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終末のSSR ―最強おじさんの最弱SSR育成プロジェクト―  作者: 白猫商工会
第07章

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第207話 エレメンタルダンス(1)

俺の目に映るのは、今回のメインゲスト。


ヒンドゥーの神々の一柱である、破壊神シヴァ。

百五十メートルの、青い巨神。


いまは半眼で禅を組み、穏やかそのもの。


嵐の前の静けさ……。

それ以外に形容する言葉が浮かばない。


このレイドに参加しているのは、百二十カ国と少し。


シヴァに挑戦できるのは、その約半数の六十四ヶ国。

それが今回の仕掛けのひとつ。


現在この場に集まっているのは、六十二カ国。

――あと二チーム。


インド式の指折りでの数の数え方など、俺も含めて他国の選手が知るはずもなく。

ほとんどの魔法使いが気づかないまま、静かにカウントが進行していた。


あらためて周囲をぐるりと見渡す。


他のスタジアムより大きなこの場所は、いまはまだ観客はまばら。

おそらくガネーシャの方に流れているのだろう。


何しろ、今のシヴァは何も仕掛けてこないし、魔法使いたちの攻撃も通らない。

見ていて面白いものでもない。


フィールドを囲むように、枠線が引かれている。

内と外を分けているのだろう。

内側は、命の保証などないデスゾーン……。


「橘」


俺の呼びかけに、「はいな」と声が返る。


「あの枠線から、絶対に入ってこないでくれ」


橘は、細い目を下げた。


「まあ、言われへんでも。

うちは、か弱いからに……」


か弱い、というのは嘘だが。

彼女自身の戦闘力がないのは事実。


その代わり。

鬼蜘蛛の魔力糸の結界は、既に半径一キロ四方に張り巡らされている。

これが俺たちを地獄落ちから救ってくれる……はず。


しずしずと枠外に下がる着物姿を見ながら、麗良へ声をかけた。


「今回はお前がメインを張ってくれ。

日本トップランカーの花道、飾ってくれよ」


麗良は雷切の柄に手を添え、苦笑する。


「引退するわけじゃないんですけどね」


このレイドの後は、星上げの決意を固めている。

レベルは1に戻り、当面は最前線には立てないだろう。


だが、それは日本の魔法使いが一歩先に進むために必要な痛みだった。


抜けた穴は埋める。

俺は教え子たちと、妹弟子である麗良の成長のためなら、何でもやる。

そう決めていた。


どうやら、俺と麗良が何を言わんとしているかは、尾形と朝岡にも伝わったらしい。


朝岡が、ぽつりと呟いた。


「そうか……近藤さん。

とうとうやる気かい」


突如、朝岡の魔力が膨れ上がり、手にした杖に炎の魔力を込めた。


魔法をチャージし、一撃の威力を上げる杖。


ドン、ドンッと魔力を叩き込んでいく。

杖の先には十本のツメが埋め込まれていて、炎の魔力が(ほとばし)るたびにひとつずつ赤く輝いていく。


「派手な花火で送り出さないとな。

レイドチームは、近藤麗良以外は雑魚……なんて言わせねえからよ」


そして、朝岡は俺を見た。


「佐伯さん……

さっきのスカンダは、俺じゃどうしようもなかった……認めるぜ」


相棒の箒に跨り、ふわりと浮き上がる。


「けど、ぽっと出のオヤジに全部持ってかれるわけにもいかねえな。

お茶の間に夢と希望を与えるのが国の代表だ。

見せてやるぜ」


無頼のような風貌に似合わない言葉。


こいつも、やはり一線を張っているだけのことはある。


上空に待機し、鋭い目つきでシヴァに挑もうとする若き戦闘魔法使いに、頼もしさを感じた。


そのとき。


「おい、佐伯!!」


振り返ると、橘のそばに日村がいた。

そして米倉という男。

こちらまで転移してきたのだろう。


リザーバーの二人だ。


「ここで見ててやるからよ!

お前、ギブするなら死ぬ前にしろよ」


そう言いながら、ウォーミングアップを始めた。


「そっちも、勝手にタオル投げるんじゃないぞ」


俺も笑って軽口で返した。


まだ、残り二チームは来ない。


レイドの制限時間は二時間。

いまは、一時間十五分が経過……。


そのとき、他国の一人の選手が俺に気づき、大きく手を振ってきた。


どこかで見た青年だが、誰だったか。


「久しぶりー。

ほら、ラミア!」


思い出した。

第四層のラミア討伐クエストで一緒になった、メキシコの冒険者だ。


手を上げると、駆け寄ってきた。


「あのときのおじさんがレイドにいるなんて、びっくりしたけど。

めちゃくちゃ強いじゃん」


屈託のない笑顔を見せてきた。


「そっちも頑張ってるじゃないか」


そう言うと、途端に渋い顔を見せた。


「シヴァ神でポイント稼ぐしかないって来たんだけど。

どうしようかなって」


それも無理はない。

チリツモといっても、本当にチリのようなポイントしか入らないのだ。


メキシコの青年は、不思議そうな顔をした。


「で、日本チームはやらないの?」


少しだけ目をそらす。

だが、袖触れ合うもなんとやら……だ。


そっと、小声で話しかけた。


「まだ本番じゃない。

あと二チーム来たら始まるから、今のうちに魔力を研ぎ澄ませておくんだ」


青年はキョトンとした顔をしたが。

すぐに、目に力が宿る。


「マジかよ」


俺は頷く。


「ただし。

間違いなく、ここは惨劇になるだろうな。

……引くなら、今のうちだぞ」


青年は仲間に向かって「攻撃中止ー!!」と大声を張った。


そのまま、にやりと笑って踵を返す。


「ここで引っ込んだら、国に帰れないっての。

……日本SSRのチャンネル見てるよ。

こんど、ご飯食べに行くから」


仲間の元へと戻っていく背中に、「水曜日はサービスデーだからな!」と声をかけた。


そして、ふうと息を吐く。


「橘」


「はいな」


「他国の様子は?

アメリカの動きと、このスタジアムへ向かう国はどうだ?」


少しの沈黙。


「アメリカはん、神兵を狩ってダメ押ししとります。

今のところ、こちらには……」


今の状態のシヴァを相手にするよりも、神兵を削って着実に引き離しにかかっているようだな。


このままなら、アメリカの優勝。

いつもと同じ……世界の覇権は揺るがずだ。


――面白くないな。


そして、橘は続ける。


「こちらに向かっているのは、八カ国ほどおますなあ」


もうすぐ始まる。

胸に不安がざわめく。


さっきのメキシコの青年。

言って聞くようなものではないとは思うが、やはりもう少し強く退避を勧めるべきだったかもしれない。


日本はレイド戦績を落としているとはいえ、それでもまだ世界の中では十位台。

決して弱い方ではない。


だが、ここに集まっている魔法使いたちの力量……。


そこまで考えて、頭を横に振った。


みな、覚悟の上なのだ。


しかし――


「橘」


「どないしはりました?」


少しだけためらったが、続けた。


「いざとなったら、これだけの魔法使い……守り切れるか?」


はぁ……と、大きなため息。


「人にはできることと、できへんことがおます。

日本チームを全力でサポートするのが、うちの役割ですからに」


橘の言葉は、正しかった。


レイドは甘くない。

俺だって、他人の心配をしている余裕などない。


村正に手をやり、シヴァを見つめる。


閉じられた第三の目……。


いざとなれば、日本の未来を担う麗良と尾形と朝岡だけでも守る。


そう思い、腕を組む。


――目に映るのは、国も人種も違う魔法使いたち。


だが、ダンジョンに……冒険にかける思いに違いがあるだろうか。


ひとつ息を吐き、額に手をやった。


不可能を可能にする、それが魔法使い。

俺の信じた言葉じゃないか。


そして、そっと呼びかけた。


「なあ、橘。

頼みがあるんだ……」


橘は嫌そうな声音を隠そうともしない。

しかし、「はいはい……」と小さく呟いた。


「魔界行き……忘れたら、本気でしばき倒したりますえ」


俺は軽く笑う。

そして、とあることを伝えた。


***


最後の二カ国のチームが、スタジアムの通路から姿を見せた。


イギリス……と、中国。


橘は鬼蜘蛛の魔力糸の操作で、この二カ国以外を通さないように、進行ルート上にトラップを散布していた。


レイドは基本的に取り合いなのだから、妨害はある程度認められている。


ただし、魔法使い同士のバトルは厳禁。

意図的な攻撃はペナルティだ。


勝手にトラップに引っ掛かるのは……。

グレーだろうな。


しかし、こうするしかなかった。


最強格のSSRであるクラリス、そしてセラとミア。

シヴァに対抗できそうな、こいつらを加えるしかない。

グレイスとティナもいる。


だが、これは両刃の剣。


SSRたちにポイントを持って行かれれば、現在暫定二位の日本は順位を落とす。


魔法使いの力は国の誇り。

レイドの順位は、ただの順位ではない。


価値はそれを信じてくれる人がいてこそ成り立つのだ。

その期待は裏切れない。


それに。

このやり方自体、褒められたものではない。

こんなことが明るみに出た日には、大バッシングだろう。


ただ、橘ほどの術者が証拠を残すようなヘマをするはずもない。

その点は心配していなかった。


グレイスが俺の顔を見て、にやにやと笑った。


「おじさん……踏み込んだな。

リスク取ってるの、わかるぜ」


愚者の魔眼に何が映っているのか……。


俺は黙って知らん顔をしていると、紫煙を吐きながらグレイスは言った。


「何かは知らないけど、それ正解。

それにしても、SSRがまた集まってくるなんて、面倒だねえ」


……どうやら、精霊はお目こぼししてくれたらしい。


そのとき、アミルの緊張の声がかかった。


「シヴァ神の指が動く……来るぞ」


ごくり、と喉が鳴る。


俺の目に映る青い巨神の指が、六十四を指した。


同時に、外部からスタジアムのフィールドに繋がる通路が閉じた。


ざわめく魔法使いたち。


俺は麗良へ向かって大声で叫んだ。


「行くぞ!!」


村正を抜き放つ。

魔力を巡らせた刀身が青白く輝く。


麗良も雷切を抜き、飛翔した。

俺と尾形は、麗良に続く。


シヴァの半眼が、ゆっくりと開かれていく。


他国の魔法使いたちは、突如の雰囲気の変化に反応が遅れている。


――悪いが、アドバンテージは最大限に活かす。


待ち構えていたのは、日本とインド。

そしてメキシコ。


四本の腕を持つ巨神が、流れるような動作で立ち上がる。


右上の手に、砂時計のように中央がくびれた形の太鼓が握られた。


何か仕掛ける前に、一撃でも二撃でも入れる。


雷切が火花を散らした。


シヴァの首に巻き付いていた巨大な蛇が牙を剥き、正面から麗良に襲いかかる。

実体化させた村正の刃を伸ばし、その首を斬り落とした。


合図など要らない。

俺のアシストを信頼していた麗良の速度は、迫りくる大蛇を前にしても一切緩まなかった。


「朝岡はん」


橘の合図とナビゲートで、朝岡の杖から巨大な火炎が撃ち出される。

蛇の胴体へ着弾し、吹き飛ばした。


道が開く。


雷切の火花が、目を開けていられないほど眩い。


麗良は最大限の魔力を込める。

刀身から噴き出した火花が、伸びる刃を形造る。


一気に払い、巨神の首を落とした。


***


日本実況ブースは、シヴァに動きがないため、場つなぎとして振り返り映像と他のスタジアムの様子を映していた。


だが。


突如の開戦に、慌てふためいた。


巨大モニターが、シヴァの首が落ちる瞬間へと切り替わる。


同時に、「キター!!」という聞き慣れた絶叫と、「眼鏡、黙ってろ!!」という怒声。


天ぷら蕎麦を啜っていた芹那が、盛大にむせる。

その拍子に、眼鏡がどんぶりの中へ落ちた。

リズは動じることなく、大盛りの山菜うどんを流し込む。


梨々花が眉を寄せた。


「高柳くん……何やってるのよ」


松枝が、興奮の声を上げる。


「麗良……やってくれたな!!」


画面は、立て続けに連撃を叩き込む日本と、続くインドとメキシコの様子を映し出す。


飛ばされたシヴァの首は、左下の腕に髪を掴まれていた。


来奈も負けじと声を張り上げる。

拳を突き出した。


「さっすが、日本のエース!!

一撃じゃん!!」


芹那はカメラのフレーム外で息を整え、汁だらけの眼鏡を拭いた。


そして、何事もなかったかのような完璧な笑顔でテンションを上げる。


「日本やりました!!

今の、九百ポイントですよ!!」


しかし、その直後。

自分の発言に疑問が湧き、情報が表示されているタブレットを二度見した。


「……首を落として、たったの?」


梨々花は、画面の中の違和感にいち早く気づいていた。


自らの手に髪を掴まれた巨神の生首。


不思議なほど、穏やかな顔。

その唇が、かすかに動いていた。


「歌ってる?」


首を失った身体は倒れない。

右上の手に握られた太鼓を振ると、紐先についた玉がカラカラと両面を叩き、リズムを刻む。


空間に魔力が満ちていくのが、画面越しにも分かった。


巨神の片足が、ゆっくりと持ち上がる――


スタジアムの上空から青空が消えた。

代わりにフィールドは、星のような小さな光に満ち、宇宙空間のような神秘の輝きに包まれる。


続けて片足が再びフィールドへと落ちると、巨神の背後に、燃えるように輝く輪が現れた。


太鼓の音に合わせて、青く脈動していく。


梨々花には分かった。

あれに、膨大な水の魔力が込められていることが。


「なんて美しいの……」


思わず口をつく。

戦いの場には不釣り合いな言葉に、自分自身が驚いた。


輝く輪から水が噴き出し、ひとつの塊となる。


それが形を成していく間にも、巨神の踊りは続く。


片足を上げ、再びフィールドへと落とす。

今度は輪が赤く光った。


たちまち、炎が渦を巻く。


画面を見つめる梨々花の――

魔術師の魔眼は、完全に魅入られていた。


「四大元素……こんなにも力強く」


踊りは続く。


緑に光れば風が。

橙に光れば土が生じる。


次々と塊となり、形を成していく。


そして――


創造と破壊が、始まるのだった。

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