がって!!」


ティナの脇をすり抜ける。


と同時に、審判の魔眼が黄金に輝く。

金蛟剪のヘッドを、激しく地面に叩きつけた。


雷光の青白い光の柱が前方へと飛ぶ。


地上部隊をまとめて巻き込む。

だが、機械兵の歩みは止まらない。


ティナは、軽く舌打ち。


「雷サージは当然か……でも。

もっと雷と熱!!」


梨々花の火炎嵐と、ヴァジュラの雷、ファイアブレスが撃ち込まれた。


耐熱限界を超え、 内部回路を焼かれた機械兵の動きが止まる。


しかし、まだまだおびただしい数の後続が迫っていた。


「リリカ!!」


ティナは叫ぶと、左手を突き出す。

同時に、梨々花のセトのウアスからは砂嵐が敵陣へと巻き上がる。


そして、金蛟剪を肩に担いで振り向くと、指示を飛ばした。


「逃げるわよ!!」


そう言って、駆け出す。


慌てて付いていく俺たち。


「おい、何を……」


「ジャミング!!

光学機器は砂嵐で目潰し!!

分かる? 分かんなくても走る!!」


俺は人数分の足場を形成。

残像の刃は、今では十五は具現化できるようになっていた。


「全員乗れ!!」


全速力で飛ばす。


「黒澤、ナビゲートを頼むぞ。

……しかし、空からの監視がな」


ティナは、特段慌てた様子はない。


「リリカ、頼むわよ」


「分かってるわよ」


梨々花は暴風雨を上空に向けて撃ち出した。


いつの間にか隣で飛ぶアドラメレクが感心した声で言葉をかけてきた。


「弱っちいってのは、少し訂正だな。

なかなか機転がきくじゃねえか」


そして、政臣のカメラへと向く。


「視聴者さん、楽しんでるかー?

こいつら、尻尾巻いて逃げてるぞおい。

どうなるんだろうなー」


……自由業の見た目のくせに、コンテンツの盛り上がりを気にしやがって。


苦い顔をする俺に、梨々花の声。


「最初から無双しちゃ面白くないじゃない。

ここからの進撃に乞うご期待よ。

そうでしょ?」


涼しい顔で黒髪をかきあげる。


そして、俺に切れ長の目を向けてきた。


「先生……一旦戦場に飛び込んだからには、何が何でも死中に活を見出していきましょう。

私たちならできます」


――魔界の扉をくぐる前は、今にも死にそうな顔だったのにな。


皆を見回しても、誰も目の力を失っていない。


なら、俺の心もひとつだ。


精一杯の大声を張上げた。


「ああ、魔界編はみっともなくトンズラからの……

魅せて行こうじゃないか!!」


謎の世界。

何と戦っているのかも分からない。


そして、魔界とは何なのだ。


終わりのない終わりの世界と、アドラメレクは言った。


新しい冒険は、これまでにない謎に満ちた始まりだった。


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