表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
4/13

4.どうしよう

「…………」

「…………」


校舎裏はシンと静まり返っていた。

トマスは目の前に立つ”自分”を見つめる。


いや、違う、自分の身体に入ったエマさんだ。

向こうもまた、エマさんの身体になった自分を見つめている。


「…………」

「…………」


しばらく、二人とも口を開けなかった。


やがて


「…ご、ごめんなさい。」


先に謝ったのはエマさんだった。


「えっ!?」


トマスは思わず顔を上げる。


「な、なんで謝るの…!?」

「私が…本に触ってしまったので。」

「ぼ、僕も触ったよ!」

「でも……」

「いや、だから僕も!」


二人とも慌てて首を横に振る。


「…………」


——また沈黙…どうしよう。


二人とも同じことを考えていた。


「と、とりあえず…」


ようやくトマスが口を開く。


「戻る方法を探そう。」

「は、はい、そうですね!」


二人は古びた本を開き、最初から最後まで何度も読み返した。けれど戻る方法らしきものは、どこにも書かれていない。


「ない…」

「ありませんね…」


肩を落としたその時、閉じたはずの本が、ひとりでに開いていき、最後のページで止まった。

そこへ淡い光と共に、新しい文字が浮かび上がってくる。


『術は三日で解ける。』


「三日…」

「三日ですか」


さらに、その下へ文字が浮かぶ。


『無理に抗えば、互いの心を損なう。』


二人は顔を見合わせた。


「……つまり」


トマスが小さく呟く。


「三日待つしかない、ってことかな。」

「そう……だと思います。」


また沈黙が落ちる。



「……学園、休みますか?」


エマさんがおそるおそる聞いた。

少しだけ考え、首を振った。


「二人とも急に休んだら目立ちそうだよね」

「そうですね…」

「僕たち、友達はあまりいないけど」

「……はい」

「それでも不自然だ。」


エマさんも静かに頷いた。


「それに授業についていけなくなってしまったら…」

「それは…私もそうです…」

「じゃあ……」


トマスは深呼吸をした。


「三日だけお互いのふりをしよう。」

「……はい。」

「目立たないように。」

「はい。」


そこで二人は、同時に固まった。


「…………」

「…………」

「……着替えどうしよう」


トマスがサッと青ざめる。


「……お風呂も」


エマさんが小さく続けた。


「…………」

「…………」


二人そろって頭を抱えた。

そしてしばらく考え込んでいたエマさんが、遠慮がちに口を開く。


「あの……」

「うん?」

「侍女にお願いしてください。」

「え?」

「なるべく、ご自分では……見ない方が。」


トマスは目を丸くした。


「そ、そうか、女性は侍女に身の回りの支度をしてもらうのか!」

「本来は…そうですね」

「本来は?」


エマさんは恥ずかしそうに俯いた。


「私が…その、断っていたんです」

「…どうして?」


少し迷ってから、エマさんは小さく笑った。


「…こんな身体を、人に見られたくなくて。」


その笑顔は、どこか寂しかった。

トマスは何と言えばいいのか分からず、黙ってしまった。エマさんは慌てて話題を変えた。


「だから今日は……その、筋肉痛、とでも言ってください。」

「筋肉痛?」

「身体中が痛くて、一人では難しい、と。」

「それで大丈夫なの?」

「多分……。」


トマスは少し考えて、小さく頷いた。


「わかった。」

「僕…エマさんとして、この身体を、大事にする。」


その一言に、エマさんは少しだけ目を見開き、そしてほっと息をつく。


「…ありがとうございます。」

「それと僕の方も。」


今度はトマスが口を開いた。


「兄さんたちに何か聞かれたら、無理して合わせなくていいから!」

「え?」

「僕、普段からあまり喋らないから。」

「……」

「黙ってても、多分そんなに変には思われない。」


エマさんは思わず小さく笑った。


「ふふ……」

「あっ」


トマスは慌てる。


「ご、ごめん。」

「いえ。」


エマさんは首を横に振った。


「少しだけ、安心しました。」

「……よかった。」


二人はようやく、小さく笑い合った。

まだ不安は消えないが、それでもさっきまでよりは、少しだけ心細さが薄れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ