3.同じ場所
トマスは古びた本へ視線を落とした。
『相互理解術』
何度読んでも難しくて意味がわからない。
魔法陣らしき図が描かれているが、説明は古い言葉ばかりで半分も理解できない。
「禁書っていうくらいだから、もっと派手ですごいものかと思ったのに…」
小さくため息をつき、ページをめくる。
——相手を理解する者
——心を重ねる者
——互いを知る者
どの頁も似たようなことばかり書いてある。
「結局、何をしたらどうなるかわからないや」
そう呟き、本を閉じようとしたその時だった。
ガサッ。
茂みの向こうで草を踏む音がした。
「……?」
こんな場所に人が来るなんて珍しいなと思い顔を上げると、同じタイミングで茂みの向こうから少女が姿を現した。
「あ…」
「え…?」
エマ・カーターだった。
二人は固まったまま見つめ合う。
そして先に口を開いたのはエマだった。
「ご、ごめんなさい…!」
慌てて頭を下げる。
「えっ!?あ、いや、その」
トマスも反射的に頭を下げた。
「僕こそ!」
「…………」
気まずい沈黙が流れた。
ものすごく気まずい…耐え切れずトマスはおずおずと口を開いた。
「…ここ、いつも使ってたり、する?」
「…はい。」
「あ、実は、ぼ、僕も…その…」
「…………」
また沈黙が流れる。
エマが小さく首を傾げた。
「でも…初めて会いました。」
「う、うん…」
確かにそうだ。
毎日のようにここへ来ていた。
なのに、一度も会ったことはない。
「時間とか…少し、違ったのかな…」
「そう、かもしれません。」
それ以上、会話は続かなかった。
二人とも人付き合いが得意ではない。
話題を探しては消え、探しては消えを繰り返した。
やがてトマスがぎこちなく笑った。
「今日は…僕、帰るよ。」
「あ…はい。」
本を抱え直し、立ち上がったその瞬間。
つるり、と本が手から滑り落ちた。
「あっ!」
反射的にエマが手を伸ばす。
トマスも慌てて掴もうとする。
二人の指先が、開いた本へ同時に触れた。
その瞬間、本に描かれていた魔法陣が淡く輝く。
「え?」
ページが勝手にめくれ始めた。
パラ…
パラパラ…
バラバラバラッ!!
風もないのに、勢いよく紙が鳴る。
そして最後の一頁で止まった。
そこには、たった一文だけ記されていた。
『互いを望む者、その姿を真に知るべし。』
「互いを…望む?」
トマスが読んだ瞬間、眩い光が二人を包み込んだ。
「うわっ!」
「きゃっ!」
身体がふわりと浮き、景色が白く染まる。
耳鳴りだけが響いたあと、静寂が戻った。
トマスはゆっくり目を開ける。
「…今のは…収まった?」
立ち上がろうとして、違和感に気付いた。
…軽い。
視線も少し低い。
制服も、なんだか身体に馴染まない気がする。
恐る恐る手を見ると、細く、小さな手があった。
「……え?」
向かいでは、自分の顔をした少年が、口を半開きにして固まっていた。
「…………」
「…………」
二人は目を白黒させて驚いた。
そしてとんでもないことになったかもしれない、と青くなった。




