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終末のSSR ―最強おじさんの最弱SSR育成プロジェクト―  作者: 白猫商工会
第07章

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207/210

第205話 熱線と熱戦

俺の視線の先には、二メートル近い女がいた。


咥えタバコ。

しなやかで鍛え上げられた肉体。


獲物を狙うハンターのようでいて妖艶――

それでいて、どこか母性的な瞳。


実物を前にしても、十代にはとても見えない。


だが、そんなことは今はどうでもいい。


眷属がいるという情報はすぐに各国に伝わった。

俺たちは神兵の相手を早々に見切り、急いで駆けつけていたのだ。


しかし、目に飛び込んできたのは光輪からの死の光。

危うくまともに食らうところだった。


熱線が止んだ、ギリギリのタイミング。

スカンダの動きが一瞬鈍ったところに、孔雀へ一撃入れることに成功していた。


そして、スカンダだが。

早くも次のチャージに入っていた。


光輪は巨神の背に翼のように広がっている。

筋のようなものが脈動し、一本一本に光が満ちていく。


おそらく、あれがすべて満ちたときが次の放出だ。


今は、十二の腕に再び武器が握られている。

顔のひとつはグレイスに抉られ、残りは五つ。


腕が動き出す。

俺とインドチームの二人を、同時に狙って。


空中に舞わせた四本の刃で武器を弾き、攻撃魔法を同属性で打ち消しながら懐へ迫る。


村正を巨体に斬りつけるのと、ヴァジュラが撃ち込まれたのは、ほぼ同時だった。


グレイスが楽しそうに叫ぶ。


「これは、私の獲物なんだけどねっ!!」


俺は構わず村正を振るう。


「どこに名前が書いてるんだ?」


「おじさん、何者だい?

只者じゃないね!!」


向こうもヴァジュラの連撃をやめない。


グレイスは攻撃魔法の回避を最小限に抑え、厚く張った防御結界に任せて、武器の対処へ集中している。


しかし、あの魔力の乗せ方では、スカンダの身体には通るまい。


俺の村正も、切断までには至れない。

何しろ百五十メートル級だ。


そして、あの光輪が現れてから、明らかに防御力……いや、ステータスそのものが跳ね上がっている。


最初のノーマル状態で、どれだけ削れるかが鍵だったか。


どうやら、初期ボーナスは終わりらしい。


気づけば、他国の選手も次々と参戦していた。


ちらりと、上空の大型モニターへ視線をやる。


――インド、二千六百。


日本は、神兵三体と孔雀で二千三百。

加えて、今の村正の一撃は……たったの二百。


まさか、ものの数分でこんな小娘……いや、でかい娘に逆転されるとはな。


ここに来る途中、空中のスクリーンに映っていた愚者の魔眼の変身を見た。


持続時間は短いようだが、とんでもない爆発力だ。

魔力を具現化したあの姿は、素の技量を大幅に凌駕している。


俺はスカンダの武器を受け流し、村正を打ち込みながら大声で問いかけた。


「なあ、あの魔眼はなんだ?

面白いやつだな!」


グレイスは「あ?」と短く返し、こちらをちらりと見る。


「おじさん、日本人だろ?

知らないのかよ」


上着の腕章の国旗で、日本チームだと察したらしい。


「変身でパワーアップはヒーローの証だっ!」


そう言いながら、ヴァジュラを振るい、雷撃を撃ち込む。


……言っていることが、分かるようで分からない。


そんな思考は、一瞬で切り替わった。


「佐伯はん、氷きますえ」


橘の警告に、即座に炎弾を放つ。

スカンダの口から雨あられと射出された氷槍を、次々と撃ち落とした。


グレイスは、ヴァジュラで迎え撃つつもりか――


そう思った、そのとき。


年配の選手が曲刀を振るい、氷槍を次々と叩き落とす。


……強い。


少なくとも、変身前のグレイスより一段……いや、数段上だ。


だが。


グレイスは不満げに声を飛ばした。


「邪魔すんじゃないよ、アミル。

あれくらい、なんとかできたさ」


アミルは眉ひとつ動かさず、小さく息を吐く。


「死なれると、困るのだ」


よくわからない関係だな。


俺は、探りを続ける。


「で、その変身。

カッコいいじゃないか。

もう披露は終わりか?」


「見せてやるよ。

けど、タメがいるんだよ、タメが。

ピンチを乗り越えてこそ、映えのときが来るんだ!」


再び、橘の声。


「情報が入っとります……

えらい危ない状況を切り抜けると、変身できるようにならはるそうどす」


リスクを取る者に、チャンスを与える――

いかにも精霊が好みそうな設定だ。


だが。


なぜ変身ヒーローなのかの説明にはなっていない。


……考えても仕方ないのかもしれないが。


他国の魔法使いたちの攻撃も激化していくが、なかなか大きなポイントには繋がらない。


日本チームの他の三人も加わっている。


麗良の魔法剣が閃き、尾形が一気に駆け上がってからの斬り落とし。

そして、朝岡の火炎が巨大な顔を襲う。


しかし、村正の斬撃でも、いいのを入れて二百ポイント――。


麗良が、橘の中継を通して話しかけてきた。


「先輩、これじゃ得点になりませんね。

やっぱり神兵を倒した方がいいかもしれません」


それも、一理ある。


事実、諦めてスカンダに背を向ける連中も出始めていた。


俺はグレイスに声をかける。


「なあ、勢いは買うが。

そんなんじゃポイントにならないぞ。

神兵に行ったらどうだ」


「雑魚じゃ、私も精霊も燃えないんだよ!!」


迫りくる武器をヴァジュラで撃ち落としながら叫ぶ。


来奈と気が合いそうなやつだな。

……いや、由利衣か。


――その頃、日本の実況ブースでは。


***


由利衣は興奮の絶頂にあった。


「わたしも愚者の能力がよかったなー!!

いけー!!」


拳を振り上げ、グレイスを応援している。


梨々花が冷静に諌める。


「ねえ。先生の見せ場なんだから……」


「さっき、No.3って言ってたじゃない。

他にも変身フォームがあるんだよ、きっと」


そして、カメラへ向かって指を突きつけた。


「みんなも予想してみようよ!!

私は、金色のカプセルはコガネムシがモチーフだと思うなっ!!」


聞いていない。


そんな由利衣を受け流し、芹那が松枝へと話を振る。


「どう思われますか、あの変身。

魔力を纏ったとはいえ、あれだけの強化は……」


うーむ、と腕を組む松枝。


「単なるステータスアップじゃない。

明らかに、別種の力を感じたな。

精霊の恩恵、という話だが……わからん」


そこに。


巨大などんぶりに盛られた回鍋肉丼を、儚げに胃へ流し込みながら、リズが口を開いた。


「あれは、リュシアンくんと同じく、精霊が起こす奇跡の一種……。

リスクを対価に手にした力なのでしょうね」


リュシアンの成約。

等価交換による奇跡の顕現。


法王の魔眼は、物質の価値が対価。

対する愚者の魔眼は、自身が挑む道そのもの。


根底にあるものは、同じ。

精霊に価値を差し出すのだ。


梨々花は、黒髪をかき上げた。


「なるほど、さすがリズさんの鋭い分析。

どこかの肩書だけ立派なおじいちゃんとは……

いえ、誰とは言いませんけど……」


松枝のこめかみに、太い血管が浮かぶ。


クスクスと含み笑いを漏らしながら、梨々花は続けた。


「あらあら、松枝センセ……

番組中にご臨終は放送事故ですから。

もっと塩辛、召し上がります?」


松枝は破顔した。


「いや、手厳しいな。さすがSSRだ。

あとで特別番組で、魔力制御を全国の皆さんに見てもらおうじゃないか」


――じじい。


梨々花の切れ長の目と、老人の眼光が交差する。


そんな空気を一切気にせず、来奈はカニ玉を飲み込んでから声を上げた。


「あのでっかいの、そろそろやる気じゃね!?」


画面には、光輪に輝きが満ちるスカンダ。


梨々花の顔が引きつる。


「先生……深入りしすぎです」


光輪から放たれる高威力の熱線。

あれに掠りでもすれば、消滅しかねない。


巨体の懐で村正を振るう姿。


そこに、すべてを薙ぎ払う光が振り注がれようとしていた。


***


「先輩、退避してください!!」


麗良の声が耳に響く。


「お前は退け。

フィールドの端までは熱線は来ない。

……ここは、俺がやる」


呆れた声が続いた。


「いやいや、バカなんですか!?

本気で死にますから!!」


朝岡の焦りの声も聞こえた。


「おい、レイドに命の保証はないけどよ。

さすがに勘弁してくれよな」


言い終わらないうちに、防御結界が厚く張られる。


やつなりの気遣いは嬉しいが。


俺は、全員へ呼びかけた。


「あいつ……おそらく、熱線を放っている間は無防備だ。

さっき孔雀をやったときも、それを感じた。

ここがチャンス、というのが精霊の設定だな」


尾形の声。


「そうだとしても、近づくこともできないんですから」


……まあ、普通なら俺もやろうとは思わない。


だが。


「橘、頼りにしてるぞ」


盛大なため息が聞こえた。


「死んでも、うちを恨まんと成仏しておくなまし。

こないなお人とは思わなんだわあ……」


俺は、上空のスクリーンを見上げた。


上位チームは……。


アメリカ 4,500ポイント

中国   4,300ポイント

イギリス 3,800ポイント


「神兵をちまちま狩ってたんじゃ、追いつけない。

一気にやる。

麗良、戦闘魔法使いの心得は?」


ごくり、と喉を鳴らす音。


「向かい合った敵を、容赦なく叩き潰す。

ねえ、私も……」


「ひよっこ共はすっこんでろ!!」


叫ぶと同時に、光輪の輝きがダンジョンを切り裂いた。


観客席から悲鳴が湧き上がり、選手たちは安全地帯へと退避していく。


ちらりとグレイスを視界の端で確認する。

アミルに羽交い絞めにされて遥か上空だ。


スカンダに向き合う命知らずは俺一人。


熱線が、きた。


同時に、袖が引かれる。


鬼蜘蛛の魔力糸。


熱線が糸を切断する位置と角度を捕捉。

術者である橘は、脳の演算処理を増幅するアクセラレータ魔法をフル回転させる。


熱線を避け、さらにスカンダへ踏み込む最適な位置へとナビゲート。


あとは、それに俺の身体能力が追いつくかどうか。


魔力を研ぎ澄ませ、爆発させる。


熱線をことごとく躱す。

実体化した刃をすべて足場に変え、飛び移りながら村正を振るう。


――そのとき。


上空のグレイスは、眼下の戦いに心を奪われた。


思わず言葉が口をつく。


「日本人は大人しいって聞いてたけどな。

こんなイカレた魔法使いが……」


そして、アミルの拘束を振り払った。


「お嬢!!」


「負けてられっかよ!!」


熱線に飛び込んでいく。


俺は村正を振るいながら、橘へと声をかける。


「なあ、あれも何とかしてやってくれないか?」


「……ようかなわんわあ」


高速で熱線を避けながら言葉を続けた。


「ここで死なせるのは惜しいだろ。

魔界……行きたがってたよな?」


沈黙。


その間にも、グレイスが突っ込んでくる。


熱線の一撃で彼女の防御結界が消し飛ぶ。


初めて恐怖の顔を見せた。


そこに、確実な死が襲い来る。


着弾の直前、グレイスの体がグンと引かれ、それを躱した。


――鬼蜘蛛の能力、傀儡子。


魔力糸を神経接続。

強制的な身体支配。


橘の負荷も尋常ではないため、俺にはナビゲーションだけで対応していたが。

グレイスは身体能力が追いついていないため、強制操作が必要だった。


「佐伯はん……これで反故にしたら、堪忍しませんえ」


橘の操作で、ことごとく熱線をかいくぐるグレイスを脇目に、村正を振るう。


ポイントが積み上がる。

まさにフィーバータイムだ。


「このまま削り切る……」


だが、そのとき。


グレイスの魔眼が輝いた。


『No.2 Hercules Form』


黒いカプセルが割れ、現れたのは黒と黄褐色を基調とした重厚なスーツ。


肩にいた召喚獣は、その姿を甲虫の羽根へと変じて背へ展開する。


魔力糸を振りほどき、スカンダへ一直線。

熱線を弾きながら、ヴァジュラを振るう。


「礼は言わないよ、勝負だからな!!」


雷槍が腕を、顔を穿っていく。


あの熱線をものともしないとは、でたらめなスーツだ。


呆れながら村正を振るう俺に、聞き覚えのある声がかかった。


「おじさーん、頑張ってるじゃん」


スカンダの頭頂部に立つのは、ティナ。


金蛟剪のヘッドを打ち付け、雷光を放つ。

青白い火花とともに、頭のひとつが砕け散る。


右手の指輪が小さく輝くたび、熱線を避けて瞬間移動。


「愚者の魔眼も、変なやつね!」


楽しそうに笑いながら、金蛟剪を振るう。


グレイスが吠える。


「私の獲物だって言ってんだろ!!」


ヴァジュラの轟雷と、雷光の青白い光が交差する。


これで戦場には三人……いや。


この機を逃すはずがないやつがいる。


フィールドの端で黄金の光が輝いたかと思うと、瞬く間に距離を詰めてきた。


熱線を躱す。

まるで、そこに着弾することを知っていたかのように。


――未来視。


聖剣エクスカリバーが輝く。


銀色の魔法陣が現れたかと思うと、クラリスの体は一気に飛翔。


スカンダの遥か上空で魔力が弾ける。

竜魔法――ウィンドブレスを纏った聖剣技が、巨神を切り裂いた。


続いて、炎がレーザーのように一直線に巨神を袈裟懸けに薙ぎ払う。

ギリギリで避けなければ、俺にも当たっていた。


「おい……他国選手への攻撃はペナルティだろう」


努めて冷静に声をかけると、ヘラヘラとした笑い声が返る。


「えー。あれくらい躱せないのが、レイドに出てくるわけないじゃん」


ミアの武装――火尖鎗。


戦車の魔眼が光り、空中に次々と小型ドローンが生まれる。


それがミアとスカンダの間に壁のように立ちふさがり、熱線をいなしている。

鏡面コーティングが光を反射しているのだ。


ドローンの壁に守られ、こちらへ迫りくるセラの姿も見えた。


その手にするのは、青龍偃月刀。


舞い上がり、空気を揺るがす一撃。

強力な衝撃波が腹に入った。


――巨神が放つ死の光に抗いながら、日本の中年と五人のSSRがポイントを重ねていく。


世界の視線が、いまこの場の一点に集まっていた。


***


日本の実況ブース。


梨々花は、こぶしを膝の上で握り締め、切れ長の目を震わせていた。


「私も、あんな戦いを……」


世界を沸かせる。


師が一足先にそれを実現したのは嬉しいが。

同時に、言葉にできないライバル心が燃えていた。


松枝に、小さく呟く。


「……いいですよ。

あとで魔力制御、見てもらおうじゃないですか。

魔術師の魔眼は、世界をひれ伏させてみせますから。

私は、強くなるんです」


由利衣も、こぶしを握りしめていた。


「強くなるのは、三人一緒でしょ。

……そうだよね、来奈?」


麦茶を一気に飲み干し、来奈がカメラに向かって気炎を上げる。


「今回は教官だけど、次はあたしたちだ!!

あれくらいの攻撃、かわしてぶっ飛ばしてやるし!!」


松枝は、小さく口元を上げた。


「あれを見て突っ込む気になるとはな……

なかなかピー(イカレ)ピー(クソ)ピー(生意気)ピー(小娘)だ」


スタッフがフリップで注意を飛ばしていた。


***


熱線が止み、グレイスの変身が解けた頃。


俺の目の前には、満身創痍の巨神。

三万あった持ちポイントの残りは、わずか七百。


一斉にSSRたちが襲いかかろうとする中。


俺は村正を高らかに掲げた。


***


山本先生は、炒飯のおかわりを持って待機しながら、モニターに釘付けになっていた。


そこに、西洋騎士のように剣を掲げるおじさんの姿。


「あれは……」


頬がたちまち桜色に染まる。


***


俺の背後に、魔力が具現化した薔薇が咲いた。


それを見た五人のSSRはビクッとなり、一斉に動きが止まった。


スカンダの腕に武器が握られ、俺へと振り注がれる。

それをヌルリと躱していく。


――光と華が、乱れた。


刃が煌めきとなり、舞踏のように斬撃を巨神へと浴びせかける。


……隠しダンジョンで使って以来だが。

削り切るには、これしかない。


薔薇が咲き、花弁が舞う。


SSRたちは、口を開けたまま眺めるだけ。


フィニッシュの斬撃波を叩き込むと、スカンダは光の粒となって消えた。


***


実況ブースも、突然の中年のロマンス技に理解が追いついていなかった。


「なんですか、あれ……?」


梨々花の声に、誰も答えられない。


画面内のおじさんが、ボソリと一言。


「これは、連撃壱号という技で……」


それを山本先生の絶叫がかき消した。


「アルティメットルミナスブレイク・哀です!!」


実況ブースのカメラが、一斉にジャージへと向く。


「あれは、佐伯家一子相伝の技。

私だけに見せてくれていたのに、こんな大舞台で……」


頬に手をやり、恥ずかしそうに俯いた。


――こうして。


俺は、翌日のワイドショーのネタをひとつ提供することになったのだが。


それはまた、別の話であった。

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