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ライラと『私』の物語【完結・後日談投稿中】  作者: GiGi
後日談 前編 第六章
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魔神復活 07 —手のひらの上—










 戦場を見つめるティノア。


 いくら声を届けようとしても、私の声は彼には届かない。


「……クワオアー。どうしてあなたは、カマツカさんを殺そうとするの……?」


 そうつぶやき、彼女は自身を庇うように立っているリナの後ろ姿を見つめる。


 現状クワオアーは、リナ以外の者を消そうとはしていないみたいだが——世界の滅びを宣言した彼だ。いつ心変わりをしてもおかしくはない。


 ティノアは無力感に苛まれながら、自身の右手を見つめる。


 その時だ。背後から声が掛けられた。


「ティノア、無事?」


「……エリス」


 振り返ると、そこには三百年前の親友、エリスの姿があった。ティノアは力ない笑みを浮かべて、彼女から視線を逸らす。


「……ごめんなさい。私のせいで、カマツカさん……リナさんが……」


 自分自身を責めるティノア。


 ——そう、私が彼を復活させてしまったから、ううん、そもそも五千年前に、彼を止めることができていれば——


 そんなティノアの唇に、エリスの人差し指が当てられた。


 驚き、視線を上げるティノアに、エリスは小首を傾げながら微笑んだ。


「違うでしょ? ティノアは何も悪くない。だからさ、協力してくれる?」


「……協力って、なにを……」


 それなりの戦闘力は持っていると自負しているティノアだったが、この戦いでできることは何もないだろう。同じ『三つ星』なのに、彼ら彼女らはそれぞれの持ち味を活かしてクワオアーと渡り合っている。


 彼らに比べ、ただ五千年生きてきた程度の力しか持たないティノアに、いったい何が——


 苦しそうな表情を浮かべるティノアの肩に手を置き、エリスは何もない背後を振り返った。



 カチ、カチカチ



 その場所から、リズミカルな金属音が聞こえてきた。








 誠司は座標を特定されないように、常に動き続けていた。


 クワオアーは自身の周囲の魔素を消し去り、揺らぎの中、なんとか誠司を捕捉しようとするが——


「チッ。動き回るなよ」


「なら、止めてみてはどうかね?」


 ——先ほどのライラは油断していたので、隙をついて捕らえることができた。


 だが、この揺らめく戦場の中、この男はそれを意にも介さず的確に動き、避け続けているのだ。


 クワオアーとて、『魂』の位置は捕捉できる。しかしこの揺らぎの中では、『魂』の位置情報すら揺らぎ、ズレが生じてしまう。


 身の回りの魔素を消し去っているクワオアーでさえこれだ。それ以上にハンデを背負っているはずのこの男は、どうしてこうも自由に動ける?


 運良く誠司の後ろを取ることができたクワオアーは、その背中に向かって手を伸ばす。


 しかし誠司は、まるで最初から見えているかのようにその手をかわし、距離を空けた。


「……くそっ。なんで分かるんだよ! 揺らぎの中にいるのは、お前も一緒だろ!?」


「すまないね。昔、私の妻を捕まえるために、散々苦労したもんでね」


 誠司はそう答え、クワオアーに向けて投げクナイを放った。


 歪な軌道を描くクナイ。しかしそれは、正確にクワオアーに当たった。


 カランと音を立て、クナイが落ちる。痛みは、ない。今のクワオアーの身体は、攻撃の類いを無効化することができる。


 だが、クワオアーは——その男の技術を見て、唇を噛んだ。


(……ボクの力の上を行くというのか、この男は)


 無論、『色彩』でも放てばこの男を容易に消し去ることは可能だろう。


 ただ、これから『菱華莉奈』を消すという罪を犯すクワオアーにとって、それは避けたいことであった。


「……くくっ……それも踏まえて、運命に愛されているということか、菱華莉奈」


「……なあ。君はなぜ、莉奈()()を消そうとする? 君が本気を出せば、私なんか簡単に消せるだろうに」


「ティノアに怒られたからね。彼女は無闇な人殺しなんか望んでいない、優しい人なんだ」


「………………」


 矛盾。人殺しはしない、なのに、リナ、ひいては『世界の滅び』をクワオアーは宣言している。


 駆け続けながら、クワオアーの真意を量ろうとする誠司。だが。


 クワオアーは突然、その場に留まった。


「……終わりにしよう。いい加減、菱華莉奈を消さなくてはならないからね」


「させるかよ」


 刀を抜き、クワオアーに向かって駆ける誠司。しかし、その彼の目の前に突然、分厚い氷の壁が現れた。


「……チッ」


 誠司は壁を蹴り、迂回しようと回り込む。


 だが、誠司の行く手に次々と氷の壁が現れて道を塞いだ。


「悪いね。君はそこで、大人しくしていてくれ」


 雑な作りではあるが、これだけの壁だ。もはや身動きは取れないだろう。


 誠司を氷牢に閉じ込めたクワオアーは歩き出す。だが、この揺らぎの中ではリナの姿を視認できない。『魂』の位置を捕捉しようにも、少し距離があるようだ。


 クワオアーが息をつき、座標移動をしようとした、その時だ。



 ——地面が突然、振動を始めた。



「………………!!」


 クワオアーは空中へと座標移動した。


 揺れる地面は隆起し、氷牢を破壊しながら盛り上がり——



 ——そこには、巨大な土人形が現れていた。



「……エンケラドゥスの土塊つちくれ、か……」


 クワオアーは見る。『厄災』の力によって作られた土の巨像を。


 その土人形の手のひらの上では、誠司があぐらをかき、頬杖をついていた。


「すまないね、クワオアー。時間稼ぎに、付き合ってもらって」


「……なんだって……?」


 ふてぶてしく笑う誠司のことを、クワオアーは真紅の眼差しで見つめる。


 誠司は不敵な笑みを浮かべ、言い放った。



「——私の妻の結界は、すごいぞ?」








 戦場の端々をリナの『空間跳躍』で回ったエリスは、ふうと息をつく。


「さて、簡易的だけど、こんなもんかな。じゃ、いくよー」


 エリスは白い杖を、トンと地面に突いた。


「——『結界の魔法』、発動!!」


 戦場を、エリスの結界が覆い尽くす。


 彼女の住む西の森が、『迷いの森』と呼ばれる所以である結界を。



 ——そう。エリスの結界。それは、対象を惑わす結界。



 エリスは遠く空に浮くクワオアーを眺めた。



「——『リナ』を対象に張らせてもらった。これであなたはもう、リナに辿り着けない」






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