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終末のSSR ―魔法使いジャパン、ただいまダンジョン攻略中!―  作者: 白猫商工会
第08章

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第290話 冷たい風

マルグリットは、巨大魔法陣の消失とともに大きな安堵の息をついた。


先ほどまでの不吉な魔力の気配は収まっている。


しかしこの戦場の熱気は収まらず、戦闘は緩まず続いていた。


梨々花の風刃嵐に巻き込まれてズタズタになった梟に、とどめの爆炎を浴びせるのが彼女の役割だったが。


その嵐も徐々に収まってきた。


梨々花はセトのウアスの下端を地につけると、左手で黒髪をさらりとかきあげた。


「あの、なんだか良く分からない魔法陣……

うまく行ったようですね」


大規模な嵐は、ボス攻略チームが世界樹に突入するまで。


まだ手は緩められないが、第二フェーズへの移行だった。


これまで待機していた麗良は、自身に飛行魔法をかけた。


次にグレイスへと呼びかける。


「グレイスさん、そろそろこっちお願いしますねー」


その声に呼応して、グレイスのお供の狸の一体が翼に変化。

もう一体はティナの翼になる。


麗良を加えた三人の魔法使いたちが、上空へと飛び立った。


一方の梨々花は炎蛇の杖にチェンジ。


スマートグラスをかけ、女教皇の索敵レーダーとリンク。

高圧縮のマグマを撃ち出し、梟へ精密射撃を繰り出す。


セトのウアスはまだ大味な攻撃が主体。

麗良たちを巻き込まないようにし、かつ魔力を節約しながら高威力の攻撃を繰り出すのは、使い慣れたこの杖の方が向いていた。


マルグリットが梨々花へと話しかけてきた。


「お前、わりと冷静なのな。

あたいから見ても、あれはなかなか危なかったけどな」


「そりゃあ、まあ……

でも、仮にあの場に私がいたとしても、役に立ちそうもありませんから。

リズさんお任せしかないでしょうね」


上空では麗良が炎を纏った刃を振り、ヴァジュラの雷とティナの雷光が空を震わせる。

その間を縫うようにしてマグマの狙撃で支援を続ける。


「あちらも、私たちの食い止めを信用してくれているわけですから。

任せる以上は、死んでも恨みっこなし……ですよ」


「いやー、あたいは恨むけどな。

まだ今月のパチンコの負け取り返してねえし」


マルグリットは八重歯を見せて笑う。


つられて梨々花も軽く口元を上げた。


続いて、マルグリットは手にした短いロッドを入れ替える。


次は光属性のロッド。


魔力を軽く込めると、先端から熱線が射出。

次々と上空の梟を撃ち抜き、体に穴を開けていく。


梨々花は半ば呆れ顔。


「それだけの攻撃魔法を訓練なしで連発できるなんて、ほんと反則ですね」


高確率で壊れる、実質使い捨てアイテム。

それが壊れないのは、運命の輪のイカサマ魔眼能力だ。


マルグリットは楽しそうに笑うと、光属性のロッドを腰に戻した。


「まーな。

あと、こいつもあるぜ」


梨々花の視線は、マルグリットがバッグから取り出した“あるもの”に移った。


「それ……本気で使うつもりですか?

私なら絶対に勘弁なんですけど」


魔導ギア・ アトロポス。


その形状は片手鋏。


直接攻撃用の武具ではない。

そして単体で使用するものでもない。


マルグリットの装着している二つの指輪。


右の中指にはクロト。

左の中指にはラケシス。


三つで一つ。


ヴィオラの装備品である、ソードウィップのメガイラ・黒革衣装のアレクト・赤コートのティシフォンのように、三姉妹の女神の名を冠する装備。


マルグリットは、上空の梟の一体に視線を向ける。


右手の指輪が光り、魔力の糸が二本伸びる。

マルグリットと梟が糸で繋がれた。


「一発目だからなー。軽めでいっとくかな」


そう言うと、左手の指輪が淡く輝く。

同時に、二本の糸も淡く輝いた。


マルグリットの魔眼が黄金に光り、糸の一本を鋏で断ち切った。

その思い切りの良さに、梨々花の口元が思わずひくつく。


上空を見ると、梟は大きな叫び声を上げて光の粒へと消えた。


二本の糸のうち、ひとつは自身の心臓につながっていて、もうひとつは相手の心臓につながっている。

どちらを断ち切ると、どちらかにダメージが入る命のやり取り。


物理攻撃でも、魔法攻撃でもない。

逃れられない運命の手に心臓を握られたのだ。


最初の指輪でお互いを魔力の糸で結び、二つ目の指輪でダメージ総量を決定するのだが。


梨々花のドン引きの声が上がった。


「……どこが軽くなんですか?」


これは〇国のお宝。

獲得した冒険者は、とても実戦向きではないと冒険部ホールディングスに買い取りの依頼をかけていた。


それを聞きつけたマルグリットが、自分なら使いこなせると梨々花にしつこく迫り、五億Gで手に入れたのだ。


なお、パチンコとカードバトル競技場で稼いだら返すという賭博出世払い。

そちらは魔眼能力を使うなと梨々花から厳しく言い含められているため、返済はいつになるか分からなかった。


マルグリットは「ヘーキヘーキ」と飄々と笑うと、右手の指輪を光らせる。


次々と梟と糸がつながり、左手の指輪が輝く。


そして、一気に五連断ち。


五体の梟が光の粒となった。


「な?」


嬉しそうに梨々花へと笑いかけるマルグリット。

梨々花は無言でマグマを撃ち続けていた。


***


一方の、蛇に対処するチーム。


由利衣は呼吸の書でスケルトン三体を具現化。


その前で軽く唸っていた。


迫ってくる蛇は、来奈が吹き飛ばしていく。


その来奈が声をかけた。


「ねー、またあのキングスケルトンとかいうやつでいいじゃん」


その言葉に、由利衣は軽く首を横に振る。


ティナの式神、暁鶴が向けてくるカメラを気にした。


「視聴者さんに新しいものを見せないと。

あのゾンビで黒澤死霊兵団(レギオン)の新戦力をお披露目する予定だったんだけど」


先日獲得した武将のゾンビは解放していた。


モンスター本人の意に沿わないアンデッド化は、厄災神が無理やり魔法使いたちを眷属にしようとした行為と同じ。


コーチにそう指摘され、死霊王たる自身の不明を恥じた由利衣ではあったのだが。

手持ちのカードを増やしていきたい気持ちは変わらなかった。


なお、この呼吸の書。


使用者の魔力を具現化してアンデッドを生成する枠と、倒したモンスターの魂を捕らえる枠がある。


前者で具現化できるのは、由利衣の現在の練度ではスケルトン数体が精一杯。


そして後者だが。

以前の所有者がゲットしたアンデッドの名前がいくつか登録されている。


ただ、呼吸の書を引き継いだものがそれらを召喚するには、新たに獲得する必要があるらしい。


つまり主として認めさせろということだが、そもそも由利衣の呼びかけには応じてくれない。

まだ相手をするまでもない、そう見なされているのだろう。


ということで、現在の実質的な戦力はスケルトン数体。


ここからサクセスストーリーを始めるのだ。


やがて由利衣は小さく頷く。


女教皇の魔眼が淡く輝き、三体のスケルトンの骨がバラバラに分解した。


そこに来奈の声。


「それって、前と同じじゃん」


だが由利衣は、黙って見てろとばかりに呼吸の書に魔力を込める。


やがて三体分の骨が結合。


三つの頭。

六本の腕。

そして、ケンタウロスのような四つ足の下半身。


「三身合体、スケルトンナイト」


さらにスケルトンを具現化し、計三体のスケルトンナイトを合成。


先ほど宮殿で押収した武器や盾を持たせていく。


由利衣は満足げに目を細め、銃を構えた。


「それじゃあ、行くよー」


蛇の群れへと突撃。


魔力弾を撃ち込み、蛇が怯んだところでスケルトンナイトの剣が首を飛ばす。


その蛇が光の粒になり、ダンジョンへと還っていく。


そのとき。


「はい、ストップ」


由利衣は手元の呼吸の書を輝かせ、光の粒へと呼びかけた。


ふわりとした笑顔。


「黒澤死霊兵士は、呼び出しは九時〜十七時。

一回につき、魔石五百G。

時間外は割り増し。

……どうかな?」


光の粒はダンジョンに還ろうとする。


「あ、ちょっと……」


由利衣は指をひとつずつ折って交渉。


「梨々花ケチなんだもん。

ね、いい感じの魔力補給もするから。

ダメ?」


光の粒は数秒揺れ動き……。


呼吸の書に吸い込まれた。


こうして。


一回呼び出し一万五千Gと、福利厚生として一日三度の魔力補給で第一号と契約が成立した。


さっそく召喚。


の前に。


由利衣は渋い顔をカメラに撮られないように注意しながら、スマホを操作。


梨々花に決裁を申請。


じりじりと待ちながらスケルトンナイトを指揮し、魔力弾を撃つ。


そして。


「……通った。珍しー」


由利衣は胸をなで下ろすと、蛇のゾンビを召喚した。


ちらりと上を見る。


「梟も……勧誘しないと」


瞳に力を込め、兵団を鼓舞するのだった。


***


転送されたのは、開けた場所だった。


ところどころに篝火が焚かれ真っ暗闇というわけではないが、それでも足元を照らす明かりが欲しいところだった。


狸来奈が魔力を込めると、狸火が発生して上から俺たちを照らした。


「ここがキスキル=リラの住居ってやつか?」


となると、ここは世界樹の中腹ということになるが。


天井はどこまでも高く、かつ広い。

また、足元は石畳だ。


とても大樹の中とは思えない。


見渡すと、遠くの薄闇の中に石造りの建造物が見えた。


「あれだろうな。どう見ても」


一歩踏み出した、そのとき。


俺が村正を抜くよりも早く、クラリスが最前列に躍り出てエクスカリバーの輝く刃を繰り出した。


冷たい風が頬を撫でる。

少しだけ力が抜ける。


これが、話に聞いていた魔力と体力を吸い取る能力というやつか。


「まだ呼んだ覚えはないのだけど……」


上からの声に村正の残像の刃を飛ばす。


だが、刃は素通り。


俺たちの眼前に現れたその姿は――


俺は咄嗟に大声を張上げた。


「政臣、気をつけろ!!

こいつは、ヤバい!!」


後方の政臣からは、静かな緊張が伝わってきた。


これが、キスキル=リラか。


下半身は猛禽の脚、背中には猛禽の翼。

顔は美女。


ここまでは、聞いていた。


しかし。


政臣が恐る恐る言葉を発した。


「うちのチャンネルは、子供からお年寄りまでなので、それはちょっと……」


上半身は、豊かな胸を申し訳程度に隠す薄布が一枚。

しかも、下からのアングル。


俺もクレームを飛ばした。


「あのなあ、お茶の間が気まずくなるだろう」


だが、目の前のモンスターは、何を言っているのかという顔。


「呼ばれてもいないのにやってきて、ずいぶんな態度じゃない。

どうやってここに侵入できたんだか」


そして、リズに気づいた。


「女帝の……

このフルップに何の用?

あなたの役割はもう終わりでしょ」


そして腕を組む。


寄せるのはやめろ。


そんな俺の心配をよそに、クラリスが叫んだ。


「役割か何かは知らんが、我々の前に立ち塞がるというなら、斬り伏せるまでだ!!」


「だから、勝手に入ってきたのはあなたたちでしょう」


会話が噛み合わない。


そこに、リュシアンが声をかけた。


「あの、呼ばれてないってどういうことですか。

僕たちはチャレンジャーなんですけど」


キスキル=リラは上から見下ろしながら声を放った。


「私の配下の蛇と梟。

まだまだたくさんいるから。

全部倒すか、一年耐え抜いたら呼んであげる」


シッシッと手を払う仕草。


――なんだと?


クラリスにそっと問いかけた。


「おい、そんな条件なのか?」


「細かいことは知らん。

いまここでヤツを斬れば問題なかろう」


今にも飛びかかる気満々。


その言葉に、ぴくりと反応するキスキル=リラ。


「言っても分からない……か」


実体が急にぼやけ出した。

そして、この魔力。


仕掛けてくる動きを探る。


冷たい風が揺らめく。


クラリスのエクスカリバーと隠者の魔眼が輝いた。


激しい斬撃が空を斬る。


俺たちの眼前に突如現れたキスキル=リラは、上から下にかけて真っ二つになる。


ここまでは、魔眼が見せる未来視通り。

しかし、続きがあった。


二つに分かれたキスキル=リラの右半身の腕が、クラリスの腕を掴む。


その右半身が淡く輝くと、クラリスは痙攣。

キスキル=リラが手を離すと、地に伏せた。


「リュシアン、回復だ。急げ!!」


即座にリュシアンに指示を飛ばしながら、村正に魔力を込める。


キスキル=リラは、俺の村正をちらりと見ると左右の半身を結合させた。


「それは……なかなか怖いわね」


実体のない相手の魔力を斬る、俺や麗良の一門の奥義。


風の眷属相手に致命の一撃を与えるには、これしかない。


リュシアンは、バッグから魔石を取り出して魔眼能力を発動。


魔石を対価としてクラリスを回復させるのだ。


しかし――


リュシアンの黄金の瞳が揺れる。


「……そんな、クラリスさん」


クラリスは動かない。

だが、リュシアンの回復は多少の効果はあったようで、軽く肩が上下し始めた。


一時的な魔力と体力の欠乏だろう。

このままでは、自律呼吸も難しい。


瞳に精霊を宿すSSRの魔力は膨大。

加えて、無限の体力と思われたクラリスをこうもあっさり。


「リュシアンは魔力と体力の回復を続行。

リズ、あれを頼む」


リズは頷くと、女帝の魔眼が輝く。


石畳を割って巨大な植物の芽が現れ、花を咲かせる。

その花がクラリスを捕食するように包みこんだ。


悪魔の国チャレンジのとき、来奈の命を救った応急処置。

酸素供給と栄養補給を行ってくれるはずだ。


キスキル=リラは、巨大植物に「へえ……」と目を細めた。


俺は、ジリっと村正の柄に力を込める。


「おい……

いま奪ったもの、返してもらおうか。

じゃないと」


「じゃないと……何?」


間合いを一歩詰めると、キスキル=リラは跳び上がった。


そして、翼をばさりとあおぐと、俺たちに向かって羽根を撃ち込む。


リュシアンは防御結界を展開し、花を守る。


俺たちには、由利衣の防御結界がある。


だが、猛攻撃に徐々に削られていく。


あまり時間はかけていられない。

村正に魔力を込めた。


そのとき、影が四つ跳んだ。


モヒカンの持つ釘バットがキスキル=リラを襲う。


それが空を斬る。


鉄仮面の装備する爪と、和尚の拳が舞うように繰り出されるが通じない。


リザードマンの青年武将も、槍を突き出す。


「お前ら、下がれ!! 無理だ!!」


四人は止まらない。


誰一人振り返らない。

俺の言葉を聞かずに、攻撃を繰り出していく。


モヒカンが吠えた。


「ここが大一番なんやろが!!

一年もチマチマ戦ってられるかい。

そこの姉ちゃんの言う通り、こいつ叩くで!!」


キスキル=リラは眉を寄せる。


「……まったく」


そして、右手をモヒカンへ向かって突き出す。

その右手は急激に輪郭を失い出した。


風に変わるつもりか。


村正に込める魔力を高めていく。


しかし、間合いが開きすぎている。


獣人とリザードマンの攻撃では、隙を作れそうもなかった。


何か一手はないか……。


そのとき。


「おい、サービスだぞ」


声と同時に、狸来奈の姿はキスキル=リラの目の前にあった。


瞬きすらしていない、一瞬にも満たない刹那の動き。


狸来奈の左拳が輝き、衝撃波が猛禽の翼と脚を右半分吹き飛ばした。


「料理長!!」


リュシアンがすかさず、俺に時空魔法を付与。


脚に魔力を込める。

村正を振りかぶり、大きく跳んだ。


――視える。


キスキル=リラの魔力へ、村正の刃を滑り込ませた。


左半分が消失。


さっき狸来奈が吹き飛ばした半分は……。


冷たい風と化し、こちらへと吹いてくる。


それも視えた。


リュシアンの眼前へと瞬時に移動し、村正の青白い刃を何もない空間に突き立てる。


「……残念」


実体化したキスキル=リラの喉元に、村正の切っ先があった。


俺は魔力をいささかも緩めずに、一言。


「チャレンジは、成功でいいんだよな?」


「だから、呼んでないって。

…………まあ、いいわ」


その言葉を確認し、村正の刃を下げる。


「奪ったものも返してくれよ」


これには、モンスターも呆れ顔。


「あなたね、私の魔力の半分持って行って……」


村正の切っ先を揺らすと、言いかけた言葉を飲み込んだ。


「分かったわよ。

まったく、散々じゃない。

ろくでもない冒険者もいたものね」


モンスターに言われるとはな。


軽く額を押さえた。


「まあ、それも俺たちの冒険だ。

それと、もうひとつ」


「まだ何かあるの!?」


政臣の構えるカメラを気にして、要求を伝える。


「上に何か着てくれ。

うちは健全なチャンネルだからな」


キスキル=リラは、「ぶった斬るのは健全なの!?」と喚くが、それには聞こえないふり。


こうして。


俺たちは、世界樹の守護者の試練を、当の守護者がまったく望まない形でクリアするのだった。

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