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終末のSSR ―最強おじさんの最弱SSR育成プロジェクト―  作者: 白猫商工会
第07章

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208/210

第206話 カウント

スタジアムは拍手と歓声に包まれていた。


日本   一万千二百。

中国   九千三百。

インド  七千七百。

イギリス 七千百。

韓国   六千八百。


フィーバータイムに賭けた日本が一気に掻っ攫い、SSRたちも削りに削った。


インドなど、スカンダ一体だけでここまで積み上げて三位とは……。


空中のモニターを眺める俺に、クラリスが「おい」と声をかけてきた。


「やはりレイドに出てきたか。

相変わらず無茶苦茶な戦いだな」


俺は村正を鞘に収めながら答える。


「そっちこそ。

もう竜魔法をあれだけ使いこなしてるとはな……」


ウィンドブレスを乗せての聖剣技。

最強の肉弾戦闘マシーンが、さらに切れ味を増していた。


クラリスは軽く笑う。


「苦労して手に入れただけはある。

それにしても、悪魔の加護まで……油断していると、ますます先を行かれてしまうな」


俺は軽く頷いた。


R魔法使いが、二つの加護のおかげでレイドの巨大モンスターにも立ち向かえている。

魔力制御の技量だけではどうしようもない、能力制限の壁が取っ払われていた。


「そっちも、どうせ取りに行くんだろ?

魔王健康ランドにも立ち寄ってくれよ」


そう言うと、クラリスは片手を上げた。


「そうだな……これが終わったらだ」


レイドはまだ終わっていない。

眷属のガネーシャと、本命のシヴァは健在なのだ。


ここで高得点を稼いだからといって、うかうかはできない。


クラリスは「またな」と一言残し、次の戦場へと去っていった。


中国の二人も、自チームへと合流するため歩き出していた。

あの雨あられの熱線に踏み込む命知らずは、さすがに限られていたのだ。


セラが、ぴたりと立ち止まる。

振り返った拍子に、腰まで伸びた艶やかな黒髪がさらりと揺れた。


冷たい蒼の光。

射抜くようなその輝きが、俺に何かを訴えているようだった。


ツカツカとこちらに歩いてくる。

静かな声がかかった。


「あの人が言っていた通りですね。

自分が知る限り最強の魔法使いだと……」


九条。

さすがに中国チームとしては参加していないが、どこかで見ているのだろう。


俺は軽く頭をかく。


「そりゃどうも。

あいつに褒められても、不気味だけどな」


セラの切れ長の目が、ふっと柔らいだ。


「それはそうと、さっきの技。

『恋の一番星☆シリウスナイト』のジルベルト様……ですよね?」


誰だそいつは。


困惑していると、セラの瞳に情熱の光が宿り、コソコソと小声の早口でまくし立てた。


「アーベルハイン王国、薔薇星雲(ロゼッタネビュラ)ジルベルト様の輝皇技(ステラーアーツ)――

スカーレット・デッドリー・ウエイヴ。

オリビエ嬢に捧げし剣。

佐伯さんもお好きだったなんて、見かけによりませんね。

私、去年日本に行ったときにコミケに……」


そのとき、遠くでミアが大声で呼んだ。


セラはくるりと踵を返す。


「いまは戦いのときですから……

続きはまたいずれ」


一言も返せないまま、立ち去っていく。

何ひとつわからない。


そして、後ろから声がかかった。


「そんじゃ、私も行くから。

次はガネーシャかな。

まだまだ稼がないとね」


振り返ると、ティナが透明マントのフードに手をかけるところだった。


俺と目が合うと笑みを浮かべ、次にグレイスへ視線を移す。


「愚者のあなた、自由と冒険とリスク……

いいじゃない。

魔法使いは映えていかないとね」


グレイスが何か言う間もなく、気配がふっと消える。


「じゃあね」


とだけ聞こえたが、もうどこにいるのか分からなかった。


忙しない連中だ。


しかし、俺ものんびりはしていられない。


麗良たちと合流するため歩き出そうとした、そのとき。

アミルという男が、目の前に立ちはだかった。


そして、静かに頭を下げる。


グレイスを必死で止めていたが、さすがに熱線の中に飛び込まれてはどうしようもない。

お目付役といったところなのだろうが、その苦労は俺も身にしみていた。


なので、軽い調子で言葉をかけ、脇をすり抜ける。


「気にしなくていいさ。

なかなか見どころあるお嬢さんじゃないか。

それに、礼ならうちの式神使いに言ってくれ」


アミルは顔を上げ、低く言った。


「レイドでは負けることは許されない……

が、我らにも誇りがある。

この借りはいずれ」


どうにもお固い。


苦笑いして手を振ると、グレイスから声がかかった。


「私は礼は言わないよ。

全部覚悟の上だからね」


ビビってただろ……とは、彼女の名誉のために言わないでおく。

あれに飛び込むのは、修羅場を潜った戦闘魔法使いでも容易じゃない。


しかし、だ。


振り向かず、グレイスへと声をかけた。


「自分の命をどうしようが勝手だろうけど。

もしお前さんが俺の教え子で、何かあったなら……俺は、一生かけても取り戻すだろうな。

対価に何が必要だと言われても」


それだけ言って歩き出す。

少しはアミルの身にもなってやれということだ。


ふと、エステルと九条のことを思い出した。


エステルにも、何を対価にしてでも取り戻したいものがあるという。

弟のリュシアンにも言えないこと……。


そして、九条。


第四層の湿地帯で会った、理沙の姿をしたモンスターが言った言葉。


――神へも挑まんとしている。


あいつが取り戻したいものは言うまでもないが、その手段と思わしきものが不穏だ。


そんな思考にとらわれながら、日本チームの元へと戻る。


麗良が腰に手を当て、呆れた眼差しで俺を見た。


「先輩がやるっていうからには、やるとは思いましたけど……」


尾形が飛びつくように肩を抱いてくる。


「佐伯さん!!

前から化け物じみてると思ってましたけど、本物ですね!!」


そして、スクリーンを指差した。


「暫定とはいえ、一位ですよ!!

こんなの初めてです!!」


俺は再びスクリーンを見る。


……アメリカ、七千二百。


尾形も気づいたようだ。


「追い上げてきて……ますね」


そこに、橘が声をかけてきた。


「おくたぶれさんどした。

アメリカはん……なかなかおきばりはって。

象さんと遊んどります」


――ガネーシャか。


見る間に、アメリカのポイントが積み上がっていく。


現在のアドバンテージなど、すぐに追い越されるだろう。


麗良が緊張の声で問いかけた。


「これは、まずいですね……

先輩、どちらにしますか?」


選択肢は三つあるが。

麗良が言わんとしているのは、今さら神兵をちまちま狩るのではなく、どちらの大物を狙うか、だ。


ガネーシャか、シヴァか。


即断即決だ。


「シヴァだな。

ティナも向かっているし、今からだと手遅れの可能性が高い」


麗良も尾形も、同意の頷きを見せる。


朝岡をちらりと見る。

ハッと強く息を吐き、力強い言葉を返してきた。


「いいぜ。

ここまで来て逆転負けなんて、勘弁だ。

……ていうか、俺はたいして仕事してねえからな。

このままじゃ、寝つきがよくねえよ」


それでこそ、戦闘魔法使いだ。


タブレット端末を眺める橘に問いかけた。


「シヴァの様子は?」


「みなさん苦労してはりますなあ。

鬼蜘蛛の範囲外やし、詳しいことはようわかりまへんけど」


どうやら、なかなかポイントが稼げていないようだ。


だが、機会はあるはず。


「行くか」


そこに、橘の少し拗ねた声が返ってくる。


「うち、けっこうしんどいんやけどなあ」


あれだけの神業じみた鬼蜘蛛の制御だ。

無理もない。


朝岡が回復魔法を展開したが、疲労は簡単には回復しないだろう。


俺は実体化させた刃の一つを変形させ、橘の足元へ滑らせた。


「乗ってくれ。

一気にシヴァまで行くぞ」


はあ……と大きなため息をつきながら、橘が足場に乗る。


――さて。


そのとき、痺れを切らしたような声がかかった。


「なあ、無視すんなって」


……もちろん、気づいてはいたが。


「なんだよ、そっちも暇じゃないんだろ」


グレイスへ向かって、軽く手を払う。


「あんたら、一番いいの行くんだろ?

あれ、私の獲物なんだけどさ」


麗良と尾形が顔を見合わせる。


俺は自分の足場に乗り、浮き上がらせた。


「じゃあ、急いだ方がいいんじゃないか」


グレイスは俺の言葉が耳に入っているのかどうか。

腰のチョークバッグをあさり、タバコを取り出した。


火をつけ、紫煙を吐き出す。


「リスク……おじさんからビンビンに感じるぜ。

見えるんだ」


愚者の魔眼の能力か。


「そうか、そいつは大変そうだな。

じゃあ、お互いにいいバトルを」


「抜け駆けしてんじゃないよ」


そう言って、クイッと首をひねる。


その視線の先には、三つ子。


「こいつら乗せてくれたら、私とアミルは飛べるからさ。

スポーツマンシップだろ。

正々堂々やろうじゃないか」


俺は麗良の方を見る。


「……意味が分かるか?」


「知りませんけど。

先輩が拾ってきたんなら、何とかしてくださいよ」


しれっとした顔で受け流された。

そう言われても、困るんだけどな。


朝岡がグレイスに絡んだ。


「おい……レイド舐めてんのか。

余計なことして成績に影響出たら、俺たちゃ戦犯扱いなんだけどな」


もっともな意見だ。


ライバルチームに塩を送る行為。

……賞賛してくれる世間様ばかりじゃない。


だが、グレイスは一歩も引かない。


「このおじさんに聞いてんだ。

私もリスク取るんだから、あんたらも踏み込めよ」


まるで理屈になっていない。


「お嬢、いい加減にしないか」


後ろからアミルが諌める。


それでも、グレイスの目はまっすぐ揺るぎがなかった。


ただ単に筋違いなことを言っているわけではなさそうだ。

そこには、明確な意思がある。


愚者の魔眼……精霊が言っているのだ。

この先に踏み込むか、否か。


――リスク、ね。


俺は残りの刃を変形させ、三角形の足場を形成。

それを、三つ子の足元へ飛ばした。


朝岡が目を剥いた。


「オッサ……佐伯さん!!」


「言いたいことは分かるが、ここでやり合ってても仕方ない」


三つ子に目を向けて頷く。

彼らが足場に乗りフォーメーションを組むと、飛翔の魔法がグレイスとアミルにかかった。


ついでに、グレイスに張り付いている撮影クルーにも。


それを確認し、チームメンバーへと声をかけた。


「俺の行く先にリスクがあるんだとよ。

精霊が好みそうなシチュエーションじゃないか。

……この選択が間違っていたとしても、リカバリーはきっちりやる。

誰にも文句は言わせない」


朝岡は小さく「しゃーねえな」とぼやく。

他の三人は何も言わなかった。


言うだけ無駄だと思っているのかもしれないが。


それでも、判断を預けてくれたようだった。


足場を浮かせ、速度を上げる。


スカンダのいたスタジアムを飛び出し、一気にシヴァへと向かう。


やがて、最奥にある大きなスタジアムが見えてきた。


***


日本実況ブース。


芹那は、額を押さえていた。


「修司……あのバカ。

なにをやってるのよ」


リズは、儚げに巨大なカニシューマイに酢醤油をたらす。


「大将らしいじゃないですか……

きっと、愚者の魔眼に選ばれたんですよ」


梨々花の切れ長の目が、リズへと向いた。


「選ばれた……」


儚げな咀嚼音を聞きながら、思考を巡らせる。

ぽつり、ぽつりと言葉にした。


「困難の先に、精霊の恩恵がある。

リスクの可視化は……チャンスの可視化でもある。

それは、表裏一体」


グレイスは、眷属のいるスタジアムを一発で引き当てていた。

リスクの量で分かったのだろう。


そして、先ほどの光のシャワーは一歩間違えれば死――

いや、彼女の技量ではゲームオーバーだったはずだ。


そこに飛び込み、どういう理由であれ突破できたとき、高ポイントを得ることができた。


どう見ても無謀。

しかし、それが最適解。


それを引き寄せるのが、愚者の力。

試されているのは、命を張るクソ度胸と冒険心――そして、“熱”だ。


――こいつも、ダンジョンハック向けの能力。


梨々花の切れ長の目に怪しい光が宿り、口元がゆっくりと吊り上がっていく。


画面は、慌てて梨々花からフレームアウトした。


***


「あ、来ましたね!

日本すごいじゃないですか」


待ち構えていたのは、政臣。

撮影クルーの腕章をつけている。


俺はフィールドに降り立つ。

橘と、インドチームの三つ子もだ。


「何やってんだ?」


聞くまでもないが。

それにしても、撮影に加わっていたとは。


政臣は嬉しそうに言う。


「ちょっと知り合いに頼んで……

いろいろと勉強になりますよ」


放映権は押さえられている。

一配信者が勝手に撮影できるはずもない。


それでも、映える画を撮りたいという本能か。

筋金入りだな。


すると――


「眼鏡くーん、サボってないで」


と声がかかった。


政臣は気まずそうな顔で返事をすると、ボソッと呟いてきた。


「シヴァ神、まだ何も攻撃してこないんですよ。

バシッと、やる気出させてやってくださいね」


それだけ言うと、他の撮影クルーのもとへと駆けていく。


俺は青い巨神を見上げた。


すでに何十カ国もの魔法使いが取り付いている。


スカンダが消え、ガネーシャはアメリカがフィーバーしている模様。

だとすると、逆転の芽はここしかない。

考えることはだいたい同じだ。


シヴァは半眼で禅を組み、穏やかな顔をしている。

額の第三の目は、いまは閉じられていた。


一見、攻撃を撃ち込みたい放題。


次に、空中の巨大スクリーンへと視線を移す。


……たいした点にはなっていないな。


十ポイントや二十ポイント。


渾身の魔法を撃ち込んで、これだけ。

魔力の無駄遣いだ。


やはり、神兵狙いが良かったか――

と、ちらりと頭を掠めるが。


こちらが愚者の道だ。

判断は変えない。


そんなことを考えていると、グレイスの「ふーん」という声が聞こえてきた。


肩に乗せたフェレットに、ドライフードを与えている。


「なあ、アミル……

やっぱり急いで正解じゃないか。

船に乗り遅れるところだったよ」


アミルが、シヴァをちらりと見る。


「六十一か……

もうすぐだな」


不思議そうな顔をする俺に、アミルは答えた。


「我が国の指での数え方は……

片手で十六を数えられるのだ」


そう言って、親指で小指の付け根を触る。

これが、一の数。

親指以外の、指の関節と指先の数は合計十六。

どの位置を親指が示しているかで数を数える……らしい。


シヴァの四本の手の形を見ると……確かに。


現在、六十一。

そして、最大は六十四。


グレイスはタバコに火をつけ、目を細める。


紫煙を吐きながら、楽しそうな顔。


「さあー、何が起きるのかなー」


スコアを見る。


アメリカ……二万五千……。


「ガネーシャをやったのか?」


思わず言葉がこぼれる。


「そうなのよー。

ぜんっぜん稼げなくてさー。

とっとと見切りつけちゃった」


何もない空間から急に声をかけられ、思わず変な声が出た。


ティナが透明マントのフードを上げ、イタズラっぽく笑う。


「……お前な、ステルスで背後から近寄るんじゃない」


謝るティナの後ろに、韓国チームの姿が見えた。


そのとき、アミルの声。


「六十二だ」


……その数字の意味するところは。


俺は、チームメンバーへと振り返る。


「あと二チーム来たときが、開始だ。

魔力、高めておいてくれよ」


足場に変形させていた四本を、再び刃形態に戻す。


グレイスの瞳が、淡く黄金に輝く。


シヴァの指先のカウントアップと、魔法使いたちの死へのカウントダウンが、静かに重なっていた。

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