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終末のSSR ―最強おじさんの最弱SSR育成プロジェクト―  作者: 白猫商工会
第07章

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第218話 整える力

第七層ボス、フンババ。


獅子のような顔を持つ大男。

帰らずの森の番人でもある。


メラムという不可視の鎧に包まれており、挑む前に解除用のキーアイテムを揃えておく必要がある。


俺たちが今向かっているのは、フンババへのショートカット。

初日は、まずはボスの確認だった。


来奈が声をかけてきた。


「でさー、そのボスなんだけど。

アイテムがないと、絶対に無理なわけ?」


俺は振り返らず、軽く頷いた。


来奈の隣を歩く麗良が、代わりに答える。


「メラムは威圧みたいなものと呼ばれているけど。

単なる脅しじゃなくて神威の力を持っているから……

七つの驚異的な力を秘めているわ」


第一のメラム:触れるものを焼き尽くす熱波。

第二のメラム:鼓膜を破り、心を砕く爆音。

第三のメラム:吸い込むだけで命を奪う毒の息。

第四のメラム:動きを封じる氷の圧。

第五のメラム:視界を奪い、感覚を狂わせる暗闇。

第六のメラム:巨木をなぎ倒すほどの突風。

第七のメラム:視るだけで相手を呪い殺す。


麗良は、げんなりとした顔を見せた。


「六つ目までは強力だけど、対処の余地はまだある……

でも、“見るだけで殺す”なんて反則でしょ。

結局、最後まで剥がさないと話にならないわね」


かつては光学迷彩で姿を隠して挑む猛者もいたらしいが、単純に視界から外せばいいという話でもないらしい。

何しろ、神威の力だ。


来奈が声を飛ばす。


「なにそれ、やばくね?」


実に素直な反応だ。


俺はついでのようにつけ足した。


「メラムが剥がれた後も、普通に強力なモンスターだからな。

……ヘカトンケイルスと同じくらいか?」


日村へと振る。


「あれも相当やばかったけどな。

まあ、初見でいきなり衝撃波にはやられたぜ」


ギュエース戦で手痛いダメージを受けた記憶が蘇ったのか、顔をしかめた。


強さ基準はヘカトンケイルス。

こいつらには、分かりやすいだろう。


熊耳が、ぼそりと呟く。


「そんな相手に、私たちだけで……

茜ちゃん、大丈夫ですの?」


まあ、それが普通の反応だ。


だが、犬養は静かに笑った。


「そんなの、私一人じゃ無理に決まってるけど。

日葵ちゃんの魔法があるじゃない。

……私たちのコンビネーションなら、フンババだろうが何だろうが、粉砕してみせるわ」


小動物系の見た目に似合わない、頼もしい言葉。


……なんだろうな。


犬養は、補助特化の能力に自信が持てない、どこか地味なキャラクターだったはずだが。


ヴィオラに与えられた“尖り”によって、完全に開眼していた。


山本先生の、

「それでこそ、ワシが見込んだキャプテンや!!」

という言葉が、背中に刺さる。


また戦闘狂がひとり。

思ってもいなかったところから現れた。


来奈が振り返る。


「茜ちゃん、すごいじゃん。

その剣もカッコいいしさー」


隠しダンジョンのガンショップの店員に見立ててもらった品だ。


イクシオン・アンド・ハント商会。

数千年の歴史を持つ、老舗中の老舗。


一見(いちげん)の冒険者からは尻の毛までむしり取る金の亡者どもだが、顧客名簿に載れば手厚いサポートが受けられる。


もっとも、その名簿に載ること自体が高いハードルで、ましてや学生など本来はあり得ない。


だが、あの店員。


最近、ショップの売上が爆増したことで、商会内でもそれなりの発言権を得たらしい。


左遷され、穴蔵に飛ばされた身とは思えない大逆転だ。


その縁もあってか、俺たちには好意的だった。


二対のトンファーブレード――フォボスとダイモス。


お値段は、一本たったの一億三千万G。

合計二億六千万G。


「一番いいのを頼む」


漢気あふれる一言でリクエストを出した犬養は、差し出された品に満足し、その場でキャッシュを支払った。


戦闘用グローブは特に銘のない品だが、それでも五百万G。


第一層ボスを一緒に攻略したとき。

五十万Gほどの分け前を前にして、


「こんな大金……お母さんに預けとかないと」


などと可愛らしいことを言っていた彼女は、もういない。


来奈は、どこかで覚えてきたカンフーの構えを取る。


「あの格闘もさー。

あたしもキュレネ使って、ああいうのやりたいんだよね」


ヴィオラは、特殊任務に従事していただけあり、格闘術にも通じている。

俺とは違うアプローチで、学生たちの手本となっていた。


来奈も訓練しているが、ヴィオラいわく、犬養の方が上手いらしい。


犬養は、軽く手を振る。


「入江先輩は、パワーとスピードが尋常じゃないですから。

小手先の私なんて、全然……

人には合った戦い方がありますから」


強者の視座。


謙虚なようでいて、

「お前は考えなしに殴るだけだろう」

という本音が、うっすらと滲んでいた。


しかし来奈はまったく気付かず、


「えー? そうかな」


と、満更でもない笑顔を浮かべるのだった。


そんなこんなで、しばらく歩くと遺跡が見えてきた。


ここには、ボスへのショートカットとなる転移陣がある。


もっとも、これが発見されたのは近年で、かつては壁によって隠されていたのだ。


そんな説明をすると、後方から由利衣の声が飛ぶ。


「じゃあ、まだ見つかっていない隠し要素もあるってことですか?」


俺は答える。


「その可能性はあるな。

何しろ、遺跡群だって全部の調査が終わっているわけじゃない」


もっとも、大半はスカだ。

一攫千金を夢見る連中は多いが、そう簡単にお宝は微笑まない。


「それ、見つけられたら映えますよね?」


……。


振り返る。


由利衣の、好奇心に満ちた顔。


「黒澤……お前、やる気か?

第七層は広いぞ」


女教皇のマッピング能力。


魔力の索敵レーダーを応用し、地形をスキャン。

さらに、自動書記でタブレットの地図アプリに転写する。


これができる魔法使いは、世界を見渡しても由利衣ただ一人だ。


悪魔の国チャレンジでは、コットス率いる十万の軍勢を常時監視するという離れ業をやってのけた。


その魔眼の練度は、着実に進化している。


それでも――


「地下や塔もあるからな。

それに、魔力隠蔽もある……さすがに全部は難しいな」


これまでのマッピングは平面だ。

高さの情報までは拾えない。


そして厄介なのが、魔力隠蔽。


ショートカットへの通路も、同じ仕掛けだった。


由利衣が問いかける。


「隠蔽って、隠しダンジョンのダンマス部屋みたいなものですよね?」


俺は軽く頷いた。


魔力を遮断する空間。

ダンマス部屋は、幻術で“あるはずのない壁”を認識させるという、手の込んだ構造になっていた。


由利衣は、ちらりと梨々花を見る。


「どうする、梨々花。

バトルで披露する予定だったけど」


梨々花は、わずかに思案する素振りを見せた。


そして、黒髪をさらりとかき上げる。


「ほんのさわりだけなら……いいんじゃないかしら。

高柳くん、あれも運用できるわよね」


政臣は、親指を立てた。


それを確認すると、梨々花は俺へ声をかける。


「先生。

先日のレイド……なかなか興味深く拝見しました。

特に原初の精霊には、感銘を受けましたわ」


突然、何の話だ。


だが、これから披露するというのなら。

俺は口を挟まず、黙って頷いた。


梨々花はアイテム袋からキャンプ用の椅子を取り出し、由利衣を座らせる。

由利衣は手にスマホを持っている。


梨々花は背後に回り、両肩に手を置いた。


「ダンジョンに満ちる四大元素……原初の精霊の力を借りて“視ます”」


そう言うと、魔術師の魔眼が淡く黄金に光る。

瞳の光彩のリングに、色が灯った。


青、赤、緑、橙。


四大元素の象徴色が、次々と切り替わる。


だが、ランダムではない。

一定のパターン――いや、リズムを刻んでいた。


梨々花の唇が動き、何かを由利衣に囁く。

由利衣の唇も、同じ動きをなぞる。


やがて――


女教皇の魔眼にも、黄金の光が宿った。


俺は小声で、麗良に話しかける。


「おい……これ」


麗良の表情は真剣そのものだった。


「先輩、この子たち……魔法使いになってまだ一年なのに。

どれだけ化け物なんですか」


俺と麗良の松枝一門は、剣術を主体とする戦闘魔法使いの一派だ。


その極意は、実体の刃で“斬る”のではなく、“魔力で打ち消す”こと。

肉体を持たない死霊のような相手にも通じる剣技を磨いてきた。


必要なのは、目に映るものを“見る”ことではない。

魔力の本質を“視る”ことだ。


――その感覚が、梨々花と由利衣からも感じられる。


来奈が言った。


「あたしにはよく分かんないんだけど。

梨々花が視えてるものに、由利衣が合わせにいくんだって」


似たようなことがあった。


梨々花が来奈に二属性付与という高度な技を試みたとき、由利衣が媒介となり、二人の魔力を同調させた。


あれは、俺でも難しい。


それを、いとも簡単にやってのけたのは、やはり偶然ではない。


女教皇に秘められた能力……。


そして、来奈は続ける。


「梨々花だけだと危ないけど。

由利衣と一緒だと落ち着くんだってさ」


これまでの情報を整理すると。

おそらく、魔力のシンクロと調律。


――整える力だ。


やがて、二人の魔眼の光が消える。


「終わりました……」


由利衣の言葉に、俺は疑問を口にした。


「終わったって……

マッピングは?」


梨々花が代わりに答える。


「高柳くんとダンさんが開発した新しい地図アプリ。

書き込まなくても、女教皇の魔眼から魔力を流し込めば、自動生成されますから」


そう言って、タブレットを差し出した。


魔法使い専用アプリ。

熊耳の召喚魔法デザインツール以外にも、作っていたのか。


画面を開くと、第七層の地図が表示される。


しかも――


「嘘だろ……」


ピンが付いた箇所をタップすると、上下の階層マップへと切り替わった。


政臣が頬をかきながら言う。


「ダンさん、すごいですよ。

僕じゃこんなの無理ですから。

三千万Gで作ってもらったのは、正直安すぎます」


もはや、金銭感覚がおかしい。


だが――


このマップにどれだけの価値が眠っているのか、想像もつかない。


日村が、さっそく食いついてきた。


「佐伯、ちょっと貸してくれ」


そう言いながら、バッグから分厚い手帳を取り出す。

こいつはいまだにアナログ派だ。


日村はタブレットを手に難しい顔をする。


「どうやって使うんだよ……」


見れば分かるだろ、という言葉は禁句だ。


来奈は基本的なスワイプやピンチ操作から、中年にレクチャーしてやる。


日村の視線は、手帳とタブレットを忙しなく行き来していたが――


やがて、タブレットを俺に返し、手帳をしまった。


そして、いきなり梨々花に土下座する。


「頼む!!

この地図を公開するのはやめてくれ!!

いや……俺に売ってくれ!!」


梨々花は中年を見下ろしながら、穏やかな声で言った。


「日村さんのおっしゃりたいこと。

つまり、未踏領域を自分で確認して、お宝を手に入れたい……かしら?」


日村は頭を上げないまま答える。


「俺だけじゃ手が足りないからな。

同期や先輩後輩にも声をかけるつもりだが……

……たまげたぜ。

もう出涸らしだと思ってた遺跡に、まだ隠し部屋があるなんてよ」


梨々花は頬に指を添え、思案するように首を傾げた。


「まあ、私たちも全部回るわけにはいきませんし……

第八層にも進みたいですから」


日村が、ばっと顔を上げる。


梨々花はしゃがみ込み、目線を合わせた。


「ただ……誰かが独占するというのは。

みんな、冒険したいじゃないですか……違います?」


もっともらしい言葉とは裏腹に、その目にははっきりとGマークが浮かんでいる。


「私たちの攻略サイトに遊びに来てくれた人には……

教えてあげてもいいかなって」


戦闘魔法使いとしての実力は、日村の方が遥かに上。

だが、この場を支配しているのは、明らかに梨々花だった。


麗良がドン引きした様子で囁く。


「先輩……よくこんなのを手なづけてますね」


手なづけてなどいない。


だが――


「桐生院。

日村には、武器解放素材の提供で世話になっているだろう。

攻略内容をシェアするという条件で、優先権を与えてくれ。

他は段階的に情報公開……これでどうだ?」


日村率いる日本の冒険者が攻略サイトを盛り上げ、

他の冒険者は時間差で続く。


落としどころとしては、悪くないだろう。


梨々花の眉が、わずかに動く。


「高柳くん……

誓約APIの開発、進んでいるかしら」


アプリ上で規約に同意すれば、リュシアンの法王の魔眼が発動する。


使用料はフランス政府へ流れる仕組みで、契約は済んでいる。

――もちろん、本人の意思は一切介在していない。


政臣が頷いたのを確認すると、梨々花は営業スマイルを整えた。


「先生の言うとおりにします。

日村さん、冒険……盛り上げていきましょうね」


そう言って、手を取って立たせる。


日村の顔がぱっと明るくなる。


「おお、任せとけって。

ガンガン攻略してやるからよ」


……他の冒険者の取り分も、きちんと残しつつ。


そのあたりの塩梅は、梨々花なら心得ているだろう。


話がまとまったところで、先に進むことに。


フンババへの転移陣は、遺跡中央の神殿の地下。


俺たちは、遥か離れた場所へと飛んだ。


似たような神殿の地下へと転移する。


地上へと抜けた俺たちが目にしたのは――


禍々しく蠢く森の姿だった。

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