↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末のSSR ―魔法使いジャパン、ただいまダンジョン攻略中!―  作者: 白猫商工会
第08章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
290/350

第286話 戦の後

意識を取り戻したグレイスに、「ですわ」の声がかかった。


「アミルさん、気がつきましてよ」


薄目を開けると、自分に膝枕をしているのは……。

たしか、日本の。


背中までの茶髪ロングにアホ毛。

いかにも人の良さそうな顔が、微かに笑っていた。


その側でアミルが心配そうな顔。


そして、憑依を解いた気狐と狸ツインズもいた。


気狐が呆れた声を出した。


「容赦のない連中ですー。

お前、打ち上げられてるときにもう気絶してたですよ」


その後、無防備状態での百連撃に耐えたのは、ひたすらスーツの性能のおかげだった。


グレイスは、ぽつりと一言。


「変身して負けたのは、初めてだね……」


「ところが、ですのよ!!」


熊耳が、ずいっと目の前にスマホを見せてくる。


「これ、どうなってるのか。

視聴者さんからの問い合わせ殺到でしてよ」


画面に映るのは、空中に飛び上がってガチャ機のハンドルに手をかけるシーン。


「――ガチャ?」


変身中なのに?


困惑するグレイス。


「やっぱり無意識だったんですね」


腕組みして見下ろしているのは、肩上までの黒髪ボブ。


小柄で愛嬌があり、人畜無害そうな顔立ちだが。

この声は――


「お前、あの黒スーツ……」


グレイスは身を起こそうとすると、頭がふらついた。


「無理はいけませんことよ」


熊耳が無理やり頭を膝の上に落ち着かせた。


「セラさんと茜ちゃんの二人がかりなんて、さすがは愚者のSSRですわ。

ゲームはもう終わり、ゆっくり休んでくださいまし」


「終わり……」


グレイスの呟きに、犬養はフンッと鼻を鳴らした。


「もう少しだったんですけどね。

まあ、山本先生相手なら仕方ないですけど」


グレイスは顔を横に向ける。


その目に映るのは、砕けた氷柱。

大将軍の姿はない。


そこに。


「お嬢」


アミルの声がかかった。


「……なんだよ、アミル。

まったく、ざまあないね」


「いや、ぶっつけ本番であれだけの竜魔法。

さすがお嬢だな」


熊耳の「ですわー」の同意。


グレイスは小さく息を吐き出し、目を閉じる。


「加護ってのがあれば、もっとリスク取って行けそうじゃないか。

そうだろ、アミル」


アミルは口元を緩めて小さく頷く。


犬養は、


「これ以上は勘弁して欲しいですよ、ほんとに」


と言いながらも、どこか楽しげな表情を浮かべるのだった。


***


ヴィオラは、冷たい息をフーと吐いた。


「ねえ、もう氷柱崩れたみたいだけど」


ミアは構わずに火尖槍の刺突を繰り出す。


「じゃあ、ゲームは勝ち。

あんたの首を貰って、気持ちよくフィナーレを飾ろうじゃん」


止まりそうにない……か。


ヴィオラは左手をスッと突きだした。


視線の先には、ミアの胸元で輝くブリーシンガメン。


「それがあれば簡単には死なないのよね……」


その言葉にミアの獣のような目が反応した。


「極冷却? 上等!!」


お互いの魔眼が黄金に輝く。


空気中の水分が一瞬にして凝固し、視界が白に染まった。


ミアは、火の魔力の勢いが戻ってきていることに気がついていた。


どうやら、燃焼を抑えつけるのと、極冷却の同時展開は不可とみた。


……なら。


火尖槍を掲げ、魔力を最大限に込める。


渦巻く熱気が、ダイヤモンドダストを吹き飛ばした。


魔眼が爛々と輝く。


「カスも残さずに燃やしてやるからさー!!」


ヴィオラは、「やれやれ……」と左手に魔力をさらに込める。


すべてを燃やし尽くす業火と、世界の法則を止める冷却が相対する。


離れた地では、魔王が世紀の激突をワクワクしながら実況していた。


――そこに。


ミアの後頭部をガッシと掴む手。


「ミアさん、試合は終わりですよ」


セラが、ギリギリと頭蓋骨に指を食い込ませる。


ミアの興奮は収まらない。


「なに邪魔してんの。

これは、フィナーレに向けた儀式だからー。

視聴者さんも、こいつが消し飛ぶところ見たいって絶対。

お祭りは血を見るものだからさー!!」


セラは、ヴィオラをちらりと見る。


小さな頷きが返ってきた。


そしてセラが身体強化魔法を全開にすると、ミアの意識は途切れた。


***


小学生に戻った俺を、珠緒とみちると明日香は遠慮のない眼差しで眺めていた。


みちるがオレンジジュースを差し出してきた。


「配信は見たけど。

ホントに若返るんだー。

かわい……?…………んー」


しばし葛藤してから、「かわいー」の声。


その気遣いは、余計にハートを抉るんだけどな。


珠緒は、どうやら精霊の特典に興味が向いたようだ。


「R魔法使いが、SRを負かすなんて。

私も完凸目指すわ」


そう言って、みちると明日香を見ると静かな同意が返ってきた。


そこに麗良が割り込んでくる。


「私も完凸目指してるんだけど。

やるなら全員でじゃない?」


明日香が、「次の星上げは私だからね」とさらりとアピール。


そこに日村が「負かされてねえよ」と言いながらやってきた。

地獄耳の魔法を使えるようだ。


「だけど、試合は負けだな。

大将軍にやられたぜ。

……まあ、どっちでも同じだけどな」


妙な顔をする俺に、言葉を被せてきた。


「なんだよ、このイナンナの世界でビジネスをするって言っただろ。

日本SSRに投資するのが俺のビジネスだ」


そう言って笑った。


勝っても負けても、俺たちにこの世界を任せる気だったんじゃないか。


呆れていると、杏子の声。


「まだ取ったわけじゃないでしょ。

みんな、投資する気満々なんだから。

そうでしょ?」


そう言うと、世界各国の冒険者連中が頷いた。


それはそれとして。


ジャガーに賭けていた連中からは、完凸はイカサマだろうと非難轟々。


何がイカサマだか知らないし、勝手に賭けておいて文句を言われる筋合いはなかった。


文句の声を受け流していると、梨々花から電話が入った。


通話ボタンをタップ。


「先生、お疲れ様でした。

で、これから打ち上げですからそちらに合流します。

準備よろしくお願いしますね」


嫌な顔を作らないようにするのに苦労した。


さっきまで死闘を繰り広げていた小学生に、容赦のないやつ。


「それで、大将軍もすでにそちらに向かっているので。

先生が子供に戻ったと聞いて、ずいぶん張り切っていましたけど。

……では、後ほど」


全身を悪寒が襲った。

俺のトラウマが蘇る。


子供に戻った俺をお世話すると言って、職員宿舎からわざわざ学生寮に移ってきた、あのわけのわからない情熱……。


通話を切り、日村の目を見た。


「なあ、これから飯だけど。

お前らもどうだ?」


背後からは「満漢全席で……」と、儚げなオーダー。


今モフォンゴを食ってるだろう。

いや、そんなことはどうでもいい。


日村は何気なく笑う。


「まあ、試合の後は飯だな。

いいんじゃねえの」


「で、頼みがあるんだけどさ」


俺の次の言葉に、日村は「お前なー」と苦い顔をするが、必死で頼み込むのだった。


***


来奈は上機嫌で歩いていた。


「すごい撮れ高じゃん、なあ委員長!!」


政臣は興奮冷めやらぬ様子で大きく頷く。


「さっそく総集編の編集に取り掛からないと……

寝る暇なんてないよ!!」


すかさず由利衣は、ふわりと笑って指示を飛ばす。


「私の変身シーンは、五アングルからのリプレイでね」


梨々花はその声に、次のコンテンツを考える。


次は、ヒーロー対魔法少女。


リュシアンの出番ね……。


今回、欧州組が参戦していないことが悔やまれた。


しかし、それは次回のお楽しみだ。


さっそく制作委員会を立ち上げて、クウラドファンディングを……。


すでに着いた勝負よりも、魔王の目はその先を見ていた。


思案を巡らせていると、氷柱が見えてきた。


そして――


切れ長の瞳が楽しげに細められた。


「先生……

なるほど、そうきましたか」


クスクスと楽しげな笑いの梨々花。


由利衣は、ちらりと氷柱の方を見る。


黙々と包丁を振るうジャガーマン。

……いや、あれは日村ではない。


そして、その隣で残念そうな顔の山本先生。


「めんどくさい人たちだなあ……」


そう言って、小さく笑うのだった。


***


俺は調理を続けながら、来奈の追撃を必死で躱していた。


「ねえ、教官。

次それあたしだから。

ねえってば、あたしもジャガーになりたいし!!」


執拗に食い下がる来奈に、「明日な」とあしらうと、猛抗議の嵐。


山本先生には、子供の姿では調理しづらいから、ジャガーのトーテムを借りたと苦しい言い訳をしていた。


とにかく、やり過ごすしかない。


そこに、日村がニヤニヤ顔で声をかけてきた。


「おーい、ガキンチョ。

ビールがないんだけどな」


……くそ。


クーラーボックスから缶ビールを取り出し、日村の前にドンと置く。


「お前、そういうとこ視聴者さんの評判良くねえぞ。

四十手前にもなって、なあ?」


日村はそう言って、杏子に同意を求めた。


「佐伯くん、昔からそういうとこあるから。

大将軍も頑張ったんだから。

たっぷり甘えればいいじゃない」


冗談じゃない。


思わず渋い顔になる。


何も言い返さずに、調理に戻ろうと振り向く。


超至近距離にセラの顔があった。


「………………何か?」


やっと言葉を絞り出すと、スマホのカメラを向けられシャッター音。


「佐伯さん……

クリスマスイベントでは、バディですからよろしくお願いしますね。

で、そのジャガーのトーテム。

私も貸して欲しいんですけど」


……なぜ真夏にクリスマスの話を?


困惑を隠せない俺。


そこに、魔王の声。


「セラさん、お疲れ様です」


黒髪をさらりとかきあげる。


こうして並ぶと、やはり見た目は似ていた。

もっとも、魔王の方が怪しげだが。


その怪しげな口元が開く。


「素敵な戦闘でした。

……これ、よろしければ」


そう言って、スマホを見せてきた。

ついでに紙束を渡す。


「第五層、魔王健康ランドの定期公演。

悪魔と巨人たちによる胸踊るショー。

こちらはビュッフェ券ですけど、同僚の方たちもぜひお誘い合わせの上で」


いつの間にか、政臣に作らせていた魔王健康ランドの新コンテンツ予告。


セラはスマホに釘付けになったまま、ビュッフェ券を無意識に懐にねじり込んだ。


「これは……また。

なるほど、悪魔のキャストで変身を……」


「それだけじゃないんです」


そう言って、セラの耳元に口を寄せる。


「巨人と狸で……巨大ロボ!?」


セラは慌てて口元をハンカチで押さえた。


魔王は一歩下がると、セラの目をまっすぐに見た。


「どうでしょう、特別ゲストとして。

クリスマスイベントも盛り上げていこうじゃないですか」


セラは、ゆっくり頷く。


「おい、桐生院」


ろくでもないことにしかなりそうもない予感に、思わず声を上げた。


しかし、ぴしゃりと制される。


「先生は、対異能犯罪課・DELTAの轟伊知狼(いちろう)警部補ですから。

きちんと稽古お願いしますね」


誰だそいつは。


二の句が継げない俺をよそに、セラのシナプスはフル回転。

それがスパークした。


「佐伯さん。レイドで見せたあの技……。

薔薇星雲(ロゼッタネビュラ)ジルベルト様の輝皇技(ステラーアーツ)――

スカーレット・デッドリー・ウエイヴ。

あれも、ぜひ魔王健康ランドの舞台で。

搭乗機・モノケロティスも再現できますよね?」


そう言って熱のこもった眼差しで梨々花を見た。


魔王の力強い頷きに、頬を上気させる。


そして、俺の理解と承認を置き去りにして、セラは俺たちに頭を下げた。


「こうしてはいられませんね。

私は三ツ星(オリオン)ガルガンティア様を。

(そら)が巡るとき、恋の運命(さだめ)に導かれし剣をいざ交えん」


そう言い残して、ツカツカと熊耳の方へ向かって行った。


「……なんだあれは」


「さあ。でも、頑張って下さいね。

ジルベルト様」


そして、切れ長の真剣な眼差しを向けてきた。


「それよりも。

とても大切なことがあります」


ぐっと迫ってくる。


「熊耳さんが事前に作成した衣装は、高柳くんのコネクションで版元と話がついていますが、セラさんの要求。

きちんとトラブルにならないようにマネジメントお願いしますね。

あと、グレイスさんの変身も」


……なぜ俺が。


そして、グレイスの変身は精霊のデザインだろうに。


しかし。


たまたま似ているとか、原作を知らないままインスピレーションに導かれるまま作ったとかは通用しない世界なのは、なんとなく俺にも分かる。


続けて、梨々花は政臣の方をちらりと見た。

猛烈な勢いでキーボードを叩き、この試合の動画編集を行っている。


「現在、召喚デザインアプリに承認申請されたものの権利確認機能を開発していますが。

今は高柳くんの人的チェックなので……」


――あいつ。


俺の知らないうちに事前にトラブルの芽を摘んでいたと思うと、頭の下がる思いだった。


「分かった。任せろ」


俺は大きく頷き、フェリクスへ丸投げする決意を固めた。


「それと、もう一つ」


梨々花と再び目が合う。


「そのジャガー、一日三十万Gでシェアリングサービスすることになったので。

あとで稟議出してくださいね。

きちんと理由と費用対効果の説明もお願いします」


後ろから日村の「きっちり取り立てるからなー」の声。


黙って調理へと戻る。


山本先生がにこやかに声をかけてきた。


「このイベントも、あと少しですね。

最後まで頑張りましょう」


そう言って、ぐっと両拳を握る。


普通にしていると普通なんだよな。


そう思ったのもつかの間。


山本先生は、くるりと振り向いてリズへと声をかけた。


「リズさん、兎鍋いこか。

活きのいいの、捌いたるからに」


山本先生の傍らには、縛られた三体のウサ耳。


老媽兎頭(ラオマートゥートウ)で……」


カリブから中華の口にシフトチェンジした、儚げなオーダーがかかる。


素肌に革ジャン、モヒカンのウサ耳。

謎の鉄仮面のウサ耳。

巌のような筋肉、スキンヘッドに入れ墨のウサ耳。


そいつらは、山本先生の圧に完全に呑まれていた。


俺はさすがに見かねて山本先生へ声をかけた。


「あの……コンテンツ的にアレじゃないですか?」


「佐伯さん」


山本先生は俺の目を見た。


「これはお祭りですから……ね?」


ね?……って。


どうしたものかと思いあぐねていると、犬養の声。


「山本先生、そいつらは一応私たちの陣営なので……その……」


三体のウサ耳は一斉に犬養に助けを求めた。


だが、山本先生は静かに犬養の目を見る。


数秒間、俺にはよく分からないアイコンタクトの応酬が続いた。


そして、犬養は小さく首を横に振る。


「分かりました、好きにしてください」


大声で喚くウサ耳。


どうしたものかと考える。


そこに、


「そのへんで勘弁してやってくれよ、大将軍」


聖王リウが声をかけてきた。


ウサ耳たちへと近寄っていく。


「敵でも戦が終わったらノーサイドなんだろ。

……お前ら、腹減ってないか?」


そう言って、縄を解いていく。


山本先生をちらりと見ると、小さく肩をすくめていた。


解放されたウサ耳たちは、「ボスー!!」と叫び、泣きながらリウに抱きついた。


儚げな「残念……」 の声。

どこまで本気なのか、まったく分からない。


こうして、ウサ耳アウトロー集団の残党は、聖王の配下に。


俺たちは戦後の打ち上げへ。


どうせ帝都周辺にいるだろうと、欧州組とゼファスたちアメリカ第二チームに連絡を取ると、あちらも日課のトレーニングが終わったところらしい。


このイナンナの世界で、攻略そっちのけで何をやっているのかよく分からない連中だが、飯に誘うと乗ってきた。


戦の参加者も各々連絡をとり、近隣の冒険者へ声をかける。

どうせなら派手にいこうじゃないか。


冒険者たちの宴が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。