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02

 それはいきなりだった。


「じゃあ、あたしここまででいいから」


 サラが首都イデアルタに入る直前で降りると言い出したのだ。


「は? ここまでって、まだ街の中じゃねぇぞ」


「そうだぜ、嬢ちゃん……街までもう目と鼻の先ってんのに、どうした突然?」

 

 おっちゃんが言うように、もうあと十五分も馬車を走らせれば街に着くだろう。

 なのにこいつは降りると言う。なにかあるのかと周りを見ても、ただ農耕地と牧草地があるばかりで、こいつの興味を惹きそうな研究対象物なんてものは見当たらない。

 あるとすればあの、大人三人横に並べてもまだ勝るほど巨大に育ったまん丸の毛玉――グランムートンぐらいなもんだろ。

 八年ぶりに見たが、改めてアレが羊だとは到底思えない。

 俺がそんな事を考えてる間にサラが喋り出す。


「いいの。あたし、この辺りからちょっと調査したいものがあるのよ。例えばアレとか」


 サラが指差す所を見てみれば、やはりと言うか、そこにはグランムートンがいた。

 指を差されたグランムートンが「メェー」と吞気に鳴きやがる。


「あんなもんも調べてんのか、お前」


「あんたねぇ、あんなもんって言うけど《《アレ》》はかなり珍しい個体なのよ。大陸中でもここイデアルタ平原にしか存在しない固有種で、数少ない〝人と共生している魔物〟でもあるんだから。十分、あたしの研究対象物だわ!」


 お前もアレ呼ばわりじゃねぇかとはつっこまず、俺は呆れた眼差しでサラを見下ろした。

 拳を握り、興奮気味に喋るサラの目は普通じゃない。完全に頭ん中が研究者のそれに切り替わっていた。

 こうなったらこいつを止めることが出来ないのは、魔物を倒した後の道中でよく知っている。

 何故ならあの後、結局(けっきょく)俺はこいつに自身の機構弓剣を無理矢理調べられ、小一時間弄繰(いじく)り回されたのだ。

 まぁ、つまりだ。こいつは一度こうなると気が済むまで調べ尽くす生粋の研究者であり、天才的な魔導士なわけで。俺にこいつを止める術も理由もない。

 そのことをおっちゃんも理解している。

 だから俺はフッと笑い、サラに手を差し出した。


「まぁ、短い間に色々あったけど退屈しない程度には楽しかったぜ。もし今度あった時は、お前の研究内容について聞かせてくれ」


「嬢ちゃんには随分と世話になっちまったな。こいつは僭越の林檎だ。もってけ!」


 それぞれ別れの言葉を紡ぐ。


「なによ、あんたたち。たった一日の付き合いでちょっと大袈裟すぎない?」


 なんていつものサラらしく、淡々と言ってくれる。

 なんとなく俺は、それを面白く思う。最初の出逢いは最悪で、それこそ俺はこいつを嫌味な最悪の女――まぁ、サラも俺に同じ事、若しくはそれ以上に思っていただろうが――だと思っていたが、まともに口を利いてからはそんな印象は消え去っていた。

 寧ろ、どこまでも研究熱心なこいつを俺は好ましくも思う。

 本当、最初の人の印象なんてのはたった一日で変わっちまうぐらい当てにならないんだなってのを気付かされた。


「ばーか、これは旅する者にとっての風儀(ふうぎ)なんだよ。お互いこれからも無事に旅が続けられるようにってな。だから大人しく受け取っとけ、次また会った時に別の何かで返せるようにな」


「……ふーん、旅人ってのは面倒な性格をしているのね」


「義理人情に厚いっつうんだよ、そう言う時は」


 俺がそう訂正してやると、サラがフフっと笑った。


「……そうね、あんたの言う通り。あたしも〝なかなか〟有意義で〝それなり〟に楽しい一日だったわ」


 そう言って、サラが俺に手を差し出す。

 俺は最後まで素直じゃない奴だなと笑ってやり、互いに握手を交わした。

 その後、サラはおっちゃんからの餞別を頂いて握手を交わす。


「元気でな嬢ちゃん! つっても、数日は首都にいるつもりだからよ。何かあったら俺の店まで寄ってくれ!」


「ありがとう、おじさん。ここまで馬車に乗せてくれて助かったわ。お店には……時間があればいくかも」


「おう! 是非、来てくれ!」


 そんなこんなで一連のやり取りを終えると、いよいよ別れが訪れる。

 俺は最後に「じゃあな」と言い残し、馬車に乗り込んだ。振り返れば、サラが「えぇ、それじゃ」と不愛想に手を振った。

 それを合図に馬がヒヒィンと鳴き、土煙を上げて馬車が走りだす。

 その時だ――サラの唇が動いたような気がした。

 何かを言ったんだと思うが、なんて言ったかは聞き取れない。

 だが、唇の動きを辿ればある程度予測は出来る。


「街……着いた……知って……驚く……?」


 いったい何のことかさっぱりだ。

 どういう意味だと訊き返そうにも、すでにサラの姿は遠く先。

 まぁ、街でなんか凄い催しでも開いてんだろうな。ってぐらいにしか、この時の俺は考えていなかった。


 だが俺は、すぐにその言葉の真意を知ることとなる。


お読みいただきありがとうございます。

サラは一旦ここで退場です。勿論、後からまた出てきます。

次回の投稿ですが、誠に勝手ながら明日はお休みして明後日の20時以降に投稿します。

よろしくお願いいたしますm(__)m

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