表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類最強  作者: つるさん
2/3

第2話 隣に生まれた光

ノアが生まれてから、数日が経った。

人類の村では、子どもが増えることに、特別な祝いはない。

余計な期待を抱かせるより、現実を教える方が役に立つからだ。

それでも、人は完全には割り切れない。

ノアの母親は、布切れのように薄い寝具の上で、隣に寝かせた赤子の頬を、そっと指でなぞる。

「……寒く、ない?」

答えは返ってこない。

産声すら上げなかった子どもは、変わらず静かだ。

黒に近い灰色の瞳は、まだあまり開けられない。

それでも時おり、ぼんやりと見上げる仕草がある。その先に映るものが何なのか、母は知ることができない。

助産師は言っていた。

「泣かない子は、長くは生きられないかもしれない」と。

だが、母の願いはただ一つだった。

――生きて。

言葉にできない分だけ、強く。


***

その数日後のことだ。

ノアの家から数軒先の家で、またひとりの女の子が生まれた。

名前は、アリス。

薄い金髪に、灰青の瞳。

彼女もまた、人類に生まれ落ちてしまった子どもだ。

泣き声は、よく響いた。

夜中まで近所に響き続け、眠れない者が苦笑するほどだった。

だが、それは悪いことではない。

泣けるだけ、元気な証拠だ。

母親は、涙を流しながら笑っていた。

「こんなに泣く子は初めてだよ。……強い子になるよ」

父親も、何度も頭を撫でていた。

「きっと、生き延びる」

その言葉が、どれほど重い意味を持つか。

両親は痛いほど理解している。

――この世界で人類として生きることが、どれほど困難か。

だからこそ、わずかな希望にすがりたかった。


***

ノアとアリス。

同じ時期に生まれた二人は、自然と一緒に過ごすことになる。

村は狭い。

子どもは少ない。

出会うことは、避けようとして避けられるものではない。

「……あ」

最初に声をかけたのは、アリスの方だった。

まだ言葉にもならない声を、ノアに向けて発する。

「ん、……」

ノアは、ただ彼女を見つめる。

意味も感情も、生まれて間もない彼には理解できない。

ただ、その声は――

自分に向けられたものだということだけは、分かった。

「この子、ノアちゃんって言うんだって」

アリスの母が、抱き直しながら微笑む。

ノアの母も、疲れた顔のまま、小さく頷いた。

「ええ……よろしくね」

その会話の意味を、二人の赤子は理解していない。

けれど、向けられた微笑が「敵意のないもの」だということは、本能的に感じ取れた。

ノアは瞬きを一つ。

アリスは手を伸ばす。

それが、はじめての交流だった。


***

日に日に、差は明確になっていく。

アリスはよく泣き、よく笑う。

感情を持つことに、ためらいがない。

それがこの世界では危ういことだと、まだ知らない。

ノアは、静かに成長していく。

泣かず、怒らず、求めず。

食事すら、必要以上を欲しがらない。

助産師は、何度も眉を寄せた。

「……この子、何かが違う」

だが、その「違い」を恐れるのか、期待するのか、大人たちは判断に迷っていた。

人類には、もう「期待」という言葉は重すぎる。

けれど――

アリスは、違った。

「ノア!」

よちよちと歩けるようになった頃。

アリスは、迷わずノアの手を取った。

掴んだノアの小さな指を、ぎゅっと握りしめて。

「いっしょに、いこ」

その一言が、世界の命運を狂わせる――

と、誰が想像しただろう。

ノアはアリスの顔を見た。

灰青の瞳は、どこまでもまっすぐだった。

敵意はない。

恐怖もない。

ただ、「一緒にいたい」という、純粋な意思。

ノアは、ほんの少しだけ首を傾け、その言葉を理解しようとした。

そして――頷いた。

「……あい」

それが、ノアにとっての光だった。


***

この日も、村には変わらず冷たい風が吹いていた。

他種族の支配が終わる気配など、どこにもない。

だが、ノアの隣には、アリスがいた。

小さな手が、確かに彼の手を握っている。

それは、この世界で最弱とされた種族に与えられた、唯一の微かな光だった。

そして、ノアはまだ知らない。

自分が守っているつもりのその光こそが、

――世界の終焉を引きずる存在になるということを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ