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終末のSSR ―魔法使いジャパン、ただいまダンジョン攻略中!―  作者: 白猫商工会
第08章

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第278話 世界樹の魔法

大軍を率いる麗良は複雑な顔だった。


自軍の一角が落ちたのは痛いが、それをやってのけたのはパーティメンバーなのだから。


スマートグラスの映像に、「うーん」と唸りながらも。


「みんなナイス」


思わず呟きが漏れるのも、仕方がなかった。


星上げを決意できたのは、皆の後押しあってこそ。

十年間苦楽を共にしてきた仲間なのだから。


そして、日村たちの動きは早い。

このまま次の氷柱へ向かうつもりだ。


スマートグラスの映像を切り替える。


中年R魔法使い集団と対峙する、冒険部メンバー。


魔戦部が守る氷柱の元でヴィオラと火花を散らすミア。


――そして。


セラの動き。


カレンの撮影する映像に切り替えたとき、麗良の網膜に飛び込んできたのは……。


セラはゆっくりと腰を落とし、右手と左膝を地面につく。

左手と右足は後方。


響き渡るノリノリの絶叫。


「着装!!」


熊耳の「ですわ!!」の声とともに、セラの体を召喚の魔力が包む。


そして、具現化した外骨格スーツに犬養が時空魔法を付与。


セラは腰を落とした体勢から、大きく飛翔。

空中で膝を抱え五回転すると、着地とともにポーズを決めた。


おおっ!! と、犬養と熊耳とカレンの歓声。


からの拍手。


セラは熊耳へと嬉しそうな声をかけた。


「さすが熊耳先生。

どうでしょう。

犬養さんが青柳一佐の“朧月”、カレンさんが城島二尉の“雪輝”、私がシンシア・イスルギ特務官の“桜華”。

“髑髏島作戦・壱号”を再現して、三位一体で決めていくというのは」


「何を言っているのかよく分かりませんけど、とにかくよろしくてよ!!」


コメント欄の盛り上がりも尋常ではない。


麗良の心に、戦闘中に何をやっているのかという思いと、これも熱なのかという思いが交差する。


そして。


「私も……四位一体で」


あとで熊耳にお願いしよう。


そう決意していた。


それはともかくとして。


麗良は守りの軍勢を指揮し、山本大将軍は攻めだ。


こちらの残る氷柱を守るのは、ティナとリズ。


そして日村たちは、二手に分かれた。


日村夫妻はティナ、珠緒たちはリズへ。


――どちらも危険。


麗良はスマートグラスを操作し、通話機能を選択した。


***


氷柱の一つでは、儚げな咀嚼が続いていた。


リズは大量の弁当を流し込んでいる。

もう残りは半分もない。


次の供給は、獣人たちにかかっていた。


そのための自動調理器である。

材料を入れてセットすれば、煮炊きや炒めものなどを行ってくれる。


一時間に八百食の提供が可能な業務用マシンが、二台火を吹いていた。


材料の下ごしらえを終えた聖王リウは、大きく息をつくと茶を淹れる。

それをテーブルにつく隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)に差し出した。

姿格好は来奈そっくりに化けている。


次にリウは獣人向けの食事の支度にかかる。

彼の配下もだ。


そこに、狸来奈の声がかかった。


「なかなか熱心だな」


リウは「まーな」と、さらりとした声。


「戦だのなんだのは、よく分からんが。

終わったら飯だ。

食わせるってのが、魔王軍が約束したことだからな」


野菜の皮を剥く手つきも慣れてきていた。


そこに、儚げな頷き。


「戦いの後はお腹が空きますからね。

これが終わったら今日は中華……」


そう言いながらも咀嚼を緩めない。


狸来奈は、「ふーん」と言いながらテーブルに置かれたタブレット端末を眺める。


「ずいぶん呑気なこと言っとるが。

もう取られとるじゃないか」


リズは気にした風でもない。


「柱はまだ二つありますから。

……そろそろ漲ってきましたし」


ちらりと向けた目線の先には、雷公鞭の雷で上部が砕けた柱。


女帝の魔眼が黄金に光ると、氷柱を守るように木が生まれた。


見る間に成長し、氷柱を遥かに追い越して百メートルにも達しようという堂々たる木に育つ。


狸来奈は、茶を一口啜る。


「たいしたものだな。

これが世界樹の魔法か」


リズの瞳に微かな光が宿った。


「世界樹の……魔法?」


そして、遥か帝都の方角を見た。

そこには天を貫く大樹。


今しがたリズが生み出した木すら、小枝のさらにその先端といった感じ。

サイズ感が桁違いだ。


世界樹フルップ――と、このイナンナの世界では呼ばれていた。


ダンジョンで確認された世界樹は、これで三本目。


第十一層のアアチュ・アナ。

第四層のイシェド。


第十一層まで到達し、アアチュ・アナの存在を確認したのはアメリカだけだが。

強力な障壁があり近づけないという。


リズ自身は目にしたことはなく、学会での噂話程度だ。

何しろ調査ができないのだから。


イシェドは、これを発見した日本、イタリア、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリアの六カ国のSSR共同管理。

といっても、リズに一任されていた。


発見時は損傷が激しく、現在は療養のため無闇な調査も探索も禁止している。

守護者の樹の竜に、許可を得ていない者は容赦なく排除しろと命じているのだ。


その世界樹の話を、なぜいま?


リズは狸来奈に目を向ける。

狸来奈はリズの視線には構わず茶を啜った。


もう一度、確認してみる。


「狸さん、世界樹の魔法とは?」


狸来奈は、黙ったまま湯呑みを回す。

その間、リズの儚げな咀嚼がしばし続いていた。


やがて、狸来奈はぽつりと言葉を落とす。


「真竜とも対等にやりあうとはな。

さすがはユグドラシルだ」


「狸さん、どういうことですか」


狸来奈は、口元を小生意気に吊り上げた。


「お前さん、自分のことが分かってないようだな。

女帝の魔眼に宿る精霊は、世界樹の護り手。

いまはユグドラシルの若木を育てているのよ」


――いまは?


リズは再び、世界樹フルップへと目をやる。


「あれも、女帝の魔眼が?」


狸来奈は小さく頷く。


咀嚼は一切緩めずに、リズは情報を整理する。


SSRに当選したときに変化した自分の体質。

摂取したカロリーを対価に魔法を顕現するもの。


……だと思っていたが。


どうやら、もう一段階あったようだ。


カロリーを世界樹へ注ぎ込み、その力の一部を顕現している。

これが、より正確な解釈のようだった。


では、その世界樹とは一体。


口内の食べ物を飲み下し、口を開きかけたリズに狸来奈の一言。


「そいつはお前さんが自分で見つけることだな」


先回りされてしまった。


リズは儚げに微笑む。


「そこまで言っておいて、意地悪ですね。

でも、いいですよ。

先のお楽しみですから」


カッカッと笑う小生意気な表情。


「教えてやったのはな、フルップを誰にも渡すなということだ。他の世界樹もな。

お前らはワシのビジネスパートナーだからな、アドバイスだ」


その言い方だと、現在確認されている三本とユグドラシルの計四本……以外にもあるのかもしれない。


何のために?


いや、その疑問を解き明かすのも冒険なのだ。


それはさておいても、いろいろと気になることはあった。


仮説によると、女帝の魔眼はダンジョンのどこかにあるユグドラシルに接続している……らしい。


そちらも、もちろん興味はあるが。


目下のところ、リズのいちばんの気がかりは第四層なのだ。


目の前の和風ハンバーグを瞬きの間に喉に通すと、そっと女帝の魔眼に語りかけてみた。


もし、このカロリーが世界樹を護るためなら、イシェドにも……。


その瞬間だ。


突如、リズの目の前が真っ暗になった。


***


「リズさんっ!!」


呼びかけられて気づいた。


薄っすらと目を開けると、麗良の顔。


「え……と」


状況が理解できずに、思わず額に手をやる。


麗良は、ホッとしたような顔を見せた。


「びっくりしましたよ。

連絡しても繋がらないので……大丈夫ですか?」


その麗良の声をかき消すような、盛大な腹の音が響いた。


麗良は、テーブルの上の大量の弁当箱を見る。

全て空になっていた。


さらに、自動調理器の八百食分まで。

いや、二台で千六百食分……。


そして地に伏せる聖王とその配下。

狸来奈もだ。


聖王リウが呻きながら顔を上げた。


麗良が声をかけると、「ひっ!」と短く叫ぶ。


「何があったんですか?」


相手が麗良だということに気づいたリウは、大きく息をつく。


「何ってお前……

そこの姉さん、いきなり猛烈に食べだしてだな」


そう言って、自動調理器を見る。


「二回転目はセットしたばかりだって、散々止めたのに止まらねえのよ」


意味がわからない。

だが、何かが起きていることは確かだった。


狸来奈は、仰向けになり荒い息を吐く。


「世界樹とカロリーのチャンネルが結ばれしとき……

イナンナの地を食らいつくさんとする厄災が……」


「そこの狸、分かる言葉で説明お願いできます?」


麗良の冷静なツッコミの声がかかる。


そう言いながら、麗良は自分のバッグからおにぎりを取り出してリズに与える。


「とりあえず、これでしのいで――」


“とりあえず”のフレーズの時点で、おにぎりは消滅していた。


そして、儚げな圧。


……やるしかないか。


預かっている軍は、こちらの防衛に回している。

山本大将軍が鍛え上げた将と兵だ。

持ちこたえてくれるはず。


麗良は聖王とその配下、そして狸来奈に手を貸して立たせると、エプロンを着用して指示を飛ばす。


「状況の説明も欲しいですが。

まずはカロリーを。

このままでは……」


氷柱の防衛は、リズの魔法が頼りなのだ。


遠くに目線をやる。


衝突している。

おそらく、芹那か。


ここまでやってくるまでに、なんとか――


そんな麗良に、聞き慣れた呑気な声がかかった。


「麗ちゃん、やっほー」


そっと目線をやると、パーティメンバーのみちる。

そして、明日香。


明日香は、口元がニヤニヤしている。


「バニコがご飯作ってるなんて、珍しいー。

これは男ね」


ちなみにバニコとは。

麗良の赤髪を指し、“バーニング子”の略である。


そのバニコは、明日香の言葉を受け流す。

すると、みちるから「何作ってるの?」の声。


「モフォンゴよ」


――?


さえき亭、夏のカリブ祭り。


第五層隠しダンジョン店のテコ入れのために企画されたもので、麗良も商品開発に駆り出されていたのだ。


聞き慣れない料理に、二人の意識が麗良の手元に集まる。


「揚げたて熱々のプランテンを、ピロンで潰したニンニクと合わせていくんだけど……

二人とも手が空いてるなら、チチャロン作ってくれない?」


??


疑問符を頭に浮かべる二人に構わず、麗良は豚皮と油をドンとテーブルに用意する。

儚げな圧が甘い南国の風に乗った。


みちるが、ひそひそと相談を始めた。


「どうする?

いまのところ、分かるのはニンニクだけなんだけど」


「なにペースに飲まれてるのよ。

ご飯作りにきたわけじゃないでしょ」


明日香の目つきが鋭くなり、グリモワールを取り出す。


そして、カメラ映りを気にしながら口上を決めた。


「グリコ(芹那)とタマコ(珠緒)が陽動。

私たちが氷柱の破壊班ってわけ。

まっ、この私じゃなきゃ無理だし」


麗良はプランテンを油に落としながら声を弾ませた。


「良いもの手に入れたじゃない。

そいつがあれば、あのアイスゴーレムも一撃で粉砕じゃない?」


みちるが食い気味に割り込む。


「だよねー。

私が欲しいって言ったんだけど、じゃんけん勝負。

明日香、後出しの魔法が得意だから」


明日香は渋い顔になる。


「人聞きが悪いじゃない。

だいたい、あのグリコだって良いのゲットしてたのにこっちに回さないし。

……まあ、日本SSRが使うならいいけどさー」


麗良はクスクスと笑うと、テキパキと指示を出す。


「それじゃあ、みちるはチチャロン、明日香はソース。

リズさん、ソースはどうする?」


「カマロネスで……」


麗良はテンションマックスで復唱。


「モフォンゴ・レジェーノ・デ・カマロネス一丁、よろこんで!!」


明日香が「ねえ……」と言いかける声を意に介さず、麗良はみちるの構えるカメラへ全力のスマイルを飛ばす。


「この夏、さえき亭でエキサイティングな冒険を!!

太陽のフルーティーと大地のスパイシー、魅惑のグルーヴの数々をご賞味ください。

“冒険部チャンネルを見た ” で、モービーを一杯お付けしまーす!!」


そして。


「それじゃ、お願いね」


明日香の前に大量のカマロネスを積み上げる。

みちるは、油を熱し始めた。


こうして、二人の理解を置き去りにして、リズへのカロリー再投入が始まるのであった。


***


芹那は獣人たちの兵を馬上で指揮しながら、いつまで経っても巨大魔人が現れないのを訝しがる。


「何やってんのよ、あの二人……」


馬を止め、スマホをチェック。


映るのは、黙々と豚皮を揚げるみちるの姿。


そして、コメント欄はカリブ祭り。


芹那はギリギリと奥歯を鳴らす。


「麗良……」


水龍鞭に魔力を巡らす。


「珠緒!!

ちんたらやってないで、一気に切り込むわよ!!」


敵兵をなぎ倒しながら馬を走らせる。

水の刃の一筋一筋が唸り、たちまちのうちに光の粒が舞った。


そして――


「あんたたち!!」


敵陣にたどり着いた緑髪は、血相を変えて二人に詰め寄っていく。


明日香は、その気迫に「うわ……」と思わず首をすくめた。


芹那は、ちらりとジャークチキンを焼く聖王リウを見る。


「こいつ討ち取れば終わりなんじゃない?

私たちがトカゲ帝国を潰して、世界樹もいただくのよ」


みちるが「今回はそういう勝負じゃ……」とボソボソ呟くのを、目を吊り上げて制する。


水龍鞭に魔力を込めた。


「ひと思いに首を飛ばしてあげるから。

覚悟を決めなさい」


そこに、麗良の声。


「やめといた方がいいわよ」


芹那の吊り上った目が、キッと麗良へと向く。


「やろうっての?

いいわよ、このおじさん猫を守ってみせなさいよ」


麗良は、ニンニクとプランテンをすり潰しながら冷静な声。


「そこのおじさんも大切だけど。

世界樹を奪うとか、迂闊なことは言わない方がいいわね」


芹那は口の端を歪めて水龍鞭を聖王へと向ける。


「あれはゲームの勝者のもの。

私にこそ相応しいのよ」


そう言った後、違和感を感じた。


水龍鞭の柄を持つ手をちらりと見る。


「……え」


――なにこれ。


手から……植物の芽?


それはゆっくり増殖しながら、芹那の魔力へと侵食。


魔力を糧に成長し、右手から上腕、二の腕へと植物が茂っていく。


魔力が見る間に吸われていく。


「ちょっ……!!」


焦る芹那が視線を巡らせると、儚げな瞳と目が合う。


「リズ……さん?」


芹那の恐る恐るの呼びかけに、返ってくるのは静かな眼差しだけ。


植物は首に達していた。


「グリコがグリーンまみれじゃん」


明日香の空気を読まない声。

いつもなら聞き逃さないが、いまの芹那には右から左。

脂汗が止まらない。


植物は、首から上にきた。


……いや、これはまずい。


芹那の目が大きく揺れる。


「ねえ、芹那」


麗良が穏やかに呼びかけた。


「レチョン・アサードとコングリ作るんだけど。

手伝ってくれるよね?」


芹那は耳元までガサガサと茂りだした植物を意識しつつ、声を絞り出した。


「……素敵じゃない。

ピカディージョもいくわよ」


芹那の脳に達する前に、植物は消失。


儚げな南国仕様の食欲が、場を満たしていく。


そして芹那は、


「みちるはモホを作るのよ」


と有無を言わせず命じ、自らは肉と向き合う。


その後、珠緒が現場にたどり着いたとき。

明日香の「プーレ・ブカネ一丁よろこんで!!」の絶叫に首を捻るのだった。

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