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終末のSSR ―最強おじさんの最弱SSR育成プロジェクト―  作者: 白猫商工会
第07章

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216/222

第214話 新たなパーティ

翌日は、やはりというか。

世間様の手のひら返しのオンパレードだった。


レイド前は年齢がどうとか魔法使いランクがどうとか……。


挙げ句の果てには、人の風貌をつかまえて、華がないだの地味だの目つきが悪いだのと、好き勝手なことを言い放っていたくせに。


ワイドショーの雛壇コメンテーターたちは、「俺は最初から分かっていた」という顔で調子の良い言葉を並べていた。


日本は四位の大躍進。

惜しいところで優勝を逃した批判はあれど、それは少数派。

なにしろ、ベストファイブに入るのは初めてだったのだ。


その立役者は、誰がどう見ても今回飛び入りの中年。

まったく期待されていないどころか、むしろマイナスからのスタートだっただけに、その反動は大きかった。


そして、その渦中にあるおじさんは――


いまは鍋を振るっていた。


急遽開催が決まった、さえき亭の「レイドMVP記念セール」。

すべてのメニューが百G。


第五層の魔王健康ランドのテナント店には、各国の魔法使いたちが押すな押すなの大行列。


そいつらの腹を満たすために、俺は小学生の姿で厨房に立っていた。


……元の姿に戻るまでは、あと数時間。


MVPだろうと、小学生だろうと。

ビジネスの機会を逃すはずもない梨々花は、一切の容赦を見せなかった。


俺は声を張り上げる。


「おい、麗良。

大宴会場に出前だ。

回鍋肉丼にラタトゥイユ、和風ハンバーグ、鶏の甘酢あんかけ!!」


一回のオーダーは一種類にまとめろ。


そんな殿様商売は、総務課長が許さなかった。


麗良は、うんざりした顔を見せたが――

俺の鋭い視線を感じると、イミテーションスマイルを作る。


「はーい、よろこんで!!」


おかもちを手に、店を飛び出した。


「ついでにビラ配りもしてこい」


声を飛ばしながら、俺は再び鍋に向き合う。


麗良は、さっそく星を上げて、いまは星4レベル1。


再びレベルを積むため、冒険部と魔戦部の訓練に参加することが決まっていた。


だが、今は飯を作る時間だ。


そして、ちらりと横目で鼻歌まじりにジャガイモの皮をむく男を見る。


日村……。


杏子は確実に首を落とす気だった。

あの攻撃魔法にも耐えるとは、タフなやつだ。


――なぜ、黙ってガチャを回したことがバレた?


そう言いたげな顔をしていたが。

どうしてバレないと思ったのだろうか。


ほとぼりが冷めるまで匿ってくれ。

そう言って、転がり込んできたのだ。


だが、騒動に紛れて山本先生の魔の手を躱せたのは助かっていた。


日村はスマホを立てかけ、昨日のレイドを映していた。


やつの新技、八雷神のシーンになると、嬉しそうな表情を見せる。


「なあ、佐伯……

男ってやつは、一瞬の伝説のために、すべてをかけてガチャを回す。

……分かるだろ?」


俺は軽く首を横に振るだけ。


口をついて出てきた言葉は、「レバニラあがりー!」だった。


そして、仕上がった料理を着物姿の橘が運んでいく。


朝岡はビールサーバーから黄金色の液体をジョッキに満たす。


尾形も忙しく働いていた。

あれだけダメージを負っていたのに、動けるくらいには回復している。


――あれから。


日本レイドチームには、メディア取材の依頼が殺到していた。

それは当然だろう。


しかし、俺は「定食屋が忙しい」と断った。


何を言っているのかわからない――

そんな顔をされた。


俺もだ。


だが、これは仕方のないことなのだ。


とにかく、さえき亭のセールが終わってからにしてくれと頼んだが、相手も引き下がらない。


そこに梨々花が食いついた。


取材は、魔王健康ランドでやってはどうか。


各メディアに在籍する魔法使いに、優待券を配る。


「ついでに、魔王領の名所も取材してはどうでしょう?」


目にビジネスの光を宿し、梨々花は微笑んだ。


かくして、俺が定食屋で働いている間は、日本SSRによる魔王領ぶらり旅のロケ。

終わってから取材。


橘たちは店を手伝う必要はないのだが、俺だけ働かせるのは気が引けたのだろう。

なんだかんだ、気の良い連中だ。


米倉が、微妙な顔でやってきた。

レイドでは出番はなかったが、なかなか優秀な攻撃魔法の使い手らしい。


「おやっさん、コシーニャ作れないかって聞いてきてるお客さんがいるんですけど」


なんだそれは。


世界各国の魔法使いが来店し、メニューにないものまで注文してくる。


NOと言うな。

世界の料理に精通してこそ、一流の戦闘魔法使いだ。


そんな理屈にならない梨々花の命令で、俺はあらゆるオーダーに対応しなければならない。


厨房に据え付けているタブレットで確認する。

ブラジルの、鶏肉を使ったコロッケのようなものか。


材料はキャッサバ……だと?


しかし――


「コシーニャ、一丁よろこんで!!」


俺の掛け声を受けて、米倉は客席へと戻っていった。


――ある意味、破壊神よりも手強い。


だが、俺たちが自由に冒険するには、資金がいるのだ。


コシーニャは、ただのコシーニャじゃない。

自由への切符だ。


俺は日村へ、ササミとキャッサバを茹でるよう指示を飛ばす。


やがて麗良が出前から戻ってきた。


にこにこと、上機嫌だ。


「昨日、シヴァ戦に参加していた選手から声をかけられて。

お礼、言われちゃいましたよ」


あのドラゴンスレイヤーの一撃がなければ、全員生きていなかったからな。


俺はササミをほぐしながら、ゆっくり頷く。


「そうだな……

俺は、MVPはお前だと思ったんだけどな」


麗良は小さく笑いながら、キャッサバを裏ごしする。


「それは、またレベルを上げて次のレイドで……

いまは、冒険してもっと強くならないと」


ふと、視線を落とす。

どこか思い詰めたような顔だ。


「どうした?」


声をかけると、手を動かしながらぽつりとこぼす。


「第五層のボス……は、来週ですよね」


本当は先週のはずだったが、レイドの件もあって延期していたのだ。


「そうだけど……来るか?

レベル1じゃあ厳しいかもしれないけど」


魔力制御の練度を考えれば、レベル1でも戦えないわけじゃない。

それでも、ステータス差は無視できない。


それに、第八層を攻略中のこいつが、いまさら第五層にこだわる理由もない。

レベル上げなら、他にも適当な場所はある。


そんなことを考えていると、麗良の真剣な眼差しが届いた。


「先輩……私も第七層攻略に加えてもらえませんか?」


……。


「お前は、既に攻略したんだろう?」


麗良は、小さく首を振った。


「冒険を、やり直したいんです」


俺は、ため息を吐く。


やはり、これもけじめというやつか。


「分かった。

うちの三人も、お前の戦いを見るのはいい勉強になるだろうな」


あいつらは麗良のファンだ。

嫌がるどころか、大歓迎に違いない。


俺の目に映る麗良の顔が、嬉しそうに輝いた。


「じゃあ、来週までには少しでもレベル上げしておかないと。

ミレーヌさんも手伝ってくれるって言ってたから」


山本先生にとって、麗良は学生時代の恩師にあたる。

まさか、魔戦部式ド根性トレーニングはやらないだろうが――

いや、分からないな。


そういえば、ふと気になった。


「お前、自分のパーティはいいのか?」


俺と理沙がいなくなってから、同期と後輩で組んだ四人組。

前衛アタッカーの一時離脱は痛いはずだ。


しかし、麗良はひらひらと手を振る。


「大丈夫。

星上げの話はしてたから。

レベル上げも手伝ってくれるはずだったけど……

第八層も手を抜けないから」


そして苦笑する。


「杏子さんが、代わりに入ろうかって言ってくれたんだけど。

芹那が……仕方ないからやってやるって。

ほんと、昔っから恩着せがましいんだから」


なるほど。


芹那なら戦闘力としては申し分ないだろう。

パーティ内でうまくやっていけるかは疑問だが。


「そうか。

それなら心置きなく冒険できるな。

三人には俺から話しておく」


そして俺たちは、腹を空かせた魔法使いたちの胃袋を満たしていく。


それが終わると、メディアの取材をこなし、日本中へ愛想を届けた。


レイドのメンバーは一時的な集まりに過ぎなかったが。

俺の中では、もう仲間認定だった。


それは向こうも同じらしい。


橘は、しばらく鬼蜘蛛の復活に注力するという。

魔界へのキーアイテム――悪魔の心臓が揃ったときは必ず声をかけると約束し、別れた。


朝岡と米倉は同じパーティー仲間。

こいつらも第八層を攻略中だ。


日本SSRと、どちらが先に突破するか競争だと笑って握手する。


若いやつらがギラギラしているうちは、この国もまだ大丈夫だ。


……なんて、おじさんくさい感傷に浸ってしまった。


そして。


一日の仕事が終わる。

俺も、中年の姿に戻っていた。


厨房の火を落としたことを確認する。


「さてと、帰るか」


そのとき、視線が突き刺さる。


「なあ、佐伯よお」


……こいつ。


俺は腰に手を当て、諭すように言う。


「きちんと謝った方がいいんじゃないか?

誠意をもって謝罪すれば、杏子の怒りも……」


――無理だろうな。


言葉が途中で切れた。


だが、このままというわけにもいかない。


「どうするんだよ。

五千五百万Gの二十連……十一億Gだろ?」


そのうち一億Gはピンハネだから、俺が言えば梨々花は諦めるだろう。

だが、十億Gは精霊がきっちり取り立てていた。


日村はキョロキョロと周囲を見回し、俺たち以外に誰もいないことを確認すると――

そっと耳打ちしてきた。


「SSRの武器解放素材だけど」


……最近それどころじゃなくて忘れていたが。


あいつらの最強武器を解放するための素材の積み上げ。

寄付の募集は、相変わらず続いていた。


「それがどうかしたのか?」


「なんでオリハルコンの募集が消えてるんだ?」


心臓が一瞬、止まる。


迂闊だった。


オリハルコンの価値は金と同等以上。

武器解放に必要な量は三百キロ。

簡単に集まる量じゃない。


その募集を止めた理由は――第四層、世界樹の麓で大量のオリハルコンを見つけたからだ。

それは日本を含む六か国のSSRだけが知る、秘密事項。


俺は努めて冷静に、とぼける。


「え……オリハルコンなんて募集してたかな」


日村の囁きが、それを打ち消す。


「俺は最初から寄付してたんだぜ。

見逃すはずがないだろ?」


――何も考えていないくせに、こういう嗅覚だけは鋭い。


背中に嫌な汗が流れる。


こいつ、どっちだ?


お宝のためなら手段を選ばない冒険者はざらだ。

必要とあらば、殺しも辞さない。


ましてやオリハルコン。

どんな聖人の目も曇らせる希少金属。


……いまは、お互い帯剣していない。


魔法勝負なら、上級魔法を使えるSRの日村が有利。


先手必勝。

戦闘魔法使いは、迷った方が死ぬ。


俺は貫手に魔力を込める。


一撃で首を飛ばす。

それしかない。


「でさ。その金持ちを紹介してほしいんだわ。

代わりに、いいネタ持ってっからよ」


その声に、手の動きが止まる。


「……金持ち?」


日村が肘で俺の脇腹をぐりぐり押してくる。


「すっとぼけんなよ。

オリハルコン三百キロなんて、どんだけ太い金持ち捕まえたんだよ。

そいつの情報と、俺のお宝情報の交換。

どうだ?」


……考えすぎだったか。


右手の魔力を散らしながら、目を逸らす。


「金持ち……は、匿名希望だからな。

悪いが教えるのは無理だ。

けど、その情報は冒険部ホールディングスが買うぜ」


日村は嬉しそうな顔をする。


「そうか、俺はどっちでもいいんだ。

じゃあ、第七層だな。

俺もつきあうぜ」


いや、お前はいらないんだけどな。


そんな心の声を無視して、日村は冷蔵庫を漁る。


「そんじゃ、帰るか。

酒とつまみは、これくらいで良いか?」


大量の缶ビールと乾きものを風呂敷に包む。


……ちょっと待て。


俺は大切なことを確認しなくてはならなかった。


「お前……帰るって、どこに?」


俺の目に映るのは、中年の笑顔。


「お前の部屋、少しくらい空いてるだろ?

飲み明かそうぜー」


こうして。

帰る家を失ったおじさんを引き受ける羽目になってしまった。


目標金額は十億G――


麗良と日村。


新たなメンツを加えながら。


第七層へと踏み出していくのだった。

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