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終末のSSR ―魔法使いジャパン、ただいまダンジョン攻略中!―  作者: 白猫商工会
第08章

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第282話 肉体変質魔法

「日村……」


俺の視線の先には、冒険者がおよそ二十名。


いや、もっと数はいるがそれは俺たちの軍勢と交戦していた。


さすが山本大将軍が鍛え上げた軍だけあって、冒険者にも食らいついている。


しかし、本陣にまで攻め込まれては……。


そんな空気を一切読まず、明日香が切り込んできた。


「ねえ、おじさんさー。

どっちなのよ。

それとも魔王? 犯罪は容認できないわね」


「もう十八だから大丈夫じゃない?」


みちるのフォローになっていないフォローの声。


俺はそんな二人に鋭い視線を向けた。


「そんなことを言っている場合じゃないぞ、敵襲だ!!」


??


二人は頭に疑問符を浮かべる。

いや、珠緒もだ。


そういえば、こいつらは日村側だったな。


その日村は再度声を飛ばしてきた。


「おい、何で柱破壊しないで飯作ってるんだ?」


その疑問には俺も同意だった。


みちると明日香は顔を見合わせた。


「何でって言われても……ねえ?」


そして、明日香は日村へと声をかけた。


「とりあえず、カロリーが必要なのよ。

だからモフォンゴを作るしかなかった……わかる?」


日村は杏子の顔を見るが、小さく首を横に振られた。


「そうか、分かった。

で、こっからどうするんだ。

攻撃に加わるんだろう?」


どうやら問答を諦めたようだ。

雑なこいつらしい。


麗良パーティの三人は、「うーん」と唸っている。


戦意満々の日村とは対照的に、こっちはもうそんなノリでもないようだ。


俺は日村へと声をかけた。


「なあ、続けるのは構わないけどさ。

国盗りしたらどうするつもりだ?」


世界樹をいただく、なんて言い出したらどうなるか。


俺は、エスコヴィッチを挟んだフェスティバルを儚げに流し込むリズを気にしていた。


「国盗りって、そりゃあなあ……」


日村はニヤニヤとした顔。


そこに杏子が割り込む。


「佐伯くん。

どっちが勝っても恨みっこなしでしょ。

まあ、こっちは人数が多いからいろいろ経費もかかってるし。

回収はしないとね」


そう言って、帝都の方向をちらりと見る。


「これが終わったら、一気に攻めるから。

トカゲ帝国も、もうたいした軍勢残ってないし」


そう言って、戦斧を氷柱へ向けてブンと振り下ろす。


爆炎の魔法が飛んだ。


それを俺は村正の斬撃を飛ばして迎撃。

空中で轟音とともに炎が爆ぜた。


エプロンを外し、村正を構え直す。


仲間へと言葉をかけた。


「リズは、柱の防衛に専念してくれ。

麗良は俺と一緒に来い」


「聞いた、みちる。一緒に来いだって」


女子トークには構わず、俺は日村たちへと駆ける。


走りながら残像の刃を実体化させていく。


麗良も雷切を抜いて動いた。


二人で日村に斬りかかる。


「二人の刀が鮮やかに入りましたー」


みちるの構えるスマホのシャッター音が響く。


俺は苦い顔で麗良に声をかけた。


「お前の仲間、だいぶおかしいぞ」


「えー? そうですか?」


日村は腰の双剣を抜いて俺たちの斬撃を防いだ。


炎の剣と雷の剣が光る。


咄嗟に跳び退くと、炎が迫ってきた。

アクアブレスで打ち消す。


麗良は刀身からバチバチと魔力を噴出し、雷を斬る。


こうして日村と真正面からやり合うのは高校以来。

やはり、たいした戦闘民族だ。


腰を落とし、村正を構える。


そんな俺に楽しげな声がかかった。


「そうこなくちゃな。

ここを突破すりゃ、イナンナの世界はいただきだ」


……やはり、そうきたか。


ここの利権を精霊に認めさせるのが目的。

押さえられてしまえば――


「世界樹は、どうするんだ?」


「世界樹か……。

そんなものは取った後だろ。

良いアイデアも出てくるんじゃねえの」


俺は強く踏み込み、村正の斬撃を浴びせかける。


「麗良は、他の冒険者を抑えてくれ」


そう言って、五本の残像の刃を麗良の護衛として付ける。


麗良はこくりと頷くと、冒険者パーティと斬り結んでいく。


リズは――


巨大テッポウウリを氷柱の前に出現させていた。

果実内の粘液の圧力で、種を弾丸のように射出する植物だ。


近寄る冒険者に、粘液と種を浴びせかける。

たちまち阿鼻叫喚。


氷柱の守りはとりあえず凌げそうだが。

だが最大の懸念があった。


「おい、よそ見かよ」


日村が剣を突き入れてくる。


「お前らは大勢で仕掛けてるんだからな。

いろいろ気になるだろうが」


文句を言いながら村正を振るうと、返ってきた言葉は「それも戦だ」の一言だけ。


日村への攻撃の手を緩めずに、後方へと気を配る。


冒険者が数人、リズへと向かっていた。


そう、最大のウィークポイントは、リズ自身は戦闘能力が無いことなのだ。


村正の残像の刃を三本付けているが、足りそうにない。


麗良も、雪崩込んでくる軍勢と冒険者の相手で精一杯。


どうする?


切り札がないわけではない。

俺のドラゴンスレイヤーに、リズの寄生植物。


だが、対人戦では明らかに過剰だ。


こうなったら、日村をとっとと沈黙させるしかない。


村正に魔力を込める。


そして、幻術を展開。


日村が明後日の方向に剣を向けた隙を突いて、渾身の峰打ちを上段から振り下ろした。


だが、躱された。

そればかりではなく、俺の腹に剣の柄をねじり込んできた。


「お前、面白い技増やしてるな。

……にしても、硬ぇやつだ」


防御結界とオリハルコン装備なのだ。

だが、ダメージは通った。


思わず、顔をしかめて腹を押さえる。


それを見逃すほど日村は甘くない。


襲いくる双剣を、村正の刀身と残像の刃で防ぐ。

リズに増援したいが、このままでは……。


視界の端では、リズへと迫る冒険者。


そこに、来奈の拳が光り、冒険者を吹き飛ばした。


――いや、違う。


「まったく。

ワシは傍観のつもりだったんだがな」


来奈に化けた隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)だ。

うちの聖王も守ってくれている。


そして。


「麗良!!」


珠緒とみちる、明日香の三人が麗良のサポートに入る。


珠緒は杏子へ向かって声を放った。


「ごめーん、杏子さん。

やっぱ仲間だからさー」


杏子は、少しだけ口元を上げて頷く。


「そうすると思った。

好きにしなさい」


といいつ、珠緒に容赦のない戦斧の一撃。

珠緒は小型の盾でそれを防ぐ。


「グリコはどうすんのー?」


明日香の呼びかけに、芹那は目を釣り上げた。


「誰がグリコよ!! しばき倒すわよ」


そして、大きく息をつく。


「あんたたちはあんたたちで、せいぜい頑張りなさい」


そう言いながら、リズへと歩み寄った。


「私は、厄災の魔女に付くわ。

リズさん、カロリー足りてる?」


「甘いのを……ガツンと」


そう言って、儚げにオーダー用紙を渡す。


芹那は声を張り上げた。


「コキート・マハレテ・ダッカヌー!!

アロス・コン・レッチェ、アビチュエラス・コン・ドゥルセ。

テンブレケからのブニュエロスにギザダ一丁、よろこんで!!」


そして、ココナッツミルクをかき混ぜ始めた。


そんな芹那に、冒険者の一人が襲いかかる。


だが。


目にも止まらぬ早さで腰の水龍鞭を掴むと、水の刃が低い唸りを上げて冒険者を返り討ちにした。


「邪魔するんじゃないわよ、忙しいんだから。

ていうか、あんたも手伝いなさい」


倒した冒険者を手下にしながら、カロリー供給を続ける。


狸来奈はカッカッと、大笑いで拳を振るっていた。


日村は楽しそうに喉を鳴らす。


「あの芹那がな……

なんだろうな、お前らの冒険はいつも普通じゃねえのな」


俺もつられて口元を緩めた。


「だいぶ俺もイカれた状況には慣れてきた。

それが日本SSRパーティだ。

映えていかないとな」


日村はニヤリと笑う。


「そうか。

そんじゃあ、俺も映えるかな。

お前なら死なねえだろ」


――八雷神か?


いや、日村が思わせぶりなことを言うからには、既存のネタを(こす)るとは思えない。


そういや、こいつが◯国から分捕ったお宝は何だったか……。


「ジャガーのトーテム」


俺の言葉に、日村は嬉しそうな声をかけてきた。


「いっぺん試したくてよ。

飽きたら売ってやってもいいんだけどな。

一千億Gで」


こいつ。

小学生が三秒で考えたような金額を。


そう言いながら日村が取り出したのは、十五センチほどの木の棒。

その名の通り、先端にジャガーの像が掘られている。


秘めたる力は、身体強化系魔法。


その中でも特異中の特異、肉体変質。


身体強化系魔法はRの俺でも使えるが、肉体変質ともなると上位も上位。

ほぼ伝説の域だ。


日村の体が、ゆっくり変化していく。

四肢が太くなり、顔が猫科の大型獣へと変わり、全身を黒い斑点のある黄金色の毛が覆った。


ジャガーマン――。


俺は、ゴクリと喉を鳴らした。


「日村……お前、良いのゲットしたな。

後で俺にも変身を――」


「一回、五十万Gな」


……足元見やがって。


村正をブンッと振るって言葉をかけた。


「そう言うなよ。

じゃあ、俺が勝ったらタダな」


なにが「じゃあ」なのかは分からない。


日村は、「まあ、勝てるもんならな」と口元を歪ませる。

鋭い犬歯が覗いた。


そして、日村の姿が視界から消えた。


と思う間もなく。


俺の体に五連撃。

反応する間も無かった。


由利衣の防御結界が突き破られる。

オリハルコン装備の防御力を持ってしても、一撃一撃が重い。


たまらず膝をついた。


視線を地面に落とす俺に、日村の声。


「おい、生きてるよな。

コンテンツ的にアレなのは勘弁だからよ」


そうは言いつつも、楽しげだ。


……これは、ヤバいどころじゃないな。


俺はふらつきながら立ち上がる。


なんとか声を絞り出した。


「やるな、日村。

これは俺も本気出さないとな」


そう言って、上着を投げ捨てた。


シャツのボタンを外していく。


「その魔法、いいじゃないか。

小学生に戻るデメリットもないしさ。

……こっちは気軽に披露できないんだ」


俺の体が膨らんでいく。


指先には凶悪な鋭い爪が生え、口には牙。

全身を銀色の毛が覆っていく。


完凸特典、人狼化。

Rの俺が肉体変質魔法を使える、唯一の手段だ。


日村は腕組みして俺の変身を眺めている。


「……待ってくれるんだな」


「お前も待ってたじゃねえか」


お互い、ニヤリと笑う。


そして、二頭の獣の激突が始まるのだった。


***


来奈は七つ目の弁当をモリモリ咀嚼しながら、タブレットの画面を見つめる。


「なにこれ、カッケー!!

おじさん二人の変身とか、超熱いじゃん!!」


政臣は大興奮で緊急特番を組んでいた。

パソコンのキーボードを力任せに叩き、テロップを打ち込んでいく。


木暮も「ほー」と感心の声。


「あのレベルの身体強化魔法を使えるのは、SRでも世界に数人いるかどうかだぜ。

日村も良いもの手に入れやがったな」


来奈はその言葉に食いついた。


「身体強化魔法極めたら、あたしも変身できるの!?」


木暮は、顎に手を置いて考える。


「一口に身体強化魔法つっても、応用範囲が広いからな。

まあでも星の魔眼だからな……

可能性は高いだろ」


来奈は、パァァァッと顔を上気させた。


モリモリと咀嚼しながら、瞳が輝く。


「絶対、獣の加護手に入れるから。

竜魔法と身体強化魔法。

あたしこれだけでいいから、ガンッガン伸ばしてくし」


梨々花はスマホを操作しながら声をかける。


「まあ、来奈は分かりやすいのがいいわね。

それにしても、なかなか映える対決だわ。

日村さんも心得てるじゃないの」


そして、ぽつりと呟く。


「あれだけの戦闘能力……

必ず獣の加護を見つけないといけないわ」


きっと、世界中の魔法使いが飛びつくに違いない。

熱を投下し続けるのだ。


次も、その次もだ。


梨々花は、帝都の方向を見た。

大樹が天を支えるようにそびえている。


「世界樹……あれも、いつかきっと」


ダンジョンの謎。

そこには何があるというのか。


アイテム袋から、世界樹の杖と冠を取り出す。


杖は第四層の世界樹・イシェドの麓にある遺跡で発見。


戦闘ではあまり出番がない。

リズの繰り出す植物操作魔法と比べてスケールが劣るため、わざわざ使用するシーンが少ないというのが正直なところ。


冠は、悪魔の国チャレンジの凱旋式典で出てきたもの。


悪魔公国に正式に魔王として認められ、司教が被せてきたのだが。


取ってつけたようなイベントの、取ってつけたようなアイテム。

単なる飾り物だと油断していた。


もしかすると、杖も冠も偶然出てきたものではなく、精霊の仕込みだったのかもしれない。


第四層の毒沼を、リズが突破してイシェドへ辿り着いたときから始まっていたのだ。


いずれこのイナンナの世界に挑戦するための布石。


……まったく、油断できない。


杖はミック、冠はプックという神器だというが。


いまのところ、そこまで大きな力があるようにも見えない。


梨々花は小さく呟いた。


「まあ、いまは分からないことを気にしても仕方ないわね」


けれども、分からないままで終わる気はない。


どうやら、ダンジョンはただ下層に潜っていけば制覇というものでもなさそうだ。


……単なる勘でしかないけれど。


小さく息をついて、冠と杖をアイテム袋に戻す。


視線は再びスマホへ。


そこに映るのは、二つの映像。


ひとつは、人狼とジャガーマンの対峙。


もう一つは、ウサ耳を追うジャージ姿。


「大将軍、急ぐのよ」


魔戦部が守る氷柱まで、あと僅かの距離に迫っていた。


人狼と大将軍。

二人のR魔法使いが、戦の帰趨を決しようとしていた。

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