表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末のSSR ―最強おじさんの最弱SSR育成プロジェクト―  作者: 白猫商工会
第07章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

215/223

第213話 勝利は誰の手に

魔法使いたちは、全員フィールドに伏せていた。


助かりたければ伏せろ。

女の声が、必死に叫んでいたからだ。


白い世界が消え、恐る恐る見上げると――


上空には、黒い塊……いや、巨大な蜘蛛。


それが魔法使いたちを守るように、強固な糸の結界を空中に巡らせていた。


やがて、その巨体はほどけるように崩れていく。


群体。


小さな蜘蛛が集まり、形を成していたのだ。


風に散る砂のように。

蜘蛛の魔力が消え、糸の結界もまた消失した。


……助かった、のか?


お互いの顔を見合わせる魔法使いたち。


そこへ、着物姿の女の声がフィールドの枠外から響く。


「次はありまへんえ!!

もう消えてしまいましたからに」


俺は思わず呟いた。


「……そうか、鬼蜘蛛を」


橘家が使役する式神、鬼蜘蛛。


太古から橘家とともにあり、守護神のような存在だと聞いている。


それが今、世界中の魔法使いたちを救うために散った。


シヴァ戦の前から、嫌な予感がしていたのだ。


万が一のときは魔法使いたちを守ってほしいと言ったとき、橘は“できることとできないことがある”と答えたが。


それでも、やはり助けてくれた。


しかしそれは、苦渋の決断だったに違いない。


橘の気持ちを思うと、複雑だ。


しかし、いまはまだ終わっていない。

感傷は後回しだ。


俺はシヴァを見る。

第三の目は、再び閉じられていた。


――だが、また来る。


巨神に残された二本の腕と、二体の原初の精霊。

本体のポイントはまだ一万以上残っている。


次に第三の目が開く前に、削りきれるか。


時計を見る。


あと三分……。


各国の魔法使いたちは動揺している。


いま命があるのは、まったくの幸運。


次はない。

その言葉は、重い。


あと三分粘るか、棄権するか。


棄権の決断も、軽くはない。

ここまできて、おめおめ国に帰れというのか。


SSRたちは、覚悟を決めたように削りにかかった。


ヴァジュラの雷撃が穿つ。

砲弾と機銃が撃ち込まれる。

餓鬼が食らいつき、抉り取る。

聖剣が閃く。


……だめだ。


シヴァは、最後の最後に放つ気だ。


この場の全員が抱く、希望的観測。


――もしかして、いけるか?


その期待は、最後にすべて打ち砕かれる。


スコアを見る。


アメリカ  32,000ポイント

中国    30,050ポイント

イギリス  26,900ポイント

韓国    25,800ポイント

インド   23,600ポイント


そして、日本は26,500ポイント。

これまで十位圏外だったのだ。

大健闘だと言っていい。


それは、ここに集まった他国も同じ。


シヴァ戦での稼ぎは、上位には及ばないかもしれない。


しかし、それでも順位を上げているはずだ。

それは確かな自信と誇りに変わるに違いない。


しかし、棄権してしまえば……。


飛燕を握る手に力がこもる。


――SSRたちもいる。

残り時間、俺だって何もしないわけにはいかない。


そう思って、駆け出そうとした。


後ろから肩をぐっと押さえられる。


麗良だ。


「先輩、そんな状態で何する気ですか。

バカなんですか!?」


俺は目を剥き、吠える。


「バカはお前だろ!

またあれが来る。

ここは兄さんに任せて、棄権するんだ!!」


だが、麗良は半ば呆れたように言った。


「そんなチンチクリンな姿で兄さんって言われても……

それに、何か手立てがあるんですか?」


手には短刀一本。

この状態で、村正を使いこなせるかどうか。


思わず、言葉に詰まる。


「いや、だけど……」


そこへ、朝岡も近寄ってきた。


「どうする?

橘のおかげで助かったけどよ。

あれで終わりじゃないとしたら……」


焦りを隠しきれていない。

いや、俺だってそうだ。


しかし、そんな空気を気にせず、日村はやる気満々だった。


「おいおい、せっかく大技を披露して棄権なんかしたら、杏子にぶっ飛ばされちまうだろ」


棄権しようがしまいが、このあと地獄を見るだろうな。


そう思ったが、口にはしなかった。


残り時間が、あと二分を切る。


――来た。


破壊の魔力。


それが満ちていくのが分かる。


次は、絶対の死。


見上げると、薄く開いた額の第三の目。

そこから暴力的な魔力が漏れ出している。


俺は大声で、各国の魔法使いたちへ危険を呼びかけた。


「おい、お前らっ…………!!」


言葉は続かなかった。


魔法使いたちは、全員血走った目でシヴァへと攻撃を続けている。


俺だけじゃない。

もう、全員分かっていた。


きっと、逃げたいに違いない。


ここに残る連中は。

諦めない力とか、そんなんじゃない。


……逃げられないのだ。


最後の瞬間まで、一撃でも多く放つ。

それしか、残された道がない。


――ダンジョンは、自由と冒険と希望に満ちている。


そして、残酷に死を食らう。


俺はもう迷わなかった。


全員を救う。

そんな都合のよい奇跡は到来しない。


だから、選択するしかない。


朝岡と麗良を見る。


「棄権しよう。

ロートルのR魔法使いがビビッて逃げた。

きっとそう思われるはずだ」


二人の目が大きく揺れた。


「お前たちの将来、それだけは潰させやしない。

だから、生きてくれ」


朝岡が何かを言いかける。


それを手で制した。


「日村も、いいよな」


さっきは軽口を叩いていたが。

さすがに、もう躊躇している場合ではないことは理解している。


無言の頷きが返ってきた。


俺は棄権を伝えるべく、橘へ大声で呼びかけようとした。


そのとき。


腰の村正が、何かを訴えかけてきた。


声が聞こえたわけではない。

だが、分かった。


……そうか。


諦めていた奇跡。

そいつを見せてくれるというのか。


急に黙り込んだ俺を、麗良が不思議そうに見下ろす。


俺は静かに村正を抜き、柄を麗良へ差し出した。


「この姿じゃ無理だろうからさ。

代わりに決めてくれないか?

ドラゴンスレイヤー」


このレイドで倒した大物たち。


眷属のスカンダ。

そして、二体の原初の精霊。


ドラゴンスレイヤーへの形態変化に必要な魔力は、すでに満ちていた。


日村が途端に嬉しそうな顔を見せる。

こういうのが大好きなやつだ。


だが、相手にしている時間はない。


「頼む。

止められるのは、お前だけだ」


麗良は、小さく喉を鳴らした。


「私が……?」


目には、ためらいの色。

ここでしくじれば、すべてが終わるのだ。


しかし、俺はあえて村正の柄を押し付けるように差し出す。


「お前に任せた。

結果がどうなろうと、文句は俺が言わせない」


数秒にも満たない時間、視線が交差した。


麗良は小さく頷くと、素早く雷切を鞘に収める。

村正を受け取った。


そして、代わりに短刀を俺の手に握らせる。


理沙の……形見。


「持っていてください」


麗良は駆け出し、飛翔魔法を展開。

振り返らずに叫んだ。


「行きます!!」


一気にシヴァへと飛ぶ。


村正は、麗良の手の中で砕け散る。


復活したときには――

ショッキングピンクに輝く片刃の大剣へと変化していた。


巨神へと速度を上げて迫る麗良。


俺は朝岡へと声をかけた。


「頼む、乗せてくれ!!」


朝岡は、顎をクイッとしゃくる。


箒に勢いよくまたがると、一気に上昇。


「振り落とされんなよっ!!」


俺は背に必死にしがみついた。


そして、箒はシヴァへと飛ぶ。


眼下には、魔法使いたち。


死を覚悟した彼らは目に涙をため、炎を、雷を、剣を、槍を……それでも一歩も引かない。


ありったけの声で叫んだ。


「お前ら、大丈夫だ!!

そのままガンガン攻めろっ!!

日本が何とかしてやる!!」


一斉に見上げる瞳。


必死で鼓舞する小学生。

その姿に、希望を見た。


魔法使いたちの魔力が、破壊の魔力にも勝るとも劣らない熱を持って弾ける。


地鳴りのような声を上げて、攻撃を叩き込んでいく。


箒にまたがる俺の視界の先には、麗良。


シヴァへと迫る。


巨神が繰り出す武器を紙一重で躱す。

そのまま第三の目の高さまで飛び、刃を横一線に薙ぎ払った。


破壊の魔力が消える。

巨大な頭が、超重力へと吸い込まれていく。


たちまち湧き上がる歓声。


だが、火の剣と水の槍が麗良を同時に襲う。


麗良は火の剣を持つ腕ごと切断。

黒い斬撃が生み出した重力場に、スピリット・オブ・ファイアが消えた。


「朝岡、急げ!!」


ロン毛を思いっきり引っ張った。


「オッサン、馬じゃねえぞコラァ!!」


朝岡の罵声を浴びながら、俺たちを乗せて箒は飛ぶ。


シヴァの上で、飛び降りた。


俺の右手には、相棒の飛燕。

そして左手には、理沙の残した短刀――雷電。


両手に魔力を漲らせる。


小学生の体は、星4のレベル1。


しかし、戦闘魔法使いの戦いはステータスだけじゃない。


「理沙……

頼む、守ってやってくれ」


落下の勢いそのままに、巨神の腕へと飛燕を伸ばす。

それは水の槍でガードされた。


だが――


左手の雷電は、腕に突き立っていた。


魔力を外へ漏らさない特殊な刀身。


気付いたときには、もう遅い。

静かなる雷の一撃が、巨神に落ちていた。


雷電に魔力を最大限に込め、一気に撃ち込む。


だらりと下がる腕から短刀を引き抜き、俺は自由落下に身を任せた。


「麗良、やれ!!」


麗良は巨神の首から一直線に降下し、唐竹割り。


シヴァの巨体に重力場が生まれる。


墜落直前の俺の手を取り、巨神から離れるように飛んだ。


ドラゴンスレイヤーは砕け散り、村正の青白い刀身が復活する。

俺は麗良の左手を掴み、飛んでいた。


「先輩……ありがとうございます」


麗良と目が合う。


思わず、互いに笑みがこぼれた。


「やるじゃないか。

シヴァとスピリット・オブ・ウォーター。

こいつらのポイントを合わせたら、もしかしたら……」


ワンチャン来たか?


そう思った、そのとき。


各国の魔法使いたちの目が、獲物を狩るそれに変わる。


こいつらは、やっぱり最後まで戦闘魔法使いだ。

しかし、ここは日本がもらった……。


俺は、口元を緩めて勝利を確信する。


ところが、そうはいかなかった。


「それじゃあ、フィニッシュいこうか!!」


やたらと明るい声がフィールドに轟いた。


直後、地獄の底から湧き上がるような声が重なる。


「喰わせろ」


「喰わせろ」


「喰わせろ」


「喰わせろ」


「喰わせろ」


「喰わせろ喰わせろ喰わせろ喰わせろ喰わせろ喰わせろ喰わせろ喰わせろ喰わせろ喰わせろ喰わせろ喰わせろ喰わせろ喰わせろ喰わせろ喰わせろ喰わせろおおおおおおおおおおおお!!!」


餓鬼王が、超重力に引き込まれようとするシヴァの肉体に食らいつき、むさぼる。


――おい。


俺の目に映るスクリーン。

次々に韓国チームへポイントが加算されていく。


ティナは瞬間移動し、とどめとばかりに金蛟剪のヘッドを巨神に叩き込む。


「審判の強さはそこそこ……なんて、言わせないっつーの!!」


青白い雷光が突き抜け、シヴァが光の粒となった。


政臣がカメラを構える。

それに向かってポーズを決める、すらりとした長身。


……このレイドに参加した五人のSSR。


ダークホースが、最後に美味しいところをかっさらっていった。


ただ一人。


橘だけが、うんうんと満足げに頷いていたが――

誰も、それに気づくことはなかった。


そしてその頃。


日本実況ブースでは――


餓鬼王の食欲に勝るとも劣らない勢いで、リズが巨大お好み焼きを儚げに胃へ流し込んでいたのだった。


***


閉会式。


スタート地点のスタジアムが、会場となっていた。


最後にスピリット・オブ・ファイアと、シヴァの一部のポイントが加算された日本は四位。


三位は中国。


二位はアメリカ。


そして――


優勝トロフィーを手に、満面の笑みを浮かべる審判のSSR。


日本チームは全員、口元を引きつらせていた。


あれはないだろ。


だが、レイドにおいては取った者勝ち。

これだけは揺るぎない真実だ。

四の五は言えない。


けど、まあ。


俺は麗良を見上げる。


「明日からレベルアップだな。

そりゃ優勝が良かったけど……それでも今までの最高順位だ。

堂々と星上げしてこい」


麗良は軽く目を閉じ、静かに頷いた。


そして、俺の頭をくしゃくしゃに撫でる。


「おい、やめろ」


だが、優しい目で見つめてくる妹弟子に、俺はプイっと横を向き、そのまま好きにさせた。


これから第七層を目指す俺にとって、

麗良と師匠との関係改善は、少しだけ心を軽くしていた。


しかし――


ふと気になり、橘へと声をかける。


「なあ、鬼蜘蛛。

いろいろ助かった……けど……」


橘は細い目をわずかに下げると、俺へ人差しを伸ばした。


その先には、小さな蜘蛛が一匹。


「少し時間はかかりますけど……

また力、取り戻しはりますえ」


安堵の息を吐いた。


あのシヴァ戦。

奇跡的に、死者はゼロだった。


皆を守ってくれた式神は無事とは言えないが――


それでも、嬉しかった。


そして、俺は少しだけ声のトーンを落とす。


「魔界なんだけどさ。

俺はいいんだけど、揉めそうなやつがいてだな……」


だが橘は、何食わぬ顔で言い放つ。


「ティナはんのことなら、問題ありまへんえ。

うちら、仲がよろしゅうおますからに」


……どういうことだ?


わけが分からない俺を前に、橘はクスクスと笑うだけだった。


そして――授賞式の最後。


MVP選手の発表。


司会の声がフィールドに高らかに響く。


「MVPは、日本の――佐伯修司さん!!」


上空の巨大スクリーンに、ぽかんとした小学生の姿が映る。


魔法使いたちから拍手が湧いた。


なんてこった。


魔法使いは、いくつになってもやれる。

Rだろうがなんだろうが……関係ない。


麗良が、また頭をくしゃくしゃにしてくる。


「中年のヒーロー……言った通りじゃないですか」


そう言って、麗良は俺の片手をとり、高く上げる。

俺もカメラへ向かって笑顔で応えた。


歓声と拍手が、一段と大きくなる。


司会の声が続く。


「MVP選手には、武器ガチャ三十連券が……」


スクリーンに商品が映し出される。


――が。


ザザッ、とノイズが走り、映像が乱れた。


司会の「あれ?」という声。


映像が戻ったとき、そこに映し出されていたのは――


俺の手の中に、それが実体化する。


少しだけ困惑を見せた司会者だったが、すぐに平静を取り戻した。


「悪魔の心臓――サタンです。

おめでとうございまーす!!」


スクリーンを見上げる魔法使いたちの、「なにそれ?」という顔。


……精霊め。


さっそくイベントフラグを立ててきやがった。


これで七つあるという悪魔の心臓は四つ。


アスモデウス。

マモン。

ベルフェゴール。


そして、サタン。


魔界への扉が、少しずつ近づいてきている。


橘の目が、怪しく潤んだ。


「まあ、まあ……これはまた……

楽しみどすなあ」


俺は小さく息を吐く。


これは、休む暇なんてなさそうだな。


けれど。


いまは、ひとつの戦いが終わった。


俺は、日本の仲間たちに揉みくちゃにされながら。

照れた笑顔を見せるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ