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03

 サラと別れて十数分、予想通り昼には街の正門に着いた。

 ところがだ――。


「おいおい、なんだこの行列……」


 正門の前では異常とも言える大勢の人と馬車が列を作っていた。

 これはいったい何の行列かと、おっちゃんに問う。


「いやぁ……たぶん検問なんだろうとは思うんだが」


 確かに大体のでかい街ってのは門があり、そこには必ず検問を行う衛兵が配置されてるもんだが、俺が知る限りこの首都でこんなに行列を作っているところは見たことがない。


「検問つっても、いつもはこうじゃねぇだろ?」


 俺はその疑問をおっちゃんに投げた。


「あぁ、ここまで行列が出来たのは内戦ぶりじゃねぇか? あの時は貴族が反貴族派組織軍(ラージュリベリオ)を街に入れないように厳重に審査してたからな……」


 なるほど内戦か。その当時の状況を山村に幽閉されていた俺は知らないが、おっちゃんの言ったことから察するにこの行列の原因は似たようなことが起きているってことだろう。

 門の方に目を凝らせば、衛兵が険しい顔付で人や馬車を調べている。


 その際、衛兵が手元に持った資料めいた紙と人を交互に見比べてる様子から〝やっぱり〟と言ったところか。

 馬車に関しては大きい木箱や荷袋は入念に中身を確認しているが、逆に小さい荷物は中身を確認せず、高く積まれていればそれをどかす程度で終わっている。


 その様子から、はっきり言って〝誰か〟を探しているのは一目瞭然だ。

 もっと言ってしまえば、その誰かはきっとこの国で〝相当な罪〟を犯した人物なんだろう。

 じゃなきゃ、こんな行列が出来るほどの徹底した検問なんかするわけがない。

 まぁ、兎にも角にも。


「あそこまで行ってみればわかることだな」




 それから一時間ほど。

 俺とおっちゃんは行列の流れに従って、ようやく門の前まで来ることが出来た。

 検問まではあと少し、それが終わればいよいよ首都だ。

 そう、あと少しなんだが。 


「ったく、衛兵どもはなにちんたらやってんだ。もっとテキパキ迅速にやれよ。それが出来なきゃもっと人員増やせ。もう待ちくたびれてんだよ」


 おっちゃんにとって一時間は流石に長過ぎたのか、周りに聞こえない程度にブツブツと毒を吐いている。

 その苛立つ気持ちはわからなくもない。それに静かではあるが、この列に並ぶ人達の殆どはおっちゃんと同じ気持ちだろう。憤懣(ふんまん)に満ちた空気がこの一帯を包んでいるのがわかる。

 特に商人なら尚更だ。彼らはこの行列のせいで、昼の稼ぎ時を失ってるわけだからな。


 そんな商人を宥めれるほど俺は口は上手くない。

 余計な事を言えば、寧ろ感情を逆撫でることになりかねない。

 ということで、ここは何も言わずほっとくことにする。


 そう結論つけると俺は、ふと懐かしい〝何か〟を感じ取り、思わず門の方に目をやった。


 門の向こうには街並みが見え、そこから聞こえてくる大勢の人の声や楽団が奏でる楽し気な音楽、行商人が広げる食料品や街の料理人が振る舞う料理の匂い、そう言った五感を刺激するものが門の向こうからなだれ込んできた。


 ――同時に昔の記憶も。


 初めて親父に連れられて来た時俺は、そのあまりの人の多さと雑多な音で恐ろしさを感じ、親父の足元にくっついていたのを覚えている。


「おいおい、俺の息子の癖に臆病な奴だな」


 そう言って、親父は笑っていた。

 そりゃあ、子供の俺からしてみれば見知らぬ場所で見知らぬ大人たちが広い大通りを闊歩し、聞き取れないほどの様々な音が耳を通っていけば恐怖も感じるだろう。


「…………」


 だけど俺は、親父に何を言うでもなく頑なに親父の足元から離れようとはしなかった。

 そんな様子の俺を見て親父は暫く困っていたが、何か思い付いたように手を打つと「これならどうだ」と言って俺を抱え上げ、その商人としてはがっしり過ぎる肩に俺を乗せた。


「顔を上げて見てみろ、リヒト」


 俺は親父に促されるまま顔を上げ、その光景を目に映した。

 

 そうすると街並みも見づらかった人の顔も良く見えるようになって、雑多な音が人々の笑い声や音楽なんだと理解した俺は、不思議と恐怖心は無くなり寧ろ心が躍っていた。

 そして、そんな表情が明るくなった俺を見て、嬉しそうに親父は語ってくれた。


「わかったかリヒト。お前が怖いって思ったものも視点を変えれば面白いもんに変わっただろ?」

「物事ってのは様々な角度で見て、聞いて、考えると色んな答えが出てくるんだ」

「お前も俺みたいな商人を目指すなら、今のことを覚えておけよ」


 断片的だが確かそんな事を言っていた気がする。

 もう十五年も前の話だ。


「十五年……か」


 思えばその十五年で色んなことが起きた。そして変わった。

 特に八年前と現在じゃ、この国も俺も大きく違う。

 帝国が共和国に、騎士見習いが復讐者に、たった八年の月日で大きく変わってしまった。

 だけど、十五年経って国の支配者が変わってもこの街の光景までは変わらないらしい。

 俺はそれを良いことだと思う。


 そんなふうに物思いに耽っていると――。


「よし次! そこの二人、馬車と一緒にここまで来なさい!」


 衛兵に呼ばれた。

 どうやら順番が回ってきたらしい。


「ようやくこれで街に入れるぜ……」


 長らく待たされて疲れきっていたおっちゃんが安堵のため息を吐いた。


「ま、審査に通ればの話だけどな」


「そこは問題ないだろ? あんちゃんも俺も善良なイデアルタの国民だ。なんも悪い事なんかしちゃいねぇんだから、心配いらねぇよ」


 冗談で言ったつもりじゃないんだが、冗談と捉えたおっちゃんが破顔してそう言った。

 別におっちゃんを咎めるつもりはないが、吞気なことをとは思う。

 確かに俺は村を出てからこの国に追われるほどの罪を犯した記憶はないし、たぶんおっちゃんも納税額をちょろまかしたりしていない限り問題はないだろう。


 じゃあ何が問題か。

 問題はない。

 ただ気になることがある。

 サラの言葉だ。

 サラの別れ際に呟いた言葉が。正確には口唇(こうしん)の動きで読み解いた言葉が、頭にグルグルと巡っては離れない。


 ――街……着いた……知って……驚く……


 今一度、その動きを自分の口を使って辿ってみた。

 この言葉の意味。俺は最初、首都に続くこの行列の事だとすぐに理解した。

 でもなんだ。なんか違う気がする。

 そんな考えが列が進むごとに強く増してった。

 そもそもサラが、〝そんな事だけ〟を去り際に呟く必要性と理由がわからない。それもわざわざ俺たちに聞こえるか聞こえないかの程度でだ。無駄を嫌うサラの行動としては不自然な気がする。

 つまりは何か他に意味があって言ったんだと思うんだが……。

 そこまで考えたところで、答えが出てこない。

 でもなんとなく嫌な予感だけは感じている。とりあえず、腹は括っといた方が良さそうだ。

 願わくば、ただの思い違いで済んで欲しいところだが――。





お読みいただきありがとうございます。

ここらで想像しやすいように時代設定を言うならば、中世後期ぐらいと思ってくれればいいですかね。

そこに魔法等、ファンタジー要素が加味されてる感じです。

では次回の投稿は明日、20時以降です。m(__)m

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