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終末のSSR ―魔法使いジャパン、ただいまダンジョン攻略中!―  作者: 白猫商工会
第08章

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第275話 凶悪なやつら

開戦早々、魔術師の魔眼が淡く輝いた。


瞳の虹彩のリングの色は、緑と橙。

風属性と土属性。


セトのウアスに魔力が注がれ、戦場に一陣の風が吹いた。

やがてそれは渦を巻き、巨大な黄土色の竜巻となる。


暴風のひとつ、砂嵐。

それを敵陣へ向けて放つ。


目も開けていられないほどの砂に、大軍の動きが止まった。


来奈の興奮の声が飛ぶ。


「すっごいじゃん!!

梨々花、超絶パワーアップしてね!?」


俺も驚いていた。


そして、大切なことを言っておく。


「桐生院、人に向けて炎嵐なんかはやめておけよ」


やらないとは思うが、分からない。


今のは、殺傷効果よりも足止めや撹乱向けの暴風能力。

属性によってはえげつない効果を発揮するものもあるのだ。


俺が言葉をかけると同時に、梨々花は再びセトのウアスを振る。


瞳の虹彩は、緑と銀。

風と氷。


杖の先からは再び竜巻が噴出。

雹交じりの暴風が前方のリザードマン兵たちを襲い、隊列を抉りながら通り抜けていく。


たちまち光の粒が舞い、道が開けた。


そこに、竜巻を避けた敵陣営の冒険者連中が颯爽と切り込んでくる。


その顔には見覚えがあった。


「ライオスさん、元気そうですねー」


思わず声をかけると、にこやかな笑顔が返ってきた。


最初に悪党に襲われたパーティ。

彼らのおかげで、俺たちは忍び寄る脅威にいち早く気付くことができたのだ。


そんな縁がある間柄だが。


これはゲームだ。

やる以上は遠慮なし。


巧みな連携で迫りくるライオスさんパーティ。


村正で迎え討とうとした俺の脇を、さっきよりも小さな竜巻が通り抜けていく。


風刃の暴風がライオスさんたちに直撃。

向こうは剣や盾で受け止めるが、たまらずに遥か遠くに吹き飛んで行った。


……死んでないよな?


敵陣にも、万が一に備えて由利衣の防御結界がかかっている。

大丈夫だと思いたい。


後ろを振り返る。


梨々花は頬を染め、「ほぅ……」と陶酔したような息を漏らしていた。


「暴風の種類も規模も自在。

いいわね、これ」


そして、俺の目を見る。


「ああ、すいません。

何ですか?」


「……いや。

規模を落として戦うんだな。

魔力大切に、だ」


ヤバい武装が、ヤバいやつの手に渡ったかもしれない。


二属性合成魔法だ。

梨々花なら杖がなくても可能だが、行使にはとんでもない負荷がかかる。


事実、悪魔の国チャレンジでは雹嵐を放って倒れ、魔眼能力を失うはめになった。


それなのに、今は平気な顔をしている。


合成処理を杖が担うことで、低負荷で運用できているのだろう。


だからといって、セトのウアスは誰にでも扱える代物じゃない。


まさに魔術師の魔眼にこそ相応しい装備だ。


一段も二段も凶悪さを増した教え子に頼もしさを感じていると、由利衣がふわりと微笑んだ。


「それじゃ、わたしも頑張っていかないと」


そう言うと、召喚した七体のスケルトン兵へ視線を向ける。


由利衣が手にしている呼吸の書に、魔力が注がれていく。


「黒澤……?」


何をするつもりだ。


そもそも、その呼吸の書自体がよく分かっていない。

“怪しい・オブ・怪しい”アイテムだ。


すると――


スケルトン兵の骨が、パァンッと分離して宙を舞った。


――!?


政臣の眼鏡が、コンテンツの予感に光る。


三体分の骨が胴体と骨の鎧を構成し、残る四体分の骨が四肢を形作る。


たちまち、巨体の異形が完成した。


「七身合体・キングスケルトン!!」


由利衣は力強く叫ぶと、アイテム袋から斬馬刀を呼び出し、巨大スケルトンの手に握らせた。


山本大将軍が◯国魔法戦特殊部隊から鹵獲した品だ。


そして自らは銃を構える。


「キンスケ、行くよー!!」


号令とともに走り出した。


由利衣の魔力弾が戦場に飛び交い、襲い来る敵兵を巨大スケルトンがまとめて薙ぎ払っていく。


俺たちも後に続く。


「いいわね、あれ……」


梨々花はそう呟くと、由利衣へ向かって声を飛ばした。


「由利衣、ユニゾンいくわよ!!」


魔術師の魔眼が輝く。


巨大スケルトンの背中に、骨の腕が二本生えた。


梨々花の骨魔法だ。


そして、その腕に杖を握らせる。


一本はアイシクルワンド。


水属性の魔力を、上位の氷属性へ変換する杖。


もう一本はライオットワンド。


火属性の魔力を、上位の爆属性へ変換する杖。

第七層の蚤の市で見つけたジャンク品だが、リズの再構築で修理してもらっていた。


巨大スケルトンが斬馬刀を振るう。


背中の腕から氷の弾丸が放たれ、続けて爆発が巻き起こる。


突如戦場に現れた骨のタンクに、敵陣は大混乱だ。


「おい、桐生院。

大丈夫なのかあれ……」


「大丈夫です。

魔力の垂れ流しはせずに、きちんとコントロールしていますから」


会話が噛み合わない。


そもそも由利衣にあんな凶悪なオプションが付くとは。

しかも、あれでまだ初期状態。


もしかすると、セラの軍団創造にも匹敵するポテンシャルを秘めているかもしれない。


……負けていられないな。


村正を握る手に力がこもる。


だが、俺以上にヤル気を刺激されたのが来奈だ。


俺の隣で駆ける赤マントは、楽しそうに口元を吊り上げる。

左脇のハンドガンを抜き放った。


そして、シュガーレスチョコを口に放り込む。


来奈の頭上に輪のような魔法陣が現れ、赤い輝きを放つ。


背中にバサリと竜の翼が具現化され、頭には竜の角。


……角なんてあったかな?


そんな俺の疑問に構わず、竜魔法を展開。

銃身が砕け、ファイアブレスが放たれた。


敵兵が割れるように避け、無人の野を炎がレーザーのように飛ぶ。


遠くの氷柱を狙ったのだろうが、途中から大きくファイアブレスの軌道が上昇。

氷柱の先端部を消失させて空に消えた。


「ありゃ、難しいなー」


そして、梨々花へと振り返って能天気な笑顔。


「銃、壊れちゃったんだけどさー」


「もうないわよ」


さらりと返す魔王に「えー!!」と大声。


そして、腹の虫が盛大に響く。


なぜ何一つ学習していないのか。

頭が痛くなってくる。


来奈はドーナツを取り出し、かじりながら走る。


敵兵に迫ると、右拳が輝き衝撃波を放った。


まとめて雑兵を吹き飛ばすと、続けて取り出したのは二つ目のドーナツと混鉄棍。


カロリーの補給とともに、星の魔眼が輝く。


俺の目の前から来奈の姿が消えた。


続けて、秒も経たないうちに敵兵が数体、光の粒に散る。


いまのところ、破壊の力が発動するのは五回殴って一回出るかどうか。


しかし、防御ステータス無視の金棒をフルパワーで叩き込まれるのだ。


破壊が発動しようとしまいとお構いなし。


反応すらできない速度で、凶悪な一撃が飛んでくる。


またたく間に数十体を片付けていく。


どいつもこいつも、なんてやつらだ。


俺は思わず笑った。


去年の今頃は第二層だった。


巨大な虫や獣に怯えていた駆け出しが、たった一年でここまで来たのだ。


さすがSSR――


ではない。


「さすが、俺の教え子だ」


あいつらの熱。

訓練と戦いの日々。


常に全力で手を伸ばし、挑み続けてきた。


あいつらこそ、神話伝承級武具を扱うに相応しい魔法使いだ。


村正を握る手に、さらに力がこもる。


一年前と違うのは、こっちもだ。


魔力を研ぎ澄ませていく。


村正の青白い光が応えてくれる。


こいつを得て、俺はまだ先へ行けることを知ったのだ。


刃を振るうと、刀身から水圧が飛ぶ。


抵抗もなく敵兵を切断していく。


新たに村正に宿った力、アクアブレス。

さらにウィンドブレスとの混合。


刀身が負荷に耐えきれず砕け散った。


そして、すぐに復活。


「先生……

相変わらずデタラメなチートぶりですね」


魔王が含み笑いで杖を振るう。

暴風に巻き込まれた敵兵は、鉄砂に削り取られていく。


――どの口が。


思わず口元が緩む。


「油断するなよ。

雑兵ばかりってことはないだろ」


俺たちとともに、兵が前線を押し上げていく。


そろそろ、主力と遭遇してもおかしくはない。


こちらに配置されているのは魔戦部か。

それとも日村か。


あの緑の戦闘民族だけは勘弁してくれよ。


俺のそんなささやかな願いをかなえるように、自軍の兵たちの頭上に巨大な黒雲が現れた。


思わず顔をしかめる。


「……どれが来ても、結局ヤバいじゃないか」


轟音とともに幾筋もの雷が兵たちへ降り注ぎ、まとめて塵となった。


余波の火花がバチバチと俺たちへ襲いかかるが、由利衣の防御結界が阻む。


上機嫌な中年の声が響いた。


「佐伯くーん、楽しいじゃない。

この力……天上のソプラノ、断罪のアリア。

浄罪の時が来たれりよ」


神話伝承級・雷公鞭。


そして、何を言っているのかよく分からないこの中年女は、俺の同期のR魔法使いだった。


敵陣から、


「仁科ー!!」


と声が飛び、木暮が駆けてきた。


「お前な、一人で前に出るなっての」


仁科は、ぶつぶつ文句を言う木暮を意にも介さない。


「いいじゃない。

ゲームなんだから、楽しんだもの勝ちよ」


そう言って雷公鞭を軽く振るう。


遥か遠くの俺たちの陣地の氷柱へ、雷が降り注いだ。


たちまちのうちに削られていく。


そこに、梨々花の魔眼が輝く。


セトのウアスを振るうと、爆炎を纏った暴風が上空へと飛び、雷公鞭の黒雲を打ち消した。


俺たちの陣地の氷柱は、なんとか持ちこたえてくれていた。


思わず唖然とする俺の背に、


パチ……パチ……


と拍手がかかった。


振り返ると、仁科の余裕の笑み。


「さすが魔術師ね。

日本の未来は明るいわ」


こいつ。


いろいろと言動は怪しいが。


あの雷公鞭は、半端な魔法使いが扱えるものじゃない。


学生時代の三百六十五日を戦闘訓練に捧げただけはある。


そして――


木暮が背中に担いでいた金棒を、スッと抜く。


何もないと思っていた空間から、混鉄棍が撃ち込まれる。

来奈の高速移動だ。


鈍い金属音を立てて、金棒が交差した。


「おじさん、ひっさしぶりー」


嬉しそうな来奈に、木暮は呆れ顔。


「いきなり殴りかかるかよ、普通」


木暮の反応速度も異常。


一日一万回の鉄バットの素振りを二十年以上。

手にした金棒を、まるで小枝のように振るう。


「あれー?

なんでそれ破壊できないの?」


混鉄棍をさんざんに撃ち付けながら、来奈の不思議そうな声。


小暮はため息交じりに金棒を繰り出す。


「お前なー。

人の商売道具を破壊しようとするんじゃない。

そんなへっぴり腰と魔力制御で砕けるかよ」


あの金棒……アダマンタイトか。


破壊の力は、相手が何だろうが粉砕する超絶理不尽なものだと聞いたが。

今の来奈の練度ではアダマンタイトを砕くには至らない。


そこに、由利衣のキングスケルトンが持つ斬馬刀が小暮に襲い来る。


小暮は来奈と巨大骸骨の連撃を易々と防ぐ。


「これが魔法使い二年目とはな……

たいしたもんだ」


そういう小暮もたいしたものだ。

年季が違う。


加勢に加わろうとしたとき。


俺たちは取り囲まれていることに気付いた。


悪魔の国チャレンジでは、頼もしい味方だった中年R魔法使いたち。


そいつらが静かに牙を向けていたのだ。


やたらとゴツイ大剣を背に担いだ主婦が、にこやかに手を振ってきた。

肩にかけた水筒には「たかし」のラベル。


たかしくんママは背中の大剣を手に取り、ズンと地面に突き立てた。


「今回も大収穫。

やっぱり、我らが日本SSRね。

さえき亭友の会、あと三億Gほど突っ込むから。

厄災神の世界も頑張ってね」


俺は小声で「毎度ー」と呟く。


そして、目の前の主婦は「アーマード・オン!!」と絶叫。


今年で齢三十九……。


それは言いっこなしだった。


大剣からパーツが分離。

ガシャガシャと変形し、たかしくんママの体に着装。


由利衣と政臣の悶絶の声が響く。


第五層の城の宝物庫に展示されていた、悪魔の名を冠する武具。


鎧の魔剣・デモンズブリンガー。


梨々花が俺の背中に声をかけた。


「先生、隙だらけですが……」


「桐生院、変身中の攻撃はご法度だ。

わかるだろう?」


静かな同意の気配。

タイパではない、美学なのだ。


見ると、周囲の中年魔法使いは次々と着装を開始。


鎧の魔剣。

鎧の魔槍。

鎧の魔戦斧。

鎧の魔弓。

鎧の魔盾。

鎧の魔鎚。

鎧の魔杖。

鎧の魔鎌。

鎧の魔鉄鎖。

鎧の魔手裏剣。


政臣は「鎧の魔装シリーズ、映えてますって!!」と大興奮。


確かに、これだけ揃うと壮観だ。


ちらりと仁科を見る。


薄ら笑いを浮かべて、余裕顔を崩さない。


その口元がゆっくりと開いた。


「佐伯くん。

あなたたちの装備も、なかなか悪くはない。

けど、投降をお勧めするわ。

これは同期からの忠告と受け取って欲しいんだけど」


俺は村正をビッと振るうと一言。


「仁科……お前。

俺たちに向かってそんなセリフ。

一昨日(おととい)来る魔法を覚えてから吐くことだな」


仁科の目が嬉しそうに細められる。


「佐伯くんは、そう言うと思った。

楽しもうじゃない」


一方の小暮は、来奈の攻撃をいなしながらため息をつく。


「なあ佐伯。

来奈にケガでもさせたら、うちの子に家に入れてもらえなくなるんだけどな」


「やれるもんなら、やってみろっつーの!!」


混鉄棍が叩き込まれる。


「しゃあねえなー」と呟いて、来奈を弾き飛ばす。


「そんじゃあ、軽く……」


言葉とは裏腹に、アダマンタイトの金棒に魔力が漲っていく。


対する来奈は左手をバッグに入れ、乾燥梅干しを口に放り込む。


混鉄棍に竜魔法の魔力が乗る。

木暮は咄嗟に自身の魔力を竜魔法に切り替えた。


お互いの金棒とウィンドブレスがぶつかる。


二人とも後方に吹き飛び、ひらりと着地。


「おじさん、竜魔法も使えるとかズルくね?」


来奈の小生意気な笑みに、木暮は苦い顔。


「佐伯ー。

対人に竜魔法はやめとけって教えといてくれよ」


俺は思わず頭をかいた。


「入江。竜魔法と破壊はほどほどにな」


「はーい!!」


返事だけはいい。


「ほどほどじゃなくてだな……」


木暮のぼやきを無視して、来奈は混鉄棍を振り回した。


――あっちはあっちで楽しそうだな。


魔装の連中に目をやると、巨大スケルトンと由利衣が対峙。


俺はそちらの加勢に駆けた。

あまりにも数に差がありすぎる。


「黒澤、いけるか?」


「コーチ、あれすごいですね!!」


由利衣は興奮のままにまくしたてると、左手首にはまっているスマートウォッチを見た。


普通の民生品だ。

それをスッスッと操作。


右指を離すと、左腕をグッと垂直に曲げて脇を締める。


そして、静かに一言。


「――着装」


女教皇の魔眼が輝くと、魔力が体から噴き出した。

それは光のエフェクトを放ちながら由利衣の体にまとわりつき具現化していく。


金色に輝く胸当て、小手、ブーツ、冠。


すべてに高度な防御結界がかかっている。


白マントをなびかせた黄金騎士は、ふわりと笑う。


「こちらも準備完了ですよ、先輩たち」


中年連中から、大きなどよめきが上がる。


スマートウォッチにインストールしているのは、簡易版の召喚魔法デザインアプリ。


熊耳に頼み込んで作ってもらった変身装備を、ワンタッチで呼び出すための代物だ。


由利衣は満足そうに頷くと、俺の目を見た。


「コーチもいっときます?」


「大丈夫だ」


勘弁してくれと言いたい。


こうして、パワーアップした俺たちは、パワーアップした中年R魔法使いの集団との交戦へ突入していく。


同じ頃、各地でも戦いが繰り広げられていた。

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