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01

 イデアルタ平原――首都イデアルタを囲むこの平原は非常に広大で、森や湖、そして山脈から流れる川が所々に点在している。それらを拠点とした町や村も多くあり、交易を目的とする商人の往来が活発なところでもあった。

 そんな商人や人々の往来で自然に出来た道を俺達は馬車で走っており、一つの丘陵(きゅうりょう)をちょうどいま越えたところだ。 


「お! あんちゃん嬢ちゃん、首都イデアルタが見えたぜ!」

 

 おっちゃんが叫ぶ。俺は「やっとここまで来たか」と思いながら凝った身体をほぐし、御者台側からその全貌を目に写した。


 山脈から流れ出る一本の大河。その上に首都イデアルタは存在している。

 街は地、川、地と大河を堰き止めるかのように出来ており、平皿のように広がる街並みを背の高い城壁が囲んでいた。街のど真ん中には一際目立つ厳格な城が立っていて、あそここそが〝イデアルタという国全ての中心〟なんだと一目見ればわかるほど存在感を放っている。

 おっちゃんから聞いた話だと、現在あの城にはイデアルタ国民全ての代表者――エルガー・ガラノス元首がいるらしい。


 しかし――この女ことサラは、恐らく初めて訪れるのなら誰もが息を吞む圧巻の景色をいちいち立つのが面倒と言うように馬車のほろを開いては座ったまま眺めている。


「どうだ! あれがイデアルタ共和国、最大都市だ! すげぇだろデケぇだろ! 感動しちまうよなぁ!」


 意気揚々とおっちゃんが言うが――。


「まぁ、あんまり代わり映えしてねぇな」

「まぁ、想像通りって感じね」


 俺もサラもあまり関心がない。

 正直、ガキの時に散々親父に連れて来られたから俺はあまり感動はしない。でもやっぱり懐かしくは思う。

 だが、サラ。お前はなんでそんな無感動なんだよ。

 おっちゃんを見ろ、思ってた反応と違うって顔してんぞ。


「あ……あはは……なんだあんちゃん嬢ちゃん、もしかしてそれなりに来てる感じかい? あの街を初めて見る奴等は皆、目をきらつかせるんだけどな」


 ほらみろ、意気揚々が一転、意気消沈しちまったじゃねぇか……って、俺のせいでもあるな。

 ここは適当な言い訳でも言って場を取り繕うか。


「わ、悪いなおっちゃん……実は何回か来たことがあんだよ、俺は」


 すると、おっちゃんの表情が見るからに明るくなる。


「あぁ、やっぱりそうか! だよな、じゃねぇとあんちゃん達みたいに落ち着いてなんかいねぇからな! 俺なんか初めてここ来た時なんか興奮しすぎて、胃の中全部もどしそうなっちまったもん! おっとすまねぇ、汚ぇ話だったな今のは!」


 このおっちゃん案外ちょろいな。

 と思ったんだが、ここで余計な一言が発せられる。


「そうなの? あたしは初めてだけど、首都自体には興味ないから別にって感じね。人の多いところとか嫌いだし」


 その一言で再びおっちゃんから笑顔が消え失せた。

 おい、天才魔導士。人が折角(せっかく)雰囲気を戻そうとしてんのになんてことしてくれんだよ。とは言わず――心の中で押しとどめ、再び窮屈な場所にドカッと座った。

 サラは眠そうに欠伸をしている。それはどうなんだと、抗議のつもりで俺は目を細めた。


「なに? もしかして空気読めって言いたいの?」


「わかってんなら、そうしろよ」


「無理ね。あたしは素直に思ったことしか言わないの。それに、噓は嫌い。噓吐くぐらいなら言わないわ」


 あまりにもきっぱりと言うもんだから俺は「左様ですか」としか言えない。

 てか、素直に言わなくていいからせめて黙っとけよ。


「まぁ……あれだな。人それぞれ感じ方っつうのは違うもんだし、嬢ちゃんの場合はこういったデカい街より物静かな町や村の方が好きってことだよな……ハハハ」


 そう言うおっちゃんの背中はどこか悲しげだ。


「おじさんよく分かってるじゃない。人が多いとうるさくて研究が捗らないのよね」


 あぁ、この女。おっちゃんが逆に気を遣ってくれてることに気付いてねぇな。

 何を言っても無駄だなと俺は呆れると、それ以上は何も言わずに黙ることにした。

 サラも何もなかったような顔をして、例の古書を開いては読み始めた。

 およそ首都に着くまであと二時間。ちょうど昼には着くだろう。

 俺はそれまでこの広大な景色を楽しむことにした。癒しを求めて――。




お読みいただきありがとうございます。

次回は明日、20時以降に投稿します。m(__)m


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