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ライラと『私』の物語【完結・後日談投稿中】  作者: GiGi
後日談 前編 第六章
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魔神復活 08 —五千年の重み—









「…………くっ……!」


 突如張られた、エリスの結界。クワオアーは座標移動しようと自身の『座標』を確認する。が、動いていないのにもかかわらず座標は目まぐるしく動いており、まったく参照ができなかった。


 クワオアーが地に落ちる。誠司は土人形から飛び降りて、クワオアーの前に立った。


「この結界はね、莉奈の位置を知らないと、絶対に彼女まで辿り着けないようになっている。恐らく、例え君だとしてもね」


「……ふざけるな……こんなもの……」


 クワオアーは上空へと飛び立とうとした。だが——


「……え?」


 気がつけば彼は、地面に倒れ込んでいた。


 誠司は刀を肩に担ぎ、クワオアーを見下ろす。


「下手に動き回らない方がいい。私も当時、散々苦労したからね。もっとも君が莉奈を諦めるというのであれば、結界の外に抜けられるかもしれないが」


「……黙れよ」


 クワオアーは、右手を上げた。そして——



 ——次の瞬間、クワオアーと誠司を中心に、ドーナツ状に『色彩』が広がり始めた。


 渦巻く『色彩』。眉をしかめる誠司を横目で見て、クワオアーは戦場全域に声を響き渡らせた。


「——聞こえているか、菱華莉奈! 早くボクの前に出てこい! さもなくば……この男を、消し去るぞ!」


 リナを誘き寄せる、人質。その立場となった誠司は、肩をすくめた。


「すまないね。私は家族との失われた時間を取り戻すため、最低でもあと二十年は生きなきゃならないのだが」


「……うるさい! たかが二十年だろ!?」


「そう。たかが、だ」


 息を切らすクワオアーに向けて、誠司は一歩踏み出した。


「人間族にとっては、二十年でも大した時間だ。人を愛し、子を育み、成長を見守る。とても大切な時間なんだ。でもね、クワオアー。君は——」


 誠司はクワオアーに向けて、冷たい視線を突き刺した。


「——その人間族である彼女、ティノアという女性の時間を、五千年も奪ったんだ」


「………………」


 鋭く刺す視線に耐えられず、クワオアーは目を逸らした。


 誠司は息をつき、一転、柔和な笑みを浮かべた。



「そして、再び礼を言うよ。ありがとう。動きを、止めてくれて」



「…………!?」


 その瞬間、クワオアーの身体の自由が奪われた。相変わらず狂い続けている座標。身じろぎ一つもできない。


 混乱しながらも視線を動かすクワオアーを見て、誠司は片眉を上げた。


「……やはり、動けるか。『時止めの結界』の中でも」


「………………!!」


 クワオアーは、理解する。そう、そのような魔法が、『現代』には存在する。


 ——氷人族に伝わり、対象の時を止めることができる、『凍てつく時の結界魔法』が。


 クワオアーは震える唇を無理矢理動かした。


「……さっきから姿が見えないと思っていたが……エンケラドゥスの仕業か……」


「そうだ。もっとも今の彼は、その呼び名を嫌うがね」


 誠司は辺りを見渡す。渦巻く『色彩』は、徐々に収まりを見せていた。


 ——誠司が注意を引きつけ、エリスがリナの安全を確保し、その隙にジョヴェディの分身体たちが時止めの結界を構築する。その作戦は成功した。


 これで、誠司たちの目的である『座標』の支配権は勝ち取った。




 あとは——



「……ねえ、聞かせて、クワオアーさん。私が消される、その理由を」



 ——白いマントを翻しながら、リナが空間跳躍で現れた。





 クワオアーとリナは、対峙する。


 真紅の瞳を燃え上がらせながら、クワオアーはリナを睨みつけた。


「……お前が『運命の特異点』だからだ、菱華莉奈」


「……ワケわかんないよ。それに、答えになっていない」


 確かにリナは、リョウカの『あの素晴らしい日を(フライト)』の旅路で、自身が『運命』に愛される存在だということは自覚している。


 だからといって、なぜそれが消される理由になるのか。もしかしたら彼にしか見えない何かが——


 そのように考えを巡らせるリナに、クワオアーは吐き捨てた。


「……チッ。分かった、教えてやる。ただ、あまり周りに聞かせたくない話だ。近づいてくれ」


「莉奈、危険だ。近づくな」


 そう言って庇うように上げた誠司の手を、リナは優しく下ろした。


「大丈夫だよ、誠司さん。やっと話す気になってくれたみたいだし」


 リナは警戒しながらも、一歩ずつ踏み出していく。


 それを見たクワオアーは——



 ——内心、ほくそ笑んだ。



(……そうだ、もっと近づいてこい、菱華莉奈。そうすれば、この状況でもお前を消すくらい……)


 一歩、また一歩。


 リナが目の前に現れたことで、座標の狂いはなくなっている。


 あとは、『揺らぎ』の影響力がないくらいまで距離を詰めてくれれば——


 クワオアーは、その時を待つ。



 範囲内まで、あと、三メートル、二メートル……——



 そしてリナは、クワオアーの範囲内に足を踏み入れた。


(……もらった!)


 クワオアーが妖しく目を光らせた、その時だ。


 リナとクワオアーの間に、突然、別の『魂』が割り込んできた。


 カチカチ、とリズミカルな金属音が聞こえてくる。


 リナが呆気にとられる中、その人物は姿を現して、口元を緩ませた。


「悪い男に騙されないようにね、生徒諸君。ねえ、あなた、ウブな女の子を騙そうとしてたでしょ?」



「…………くっ!!」


 突然目の前に現れた、マリアンヌ。構わず『消去』しようとしたクワオアーだったが——彼の脳裏に、ティノアの泣き顔が浮かび上がった。



 ——『……私はこんなこと……望んで、いない……』——



 クワオアーは発動しかけた『消去』のコマンドを別の命令へと書き換える。


 リナを庇うように立っているマリアンヌは、何かを上空へと大きく放り上げた。


 だが、クワオアーの力は行使されてしまった。


 マリアンヌの姿は忽然と消え——



 ——そこには、ただ一匹のウサギが残されていた。



 それを見てしまったリナの、頭が熱くなる。


 リナは反射的に、クワオアーの懐へと潜り込んだ。


 そして太刀を引き、短くつぶやく。


「……空間、跳躍」


 リナの突き出した太刀は、クワオアーの『攻撃を受け付けない』体質をすり抜け、彼のみぞおちを貫いた。


「……ぐふっ」


 再生を試みるクワオアー。だが——この時止めの中、瞬時に再生ができない。


 リナは、つぶやき続ける。


「——空間、跳躍」


「…………ガッ……」


 クワオアーの血流内に、次々と『空気』が送られてくる。息が苦しい。意識が朦朧とする。『不老不死』の体質だ、死にはしないが——


「……マリアンヌさんを、戻して」


 ——真っ直ぐな視線をクワオアーにぶつけるリナ。


 だが、これはクワオアーにとってチャンスだ。


 彼は、薄れる意識の中、リナを消すために彼女を見据え——



 その時。先ほどマリアンヌが放り投げたものが、風に揺れながら、眩しく輝いた。


 それは、ヒラヒラと舞い落ちる背広。そこに刻まれた『転移の魔法陣』から——人が、現れた。




「ガキんちょ。お届け物だぜ」




 男は女性を抱えながら、地面に降り立った。


 その男——パックに抱えられていた女性は降ろされ、クワオアーを睨んだ。


 茫然とするクワオアー。


 そして、彼女——ティノアは唇を強く噛み締め、右手を振り上げて——




 パァン




 ——戦場に、乾いた平手打ちの音が、鳴り響いた。





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