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終末のSSR ―魔法使いジャパン、ただいまダンジョン攻略中!―  作者: 白猫商工会
第08章

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第276話 帝王の威圧

お互いの陣地の氷柱の破壊を目指して激突する両軍。


その一角で猛威を振るうのがセラとミアの二人。


開戦早々、ミアは軍用バイクを創造。


氷柱など消し飛ばしてやるから一人でいい。


そう言ってヘラヘラ笑いながらバイクにひらりと跨ろうとしたところ、セラの青龍偃月刀がバイクを粉々に吹き飛ばした。


「なにすん――」


ミアの声は、目の前の静かな威圧に掻き消えた。


「ミアさん。

世界各国の魔法使いがいるんですよ?」


合戦ではあるが、今回は戦闘魔法使いの公式戦に倣った形式なのだ。


見境なく爆炎で消し炭にするつもり――


なんてことは、もちろんないですよね?


そんな言外の圧。


ミアは鋭い視線をセラへと送る。

だがそれもほんの一瞬。


たちまち気だるげな笑顔に戻った。


「なにー?

私を何だと思ってんのよ。

人を危険物みたいにさー」


そして、胸元の首飾りをポンポンと叩く。


神話伝承級・ブリーシンガメン。

驚異的な再生能力を秘めるアイテムだ。


「これがあればさ、肉片が残ってれば再生できるから、たぶん。

ほーら、やーさーしーいー」


そして再びバイクを創造。


「でも肉片いっぱいあったら、どれが復活すんだろうね。

ねえ、セラはどう思う?」


そう言いながらバイクにまたがろうとするミアの背後から、怒気と頭頂部への峰打ちが落ちた。


そんなわけで。


絶対に自分の目の届くところにいろとセラは厳命し、ミアは口を尖らせながら従っていたのだ。


戦場をセラが生み出した召喚兵が切り拓いていく。


装備のレベルを合わせるため、召喚兵の手にあるのは剣や槍。

火器は持たせていない。


だが、一体一体が強力で統率の取れた兵たちなのだ。

獣人やリザードマンなど、相手にもならない。


敵兵の海を断ち割るかのごとく、鋭く敵陣深くに食い込んでいた。


ミアは馬上から火尖槍を振るい、次々と敵兵を討ち取っていく。


「……なんか、ジミー」


ミサイルの一発でも出せば簡単。

しかし、必要ないところでは現代兵器は使うなとセラに言われては仕方がない。


不満を口にしながらも、その攻撃は正確無比でまるで隙がない。


ミアの隣では、彼女たちが担ぐ犬の獣人の武将も矛を振るい、紙吹雪を散らすように敵兵を薙ぎ倒していた。


セラは後方からその様子を確認すると、馬を停める。

スマートグラスを取り出して装着。


各地の戦場の様子をモニタリング。


――これは。


切れ長の蒼い目が微かに揺れた。


「……とんでもないことになっていますね」


スマートグラスの映像に映るのは、雷公鞭。


天空を覆う黒雲から放たれる、幾筋もの雷撃。

ひとつひとつが上級魔法にも匹敵する威力だろう。


扱いが難しいと言われている伝説の武具を、中年R魔法使いが自在に操っていた。


少し離れた地の映像に、セラは魅入られたような視線を注ぐ。


そして、ポツリと一言。


「あれを、必ず私のものにしなくては」


ミアには悟られないように呟いた。


そして、画面を切り替え戦場の様子を一通りチェックしていく。


映像をマップに切り替え、目の前の戦場に集中。


敵陣の氷柱までは、もう目と鼻の先だ。


ミアと少しだけ離れてしまった。

馬を再び歩ませながら、大きな声を出す。


「ミアさん!!

気をつけてください、来ますよ」


その言葉に、ミアの瞳に獣の光が宿った。


「えー?

いいじゃん、弱っちいのばっかだったし」


そう嘯くと、頭上で火尖槍をぐるりと回す。


炎が巻き起こり、ミアへと迫っていたリザードマンの一群が焼失。


「人に向けなきゃいいんでしょー?」


そう声を上げると、火尖槍を突き上げる。


戦車の魔眼が黄金に輝いた。


刃から猛烈な炎が吹き上がる。

それは巨大な渦巻きの柱となり、天を焦がさんばかりの熱気を放つ。


ミアは、その巨大な炎の柱を氷柱に向かって飛ばした。


「とりあえず、片付けてから遊んであげるからさー」


気だるげに目を細める。


だが。


突如、ミアたちの眼前が白く染まる。

空気中の水分が一瞬にして凍結する現象、ダイヤモンドダストだ。


続いて、笛のような高い音が響き渡り、氷柱に酸素と窒素の雨が振り注ぐ。


炎の柱は跡形もなく焼失した。


――極冷却。


ミアの口元から薄ら笑いが消えた。


「あの能力……

当たり引いたみたいじゃん」


馬の腹を蹴り、火尖槍を手に突撃。


後方から「ミアさん!!」の声が飛ぶが、お構いなし。


敵兵を断ち割って、駆けに駆ける。


最強格のSSR……悪魔がいる。


ミアの瞳に強い光が宿る。

口元がゆっくりと上がった。


「誰が最強か、わからせてやろうじゃん」


やがてミアの視界は、赤コートを捉えた。


突撃の速度は緩めない。

瞳の黄金の光を後方に流しながら猛スピードで馬を飛ばす。


赤コートの女――ヴィオラは、落ち着いた様子で腰の鞘から剣を引き抜いた。


それをヒュンと振ると、ミアの馬の首が飛んだ。


何枚もの(くさび)状の刃を魔力ワイヤーで連結させたソードウィップ、メガイラ。


そのメガイラの蜈蚣(ムカデ)のような刃が、馬の四肢も斬り飛ばしていく。


たちまち馬が地に伏せる。

だが、その背にはもうミアの姿はなかった。


ひらりと宙を舞い着地すると、その勢いをかってヴィオラへと跳ぶ。


ヴィオラは、すかさず分離した刃を手元に戻してロングソード形態へと戻す。


火尖槍とメガイラの刃が交差し、火花を散らした。


挨拶代わりの一撃を見舞うと、ミアは火尖槍を地面に突き刺して空中で方向転換。


ヴィオラの背後を取る。


炎の魔力が左手に集まる。

爆炎を叩き込もうと突きだした。


……?


爆発しない。


ヴィオラの剣先が迫る。

それを火尖槍で防ぎ、後方へと飛び退いた。


獣の目が鋭く赤コートを値踏みする。


「これが悪魔の能力?

面白い手品じゃん」


燃焼反応そのものが抑え込まれていた。


火尖槍に魔力を巡らせる。

こちらも、熱が生まれない。


ヴィオラは、フーと冷たい息を吐く。


「別に、銃でも何でもどうぞ?

そちらの手品も披露して欲しいわね」


ミアの目に宿る獣の光がいっそう強くなる。


だが、ヘラヘラとした笑みを浮かべた。


「これくらい、ハンデだって。

そっちは魔眼を使わないと、私との勝負にならないみたいだけどさ。

かーわーいーそぉー」


シン……と、戦場に静寂の間が降りた。


それを切り裂いたのは、火尖槍の風切り音。

正確にヴィオラの首を狙う。


「首の二〜三個いっちゃっても、すぐに生やしてあげるから。

礼なんていらないしー」


ヴィオラは火尖槍の攻撃をやすやすといなす。


彼女も研鑽を積んだ戦闘魔法使い。


急所を的確に狙う刺突を最小限の動きで躱し、切っ先を弾いては斬り込んでいく。


高レベルの攻防が休みなく続く。


それを少し離れた場所から眺めるのは、魔戦部三年の獅子丸。


「何だよ、あの戦闘民族。

危ねえな」


ヴィオラとまともに戦える戦闘魔法使いなど、そうはいない。


ミアには手を出すなとヴィオラにきつく言われていたが、仕掛ける気など毛頭なかった。


こちらにはこちらの仕事があるのだ。


「来たぞ、先輩たち」


OBの高坂と鷲尾、そして豪州魔戦部の三人。


彼らの役目は、セラの召喚兵と犬獣人の武将を食い止めることだ。


高坂が菊一文字をスラリと抜く。


魔力を込めると、ビィィン……と刀身が微かに震えた。


鷲尾が感心した調子で声をかける。


「すごいね。

もうこんなに安定してるなんて。

佐伯先生も、扱いが難しいって言ってたのに」


高坂は、思わず口元を緩めた。


「兄さんが昔使ってた業物だからな。

使いこなしてみせるさ」


込めた魔力量に応じて斬撃性能が飛躍的に上がる、シンプルイズベストな魔法剣。

だが、刀身から魔力を放出せずに留めておくには技量を要する。


高坂は踏み込み、召喚兵を袈裟掛けに斬りつける。

相手は剣で防御するも、その剣ごと一刀両断。


高坂は、フッと溜め込んだ息を吐き出す。


「Rでも、行ける。

いつか、追い抜くことが俺の恩返しだ」


鷲尾は笑顔になると、自らの杖を構えた。


炎弾を撃ち出し、召喚兵を吹き飛ばす。

獅子丸と高坂の刃が、敵の猛攻を食い止める。


豪州SRの三人は、犬獣人の武将と対峙。


魔戦部全員での防衛戦。


いや――


鷲尾の目に力が宿る。


「頼んだよ、キャプテン」


真の敵将へ立ち向かう後輩たちへと、そっとエールを送るのだった。


***


ミアを見失ったセラは、盛大なため息をつく。


「まったく。

まあでも、悪魔のSSRならミアさんが暴走しても……」


ぶつぶつと愚痴が止まらない。


馬の腹を蹴って氷柱を目指そうとしたそのとき。


セラはピクリと反応。


召喚兵の一体へと青龍偃月刀の鋭い一撃を突き入れた。


その突きは、召喚兵から生えた尻尾によって防がれる。


ドロンと変身が解けた。


「すごいですねー。

絶対にいただいたと思ったのですけど」


召喚兵に化けていたカレンが感心の声を漏らす。

狐の面を被っていた。


セラは冷静に言葉をかける。


「分かりますとも……そこの二人も」


別の召喚兵から「なんでバレましたの!?」と驚きの声が上がる。


犬養と熊耳が姿を現した。


この二人は、熊耳の魔法で体の表層に纏わせた魔力を召喚兵そっくりに具現化させていたのだ。

いわば、疑似変化だ。


セラはひらりと馬上から降り立つと、召喚兵へ小さくクイっと顎を引く。

先に行っていろの合図。


「それは、訓練を積むことですね。

戦場では細かい魔力にまで気を配らなければ、死に直結しますから」


静かに、悠然と言い放つ。


犬養のこめかみを一筋の汗が流れた。


――正真正銘の怪物。


向かい合って分かる。


ミアやエステルのような、獰猛さではない。


クラリスのような、触れれば切れそうな鋭さでもない。


梨々花のような、怪しげな魔王でもない。


どれとも違う。


帝王の威圧だ。


犬養は、ジリッと後退しつつ隙を探る。


「着装は……」


ふいにセラの声がかかる。


「え?」


セラは、んんっと咳払い。


「来ないのですか。全力でどうぞ」


――舐めやがって。


ドクンッと犬養の血が震えた。


全身全霊で吠える。


日葵(ひまり)ちゃん!!

魔戦部魂、ド根性ぶち込むよっ!!」


腰を落とし、右手を地面につく。

左手を後方に伸ばし――


みるみるうちに、セラの頬が上気していく。


「着装!!」


犬養の声に、セラの絶叫が重なった。


つづけて、「ですわっ!!」の声。


召喚魔法の魔力が犬養を覆い、外骨格スーツを形づくっていく。


セラの早口の解説が戦場に響く。


「説明しよう、犬養茜の着装。

魔力による疑似筋繊維と全身のプロテクターが顕現するまでのプロセスは、わずか0.25秒――」


言っている端から犬養は外骨格スーツに付与魔法を施していく。


腰のトンファー型ブレードを抜き放つと、一気に躍りかかった。


青龍偃月刀がそれを受け止める。


「ずいぶんと余裕をかましてくれるじゃないですか。

日本の戦闘民族は、敵に向かい合ったら一人一殺なんですよ」


犬養のブレードに付与した超振動魔法が空気を震わせる。


セラは柄に魔力を込める。


青龍偃月刀の第一段階は衝撃波。

来奈のキュレネと同じような性質。


第二段階は――


キィィィィィィィン……と、空気が震えた。


続けて、空間がバキバキと音を立てる。


犬養の背に、ぞわりと冷たい汗が流れた。


繰り出されたのは、超振動。

犬養のものよりも数段は上。


「茜さん!!」


とっさに跳び退いた犬養とセラの間に、カレンの防御の尾が展開。


その尾が消し飛んだ。


セラは、ブンと青龍偃月刀を一振り。


蒼い瞳が犬養を射抜いた。


「舐めているのはどちらですか。

“機甲戦鬼ギバン”の青柳鉄平一佐が、そんなぬるい攻撃を……」


何を言っているのか分からない。


戸惑う犬養に構わず、セラの独り言が加速していく。


「この夏の休暇は春から溜まっていた未視聴分を消化して、新しい衣装も仕上げて……

なのに、もう残り三日もないんですよ」


キッと熊耳に鋭い視線を向ける。


「ですわ……?」


ズンズンと歩み寄ってくるセラに、熊耳の腰が引ける。


その間にカレンが立ちふさがった。


第六の尾、麻痺毒。


青龍偃月刀が空間を震わせると、一振りで砕け散る。


狐面の奥のカレンの目が揺れた。


正義の魔眼を使うべきか?


しかし、相手も魔眼能力を使っていない。


けれども、このままでは――


逡巡するカレンの脇を、セラはすり抜ける。


熊耳の前に立つ。


「……あの」


「日葵ちゃん!!」


犬養は悲壮に叫び、渾身の一撃を繰り出す。

しかし、軽々と防がれ弾き飛ばされる。


熊耳を見つめるセラは、静かに口を開いた。


「“外れスキルのポーション調合師、女神の世界でまったりスローライフ ~男爵家の五男って微妙じゃね?~”

の、エリザ・マリーハート」


「……なんですの、それは」


「あの女教皇の衣装。

私も予定していたのですが」


ここで、少しだけ場面は戻る。


セラがスマートグラスを付けて見ていた映像。


中年女が雷公鞭を放った後、中年R魔法使いたちが一斉に鎧の魔装を着装。


セラのボルテージが上がった。


続けて、由利衣が召喚デザインアプリを使って変身。


「あれを、必ず私のものにしなくては」


セラは決意を固めていた。


熊耳の両肩をガッシと掴む。


「熊耳先生。

“宮廷薬膳女官 寧々の秘め事”、後宮第二婦人・趙蓮姫の衣装――

おいくらで?」


「あの……」


「召喚魔法の素養なら、ありますから。

そこは大丈夫。

できれば、私の召喚兵たちにも揃いの衣装を」


熊耳の理解と意向を一切気にせずにグイグイと迫る。


そして、スマホの画像を見せ、ディティールを伝えていく。


――十数分後。


「とりあえず仮合わせいきますわ」


セラは自身のスマホの召喚魔法デザインアプリを操作。


彼女の魔力が、衣装を具現化していく。


ぶるり、とセラは震えた。


「熊耳先生。

我が国に……いえ、私の専属として、ぜひ。

考えていただけないでしょうか」


えーと……と言葉を濁す熊耳に、犬養の声。


「専属はともかくとして。

衣装案をいただければ、召喚デザインアプリに登録くらいは。

ねえ、日葵ちゃん」


――軽く言ってくれる……ですわ。


現在、由利衣からも鬼のような発注が来ているのだ。


あっちはまだアバウトだが、セラの要求は逐一細かい。


「一年後くらいでしたら――」


言いかけた熊耳に、帝王の圧。


「夏は逃してしまいましたが、冬は……

来日する予定なので、熊耳先生もぜひご一緒に」


逆算すると、あと三か月程度。


犬養の圧も、熊耳にしっとりとのしかかる。


ごくり、と喉を鳴らして熊耳の覚悟は決まった。


「セラさん、五連衣装チェンジで決めていきますことよ!!」


セラは満面の笑顔で言い放った。


「二十連で!! よろこんで!!」


かくして、熊耳の才能は新たなクライアントを呼び込む。


氷柱の下での激闘をそっちのけで、次のイベントに向けて動き出すのだった。

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