第4話 観測は止まらない
『観測戦を開始します』
佐川さんの写真を、こっそりと撮った。
今までの経験で、正面から撮る必要がないと分かっていたから、迷いはなかった。
それよりも、アプリの正式登録のほうがよほど思い切りが必要だった。
『観測戦を開始します』
ネットバンキングの開設と、口座番号の提示。
直接ではないにしろ、名前と住所を渡しているようなものだ。
半日ほど悩み、思いとどまろうとしたが、無理だった。
佐川さんを仲間に入れ、スタメンに固定し、観測戦を回した。
【八方美人】
【ランク:C】
【影響力:54】
【信頼度:12】
【拡散性:72】
彼女の名称には不満があったが、最初から数値は高かった。
ただし、打たれ弱いタイプらしい。
この時点で、何となく分かってきた。
影響力は攻撃力、信頼度は防御力、拡散性は素早さ。
たぶん、間違っていない。
それを裏付けるように、弱点を補うようにスタメンを編成すると、勝利までの時間が短くなった。
『観測戦を開始します』
基本的に、仲間の成長は微々たるものだった。
時に、数値が減ることもあった。
ただ、戦いに勝てばいいのではないらしい。
法則が、いまいち分からない。
『観測戦を開始します』
しかし、数値がぐんと伸び、ランクそのものが上がることがある。
その顕著な例が、『鬱気味営業マン』だ。
なんとなく愛着が湧き、仲間ストックがマックスになっても放流せず、一覧に残したままにしていた。
それが一昨日、気づいたら『奇跡の逆転ファイター』に変わっていた。
ランクは『E』から『C+』になり、今では完全にスタメンのアタッカーになっている。
ただ、少しだけ『バーサーク:激躁状態』のバッドステータスが気になる。
「……えっ!?」
佐川さんの情報開示レベルが上がっていた。
ステータス欄を見て、思わず目を疑った。
『八方美人:佐川瞳』
正真正銘、彼女の名前だった。
ゼミの名簿で、密かに知っていた。
【観測戦を開始します】
戸惑い、混乱するが、操作は迷わない。
画面を開き、誰かを取り、戦いを重ねる。
『恋愛:幼馴染(片思い)』
『対人傾向:男性への拒否反応』
少しだけ手が止まるが、それでも彼女の情報をさらに深掘りしていく。
【隠蔽技術:最優】
【性的指向:女性】
なるほどと納得した。
戦闘における彼女は、打たれ弱いがよく避ける。
そこにスキル『微笑みでクソボケ』の完全回避が、たまに発動するためダメージを受けない。
だが、それは対戦相手が男性の場合に限定される。
また、ステータス数値は、最大五人のパーティ編成において女性比率が高いほど上昇する。
【あなたへの好感度:-38】
【接触履歴:浅い会話のみ】
【認知評価:対象外】
【感情反応:無関心】
ついに、彼女の自分に対する情報が開示された。
「ふーーん……。」
とっくに、どうでもよくなっていた。
昨夜、彼女が誰に心を慰められたのかすら、もう知っている。
それより重要なのは、彼女が欠かせない回避アタッカーだということだ。
「いや……。待てよ」
ふと、新たな戦闘を開始しようとした指が止まった。
『秘密を手に入れ、人生を支配しろ!』
このアプリをダウンロードするきっかけになった、宣伝文を思い出した。
「……知られたくない秘密だよな」
思わず、眉間をこする。
「いや、ないない。ゲームだって」
すぐに顔を振り、馬鹿な考えを捨てた。
しかし、観測戦に勝つたび、ネットバンキングの口座残高は増えていく。
どこまでが本当で、どこまでが嘘なのか分からない。
ただ確実に言えるのは、このゲームをもう止められそうにないということだった。




