魔神復活 06 —『座標』の支配者—
「——『光弾の魔法』」
魔法抵抗力を無視するジョヴェディの光弾が、クワオアーを穿つ。
傷口を再生させながら、クワオアーはジョヴェディの元へと座標移動をした。
「消えろよ」
クワオアーの手がかざされる。それをジョヴェディは避けようともせず、ただ眺めた。
「ジョヴお爺ちゃん!」
ライラの声が響く。だが、瞬きをする間にジョヴェディの姿は消失してしまった。
「……ふん」
クワオアーはゆっくりと手を下げた。しかしその背後から、消したはずのジョヴェディの声が聞こえてきた。
「……クックッ。意味がないのは、承知しておろう? ライラよ、離れておれ」
「…………!!」
初めてクワオアーの表情に、焦りの色が見えた。振り返るクワオアーだったが、すでにジョヴェディの言の葉は紡がれていた。
「——『爆ぜる光炎の魔法』」
空中で大爆発が起こる。ジョヴェディを中心に紡がれたその魔法は、クワオアーを巻き込んで——
——いや、クワオアーは瞬時に座標移動をし、爆発から逃れた。
忌々しげな表情を浮かべるクワオアー。
だが。
「「——『光弾の魔法』」」
地中から飛び出してきた三体の分身体が、真っ直ぐに飛翔しながら言の葉を解き放つ。
クワオアーは手を振り払い、迫り来る光弾の軌道を逸らした。
三体のジョヴェディが、クワオアーを取り囲む。
「ククッ、なるほどのう。お主、『魂』のない存在は、感知が遅れる。そうじゃろ?」
「…………ッ……だから……どうした」
クワオアーは『色彩』を巻き起こし、ジョヴェディの分身体を消し去った。しかしその背後から、姿を消した分身体の声が聞こえてくる。
「さあ、小童。ワシに付き合ってもらうぞ。せいぜいワシを、楽しませてくれ」
†
「……なるほどね。『魂』は『情報』のデータパッケージである、その仮説が成り立つな」
ジョヴェディとクワオアーの戦いを眺めるグリムはつぶやく。隣に立つリナは、戦況を眺めながら口を開いた。
「どういうこと?」
「ああ。彼は視覚だけではなく、『情報』を見て、私たちの位置を特定している。だから『魂』のないジョヴェディの『分身体』に対しては、視覚に頼らざるをえない分、ラグが生じてしまうということさ」
思えばクワオアーは、空間跳躍したリナの位置を瞬時に把握していた。ということは、クワオアーは——
「——もしかして、誠司さんの『魂を見る能力』みたいな力で私たちを捕捉している、っていうこと?」
「だろうね。そして彼が力を振るう条件は、『座標』の特定、もしくは『魂』へのダイレクトアクセス。それらをすることにより、私たちの『情報』を操作できると考えられる」
消去コマンドの実行。それは、先ほどグリムの端末が身を以って体験したことだ。
彼の力は分かってきたが、だからといって打開策が分かったわけではない。いや、知れば知るほど、彼の力の底知れなさに戦慄するばかりだ。
リナは太刀の柄を握りしめ、空を睨んだ。
「……それで、グリム。私はどう動けばいい?」
「莉奈、キミは最後まで動くな。いつでも逃げられる準備をしておいてくれ」
「でも!」
思わず声を上げるリナのことを、グリムは横目で見た。
「この戦い、どうやらクワオアーの目的はキミの消滅のようだ。言い換えれば、それが私たちの敗北条件でもある。なに、策は練ってあるさ——」
グリムは一歩前に出て、口角を上げた。
「『経験』の違いは大きな武器になる。さあ、『座標』の支配権を賭けた、戦いだ」
†
自爆上等で特攻を仕掛けてくるジョヴェディの分身体たち。
クワオアーは座標移動を繰り返すが——
「そこじゃ——『爆ぜる光炎の魔法』」
ジョヴェディは正確にクワオアーの位置を把握し、次々と分身体をぶつけていった。
(……くそ……なぜこうも簡単に、移動先が分かる……?)
クワオアーは、違和感を覚える。どこに移動したとしても、目の前の老人はすぐに彼の姿を捕捉してしまう。
(……そうか、なら……)
クワオアーは自身の『情報』を書き換え、姿を隠した。
この状態で座標移動を繰り返せば、そう簡単には——
「——甘いのう、小童。そこじゃ」
「……ぐあっ!」
爆発が、クワオアーの半身を抉る。瞬時に再生を終えたクワオアーだったが、その額には汗が滲み始めていた。
「……なぜ、分かる……」
「……フン。のう、ライラよ。『揺らぎの魔法』を張り直せ。そろそろ消えてしまうかもしれんからのう」
「うん!」
ライラの言の葉が紡がれる。濃く現れる、空間の歪み。
クワオアーは眉をしかめながら、周囲を見渡した。
(……揺らぎ、のせいなのか……? いや、その魔法に『座標』を割り出すような効果は……)
彼は注意深く辺りを観察する。揺らぐ光景、揺らぐ地面。
そして、その地表には——
「…………!!」
「クックックッ、ようやく気づいたようじゃのう、小童」
クワオアーの背後に現れたジョヴェディは、笑いを噛み殺しながら声を上げた。
「青髪よ! 此奴の探知範囲は、あの男ほどではない! お主の想像通りじゃ!」
「うるさい!」
クワオアーが手を振ると、ジョヴェディの分身体はかき消えた。
彼が見つめる、視線の先。その大地には、揺らぎに紛れて——
——一人の男が、立っていた。
「ようやく気づいたようだね。そうだ、私がジョヴェディに、君の位置を教えていたんだ」
その男の前に座標移動したクワオアーは、目の前の人物を忌々しく睨みつけた。
「……お前の力か、鎌柄誠司……」
誠司は刀を静かに抜き、構えた。
「そうだ。ところで訊くが、どうやら君は私の娘に手を出そうとしているみたいだね」
「……うるさい。菱華莉奈は、ここで消す」
「……そうか。技を借りるよ、ポラナ君」
誠司は静かに息を吐く。そして、短くつぶやいた。
「——電光、石火」
その、刹那——
身を低くし大きく大地を蹴った誠司の刃は、クワオアーの口内を貫き通していた。
「……カハッ」
理解できないながらも、クワオアーは座標移動で大きく後退した。誠司は刀を振り払い、瞬時にクワオアーを捕捉する。
暗く冷たい瞳が、クワオアーを、突き刺す。
「私の娘を消そうだなんて、そんな不届き者、許せるわけがないだろう? 親として、そして、人として、な」




