第3話 開示レベル
【観測戦を開始します】
パシャリ、とシャッター音が鳴る。
スマホの中で、仲間たちのアイコンがぶつかり合った。
気づけば、ハマっていた。
噂好きのおばさん。
カミナリじじい。
地下アイドル。
戦って勝ちを重ね、仲間が増えていた。
ただ、『観測戦』という意味が分からない。
【交友ログを解析中】
【地域接続を確認】
【地下アイドルのスキル『思わせぶり』が発動!】
戦闘中に表示されるログも、何を意味しているのか理解できなかった。
「……だから、何なんだよ。
そこをチュートリアルで説明しろって……。」
戦闘と言っても、結局は数字が減るだけだ。
気づけば、夕方になっていた。
現実では何も起きない。
駅からは、高校生が続々と帰ってくる。
少し居心地が悪かった。
ベンチから立ち上がろうとした、その時だった。
【仲間の情報開示レベルがアップ!】
画面いっぱいに、サムズアップのアイコンが表示された。
パンパンッ、とクラッカーの音が鳴る。
「……は?」
最初に戦い、仲間にしたあと、妙な愛着で使い続けていた『鬱気味営業マン』の写真が跳ねている。
とりあえず、タップしてみると、見覚えのない項目が増えていた。
【鬱気味営業マン:高橋聡太】
【年齢:28歳】
【勤務先:東都ハウジング】
【現在の悩み:営業成績の低迷】
【趣味:風俗通い】
思わず、眉間をこする。
「いや……。いやいや、いやっ……。」
指が止まった。
妙に、生々しい。
ゲームの設定にしては、リアルすぎる。
無意識に顔を上げる。
もちろん、鬱気味営業マンはいない。
彼が、俺の前を通り過ぎたのは、一時間以上も前だ。
胸の奥が少しだけざわつく。
「……面白え!」
だが、そんな感想が先に出た。
当然、適当な嘘に決まっている。
それでも、暇つぶしではなくなった。
「だったら……。」
どうせなら、好みの女の子だ。
比較的強い『カミナリじじい』をスタメンから下げる。
代わりに、『高校でアイドルだったコンビニ店員』を入れる。
【仲間の情報開示レベルがアップ!】
七戦後、彼女の写真が跳ねた。
「よしっ!」
たまらず、右手で小さく拳を握った。
その声に、通りがかった女子高生が何事かと足を止める。
すぐにベンチから立ち上がり、歩き出した。
【コンビニ店員:高橋麻里奈】
【バイト歴:8か月】
【現在のストレス:38%】
【交際状況:片思い中】
【金銭傾向:不明確な副収入の存在】
最後の項目が、妙に想像力を掻き立てた。
「……マジかよ」
思わず笑いそうになる。
面白すぎる。
気づけば、次々とアイコンを開いていた。
【カミナリジジイ:駿河治郎】
【通院回数:月2(腰痛)】
【息子との連絡:半年なし】
【バスケ部部長:瀬名瞬】
【第一志望:E判定】
【カリスマ:低い(自己中心的)】
【イカス美人:只野絵美里】
【職業:高校保健医】
【恋人:あり(高校生)】
表示される情報は、どれも中途半端にリアルだった。
だからこそ、面白い。
ようやく、『観測戦』の意味が分かった気がする。
仲間と戦い、勝利する。
それによって仲間は強くなり、同時に理解できるようになる。
勝利を重ねれば重ねるほど、それらしい仲間の情報が開示されていく仕組みだ。
「じゃあ……。佐川さんを仲間にすれば……。」
自然と、大学のゼミで気になっているあの子の顔が浮かんだ。
偽物の情報でも構わない。
彼女のことが知りたかった。
もう迷いはなかった。
彼女を知るため、仲間を強くさせる。
新たな戦いを挑もうと、前方を歩く女性にカメラを向けた。
『体験版はここまでです。
ぜひ、正式版の登録をお願いします』
しかし、無常なメッセージが表示された。
「ええっ……。ずるいだろ。それは……。」
俺は茫然とするしかなかった。
急に立ち止まったせいで、すぐ後ろを歩いていた中年男性にぶつかり、怒鳴られた。




