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終末のSSR ―最強おじさんの最弱SSR育成プロジェクト―  作者: 白猫商工会
第07章

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第212話 破壊の魔力

日本ベンチでは、杏子が運び込まれてきた尾形に回復魔法を施していた。


「あんま無理しちゃダメじゃん。

でも、麗良を守ってくれてありがとう……男だねえ」


尾形は力なく笑う。


リザーバーの米倉に肩を借りて戻ってきた尾形は、医務室へ行くよう勧められたが。

ここで最後まで見届けたいという意思を示していた。


その意を汲み、杏子が応急手当を引き受ける。

由利衣も手伝っていた。


肉体強化魔法を鍛えているだけあって、外傷はほとんど見られない。

骨折もない。


だが、ダメージは着実に蓄積している。

交代の判断は、やはり適切だった。


ベンチに力なく座る尾形の前に、スッと山本先生が現れた。


「尾形先生」


声をかけられた尾形は、びくりと震えた。


学生時代は、魔戦部の先輩後輩の関係。


日々の部活では、頭に乗せたリンゴを矢で撃ち抜かれ。

魔力の込もった竹刀を食らいながらの実戦訓練。

ぬるい戦いをすれば、容赦なく罵声とケリが飛ぶ……。


そんな青春の記憶が、尾形の脳裏をよぎった。


加えて、昨年の中国との公式戦。

想定外だったとはいえ、ミアの一撃にあっさり沈んだ。


今回のレイドでも、途中退場。


……カッコ悪いな。


自嘲気味に、口の端を歪ませた。


だが――


山本先生はジャージの上着を脱ぎ、尾形の肩にそっとかける。


「ナイスファイトや。

それでこそ、魔戦部魂……ド根性見届けたで」


「山本先輩……」


言葉を詰まらせる尾形に、力強いエセ関西弁が降りた。


「ゆっくり休みい。

うちの人がタマ取ってきたるさかい」


静かな闘志を宿した目で、フィールドを見つめる山本先生。


その視線の先には、銀色の人狼。


とたんに、うっとりとした顔つきになる。


「小学生の姿に戻ったら……

今度こそ、たっぷりお世話せな……なあ」


尾形は何も言わず、そっと視線を山本先生から外した。


***


シヴァの四本の手に握られた武具。


水の槍。

火の剣。

風の盾。

土の斧。


原初の精霊の形態変化。


そして、シヴァもそれまでの穏やかな顔つきから、憤怒の形相へと変貌していた。


いよいよ、ラスバトルだ。


瞬時にして、嵐のような猛攻に襲われた。


火の剣が振るわれると、炎が頭上に降り注ぐ。

水の槍は変幻自在に乱れて、魔法使いたちに風穴を開ける。

土の斧がフィールドに打ち込まれると、大地が揺らいだ。

そして、魔法使いたちの放つ攻撃魔法は、ことごとく風の盾に阻まれる。


「……手が付けられないな」


懸念していた事態だ。

このままでは死人が出る。

それも、一人や二人じゃない。


そして、この精霊の特典。

そろそろ時間だ。

いつ変身が解けてもおかしくない。


「日村!!」


大声を張り上げた。


「出番だろうが。

出し惜しみしてんじゃねえぞ!!」


第四層の強化素材ガチャで何か仕込んできた。

見せたくて、うずうずしているはずだ。


俺の声に、コンテンツの匂いを嗅ぎつけた眼鏡が寄ってきた。


「日村さん、あれ行っちゃいます!?」


政臣が嬉しそうにカメラを構えると、日村から力強い頷きが返ってくる。


――何か知っているのか?


俺の知らないところで営業活動を……。

いや、今はどうでもいい。


日村はどや顔全開で、双剣を合わせた。


「こいよ、火雷大神ほのいかづちのおおかみ


火と雷の剣が、眩く光る。


二本の剣――ホノカグツチとタケミカヅチ。

神の名を冠する、ロマン枠の武器だ。


Wピックアップ武器ガチャという集金システム。

それにまんまと乗せられ、全財産をはたいて手に入れた代物。


火雷大神……が何かは知らないが、日村の琴線を震わせるには充分なネーミングだ。


そんなことを思っていると。


二振りの剣から、八柱の龍が生じた。


別名、八雷神やくさのいかづちのかみ


フィールド上空に雨雲を呼び、炎を打ち消していく。

轟音と衝撃が水の槍を粉々に吹き飛ばし、雷がシヴァの巨体を貫いたかと思えば、内部から燃え上がらせた。


政臣が大興奮でカメラを回す。

撮影クルーから注意が飛ぶが、まるで聞いていない。


――確かに、これは大した隠し玉だ。


「佐伯はん……」


橘の声が聞こえた。


「今がチャンスどす。

他のSSRが出張ってくる前に、決めておくれやす」


突然のシヴァのモードチェンジに、いまはSSRたちも防戦。


攻勢に転じる前に叩く。


村正を握る手に魔力を巡らせる。


魔力を実体化させた足場に飛び乗り、一気に飛翔した。


***


来奈の能天気な声が、日本ベンチに響いた。


「何あれ、かっけーじゃん!!」


興奮と食欲が止まらず、菓子パンを次々に頬張る。


しかし、杏子は訝しげな顔。


「あんな技、あったっけ……?」


梨々花は、そんな杏子の様子を横目に、そっと隅へ移動してスマホを取り出した。


自撮りしながら、動画をライブ配信。

完璧な営業スマイルを作る。


「これ、一度しか流さないから。

耳の穴をかっぽじって、よく聞くのよ……

あれは、第四層の強化素材ガチャで得た力。

装備に能力を追加するなんて、夢のある話だと思わない?」


切れ長の目に力を込める。


「通常、一回一億G。

だけど今だけ、“冒険部チャンネルを見た”って受付で言ってくれれば……

な、なんと!!」


「なんと、何かな?」


梨々花の時が止まった。


杏子が、尻をゆっくりとねじり上げる。


「ねえ……ちょっと聞きたいんだけど。

そのガチャを何回やって、そのお金はどこから出てきたのかな」


梨々花の時が戻り、努めて冷静な声を放つ。


「魔法使いは……自由ですよ、杏子さん」


杏子の左頬が引きつり、指先のピンチ力が最大になる。


「梨々花、尻に魔力を集中しなさい。

家計は自由じゃないのよ……

何連、したのかな?」


梨々花は、ゆっくりと指を二本立てた。


しかし、取り繕うように付け加える。


「日村さんとは、今後とも良いお付き合いを……

という気持ちを込めて、たったの五千五百万Gで……」


「それで、二連?」


しばしの沈黙。


梨々花は、ふるふると首を振った。


「二十連……」


杏子の魔力が殺意で研ぎ澄まされた。


しかし――


「聞いてください、杏子さん」


梨々花の真剣な声に、ぴたりと止まる。


「あの八雷神を二十連で全開放するなんて、運がいいじゃないですか。

一度当たれば揃えたくなるのが人情という……」


梨々花の言葉は最後まで続かなかった。


***


日本ベンチの方向から、強烈な色の波動と殺気を感じる。


だが、いまはそれどころじゃない。


――この姿なら、いけるか。


村正を振る。


残像の刃を生み出しては、刀身が砕け散る。

そして復活。


シヴァへと迫る。


土の斧が振り下ろされた。


実体化した刃を飛ばすと、風の盾が防御に回る。


構わない。


盾と斧――それを持つ腕ごと、引き裂いた。


スピリット・オブ・ウィンドと、スピリット・オブ・アース。

二体の原初の精霊が光の粒となり、村正へ吸い込まれていく。


二十本の刃の実体化と操作。

いまの俺にできる、最大攻撃。


このまま、一気に――


しかし、体がぐらついた。


実体化した刃が、次々と消えていく。


……変身も、ここまでか。


体が縮んでいく。


そこにシヴァの炎の剣が、突き出されてきた。


空中の足場も消え、自由落下となった小学生に火の剣の切っ先が迫る。


そのとき。


一筋の雷が、燃える剣の軌道を逸らす。

そして気づけば、俺の体は抱きかかえられていた。


「アミル……」


俺を腕に抱えるのは、インドチームの男。

そして、火の剣に立ち向かったのは、グレイス。


アミルは、冷静な声で言う。


「借りを返せて良かった……

お嬢、やるんだ」


グレイスの愚者の魔眼が光る。

俺を見て、蠱惑的な眼差しで笑った。


「おじさん、なかなかヤバい橋渡ってたじゃん。

ビンビンに来てたぜ」


小型のガチャ機が現れる。


「本日最後は、何が出るかなー」


楽しげにハンドルを回すと、赤いカプセルが排出された。


鳴り響く精霊サウンドエフェクト。


『Fool――No.5 Dragon Form』


グレイスは、肩のフェレットにそっと手をやる。


「頼んだよ。

私を羽ばたかせてくれ……」


カプセルが弾け、巨躯が光に包まれる。

フェレットが四枚の昆虫の羽へと変形していく。


メタリックレッドのマスクと強化服が、その身を覆う。


羽を震わせ、シヴァへと飛び立つ。


火の剣が薙ぎ払うように襲いくるが、こともなげにひらりと躱した。


……あれは、来奈の星の魔眼の動きに似ている。


高解像度の視覚フレームレート。

トンボが回避するような軌道。


グレイスがシヴァへとヴァジュラを突き立てる。

日村の解放した雷神と呼応するかのように、轟雷が轟いた。


アミルが、フィールドへ降ろしてくれた。


「日本の戦士よ。

まだ戦うのか?」


数多の戦場を見てきた目が、俺を見下ろす。


ブカブカになった靴を脱ぎ捨て、裾をまくる。

村正は長すぎるため鞘に収め、短刀の飛燕を握った。


「今からじゃ選手交代している時間も惜しいからな。

……こっちはいいから、あのお嬢さんを守ってやってくれ」


アミルは、静かな視線を崩さない。


「R魔法使い……だそうだな」


ぴくりと反応する。

魔法使いランクがどうこう言う男とは思わなかったが。


視線を上げると、穏やかな表情が目に映った。


「俺もRだ。

お嬢が一人前になるまでは引退できないと思っていたが」


ふわりと浮き上がる。

腰の二本の曲刀を抜いた。


「こんなものを見せられては、完凸まで行かないことにはな。

……ダンジョンは、まったく面白い」


にやりと笑い、飛び立つ。

やがて、グレイスの放つ赤い軌跡と一つになった。


見上げる俺の視界に、青白い雷光が飛び込んできた。


「ガッキー、宵鴉! ゴーゴー!!」


ティナが空中を自在に瞬間移動し、軽快な声で式神へと指示を飛ばす。


宵鴉がフィールドを滑走して巨神へと迫り、高らかに跳躍。


肘のブレードを伸ばすと同時に、肉の触手が何本も唸りを上げてシヴァへと襲いかかる。


――餓鬼王。


巨神の胸元へ、一斉に食らいついた。


……また一段と凶悪になりやがって。


思わず、ドン引きしてしまう。


そのとき、後方で黄金の光が弾けた。


空中に軍用ヘリが数機現れる。

一斉に機銃が火を吹いた。


そこから人造兵が投下され、巨神へと取り付いていく。


魔眼で次々に武器と兵士を生成しながら、本人たちも巨神へ踏み込んでいく。


「派手にいかないとねー」


へらへらとした声とともに、ミアの火尖槍が風を切り裂き、高圧縮の炎の斬撃を叩き込む。

続けて、セラの青龍偃月刀の衝撃波が腹にクリーンヒット。


SSRたちが次々と参戦する中、女騎士が叫んだ。


「突撃だ!!

遅れるなよ!!」


クラリスの声に、イギリスチームが一斉に竜魔法の風を纏う。


水の槍をいなしながら、一団となって駆ける。


「グッと踏み込むぞ」


聖剣エクスカリバーが輝く。


銀色の魔法陣が現れ、全員が飛翔。


連撃を叩き込む。


次々にシヴァのポイントが削れていく。


もちろん、日本も負けじと攻撃を続けていた。


――だが。


「ここまでどす。

全員、棄権しなはれ」


橘の切迫した声が響いた。


周囲の魔法使いたちも、不思議そうな顔をしている。

どうやら、全選手へ鬼蜘蛛の魔力糸を通じて話しかけているようだった。


攻撃が、一瞬だけ止む。


だが、すぐに再開された。


「橘、どうした」


俺の問いかけに、「のんきなこと言っとる場合やおまへん!!」と、強い声が返ってきた。


そして、分かった。

破壊の魔力がフィールドに満ちていることに。


小学生の姿では、レベルが初期値に戻るとはいえ。

どうして気づかなかったのか。


思わず歯噛みした。


俺は咄嗟に叫ぶ。


「お前ら、逃げろ!!」


だが、無情にもシヴァの額の目が開いた。


フィールドが白い光に包まれ、破壊の力が爆ぜるように襲いかかってくる。


引き裂き、破砕し、すり潰し……。

そして、消し去る。


もう、逃げ場などない。


俺の意識も、白に染まった。


***


梨々花は、尻の痛みも忘れて顔面蒼白。

いや、日本ベンチの全員がそうだった。


松枝が思わず立ち上がる。


「ばかな……

レイドに出てくるゲストが、ここまで強力な攻撃を……」


能力制限がされているはずだ。


いや、あれでもまだ制限されている方なのか。


……これが、破壊神。


眼前には、白く染まる世界。


フィールドの様子が分からない。

だが、この暴力的な魔力。

生き残れているとは思えなかった。


梨々花が叫ぶ。


「由利衣、どうなの?

全員無事なの!?」


由利衣は、ごくりと喉を鳴らす。


言われるよりも早く、女教皇の索敵レーダーを展開していた。


しかし、力なく肩を落とした。


「分からない……

ノイズが多くて」


ぎゅっと目を閉じ、祈るように両手を合わせる。


全員、一言も発することができない。


数秒の、しかし長い長い時間が経過し……。


徐々に視界に色が戻り、破壊の魔力が薄れていく。


日本のベンチ……いや。

スタジアムの観客全員……いや。


全世界が、固唾を飲んで見守っていた。

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