第2話 仲間化
「あー……。暇」
人通りの少ない、昼下がりの駅前。
今月は金欠で、俺はベンチに座り、無為に時間を潰していた。
ふと、ポケットの中でスマホが震えた。
画面の見ると、LINEの通知があった。
ゼミのグループだ。
どうせ、面倒事に決まっている。
既読はつけず、夜まで気づかなかったことにする。
「……ん?」
ホーム画面に戻し、眉を寄せた。
思わず、眉間をこする。
「ああ、はいはい。入れた、入れた」
しばらくして、それを思い出した。
昨夜、酒を飲みながら見つけたアプリだ。
『仲間を集め、リアルと戦え!
秘密を手に入れ、人生を支配しろ!』
意味不明な広告に笑い、そのままインストールしてしまった。
酒って怖い。
普段なら、そんな広告は絶対に踏まないのに。
チュートリアルも、最初の説明だけ読んだ。
要するに、あの有名なモンスター育成ゲームみたいなものだ。
違いは、モンスターではなく現実の人間ということだ。
写真を撮って、戦う。
あと、UI周りがすごく安っぽい。
昨夜は『はい、クソゲー!』とアプリを閉じたが、アンインストールはしていなかったらしい。
「暇だし、ちょっとだけやってみるか」
起動すると、画面が静かに切り替わる。
黒い背景に、シンプルなUIが浮かぶ。
「……可愛い案内役くらい置けよな。
メッセージだけって、予算なさすぎだろ」
昨夜、途中まで進めたチュートリアルのメッセージが、そのまま残っている。
タップを三度繰り返すと、フロントカメラが起動した。
最初は仲間がいないから、自分自身でバトルする必要があるらしい。
ピピピピピッ、と小さく音が鳴り、カメラが自動で輪郭を認識した。
俺の身体が赤い線で縁取られる。
画面に表示が出る。
【対象:プレイヤー】
【ランク:D】
【影響力:11】
【信頼度:7】
【拡散性:3】
思わず、眉間をこする。
強いのか、弱いのか、さっぱり分からない。
そもそも、ステータスの名称自体が意味不明だ。
『誰かにカメラを向けてください』
チュートリアルに従い、適当な通行人を映してみる。
信号待ちをしている、少し好みの女子高生。
すぐに止めた。
自分を撮影したときは、数秒のタイムラグがあった。
その間に盗撮だと騒がれたら、面倒だ。
今、目の前を通り過ぎていった会社員にカメラを向ける。
ピピピピピッ、と小さく音が鳴り、その背中が赤い線で縁取られていく。
『対象を登録しました』
画面に数値が並ぶ。
【対象:鬱気味営業マン】
【ランク:E】
【影響力:7】
【信頼度:9】
【拡散性:4】
悔しいが、面白い。
その対象名に、吹き出しそうになるのを堪えた。
それに、俺のほうが少し強いらしい。
「へぇ……。」
偶然なのかもしれない。
最初から、強敵が出てくるはずがない。
ゲームとしては、よくできている。
画面の下に、新しいボタンが出た。
【仲間化】
説明はない。
だが、なんとなく意味は分かる。
撮影した対象は『仲間』として使えるらしい。
俺は無言でそのボタンを押した。
何も起きない。
ただ、アイコンがひとつ増えただけだった。
気がつけば、操作に慣れていた。
コンビニの店員。
バス停の学生。
駅前の老人。
撮るたびに、データが増えていく。
ただの収集ゲームだ。
そう思うと、妙にしっくりきた。
「……やっぱり、ポケ○ンみたいだな」
誰に言うでもなく呟く。
少しだけ、気が軽くなる。
ぼんやりと、それぞれの数値を眺めていると、画面の上に通知が出た。
『観測戦を始めましょう』
意味が分からない。
聞き慣れない単語だった。
まだこの時は、それが何を意味するのか。
本当には分かっていなかった。
一瞬だけ迷ったが、軽い気持ちで、ボタンを押した。




