第271話 神話伝承級
冒険者たちと狸特殊部隊員たちとのガチバトルは、大きな反響を呼んだ。
さすがは謎国家の謎軍隊。
そのお宝の質と量は、まさに前代未聞。
お宝ゲットの映像が流されるたびに、獲得した冒険者には取引のオファーが殺到。
しかし、要らないものがあれば買い取ると運営より事前に通達があり、ほとんどの参加者がそれに応じてくれていた。
何しろこちらには、厄災神という兆超えのバックがついているのだ。
やつだって、自分の世界が冒険者で溢れて神格が高まるのを望んでいるのだから、これは必要経費だ。
景品が続々と集まる中。
ひときわ異質の存在に全冒険者がざわついた。
芹那が獲得したお宝、神話伝承級・呼吸の書。
愛用の水龍鞭があるから他の武器は要らないと言って、俺たちとの取引に応じてくれた。
お代は、探索チームが狩った真亜の素材と引き換えで良いと。
あの遺跡にいた、進化した真亜の素材も高級品には違いない。
しかし、神話伝承級とは比べるべくもない。
あいつは実の妹と、日本SSRの三人に対してはとことん甘いのだ。
そして、その呼吸の書。
ヤバいなんてものじゃないヤバさだ。
召喚と呪術の複合である、死霊魔法。
アンデットモンスターを顕現し、自在に使役することができるらしい。
召喚魔法と呪術両方の素養がないと扱うことができず、かつ練度が低いと大したモンスターを顕現できない。
しかし、最高まで極めれば無敵の死霊軍団を繰り出すことができるという。
これには由利衣が飛びつき、胸に抱いて離さなかった。
梨々花が「それは景品……」と言っても、頭をぶんぶん横に振って聞かない。
召喚と呪術は両方伸ばしているから、絶対に冒険に役立てて見せる。
そう絶叫した。
なぜ由利衣が呪術を伸ばしているのかは、よく分からないが。
そこまで言うなら……と、梨々花をとりなして、それは由利衣のものになった。
飛びあがって喜ぶ由利衣。
守って殲滅をモットーとする、死霊使いの爆誕。
方向性がいろいろとおかしいが、由利衣に関しては今さらだった。
そうなると、梨々花は自分だけ神話伝承級がないことに密かな不満を持つ。
――だろうなということは予測できていた。
そこに、クラリスから取引の相談が入った。
神話伝承級・セトのウアス。
ウアスとは杖のことだが。
暴風の神・セトの頭を先端にあしらい、下部が二股に分かれている。
風属性をベースに、もう一属性との組み合わせで繰り出す嵐の性質が変わるという代物。
風属性と風属性 : 風刃嵐
風属性と土属性 : 砂嵐
風属性と水属性 : 暴風雨
風属性と火属性 : 火炎嵐
風属性と雷属性 : 雷嵐
風属性と鋼属性 : 鉄砂嵐
風属性と氷属性 : 雹嵐
風属性と爆属性 : 爆炎嵐
現在持つ炎蛇の杖は、火属性と土属性を混合してマグマを撃ち出すレジェンド装備だ。
しかし、セトのウアスはさらにその上を行く。
もっとも、使いこなすのは容易ではない。
特に上位属性との混合には高度な魔力制御が求められるため、凡百の魔法使いでは宝の持ち腐れ。
その真価を引き出せるのは、ごく一握りだけだ。
クラリスとしては、自分が持っていても使い所がないため、魔術師の手にあるのが一番だろうと。
ありがたい申し出ではある。
だが、値段がつけようもないと困っていると、例の真贋鑑定魔法との引き換えで良いと言ってきた。
隠者の魔眼能力の強化に役立つからだと。
そこで、グレイスから貰った魔法はクラリス行きに。
梨々花は「これは私がグレイスさんと交渉して貰った魔法なので、いいですよね?」とグイグイ来た。
そんな理屈をこねなくても好きにすればいいのに。
面倒くさいやつだ。
そして、真贋鑑定魔法は意外と大人気で。
リズも欲しいと言ってきたので、来奈が貰った分はイシュタムの面と引き換えに。
なんでも、イシュタムの呪殺魔法は解析完了したので、面はもういらないと。
こいつも大したお宝なので、厄災神チャレンジの賑やかしとしては充分以上なのだが。
いろいろと気になることも多かった。
……リズなら悪用はすまい。
そう信じることにした。
ともあれ、うちのSSR三人もついに神話伝承級持ち。
このイベントの収穫に大満足だ。
■来奈
混鉄棍 : 破壊の金棒。
■梨々花
セトのウアス : 暴風の杖。
■由利衣
呼吸の書 : 死霊軍団召喚。
どいつもこいつも、愛と正義を標榜するSSRの装備とは思えない。
だが、頼もしすぎることだけは間違いなかった。
なお、お宝争奪イベントは三チームに分かれて参加していたが。
山本先生とリズの他の二チームの主な戦果は以下だった。
■梨々花・由利衣チーム
・ブリューナク(神話伝承級)
・金の髪飾り(エピック)
ブリューナクはアリサからどうしても欲しいとお願いされたので、彼女の持つレジェンド装備・極炎鳥の槍との交換となった。
悪魔の国チャレンジで得た極炎鳥の槍は、まったく出番がないまま厄災神チャレンジの景品行きとなったわけだが。
新たな持ち主の元で活躍してくれることを願うばかりだ。
■ティナチーム
・ミスリルソード (エピック)
・ミスリルの兜 (エピック)
・ミスリルの盾 (エピック)
・ミスリルの胸当て (エピック)
・ミスリルの籠手 (エピック)
・ミスリルの肘当て (エピック)
・ミスリルの膝当て (エピック)
ティナは「何で私のところにはレジェンドがないのよ」と不満たらたら。
既に金蛟剪という神話伝承級の装備があるので、何が出ても厄災神への投資につぎ込む腹づもりだったが。
それでも、ワクワク装備を引きたかったようだ。
だが、謎のミスリル戦士から巻き上げたお宝はエピックとは言え、高度なエンチャントがかけられた品だ。
斬馬刀がほぼ素材価値だったのとは対照的に、こちらは込められた魔法に価値がある。
単品でも一級品。
揃ったときはエンチャントの相乗効果が得られ、レジェンドに勝るとも劣らない性能を発揮する。
フルセットで欲しいと、今から厄災神チャレンジに燃える冒険者も多かった。
こうして、全参加者にエピック以上のお宝が行きわたった。
イベントに参加して心の底から良かった。
〇国さん、ありがとうの声に溢れていた。
俺としても、冒険部ホールディングス主催のイベントが盛り上がったことには胸を撫でおろしていた。
まさかこんなビッグサプライズがあるとは夢にも思っていなかったが。
冒険者はお宝を持って帰ってナンボなのだ。
そんな中。
神話伝承級は二十あったのだが。
とんでもない超ド級のお宝が意外な人物の手に渡り、全世界に激震が走った。
雷公鞭。
ヴァジュラやトールハンマーにも並ぶ雷の鞭。
獲得したのは、R魔法使いの主婦。
仁科亜樹、三十九歳。
俺の高校時代の同期だ。
杏子が「仁科さん、やったじゃん!!」と笑顔全開で背中をバシバシ叩く中、カメラを向けられた彼女は、意味深な笑みを浮かべた。
「悪くないわ。
覇天黒雷獣の力を秘めし、神威の装具。
日村さん、いまこそヴェスマの地に堕天のアークが降り立つとき……」
相変わらず、言っていることは何一つ分からない。
しかし、実況の政臣が「やりましたね!! さっそく三百億Gのオファーが来ていますけど!?」と声を飛ばすと、フンと鼻で嗤った。
「一昨日来る魔法を覚えてからいらっしゃい。
力は、振るうに足る器というものがあるのよ」
なんだろうな。
梨々花の二十年後は、ああいう感じになるのだろうか。
そんな、したくもない想像が脳裏に浮かんだ。
それはさておき。
R魔法使いが神話伝承級を手にするなど、ドリーム中のドリームだ。
これまでは、ドラゴンスレイヤーに進化した俺の村正くらいのものだった。
いや、山本先生のスカジも性能は神話伝承級に迫る。
それでも、例外中の例外。
日本SSRのコンテンツに乗れば、リターンがある。
それが、世界中の冒険者に強烈に印象づけられた瞬間だった。
まだイナンナの世界のイベントは終わっていない。
それでも、早くも厄災神チャレンジ。
そして次に予定している魔界への期待は高まっていた。
災い転じて福となす。
もし梨々花が最初に悪党の存在に気づかなければ、今ごろ俺たちは破滅していただろう。
だが、乗り切った。
悪党が持っていたスマホには、◯国首脳からの留守電が何度も残されていた。
もう手は出さない。
悪党も煮るなり焼くなり好きにしていい。
だから武具は持っていかないでくれ――と。
戦争を仕掛けておいて、ずいぶんと呑気な連中だ。
もし奴らの計画が成功していたなら。
俺たちの懇願など意にも介さなかっただろうに。
戦闘魔法使いへ喧嘩を売った時点で、食うか食われるか。
覚悟があろうとなかろうと、身をもって知ってもらうしかないのだ。
◯国にお宝があとどれだけ残っているのかは知らない。
だが、これだけ吐き出した後で、たいしたものが残っているとは思えなかった。
ダンジョン攻略に特化した特殊部隊も、すでに面が割れている。
さらに、カレンとリュシアンによって対人への魔法行使は封じられた。
加えて、全世界に配信しながらでなくては魔法を顕現できないように制限。
おそらく世界初のフルオープンな軍隊。
やつらの好感度も上がるし、ダンジョンのコンテンツも拡充して言うことなしだ。
万が一の意趣返しの芽も、潰しておくに限る。
その魔法戦特殊部隊と悪党の一行は、ベアトリス大統領が派遣した米国の部隊に引き渡された。
責任者の部隊長は、ゼファスに訝し気な表情を見せる。
「ゼファスさん。
……なんですか、これは」
彼らの目に映るのは、上半身に黒い帯を巻き付けてホットパンツを身に着けた特殊部隊の面々。
ゼファスは思いっきり渋い顔をした。
「文句なら日本のイカレ連中に言ってくれ。
俺はもう知らん」
そうはいいつつも、左手首にはまったチェーンをチラチラと見せつける。
「グレイプニル――
まさかこの歳で神話伝承級を手に入れるとはな。
お前も次は参加することだな」
銀縁眼鏡のブリッジをクイッと上げると、部隊長はハア……と深いため息をついた。
そんなこんなで、イナンナの世界の闖入者は排除され、本来のイベントへと戻る……。
その前に、もうひとつコンテンツが用意されていた。
厄災の魔女 対 真竜。
真竜など、世界中の人々は伝説でしか知らない。
俺たちが撮影した、バクナワがアクアブレスを放つ映像が公開されると、「いやいや、あんなの無理っしょ」のコメントで溢れかえった。
しかし、受けて立つ厄災の魔女の実力も折り紙つき。
再び世界の目が冒険部チャンネルへと向けられるのであった。
***
数日ぶりに拠点に帰り着いた。
俺と麗良は昨日の午後から仕込みを開始し、夜中まで半泣きになりながら作業していたのだ。
その麗良は、もはや燃え尽きている。
俺は肩を貸し、仮眠室に転がして毛布をかけると背伸びをした。
麗良はうなされながら、その手つきは海老の背ワタを取っている。
不憫なやつだ。
しかし、まだまだ甘い。
これしきの戦場、学食では日常茶飯時なのだから。
調理場に向かうと、山本先生が心配そうに声をかけてきた。
「近藤先輩、大丈夫ですか?」
俺は軽く笑って手を振る。
モンスターとの戦いよりも厳しい戦場だったのかもしれないが、麗良も冒険者の端くれだ。
少し休めば回復するだろう。
「それにしても、こちらの準備もすごいな……」
思わず感心してしまう。
昨晩はお宝祭りアンド前夜祭ということで、悪党から鹵獲した豚十二頭分を料理したというのに、しっかり下ごしらえまで。
さすがは、山本先生だ。
もっとも、聖王リウを中心とする獣人調理チームの活躍あってこそなのだが。
その聖王は意外と元気そうで、鼻歌交じりに鯛の鱗を取っている。
俺を見ると、「久しぶりー」と気さくに声をかけてきた。
いまやトカゲ帝国の約四分の一を落とす勢いの国王にはまったく見えない。
本人も、政治には手を出さないため自覚はないのだろうが。
本日は、新興国家『飯』総出のイベントだ。
ティナやリスティア、レオンもこちらに合流して忙しく働いている。
そして、グレイスも包丁を手に取っている。
こいつは羊獣人の精霊の試練が終わってやることがなくなったので、合戦に混ぜろと言ってきた。
こちらとしても、戦闘民族の加入はありがたかった。
やがて会場の準備も整い、リズとバクナワは対峙する。
次の特別企画の幕が上がるのだった。




