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終末のSSR ―魔法使いジャパン、ただいまダンジョン攻略中!―  作者: 白猫商工会
第08章

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第285話 ヒーローと獣

由利衣はスマホ画面を見ながら、不満の声を上げた。


「私もあのスーツ日葵(ひまり)ちゃんにお願いしてたのにー。

ずるーい!!」


セラに先取りされたことにむくれていた。


来奈は十三個目の弁当をかき込みながら興奮が止まない。


「ヤバいって!!

教官の方も気になるけど、夢の競演も熱いっしょ」


梨々花は大いに頷く。


「まさかセラさんまで参戦とは思ってもみなかったけど。

先生と日村さん。

そしてヒーロー大戦…… この二本立てで、いただきね」


ちびっ子の視線は釘付け。

いや、全世界の……。


梨々花の頭には、すでに魔王健康ランドのショーのスケジュールまで組み上がりつつあった。


召喚魔法に長けた悪魔たちによる一斉変身。


梨々花は画面を注視しながら呟く。


「そうね、まずは百着……

期待しているわよ、熊耳さん」


本人の一切知らないところで、熊耳のタスクが積み上っていた。


そこに。


「おつかれー。

ねえ、こんな感じなんだけど」


そう言って声をかけてきたのは、冒険者兼さえき亭パートの主婦だ。


三人の前に置かれたのは、チキンビリヤニ。


来奈の目が輝く。

さっそく一口。


「高木さん、美味しいってこれ!!

あたし好きだなー」


モリモリと頬張る。

由利衣からも高評価の声が飛んできた。


高木は、にこやかな顔で梨々花へ言う。


「秋からのメニューはインド料理祭りねぇ。

いいんじゃないかな」


梨々花は鼻に抜けるスパイシーなテイストを堪能しながら、「これはアリ寄りのアリですね」と同意。


探索班の食事を観て、考えていたのだ。

カリブ祭りに続くテコ入れ案を。


そして、新アイデアを由利衣に提案する。


「由利衣、香辛料の調合お願いね。

これも魔法薬学の修行よ」


由利衣から「えー!?」の声が上がる。


だが意に介さない。


それどころか、梨々花の由利衣を見つめる目は熱を帯びていた。


――魔法薬学と料理。


どうして今まで気付かなかったのだろう。


食べて回復、能力上昇。


ライバル店との差別化戦略……。


高速で思案を巡らせる梨々花に、抗議の声が浴びせかかる。


来奈は我関せずで、ビリヤニのおかわり三杯目を要求していた。


そこに、魔王の取引が勃発。


「ねえ、由利衣。

ベアトリス大統領とリスティアさんの限定コラボフィギュアなんだけど」


由利衣は、ピタリと黙った。


梨々花はスマホを操作し、切れ長の目を細める。


「確かオークションで……。

あら、明日までじゃない。

現在二百万G」


そして、ゆっくりと言葉を続けた。


「魔法薬学は、冒険のあり方を変えるわ。

……そうは思わない?」


由利衣は、力強く首を縦に振る。


高木は、そんな魔王を頼もしげな目で見つめるのだった。


***


グレイスの肩のフェレットが羽根に変わる。


黒を基調とし、黄褐色のパーツをあしらった重厚な強化スーツに包まれた。


セラが満足げな声を発した。


「ヘラクレスフォーム。

パワータイプですね……相手にとって不足なし」


そして青龍偃月刀を掴むと、舞うように刃を繰り出した。


ヴァジュラとかち合う。


そして、弾き飛ばされた。


マスクの下のセラの瞳が大きく揺れた。


――押し負けた?


あのスーツ……。

精霊の恩恵というだけあって、やはり秘めたる力は相当なもの。


愚者の魔眼は、変身してからが本番。

さすが特化型能力。


青龍偃月刀をぐるりと回す。


「どうやら、遠慮は必要なさそうですね」


犬養の筋力増強バフに、自身の身体強化魔法を重ねる。


弾丸のように駆け、胴への鋭い薙ぎ払い。

由利衣の防御結界が紙のように突き破られた。


しかし、スーツには通らない。


タックルを食らい、セラは再び弾き飛ばされた。


そこに、上空から犬養が音もなく飛来。


掌に超振動の付与を纏っている。


――どれだけ硬かろうと、内部から分子を振動させてやれば。


「そのスーツの中でグツグツ煮えなさい」


冷静に言うと、必殺の右手をグレイスのフルフェイスマスクに当てる。


「アディオス――」


キメのセリフを放つが、超振動が浸透した様子はない。


ヴァジュラが振るわれ、肩口のプロテクターが粉々に砕け散る。

すかさず熊耳が修復を施した。


犬養は呟く。


「デタラメなイカれ戦闘民族ですね……」


頭を破裂させようとした自分のことは、完全に棚に上げていた。


しかし、超振動も通らないとは。


セラの青龍偃月刀の能力も類似。

どこまで通用するか分からない。


厄介なフォームが排出されたものだ。


グレイスはそんな犬養の焦りには構わず、腰を低く落として突進。


右手にはヴァジュラ。

そして、マスクには大きな一角。


オリジナルにはなかったのだが。

狸が変化して余計なオプションを搭載していた。


技術も何もなく突っ込んでくるだけ。

だが、避ける以外の対処が思いつかない。


グレイスの一角が犬養の腹を狙って跳ね上がる。

犬養は闘牛士のように、寸前で躱す。


そこに、アクアブレスの衝撃。


――こいつ。


梨々花でさえも、最初に竜魔法を行使したときは体に相当な負荷があったと聞いている。


それを、こうも易々と。


これが天賦の才というやつか。


グレイスは来奈と同じように技巧派ではない。


だが、それはできないのではなく、やらない。

興味がないのだ。


「たいした器じゃないですか。

ムカつきますね」


なんとか転がされずに踏ん張るが、その一瞬の隙を見逃すグレイスではない。


再びヴァジュラを構えて突進。


犬養の体感時間がやけにゆっくりになった。


……避けられない。


見えているのに、対処ができない。


頭が現実から逃避したくなる。

けれども、最後の一瞬まで目を瞑るなと自分に言い聞かせる。


だが、手だてがない。

無情にも角がみぞおちに触れた。


そのとき――


セラが青龍偃月刀をグレイスの腹にねじり込み、垂直にすくい上げる。


即座に展開された衝撃波が、グレイスの巨体を大空に舞い上げた。


「犬養さん、ナイス引きつけ。

行きますよ!!」


セラも大きく跳び上がる。


呆気に取られる犬養の背に声がかかった。


「茜ちゃん」


振り返ると、熊耳が二対のブレードを差し出していた。


「私たちのド根性……

ぶちかまして見せましてよ」


そうだ。


自分の器はひとつじゃない。


ブレードを受け取ると、一言だけ。


「当然」


そして、黒い残像を残して犬養は跳んだ。


***


セラは上昇しながら、青龍偃月刀をすくい上げて衝撃波を放つ。


空中には足場。

熊耳が具現化したものだ。


それに飛び移りながら、どこまでも上昇。


撮影機材を搭載した、熊耳の召喚ドローンが下から追いかけてきていた。


セラは、自身が纏うスーツと足場を交互に見る。


「召喚魔法に、こんな可能性が……」


口元が少しだけ緩んだ。


自分の皇帝の魔眼に、ミアの戦車の魔眼。


これは別格中の別格で、召喚魔法はさほど役に立たないというのが一般的な理解。


その常識を、あっさりと打ち破ってきた。


「さすが、魔法は創意工夫。

ワクワクするじゃないですか」


青龍偃月刀を振るう。

放たれた衝撃波が、グレイスをさらに押し上げる。


高度は三百メートル、四百メートル……。


「セラさん」


追いついてきた犬養の声。


「あのドローンの最高高度は五百メートルなので、この辺で……

視聴者さんに魅せていきましょう」


セラはノリノリの声を放った。


「了解、青柳一佐!!」


一方の犬養は、眉を寄せた。


……セラの役は何だったっけ。


レスポンスを待つ期待の圧がのしかかる。


そこに、ドローンのスピーカーから熊耳の声。


「青柳一佐、シンシア・イスルギ特務官。

制圧せよ、ですわ!!」


セラは「了解!!」の声とともに青龍偃月刀をグレイスに撃ちつける。


犬養はセラに合わせて連撃。


同時に、筋力上昇の付与を重ねまくる。

この化け物に立ち向かうには、それしかない。


禁断の領域に、肉体があっさりと限界を超える。

一撃ごとにブチブチと嫌な音が鼓膜を震わせた。


だが、強力な回復魔法が発動している。


ちらりと氷柱へと目を向けると、そこにはカレン。

鷲尾からアスクレピオスの杖を受け取り、この一帯を敵味方なく癒しの力で包んでいた。


「存分にやれということですか……感謝です」


犬養の付与がさらに加速する。


セラの一撃に対して、犬養は三撃。

それが四撃、五撃と増えていく。


落下しながら、二人のコンボが次々に炸裂。


「セラさん、百撃目は同時いきますか!!」


テンションマックスの犬養に、セラは青龍偃月刀を大きく振りかぶる。


そして、青龍偃月刀と二刀のブレードをグレイスの背中に撃ちつけ、地に叩きつけた。


シュタッと着地し、ハイタッチの二人。


山本先生は、「犬養ぃぃ!! それが魔戦部魂やで!!」と叫ぶ。

ロイとステラへと矢を放つ手は、一切緩めない。


犬養とセラのもとに、熊耳が駆け寄ってきた。


「素晴らしいですわ!!

視聴者さん、大興奮ですことよ!!」


そう言ってスマホを見せてくる。


そこには、由利衣の実況の声。


「大変ー!! マスクド・インセクターXの大ピンチだよ!!

みんなで応援するよ、せーのっ!!

……聞こえないよー!! もう一度、せーの!!」


続けて来奈の「負けるな、インセクターX!!」の絶叫。


犬養は「私たちが悪役じゃないですか……」と、ぽつり。


しかし、これだけ連撃を浴びせてもスーツにヒビひとつないとは。


何がどうなっているのやら。


「犬養さん、終わっていませんよ」


セラが構える。


犬養も慎重に様子を伺う。


目の前のスーツから、尋常ではない魔力を感じていた。


そして、グレイスはうつ伏せの姿勢からドンッと飛翔。


その動きの異様さにも驚くが。


上空へ向けた視線。


そこにあるはずのないものを見て、犬養の心臓が跳ねた。


――ガチャ機?


もう変身中なのに。


なぜ、何のために?


グレイスは、ガチャ機と同じ高さまで到達。


空中で、ゆっくりハンドルに手をかけた。


犬養の背を、言いようのない不安が襲った。


スマホからは来奈の「なにあれ!! ヤバくね!?」と興奮の声。


ハンドルが回される。

その前に、グレイスの変身が解除された。


頭から真っ逆さまに落下。

セラは青龍偃月刀を投げ捨てジャンプ。

空中で抱きとめた。


着地して一言。


「気絶していますね」


……じゃあ、さっきのは何だったんだ?


思案にふける犬養の前で、セラはそっとグレイスを地に寝かせた。


そして、カメラに向かってキメの口上。


「作戦終了!!

我々はマスクド・インセクターXに寄生していた超次元生物ドドンガドンの駆除に成功。

良い子のみんな、安心してくれ!!」


秒で思いついたセリフを淀みなく放つ。


そこに、由利衣がアドリブを被せる。


「そうだったんだー!! ありがとう機甲戦鬼!!

みんな、次の公演は魔王健康ランドのホームページをチェックしてね。

チャオ!!」


熊耳は、うんうんと頷く。


「みなさん、立派な戦いでしたわ」


そして、はたと気づく。


……次の公演?


由利衣がさらっと放った一言に、とてつもなく嫌な予感が胸を去来するのだった。


***


その頃――


二頭の獣は、延々と爪と牙の応酬を続けていた。


俺は遠くの氷柱の方を見る。


まだ崩れる様子はない。


……さすが、魔戦部とヴィオラとカレンだな。


あのミアとセラの猛攻を凌いでいるとは。


きっと、とてつもない血みどろの戦場が繰り広げられているのだろう。


あの二人が落とすまでは、ここは譲れない。


そんな悲壮な思いの俺の周囲では、敷物に腰を下ろして、モービー片手にダブルスを食う冒険者連中。


狸来奈こと隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)が声を張り上げた。


「それじゃあ、キメ技の予想いくぞ。

ジャガー顎、ジャガー爪、狼は爪……からの喉笛。

はい、もひとつジャガー爪。

狼、もっと頑張んないとさー!!」


……舐めやがって。


向かい合う日村が、楽しそうに言葉をかけてきた。


「ギャラリーも分かってるじゃねえか。

ジャガーこそが最強のハンター。

群れでの狩りを得意とする狼は分が悪いぜ」


やれやれと、小さく息を吐いた。


「俺たちは魔法使いだぜ、動物博士。

そんな常識が通用するかどうか――」


言い終わる前に、右肩を抉り取られていた。


鮮血が飛ぶ。

ギャラリーが沸く。


振り返ると、血をブッと吐き出す日村。


「常識が何だって?」


歪めた口元からは、赤に染まった凶悪な犬歯が覗いていた。


速い。


まだこれだけの動きを隠していたとはな。


得意げな日村に、麗良のパーティメンバーの明日香から注意が飛ぶ。


「おじさーん、お食事中のちびっ子もいるんだからさー。

やるなら血を出さないようにやれって、魔王からクレームきてるよ!!」


すかさず日村の文句が飛ぶ。


「ちゃんとモザイク入れろって、プロデューサーに言っとけよなー」


そして、俺を見てニヤリと笑った。


「分かっただろ。

まあ、お前も頑張った。

そろそろ白旗あげろよ……こいつはゲームだろ?」


確かに、調子に乗るだけはある力だ。


俺は杏子をちらりと見る。


小さなファイティングポーズが返ってきた。


なら大丈夫かな。


「そうだな、ゲームだから盛り上げていこうじゃないか」


魔力を高めていく。


日村の目がピクリと動いていた。


精霊の完凸特典、人狼化。


こいつは、単なる肉体変質魔法ではない。


全ステータス+9,999。


そして、そのデタラメなステータス値の能力を完全に引き出す魔力制御。


ジャガーが動く。

常人の胴体速度では追いきれない速度で牙が迫る。


だが、その速度を上回り土魔法の礫を展開。

風魔法でマシンガンのように撃ち出す。


全盛期は一分間に三千発。

最近はあまり使っていないが、この状態なら近いところまで行くだろう。


日村は防御にステータスを全振りし、ひたすら耐えていた。


由利衣の防御結界は、とうに消し飛んでいるだろうに、ミンチにならないのはさすがだ。

ミンチになってもらっても困るのだが。


礫の弾丸をひとしきり浴びせ、次に炎弾を放つ。


日村は、相殺はできないと悟ったか回避の選択肢を取る。


――それでいい。


魔力と五感を研ぎ澄ませる。


やつが避けた先へ、一気に距離を詰める。


肉体変質魔法をさらに高めた。


指先の凶悪な爪が、さらに太く長く伸びる。


「ちゃんとモザイク入れとけよ!!」


そう叫んで両手を振るう。

日村の体に袈裟掛けに二連叩き込んだ。


「佐伯くん、やっぱやるじゃん!!」


杏子のスカッとした声。


家庭の問題を持ち込まれてもな……。


日村はガクリと膝をつき、そのまま仰向けに倒れた。


荒い息で途切れ途切れに。


「ちくしょう……完凸……

ヤバすぎじゃねえか」


そこに、杏子の絶叫が響く。


「佐伯くんっ!!

そいつ、まだ息があるよ!!」


――おい。


半ば呆れながら日村を見下ろす。


タフなやつで良かったが。


「動けないうちに、もう少しやっとくかな」


こいつの回復能力は侮れないのだ。


ゆっくり近づいていく。


だんだんと俺の目線が低くなっていく。


……くそ。


目の前の日村は、ヨロヨロと膝をつくと、嬉しそうに俺の顔を覗き込んだ。


「おっ、ボウズ。

どこから来たんだ? クソ生意気な顔だなおい」


俺は完凸特典の副作用で、魔法使いガチャ当選時の小学生の姿へ戻っていた。


***


少しだけ時間が戻る。


梨々花は、人狼が放つ攻撃魔法に釘付けになっていた。


――化け物だってことは知ってはいたけど。


四大属性の下位の魔法で、あの速度と威力。

しかも特別な武具もなく。


セトのウアスを手に入れて浮かれていた、自分の底の浅さを恥じるばかりだ。


「やはり、魔法使いは奥が深いわ……」


切れ長の目が細められる。


一方の来奈は。


グレイスたちの戦いが終わって画面を切り替えたところに、狼の二連撃。


口元に運びかけていた芋の煮転がしを、思わず取り落とした。


「――すっ……げ」


一言だけ絞り出すのが精一杯。


星の魔眼でも追うのがやっと。

あんな魔法使いがいるなんて。


ぶるっと震えた。


来奈のスマホを覗き込んでいた由利衣も絶句。


そして、三人の目は日村に近づく小学生を追う。


――小学生?


来奈が、バッと由利衣に振り向く。


「ダメじゃん!!

教官、ガキンチョになってるしっ!!」


由利衣も動揺を隠せない。


「だ……大丈夫。

麗良さんもお師さまもいるから。

ほら、蝗とか!! 呪殺とか!! 寄生植物とかっ!!」


「それはさすがにまずいでしょ」


梨々花はそう言うと、スマホの通話ボタンをタップ。


「……そちらの状況は?

はい、いま先生大ピンチなので。

確認お願いします」


通話終了。


「頼んだわよ……」


梨々花はぽつりと呟き、スマホを戦場の映像に切り替える。


来奈と由利衣は、顔を見合わせるだけだった。


***


山本先生に向かい合うのは、ロイとステラ。


全身を鋼鉄と化したステラが耐え、その背からロイが銃弾を放つ。


その銃弾はことごとく撃ち落とされ、二人はレーザーのような矢の嵐にさらされていた。


ロイが悲痛な声を漏らす。


「さすがじゃん。

なあ、もう少し近づけないのかよ」


矢面に立つステラは「無茶言わないでよ」の一言。


しかし、このままでは埒があかない。


踏み出す覚悟を決めたそのとき。


矢がピタリと止んだ。


ロイが勢いづく。


「なあ、チャンスなんじゃね?」


「逃げるわよ」


ステラの声に、ロイは訝し気な顔になる。


そっと背中越しに山本先生の方を伺うと……。


スカジを大弓モードに変形させて、ギリギリと矢を引き絞る姿。

竜魔法が全開に乗せられていた。


慌てて散開。


いままで二人がいた空間を抉るように矢は進む。


その方向は氷柱だった。


***


俺は日村に頭をグシャグシャと撫でられた。


日村は氷柱をちらりと見る。


「まあ、ボウズには後でジュースでもくれてやるからよ。

そこで見てな」


そう言って、腰の双剣を抜き放つ。


そこに麗良が踊りかかってきたが、ジャガーの動きの方が圧倒的に早い。


あっと言う間に氷柱へと迫る。


勢いよく跳躍。


炎と雷の剣が唸りを上げたとき。

遠くの氷柱が崩れ落ちた。


「え?」


日村は後方を振り返る。


そして、目の前の氷柱に後頭部から激突した。


***


「山本先生!!

もう降参ですって!!」


鷲尾の悲鳴が響く。


氷柱はとうに砕け散っているのに、矢の射出が止まらないのだ。


「鷲尾!!

そこのウサ耳、寄越さんかい!!」


怒声を浴びせながら矢を引き絞る。


モヒカンのウサ耳が鷲尾にすがりついた。


「なあ、あのイカレ戦闘民族、知り合いなんか?

なんとかしてえな」


他の二体も懇願。


その後、セラに羽交い絞めにされても山本先生の興奮は収まらない。


一方、ヴィオラとミアは当初の目的を忘れて延々と撃ち合いを続けるのだった。

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