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終末のSSR ―魔法使いジャパン、ただいまダンジョン攻略中!―  作者: 白猫商工会
第08章

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第279話 大将軍

敵陣の三本の柱。


ひとつは冒険部メンバーが攻略中。

もう一つは、中国SSR。


残りの一つ。

そちらへ向けてまっしぐらに駆ける大女。


ヴァジュラを振うたびに、雷が敵陣を穿つ。


そのグレイスの口が勝手に開いた。


「お前、あまり考えなしに前に出るんじゃないですー」


憑依している気狐(きこ)だ。


グレイスは、「うるさいね」の一言だけ。


そのグレイスに四方八方から槍が突き出された。


嬉しそうな顔でさらに踏み込む。


一突きを身体を捻って躱し、もう一突きをヴァジュラで受けて雷を叩き込む。


しかし、全ては捌ききれない。

加えて矢の嵐。


飛来する攻撃のほとんどは、由利衣の防御結界と狸が化けた盾に阻まれていた。

隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)が修行のためとグレイスに付けている眷属の一体だ。


もう一体は、今回は撮影係としてカメラを構えている。


再びグレイスの口が勝手に開いた。


「お前、何回死んだら気が済むですか。

……まったく」


そう言うと、グレイスの体が青白い炎に包まれた。


その炎は放射状に広がり、敵兵を包み込む。


グレイスは、チッと軽い舌打ち。


「余計なことするんじゃないよ。

……一気に行くよ、アミル!!」


そう言ってアミルの方を見る。


夜叉の面を被り、竜巻のような剣捌きで敵陣に斬り込んでいた。


夜叉の面は、モンスターの力を降ろす術具。

その対価は精神エネルギー。

とりわけストレスを好物とする。


アミルの奮闘ぶりに、グレイスは嬉しげな声。


「なんだ、いいストレス溜まってるじゃないか!!」


気狐はツッコミを入れる気にもならなかった。


そんなグレイスに、穏やかな声がかかる。


「さすが、愚者のSSR。

ド根性ファイティングスタイルですねー」


山本大将軍だ。


馬上から弓のスカジを引き絞り、一射。

竜魔法アクアブレスが乗った矢が、迫りくる敵兵を断ち割る。


先日のリズとの食欲対決で、スタッフとして参加した全員に、バクナワはアクアブレスを授けていた。


グレイスはいつものごとく要らないと言ったが、アミルがなんとか説得。


竜の加護を持たない二人と麗良には、バクナワは「特別だぞ」と言って加護まで与えてくれていた。

羊獣人に課された精霊の試練を乗り越え、真竜に認められたということだ。


そのアミルは、さっそく竜魔法を展開。

刃を振るうたびに、水弾が敵兵を吹き飛ばしていく。


これには大将軍も感心しきり。


ベテラン中のベテラン。

扱いの難しい竜魔法を、もう自分のものにしていた。


大軍を率いて、敵陣を押し上げながら氷柱を目指す。


グレイスは、放っておくと何をしでかすか分からないので大将軍に預けられた格好だ。


当のグレイスは、山本先生の人当たりの良い見た目に、すっかり油断していた。


だが、スカジから放たれた一撃の威力に口笛を鳴らす。


「へえ、やるじゃん」


ニヤリと笑い、ヴァジュラを握る手に力を込める。


再び敵陣へと突っ込んでいく戦闘民族を、山本先生は頼もしげな眼差しで見ていた。


そこに――


「お姉さん、久しぶりー」


声をかけてきた敵側のパーティに、山本先生は少しだけ考えていたが。


「あらー」


と、すぐに思い出して笑みを送った。


そこにいたのは、昨年末の第四層攻略時、妖樹トレントに襲われていたところを救出した、若い男女の二人。


そして、彼らの国の救出チームのリーダーだった男。


リーダーの男は、山本先生に軽く会釈。


「あれから冒険部チャンネル応援してますよ。

おかげで加護も取れて、こいつらも強くなって」


にこにこと、若い二人を見る。


周囲は合戦中でグレイスとアミルは暴れ回っているが、ここだけ世間話が繰り広げられている。


若い女性が嬉しそうに声をかけた。


「今回もたくさん稼げたし、◯国のお宝まで。

Rの私がレジェンド装備なんて、夢みたい!!

やっぱり来て良かった!!」


そう言って、腰のショートソードに手を添えた。


山本先生は、


「すっかり元気になられて、良かったですね。

いまは第七層に?」


と声をかけると、リーダーの男は笑って答えた。


「いやいや、こいつらはまだ第五層ですけどね。

けど、日本SSRの企画だから、どうしても連れてけって聞かなくて。

まあ、この調子なら第七層もすぐですよ」


山本先生は穏やかに頷く。


――Rでも強くなって、夢を掴む。


いや、Nだって。

すべての魔法使いで、熱を回すのだ。


そう、あの人は言った。


その通りだ――


そんな感慨にふける山本先生へ、 若い男がキョロキョロと周囲を見渡してから口を開く。


「大将はいないんだ……

お姉さん、そろそろゴール決めなよ。

俺、応援してるから」


若い女性が「ちょっと……」と肘で突く。


「なんだよ、お前も気になってるくせに。

さえき亭があるのも、ジャージネキのおかげじゃん。

だいたい、あのおじさんもさー……」


そんなやり取りに、リーダーの男が強引に割って入った。


「いまは戦だからな!!

それじゃあ、またっ!!」


若い男を引っ張って戦場へと消えていく。


残されたのは山本先生。


その姿に、グレイスが大声で呼びかけた。


「おい、大将軍。早く行こうぜ。

この先にいいリスク来てるぞ」


山本先生は、静かにグレイスへと馬を進める。


そして、スカジを構えると敵陣へと立て続けに矢を放った。


身に付けている手袋と、スカジの合わせ技で貫通十段を矢に付与。

加えて竜魔法。


防御結界も貫く風の刃が、敵陣を抉る。


リザードマンや獣人たちは光の粒と化し、冒険者たちは流れ矢に当たってはたまらないと、蜘蛛の子を散らすように逃げて行った。


グレイスたちの目の前が開けた。


馬上でスッと弓を降ろす山本先生は、静かな言葉を投げかける。


「グレイスさんの熱……って、なんですか」


「あ?」


訝しげな顔をするグレイスの視線の先には、遠い目をした山本先生。


「あの人は言ってくれたんです。

定食屋のカウンターには美鈴抽(ミレーヌ)と子供たちの笑顔があって、俺は冒険者の腹を満たすために中華鍋を振る。

そんなささやかなダンジョンの日常を一緒に作っていこう……って」


何を聞かされているのか分からないグレイスは、腰のチョークバッグからタバコを取り出した。


そこに。


「タバコはよくありませんよ」


山本先生の声。


グレイスは、それを無視して火をつけた。


紫煙を吐き出し、一言。


「……で。

その定食屋がどうしたって?」


「私にとっての熱は、最強のR魔法使い夫婦のダンジョン制覇……ゴールを決めること。

ここにも、私たちの日常を作るんです。

それが、あの日精霊のもとで交わした誓い」


もはや訂正不能な記憶と誓いと未来予想図が構築されていた。


そして、遠くの氷柱を見つめて静かに馬を進める。


「行きましょう。

さえき亭イナンナ店のために。

二人は還り、また巡りあう……

それがエターナルディスティニーだから」


馬上の山本先生の背を見つめるグレイスの口元には、先端から根元まで灰になったタバコ。

それがダンジョンの風に散った。


携帯灰皿に吸い殻を捻り込みながら一言。


「おい、今の分かったのかよ?」


「お前よりおかしいのがいるとは思わなかったですー」


一人相談をしながら、毒気を抜かれたようにグレイスは後をついて行くのだった。


***


先ほど断ち割った敵の軍勢をまっすぐに進む。

両脇から再度迫る兵たちは、魔王軍の精兵が食い止めていた。


氷柱へと迫るのは、グレイスとアミル。

そして山本先生の三人。


このまま無人の野を進んで破壊……。


とはいかないのは、グレイスの表情が物語っていた。


嬉しそうにヴァジュラをぐるりと回す。


そこにいたのはウサ耳のアウトロー集団。

魔戦部が担いでいる連中だ。


身の丈三メートルを超える、筋骨隆々のウサ耳。

ギスギスに痩せ、顔に大きな傷のあるウサ耳。

半裸で全身入れ墨のウサ耳。

モヒカンにマスク姿のウサ耳。

謎の鉄仮面を被ったウサ耳。

etc。


そいつらが、各々獲物を手に立ちはだかる。


そのうちの一体、モヒカンのウサ耳が、手にした釘バットを振り回しながら気勢を上げた。

素肌に鋲付きの革ジャン。厚い胸板。


「なんや、姉ちゃん二人とオッサン一人かい!!

魔王軍も人手不足ちゃうか!?」


仲間へと振り返って笑うと、さざ波のように伝播した。


そして、釘バットを軽くスイング。


「ケガせんうちに降伏せえ。

そんで食料ももろとこか」


山本先生は、それには構わずに五十メートルの氷柱を見上げる。


「おい!!

聞いとんのか、そこのジャージ!!」


モヒカンの怒声が響く。


しかし、山本先生はちらりとも見ずにスカジを大弓モードに変形。


ズンと地面に弓が置かれた。


「こっちは親切で言うとんねん。

さっさと降伏せんと――」


ギリギリと弓を引き絞り、ウインドブレスを乗せた矢を放った。


氷柱は、上から三分の一が砕け散る。


山本先生は静かに、


「威力不足か……」


と、ぽつり。


――どのへんが?


ざわめくウサ耳たち。


そこにグレイスの大声。


「おい、喚いてるだけで来ないのかよ。

なら、こっちから行くぞ」


一切話を聞かずに躍りかかる戦闘民族。


ヴァジュラの雷がウサ耳を襲う。

だが雷を避け、グレイスへと一斉に武器を向けてきた。


「……へえ」


グレイスの口元が吊り上がる。


巨躯のウサ耳の持つ棒が、グレイスの脳天をめがけて叩き込まれる。

アミルが回転しながら跳び、曲刀で弾く。


続けざまに竜魔法を展開してアクアブレスの水弾を散らす。


威力よりも手数。

水弾を撃ち込まれたウサ耳たちが吹き飛ばされた。


グレイスはその機を逃さずに、モヒカンに切っ先を叩き込む。

それは釘バットで防がれた。


再び、ウサ耳たちの攻撃の嵐。

狸が変化した盾で防ぎながら、突き出される剣や槍を躱す。


「まだまだだねぇ。

お前らのリスク、全然足りてないよ!!」


そのとき。


グレイスの背筋にぞわりとする気配。

口元がさらに吊り上がった。


モヒカンが叫ぶ。


「和尚、合わせていくで!!」


和尚と呼ばれたのは、全身に入れ墨が入った(いわお)のような体躯のスキンヘッドのウサ耳。


拳を螺旋状に回転させグレイスに放つ。


――デカい。


グレイスの目には、拳の大きさが数メートルにも見えた。


いや、拳圧が巨大に感じさせているのだ。


一撃でも喰らえば全身の骨が砕け散る。

そんな魔力の乗った一撃。


愚者の魔眼を輝かせながら、吸い込まれるように拳へと向かっていく。


その口が勝手に開いた。


「お前、イカれてるんですかー!!」


カメラを構える狸の「今さら……」の声をマイクが拾う。


グレイスの愚者の魔眼が、リスクを捉える。


いいのが来ているが。

ここからどうする。


上……は、鉤爪を装備した鉄仮面のウサ耳がこちらを狙っている。


しゃがむ……は、モヒカンの釘バットフルスイングの餌食。


そして正面は、あの拳。


――さて、どれが一番リスクが高いのか。


後退の選択肢は、そもそも存在していなかった。


踏み込むグレイスに襲いかかる三体のウサ耳。


拳が腹を貫き、上半身と下半身が分離。

鈎爪が宙を舞う上半身をズタズタに引き裂く。

釘バットが残された肉塊を吹き飛ばす。


――その前に。


鉄仮面に矢がぶち込まれた。

防いだ爪が砕け散り、仮面に矢が突き刺さる。


もんどりうって後方へと飛ぶ鉄仮面。


狸の盾が、和尚の拳を受け流す。

グレイスは側面に回り、ヴァジュラを叩き込んだ。


「へえ、タフじゃん」


雷を受けても消滅しない。


さらに追撃をかけようとしたところ、竜魔法を乗せた矢が飛来。


「和尚!!」


モヒカンが和尚を庇って釘バットで受けると、ウインドブレスが二体をまとめて引き裂きながら吹き飛ばした。


グレイスが振り返ると……。


弓を構えた冷徹なハンターの目をした山本先生。


そのハンターは、黙々と矢をウサ耳集団に射掛け続ける。


自動帰還の“疾風の矢”が撃っては戻り、撃っては戻り……。


一体、また一体と正確にウサ耳を刈り取り、光の粒が舞う。


顔に大きな傷のあるウサ耳が、ナイフの刃を舐めた。


「上等じゃねえか……」


そう嘯くとグレイスに飛びかかった。

それを嬉しそうな顔で迎え撃つ大女。


だが、ウサ耳は空中で頭を飛ばされて光の粒と化した。


『Now, it’s gacha time. Pull a great one!』


精霊サウンドエフェクトが響き、グレイスの前に小型のガチャ機が現れた。


グレイスの口が勝手に開いた。


「変身しないですか?」


「お前、分かって言ってんだろ」


グレイスの目に映るのは、元ウサ耳たちの光の粒。


チョークバッグからタバコを取り出して咥える。


「何なんだよ、あのイカレ……」


そこまで言ったところで、グレイスの肩に手が置かれた。


……。


そっと振り返ると、山本先生。


身長はグレイスの胸あたり。

少しだけ背伸びをして手を伸ばしていた。


山本先生は、ちらりとガチャ機を見る。


「何だよ、もう大将軍が倒しちまったじゃないか。

だいたい、私の獲物を……」


言いかけたグレイスと、大将軍の目が合う。


グレイスのこめかみに一筋の汗が落ちた。


タバコに火を着けようと、右手人差し指に火の魔力を巡らせる。


山本先生は、そっとグレイスの口元からタバコを没収。


「やめとき。魔力に良うないで」


ジャージのポケットにねじり込むと、グレイスの肩のフェレットを撫で始めた。


そして、再びガチャ機に視線を向ける。


「お前、逆らわない方がいいですー」


気狐の言葉に、グレイスは軽く顎を引く。

ハンドルに手をかけると、大将軍の静かな声が聞こえた。


「バッタいっとこか」


「そんなの分かるかよ」


グレイスはフンッと鼻を鳴らしてガチャを回す。


現れたのは、緑のカプセル。


『Fool――No.1 Hopper Form』


肩のフェレットが、昆虫の羽根へと変形する。

鮮やかなメタリックグリーンのマスクと強化服へと変身した。


次に大将軍は、氷柱へとクイッと顎を向ける。


「ぶちかましていこか」


「おい、何で分かったんだよ……

じゃねぇ、何で私が――」


再び視線が合う。


――三十秒後。


大将軍の絶叫が轟いた。


「ガンガンブッ込んでいかんかい!!

魔王軍はイチに根性、ニにド根性やで!!」


黙って氷柱を砕くグレイス。


夜叉の面が取れたアミルは、その様子を腕組みしながら眺めていた。


「これが日本の……」


深く、深く感じ入ったように頷く。


こうして。


ジャージネキ大将軍の謎の威圧は、コンテンツを震撼させる。


敵陣の氷柱の一つも砕け散り、戦場はさらに過熱していくのだった。

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