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終末のSSR ―最強おじさんの最弱SSR育成プロジェクト―  作者: 白猫商工会
第07章

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第215話 第五層クリア

第五層ボスの間。


階層ボスは、悪魔大公。

鏡の世界の管理も兼任している下位魔神だ。


知り合いのモンスターとバトルをするのは気が引ける……。


などという感性が、戦闘民族たちにあるはずもなく。


日本SSRと山本先生、そして麗良の猛攻が大公を削っていた。


お付きの悪魔道化も、本性であるベルフェゴールの力を隠したまま。

それなら、悪魔の国チャレンジを乗り越えた三人と山本先生にとって、倒せない相手ではない。


ボス戦は、基本的に俺は手を出さない。

突破して先へ進む実力があることを示すためだ。


麗良はレベルが下がっていることもあり、特別参加だった。


現在、レベル5。

星が上がるたびに必要経験値は重くなる。

一週間でここまで上げたのは上出来だ。


第四層の世界樹近辺で、魔戦部を総動員して特訓したらしい。

新一年生もいるのに、容赦のない部活だ。


腕を組んで眺めていると、日村が話しかけてきた。

こいつも見学だ。


「いよいよ第五層突破だな……

俺がクリアしたのは、プロになってからだってのによ」


感心したように息を吐く。


皆そうだ。

学生でここまで来たやつなんていない。


昔の魔法使い育成方針は、無理に深い階層を目指すのではなく、魔力制御を徹底的に磨き上げることを重視していた。


進路は冒険者の一択。

攻略はプロになってからやればいい。

そういうことだ。


ただ――


こいつらはコンテンツのために、常に新しいものを目指す宿命を背負っている。


回遊を止めると死ぬ、マグロみたいな連中だ。


俺の目の前には、満身創痍の悪魔大公。

悪魔道化はすでに散っていた。


公国の仕事に加え、最近は魔王領の営業まで押し付けられている苦労人……いや、苦労魔神。


その相手に一切の情を見せず、由利衣の魔力弾が雨のように降り注ぎ、梨々花のマグマが襲い、山本先生の矢がぶち抜いていく。


まあ、冒険者の相手をするのもモンスターの仕事だ。

ここは割り切るしかない。


しかし――


悪魔大公のファイナル技。

あれは、油断していると危ない。


日村が嬉しそうな顔をする。


「そろそろじゃねえか?

ギャラクティカ・ノヴァ 〜煉獄のエチュード〜」


……その恥ずかしい技名は、前の大公のセンスだ。


やつは賢者の石を手に入れて中位魔神となり、どこかへ消えた。


いま目の前にいるのは、密かに二代目を襲名した“別物”。


技名は「黒炎破」。


新大公は質実剛健な性格らしい。


――それはともかく。


黒き獄炎が、いままさに召喚されようとしていた。


どう対処する?


そう思った、そのとき。


来奈の大声が響く。


「委員長ー!!

映えるやついくよー!!」


すかさずカメラを向ける政臣。


何をする気だ――


来奈は腰の小さなバッグに左手を突っ込んだ。


あれは先日、ネットオークションで競り落としたマジックバッグ。

容量は大型冷蔵庫一台分ほど。


魔法の品だけあって高価だ。

値段は六千万G。


守銭奴でケチな……もとい、ビジネスに聡い倹約家の梨々花が、珍しく金に糸目をつけず競り落とし、来奈に持たせていた。


その小さなバッグから取り出されたのは――


乾燥梅干し。


来奈はそれを口に放り込む。


そして右手で銃を抜く。


その間にも、大公は腰を落とし、突き出した手のひらから黒き炎を溢れさせていた。


黒炎が放たれる直前、来奈はトリガーを引く。


体が光った……気がした。


撃ち出された魔力弾が大公を貫く。


――この威力。


来奈の銃は、風魔法で魔力弾を撃ち出すシンプルな構造。

威力よりも扱いやすさを優先した品だ。


それが、魔神を貫いただと?


来奈は次々に梅干しを口に放り込み、トリガーを引く。


魔力弾が連続して大公を撃ち抜いていく。


竜魔法だ。


あいつ、ウィンドブレスを乗せて撃っている。


いままで竜魔法など使ったこともなかったのに、あれだけの威力を連射するなんて。


日村も異変に気づいたようだ。


「おい、あの魔力はなんだ?」


竜魔法は通常の魔力とは異なる。

その切り替えも滑らかだった。


梅干しを食べながら、魔力弾を射出する来奈。


由利衣の応援の声が飛ぶ。


「来奈ー!!

そろそろいっちゃおうかっ!!」


来奈は頷くと、バッグから黒酢ドリンクを取り出した。

しかも二リットルペットボトル。


……なぜ、いま健康志向?


疑問が浮かぶ間にも、来奈の体が強く輝いていく。


銃を両手で握り、視線はまっすぐ。


「いけっ!! ドラゴンチャージ!!」


来奈が叫ぶと同時に、由利衣と梨々花からネーミング案が飛ぶ。


「えー。

インフィニット・アブソリュート・ストライク・ネオだよね」


「あれは覇竜爆食砲よ」


そんなことはどうでもいい。


撃ち出された魔力弾は風をまといながら回転し、大公の体を抉るように貫いた。


たちまち、モンスターは光の粒となる。


来奈は飛び上がり、喜びを全身で表す。


「やったー!!

キュレネ以外の必殺技っ!!」


驚きしかない。


これまで銃は、殴りで対処が難しい相手への補助手段に過ぎなかった。

だが、これは立派なメインウェポンだ。


嬉しそうに俺のもとへ駆け寄ってくる来奈に、問いただす。


「入江……お前。

あの竜魔法はなんだ?

今まで使えなかっただろう」


来奈は得意げに、少しだけ胸を反らした。


「竜の血が入ってからさー。

なんか、竜魔法も使えるようになってたのよ、これが」


先日の悪魔の国チャレンジ。

瀕死の重傷を負った来奈を救ったのが、竜の血だ。


欠損した臓器を魔力で補い、肉体の再生も促進する。


だがその代償として、完全に再生するまでカロリーを要求する――

そこまでは分かっていた。


まさか、竜魔法と親和性があるとは。


そこに、梨々花が歩み寄り、補足する。


「竜魔法を放つ対価もカロリーです。

いろいろ試してみましたが、ウィンドブレスは酸味が適しているようです」


なんだその最後の一言は。


味が関係あるのか?


「酸味以外だと、どうなるんだ?」


その言葉に、来奈の目がぱっと輝く。


だが、梨々花がそれを制した。


「まあ、それは追々……

まったく、来奈はいつもワクワクさせてくれるじゃない」


意味深な言葉に戸惑う俺に、日村が割り込んできた。


「来奈、お前カッコいいな!!

その竜の血、どうやったら手に入るんだ!?」


こいつは、すぐに人の能力を羨ましがる。

おじさん版の来奈だ。


そして、そんな単純な中年の心に忍び寄るのが梨々花。


「竜の血は、リズさんが現在精製中ですが。

条件がかなり厳しいそうでして。

お値段も……それなりになるかと」


日村と、指で金額の応酬が始まる。


十億G稼がないと嫁と娘の元に帰れないことを、分かっているのだろうか。


というか、とっとと帰ってほしいんだが。


……それはそれとして。


「そうか、入江……

リズとキャラが被ったな」


思わず唸る。


儚げな大食いに続いて、能天気な大食い。


あちらの方が何枚も上手とはいえ、カロリーを対価に戦う魔法使いが、ここにもう一人誕生した。


由利衣がこちらに近づき、来奈の肩を叩く。


「ナイスファイト、来奈。

パワーアップ第一弾は大成功だね」


――第一弾?


俺の訝しげな表情を見て、梨々花が言葉を継ぐ。


「私と由利衣も、それなりに良いものを。

先日は松枝大師匠のありがたい薫陶を受けましたから……

ぜひ、また魔力制御を見ていただきたいですね」


師匠とこいつらの間に何があったのかは知らない。

だが、大方の予想はつく。


……やる気か。


俺が黙り込むのも構わず、梨々花と由利衣は楽しそうに笑う。


不穏でしかない。


「なあ、何か隠し玉があるのか?

ちゃんと俺にもだな……」


その言葉は、かき消された。


「必殺技は、ここぞというときに披露してこそ映えですよ、先生。

高柳くんも、そう思うわよね?」


力強く頷く政臣。


それ以上は、口を割る気はないらしい。


俺は諦めて、麗良の方を見る。


「どうだ?

久しぶりにステータスが下がって、戦いづらいんじゃないか?」


麗良は、軽く首を横に振った。


「この調子なら……

第七層でレベルを上げながら攻略できそうです」


実は師匠から、麗良をサポートするために自分も参加した方がいいかと聞かれていた。

いざというとき、俺だけでは戦力が足りなくなることを心配していたのだ。


結局、日村がいるということで出番はなくなったが――

あのじいさんは、素直な麗良にはとことん甘い。


そして「元気のいいSSRたちには、たまに魔力制御を見に行ってやる」とも言っていた。


あちらも、思うところはあるのだろう。

どっちもどっちだ。


俺は麗良へと頷く。


「そうか。

じゃあ、いよいよ来週から第七層だな」


隠しダンジョンに、悪魔の国チャレンジ。

第五層は、表に見えないところにいろいろと仕込まれていた。


第七層も、きっと――


日村をちらりと見る。


何かネタを持っている素振りだが、分け前は三割を要求してきた。


腐っても上位冒険者だ。

それなりの算段があるに違いない。


とにかく、本日の攻略は終わりだ。


俺たちはボス部屋を後にする。


「なあ、今日の飯は何だ?」


見ていただけの中年が、飯を要求してきた。

こいつは学院長に頼み込み、寮の一室を与えられている。


俺は軽くため息をつく。


「お前も作るんだ。

分かってると思うけどな」


寮で働くのが住み込みの条件。

学院長は甘くない。


杏子には、それとなく引き取ってくれないかと連絡を入れていた。


だが、いま顔を合わせると、最大火力の攻撃を寸止めする自信がない。


――そう言われてはな。


そして、梨々花にそそのかされて妙な動きをしないか、監視していてくれないかとも頼まれていた。


ついさっきも、そそのかされたばかりだ。

放置していた俺にも、多少の責任はある。


俺の心労も知らず、日村は山本先生と軽口を叩きながら歩く。

今日はエビフライがいいとか、他愛もない話だ。

来奈が、タルタルも作ってくれとせがむ。


俺は醤油派だ。


そんなことを考えていると、山本先生が麗良へ穏やかに声をかけた。


「近藤先輩、明日はトレント狩りに行きましょうか」


麗良の顔が、一気に引きつる。


第四層最強クラスのモンスター。

世界樹が正常化してから数は減ったが、いまも出没している。


「ミレーヌさん。

ちょっとペースが……魔戦部の一年生には厳しいんじゃないかな?」


厳しいどころか、プロでも油断できない相手だ。


それを、まるでピクニックに誘うような調子で――


山本先生は微笑んだ。


「近藤先輩には、早く完全復帰してほしいので。

最近、ブルーストーン採掘場の近くで八十メートル級の親株の目撃情報がありまして……

楽しみですね」


立場としては、麗良の方が上のはずなのだが。


しかし――


麗良は、すがるような目でこちらを見てくる。


魔戦部の連中からも、きっと俺に嘆願が殺到するに違いない。


またひとつ、ため息をついた。


「山本先生……

明日は隠しダンジョン店に行きませんか。

新メニュー開発、二人で試してみたいものがあるんで」


「二人で」の部分に、わずかに強いアクセントを置く。


途端に山本先生は、ぱあっと花が咲くような笑顔を見せた。


「そうですか。それでは近藤先輩……

申し訳ありませんが、第三層で魔戦部の訓練をお願いしても?」


麗良は何度も頷く。


日村からは、「おいおい佐伯、このセクハラ大将っ!」とヤジが飛んできた。


……くそっ。


日村の相手はせずに歩く。


やがて、城を後にする。


この第五層は、常に月夜。

鏡の世界は常に昼という、おかしな設定だ。


頭上には、煌々と光る満月。


青みがかった光を浴びながら、門へと進む。


出口近くの広場にはベンチがあり、冒険者たちが休憩している。


俺たちはこのまま帰還する予定で、素通りしようとした。


ベンチのひとつに、見知った顔がいた。


「ゼファス、来てたのか」


老魔法使いに声をかける。

隣には、マスクとサングラスをつけ、帽子を目深に被った女性。


逆に目立つのでは、とも思うけどな。


「フェレナ……さんも、冒険始めたんですね」


まだ彼女とはそれほど親しくはない。

思わず言葉遣いを迷ってしまう。


だが、リスティアは軽く手を振った。


「冒険してるときは、固いのは嫌よ。

リスティアでいいわ、シュージ」


恋人のSSR。

そして、世界的なアーティスト。


サングラスを少しずらす。


「レイド、なかなかクールだったわよ。

まさか、こんな地味なおじさんがねー」


はっきり言ってくれる。

最初に登場したときは、俺のことは完全に視界に入っていなかったくらいだからな。


リスティアは、「ああ、ごめーん」といたずらっぽく笑う。


「レイドでまさか五人もSSRが出てくるなんてね。

私も出たかったけど……」


そう言って、ゼファスをちらりと見る。


いくらSSRといえども、大国アメリカの威信を背負うにはまだ修行不足。

ゼファスは、そうハッキリと言い切っていたのだ。


それで、今は攻略に力を入れているということか。


そこに、門の方向から歩いてくる一人の女性。


ティナは俺たちに気づくと、大きく手を振った。


「今日がボス戦だったよね。

結果は……って、聞くまでもないか」


その言葉に、日本の三人は笑顔を見せた。


ティナはリスティアへとちらりと目線を向けて続ける。


「こっちは、第五層攻略のコラボ中。

私たちも近いうちに第七層に行くから。

美味しい話あったら、よろしくね」


ゼファスは、やれやれといった様子で立ち上がる。


「俺はまだレベル12なんだがな……

じじい使いの荒い連中だ」


口ではそう言いながらも、楽しそうな顔。

半引退のようだったが、星5に上げていよいよ本格的な再始動だ。


俺が頷くと、ゼファスは肩を軽く叩いてきた。

そのまま、城へと歩き出そうとする。


しかし、ふと思い出したように言った。


「第七層。

つい数日前から、動きだしたようだな。

十年ぶり……かな」


そして、少しだけ顔をしかめた。


俺は「そうか……」とだけ相槌を返し、城へと向かう彼らを見送った。


「じゃあ、帰るか」


「先生、何が動き出したんですか?」


俺は少しだけ考えるそぶりをして、肩をすくめる仕草。


「どうせ第七層に行けば分かるさ」


軽く手を振って歩き出した。


歩き出すスーツの背を見ながら、梨々花は呟く。


「由利衣は、どう思う?」


由利衣は、小さく息をついた。


「どうもこうも……怪しさしかないじゃない。

急がないと」


二人は軽く頷きあう。


次の冒険のステージが待ち構えていた。

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