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小さな妖精スフレ、魔法使いの家でやらかしてます 〜彼といっしょの、ちいさな毎日〜  作者: 久寿 たまや
2期目

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28/30

28.お酒を甘くしたかっただけなのに、何故かゼリーに埋まってたはなし

戸棚の上のりんごのお酒。それは、スフレが最近気になってたもの。レイジの居ぬまにこっそり味見したけれど、なんか思ったより甘くない。そこで甘くしようと奮闘する彼女ですが……。


妖精スフレと魔法使いレイジの、少し甘い日常のひとコマ。毎回独立、一話完結の掌編。

※イラストは AI生成(ChatGPT)です。



 ……気になる。



 食器棚の上の奥の棚。

 レイジが貰って、しまった小さな瓶。

 貰い物の、ちょっといいお酒。


 よく見る普通のお酒じゃない。

 お花と未熟なリンゴで作ったお酒。


 レイジが一杯だけ、ほんの小さなカップに入れて飲んでたけれど。

 彼曰く、香りは花、味はりんご由来の甘みとすっきりさで、とっても上品らしい。


 らしいというのは……、味見させてもらえなかったから。


 お酒だから、ってそんな理由で。

 あたし、とっくに大人な妖精なんですけど?



 そう思いながら、食い下がらなかったのはなんでだっけ……?


 ……あぁ、そうそう。

 甘い飴玉を口に入れられたからだった。


 そっちも貰い物で、お酒に使った特別なリンゴの飴。甘酸っぱくて、とっても美味しかった。



 それゆえに。

 思い出して、ますます気になってしまう。



 レイジは……、書斎からまだ出ない。



 だから思い切って。

 食器棚から、気になる瓶を取り出しちゃう。


 手に持ち下げるは、りんご形の小瓶。

 揺れる中身は、少し黄色がかった液体で。


 持ち上げると、翅にずっしりと負荷。

 なんとなく、期待込みの重量感。



 浮かれつつも慎重に。どこにもぶつけないように、ゆっくり運んで、テーブルにごとんと着地。



 瓶の蓋は……、栓タイプ。

 捩る蓋でなくてひとまず安堵。あれは、開かないことがあるからね。



 栓ならよいしょ、って引っ張れば――


 ぽんっ、と小気味良い音を立てて外れた。



 中身は……、くんくんと鼻を近づける。


 ……お酒の匂い。

 そしてお花と、微かなりんごの香りも。



 えーっと、レイジの使ってた小さなコップは……。


 食器棚に翔んで戻り、戸をあちこち開けて探す。

 けれどなかなか見つからない。



 うーん……?レイジが仕舞ってたしなぁ。



 ………………見つからない。



 広い広い食器棚。ぱたぱた外も中も調べるけれど、あてなく探すにはあたしの身体と忍耐力は少しばかり小さすぎた。



 まぁ、いいか。これで。


 取り出したのは、ガラス製のグラス。

 浅くて広くて、なんか下向き三角形なやつ。

 背が高く、上の受け口と下の台座は出張ってる。上下に気をつけさえすれば、真ん中は細くて運びやすい。


 レイジの使ったちっちゃなコップとは、まるで全然違うけど。浅いしそこまで大きくないし。


 多分、きっと大丈夫!



 とんっとテーブルに置いて。

 瓶の中身を注いじゃう。


 とくとく、こぽんと音がするのが面白い。



 適量なんて知らないけれど。

 グラスの半分くらいにしとくべき……?



 少しずつ上がってく水面、でも横から見ないといまいち注いだ量がわからない。

 うっかりレイジと呼びかけて、ああ秘密なんだからと思い留まる。



 注いで、音を聞いて、眺めて、また注いで。


 こんな感じ、かな?



 グラスの三角形の受け口。その中に生まれた同じ形の澄んだ液。


 注いだだけ、それだけでとっても高級感。

 やっぱり容器だからに、何か入ってた方がサマになる感じ。



 分量は、予定と違い7割ほど。

 いや、最初は慎重にやってたんだってば。

 でも全然溜まらないものだから、少しずつ注ぐ量を増やしてみたり……。


 いや、溢れてないし、遠目で見れば半分だし。

 おっけーおっけー。問題なし。



 さぁて、一口味見を。


 思ってグラスの端を掴んで傾ける。



 …………。


 なんかこれ、重くない?掴みづらくない?

 傾けると、妙に手と翅に負荷が……。


 よ、よ、よっと。まだ出てこない?じゃあもう少し、もう少しだけ傾けて……。



「ぶへっ……!?」



 案の定?いや予想通りというべきか、もろに全身に被った。



 ぽたぽた、顔から雫を垂らしながら、口に含めた分を味わう。


 味は……、甘くない。

 甘い匂いと花の香りなんだけど。すっきりと甘酸っぱいリンゴの雰囲気なんだけど……甘くない。

 ちゃんとお酒な、なんかオシャレっぽい味。



 あたし的には、香りと雰囲気的には、もう少し甘さが欲しいんだけど。



 むむむ……。


 グラスに、外から触れた。

 中身のお酒はたゆっと揺れる。

 量は思ったより減ってない。香りはとても好みなんだけどなぁ。



 そうやって見つめたグラスの、更に向こうのキッチンに、ブドウが見えた。



 あ、あれでいいじゃない?

 甘いし。入れればちょうどいいんじゃない?


 ぴゅんっと翔んで、ぷちっとちぎって。

 抱える。甘い汁をたっぷり含んだ実。

 なんだか、腕や胸が冷たくて気持ちいい。


挿絵(By みてみん)


 ぎゅっとして、ぷちゅっと実に反撃を喰らって笑う。

 ちゃんとした服なら怒るところだけど、魔法銀製だから溶かして戻せばいいだけだし。


 ふふふっ、て余裕で笑って。

 そのまんま空中で皮をつるんと剥いてあげちゃう。

 出てくる黄緑の粒。大事な皮を剥がされて、困ったように震えてる。


 何でもないのに……、とっても楽しい。



 ぷにゅぷにゅ、ひんやり、そしてあまーい。

 果汁がつくのも気にせず、指でつついて、両腕で抱えて、味見しながら軽く抱きしめて、グラスの上をふわふわ漂って。



 そして、ぽちょんと投下する。



 すとんと降りて、外からグラスに張り付けば、中に沈んだ薄黄緑の実の色がお酒の色に似合ってる。


 いい感じ、いいかんじ……。


 味見しようと思って見上げて、さっきもろにお酒を被ったことを思い出す。



 レイジはどうやってるのかな……?


 そう思ってから、いま手を添えてる台座と受け口を繋ぐ柱が、柱じゃ無くて持ち手なことに思い当たった。



「……あっ!」



 勘違い。

 妖精向けじゃないんだから、当たり前だった。



「なーんだ。ふふふ……。」



 被るわけだ。持ち手じゃないところを握ってるんだから。

 なんか妙にツボに入って、暫く含んで転がして、笑ってた。



 さて、じゃあどうやって味をみよう?


 そびえ立つグラス。

 持ち手を持てば、飲み口に口は届かない。

 傾ければひっかぶるし。


 思いつくのは、……まぁ単純。お皿と思ってごく普通に掬えばいい。



 翔んで、グラスの縁に片手を添えて、もう片方の手を伸ばす。

 けど水面は思ったよりも下。ぎりぎりで指先だけがなんとか浸る。


 咥えて味見。



「……ん。」



 あんまり変わらない。

 もう一個足してみようかな……?


 いや、甘ければいいんだし。他でも良くない?



 くるりと見渡せば、ドライベリー、ジャム、蜂蜜。思いつく甘いものなんて、キッチンにはたくさんで。

 確か秘蔵の、蜜紡実の果汁もあったはず。


 うんうん。どうせだし、合いそうなもの全部突っ込んじゃえばいいんじゃない?

 


 なんだか愉快になってきて、あたしはけらけらと空中で踊りながら笑った。



 ◆◇◆◇



 ……そして、完成したのが、これ。



 グラスに対峙してるみたいに立つのは、拭いて着替えて、さっぱりしたあたし。

 風の魔法でぶわっと髪を乾かしながら、上で纏めて結いあげる。服は、湖でも使った水着に変えて、上にはタオルを羽織る。


 水浴びしてきちゃった。


 だって、果汁でべちゃべちゃだったからね。

 流しもカップも水差しもすぐそこだから、家ってやっぱり快適だよねぇ。



 冷えてすっきり、新しくなった頭で作ったものを仰ぎ見る。



 うーん……、やっぱやりすぎ……かも?



 思った。

 ジャムに、ドライベリーに、ブドウに、それから蜂蜜に……。グラスの中には、手当たり次第詰めてみた甘いもの。


 蜜紡実は、先週舐め切ってて無かったんだけど、それが幸いみたいな過密ぶり。

 兎にも角にも見つけたものを突っ込めるだけ突っ込んでしまったから、水位はグラスの縁のぎりぎり。



 でも、なーんか思ったより甘くない。

 特にこの蜂蜜。全然甘くないんだよね。


 ぺろっと瓶から指で掬ったそれを舐める。

 あんまり汚すと、また水浴びしたくなるから慎重に。



 気付いたのは、だいぶ溶かしてしまった後。

 だから今どうしたものかなー、と悩んでるとこ。

 ふいっと跳んで、そのまま翔んで。上からグラスを見下ろしてみる。


 出来栄えに過ぎるのは、カクテルよりも……フルーツの酒漬けかなぁ?


 グラスの縁に着地して、真ん中の果実の山を眺めるかんじに、とてとて歩いて一周。

 人がバランスをとるみたいに手を広げてるけど。ポーズはなんも意味ない。翅で全部支えてる。


 まぁまずは。ちゃんと混ぜてみよ。


 タオルの魔法銀を解き、マドラーに変える。


挿絵(By みてみん)


 ほっ、と突き立ててみたら溢れそうになったので、近くのベリーを引き上げて、仕方ないからあたしの口に。



「……ん。」



 口に広がる、甘さととろみ。


 役得役得。ベリーの味にお酒の匂いと風味が合わさって、とっても美味しい。


 ひょっとして、ドライベリーに一滴垂らせば、それでよかったかもなんてコト(真実)に思いを馳せつつ、作ってしまったカクテルをマドラーで、ぐるぐるよいしょとかき混ぜる。



 溶かしすぎた蜂蜜のせいか、手が重い。

 翔びながら、グラスを押さえて強引にかき回して……。



 ……なんか変じゃない?

 波紋というか。かき混ぜたあとがまんま残ってない?


 味はどうかな……?


 マドラーを握って支えにして、グラスのちょうど真ん中へ。

 足をお酒につけないように。翅でバランスをとりながら、膝を曲げ、手だけを伸ばして……。



 ぽちょっ……!



 ……というのは、落ちた音。


 グラスの底についていたと思ってたマドラーは、実はそうじゃなかったみたい。

 ガクンと揺れて棒の先の果実達に逃げられて、突如沈んだマドラーと一緒にあたしも液にざっぶん。



「ぷはっ……。」



 カラン、と手放しちゃったマドラーが、グラスの外に倒れてく。

 哀れあたしは、お酒の中に。



 ……いや、自業自得だけどさ。


 落ちてみてわかった。

 なんか、これもう液体じゃない。



 咄嗟に翅をめいいっぱい広げて沈まないようにしてたけど、そんな必要もないくらい。

 落ちたあたしの姿勢はちょうど水中でブドウの実に座った……いや尻餅をついた感じ。


 手足に絡むネッチョリ感。

 なぜか、入れたはちみつより粘っこいんだけど。


 うーん、と手足を伸ばし、伸びをして……。

 辛うじて液の外に出てる首から上が、沈む前に姿勢を戻す。

 ブドウの上でちょこちょこ身体の向きを整え、バランスを整えて……。



 遊んでるわけじゃないってば。

 翅を動かそうとしたの。



 結果は……無理。

 すっかりゲルの海に沈んでて、動かない。


 かと言って……、手足をついてる先はブドウなものだから、立ちあがろうと力を込めれば沈んじゃう。


 どーしよ、これ……。



 まだ救いと言えるのは……。

 髪は上に纏めてた(浸かってない)ことと、格好が水着ってことくらい。


 そりゃ、いざとなれば魔法があるけど。

 ……ガラス割れるし。


 バレるのと、怒られるのと、どっちも確定にはしがたいところ。


 幸い、大人しくじっとしてれば沈まない。

 動き辛さも、動かなければ気にならないし。



 ――ああ、でも……。

 身体に触れるひんやり感は、いい感じ。



 ……ふしぎ。

 身体の芯はほわっと熱が宿るのに、浸かる液は程よく身体を冷やしてくれる。

 あったかいのに冷たくて。まるで、寒い日にお湯で水浴びしたみたい。



 目を閉じれば、ほら。なんだか急に安らいで…………。



◆◇◆◇



「――ふれ。スフレ……!」



 気づけば揺り起こされていて、びっくりした……のに飛び起きれなかった。

 手も足も、翅も動かず。

 跳ね除けようとした分だけ、後ろに引き戻されて、ぷるんと突き出た首が前後に動いただけ。



 ぷるん……?


 唯一動いたのは首だけだった。

 ぐるっとひとまわり見回すと、手足は見事に半透明なモノの中。

 ブドウやベリーと一緒に凍ったみたいになっている。


 指先は……曲がるし動く。でも力を抜くとびょんっと伸ばした形に戻っちゃう。

 腕や足はもう少し不自由。戻ってくるのは指同様。でもこっちはもっと力が要って、逆らうのはキツかった。

 翅は一番不自由。ほぼ動かない。無理に力を入れると震えが、風じゃなくて周りの壁の振動が、ぷるぷる背中にあたる。



「なんで水着?それになんでゼリーに埋まって寝てるんだ?」



「えーっとぉ……。」



 水着はともかく、他はあたしも知りたい。


 うっかり寝てしまったこともそうだし、ゼリーになってるのも。

 ゲル状のアレが、最終的にこうなったと言うことなんだろうけど。



「……平気そうだな。」



 心配されてたらしい。安堵から始まった。

 次はテーブル、周りにレイジの視線が移る。



「酒盛りしてたのか?」


「いやその。しようとして失敗というか……。

甘くしようといろいろ混ぜてたら、固まっちゃったの。」



 レイジが、スプーンを手に持った。あれは、あたしがさっきジャムを掬うのに使ったスプーン。

 その背でゼリーの表面を、ぺちぺち叩く。


 崩れないし沈まない。結構な弾力があるっぽい。



「しっかり固まってるな。」


「わ、わわっ……。」



 レイジがスプーンの背をぴとっとつけて揺らすと、こっちまでぷにゅんぷにゅん振られた。

 踏ん張って揺れまいとしたけど、足までゼリーの中なので成す術なし。

 一緒にぷるぷるりんと揺れるだけ。



「痛いか?」



 スプーンでゼリー越しに身体を押された。


 首を振る。

 痛みはない。押されたぶんだけ、中に沈んでズレただけ。



「一体何を入れたんだ……?」



 開いたままのお酒の瓶、閉めてないドライベリーの袋、落としたままのブドウの皮、スプーンが刺さったままの蜂蜜とジャムの瓶。

 お恥ずかしながら片付け損なった品々をレイジの視線はぐるりと一周し、そして蜂蜜の瓶で止まった。



「……あ。これ。」



 ひょいと摘み上げられ、くるくるりと回して確認される。



「やっぱり、凝樹蜜(ぎょうじゅみつ)だ。」



 納得、みたいな顔のレイジ。

 はてな?の、顔したあたしと対照的だった。



「……何それ?」


「固まる樹液だよ。これを入れたからゼリーになったんだ。」


「なるほど……?」



 納得、したいところだけど。聞いたことのない材料。

 たしかに蜂蜜にしては甘くないなとは思っていたけど。



「食べれるの?それ?」



 尋ねたら、レイジがスプーンであたしの埋まるゼリーを掬った。

 それはそのまま、すすっとあたしの目の前にやってくる。

 顔をじっと見てるから、とりあえず口を開けてみた。



 ぽこん。


 そんな音が似合う感じの、飛び込んだ塊。


 むぐむぐと顎を動かす。

 口いっぱいに含むには硬いけど、齧って細かくなれば違和感ない。



 …………。



 もっきゅもっきゅと咀嚼。

 りんごのお酒風味。大人な味のゼリー。

 甘みの感じも悪くない。一緒についてたドライベリーのかけらもいい仕事してる。



 意外と美味しい。

 偶然の産物とは思えないくらいに。



 だから食べて脱出ができないかなって、頭をめいいっぱい下げたけど。

 ……ゼリーの表面に届かなかった。



 そもそも、首から下は埋まった状態。

 うんうん唸って手足を伸び縮みさせるけど、手も足も身体も全く抜ける様子なし。

 外側がぷるぷる震えるだけで、琥珀色のゼリーの内側に埋め込まれたまま。



「……ふぅぁ……、んんん……」



 手足と翅に思いっきり力を込めて力押し。ゼリーとあたしとの間の隙間が何とか、だんだん広がって、ゼリーの外側も膨らんで……。


 ――あとちょっとだったのに。


 膨らみをスプーンでとんとん、ゼリー越しに身体の弱いところをすーっと撫でられる。



「あ、あっ……」



 ゼリーが大きくぶるんと波打った。

 一瞬力が抜けて、それで手足も翅も跳ね戻るみたいに一息で元の場所へ。



「……もうっ……!」



 レイジの悪戯。

 力が抜けたら、はじめの状態に逆戻りだった。


 見上げる彼は素知らぬ顔で、でもどこか隠しきれてない微笑みが浮かんでる。

 動けるけど動けない。どうしようもなくてばたばたしてたら、レイジがあたしごとグラスを持ち上げた。


 そのままゆらゆらと、まるでお酒を眺めるように揺られてしまう。

 ぷるりん、ぷるん、と揺れるし回る。視界も身体もゼリーごと。



「りんごの酒に、ブドウにドライベリーか。

まるで、デザートみたいだな。」



 そう呟くので、回されるのへの抵抗も兼ねて、ぐぐぐと身体に力を込めて胸を張る。



「正真正銘。手作りフルーツゼリーだよ?」



 すると、ぽんぽんと頭を指で撫で叩かれて、ことんとグラスはテーブルに戻された。

 揺られたくらくらが残ったせいで、戻っても頭は少しゆらゆらしちゃってる。



「シェフ付きでお出しとは豪勢だな。」



 目の前にゼリーの乗ったスプーンが来たので、ぱくっと口に含む。



 うん、……やっぱり美味しい。

 ほわりほわりと、身体も温まってくる。



「レイジも食べない?シェフのおすすめ。

あなたのために腕によりをかけて作ったよ。」



 手足を動かして表現しようとしたけど、大きくはまるで動けない。

 ただ満面の笑みを浮かべただけのあたしは、コツンと横から小突かれた。



「シェフの気まぐれ。自分のために作りました、だろ?」


「えへへ……。」



 頭をぐりぐりされる。

 笑っていたら、近くにスプーンが刺さった。



「あーん。」



 促される。垂れた髪を耳にかけ直したいけど、腕はまだまだ分厚いゼリーの中。

 動けないから、口だけを開ける。



「美味し。……ねぇ、レイジも。」



 見上げる。眩しいみたいにとろんとする目にしっかり力を込めて。

 首をちょっと斜め下、見上げるようにおねだりの仕草。



「食べてくれなきゃ、いや。」


「…………仕方ないやつだな。」



 レイジが、グラスの端のゼリーを突いた。



「もっと近く。そんな端っこばっかり崩してたら、全然出られないんだから。」



 そうしたら、背中の方をひとすくい。



「うひゃっ……!」



 スプーンが、当たってひやっとする。

 素の悲鳴をあげたあたしを眺めながら、彼はゼリーを一口。



「……意外とイケるな。」


「そーぉ、でしょ。愛情入りだからねー。」



 待ってましたの言葉に翅が反応しちゃう。

 けれど隠しも動けもしないので、ゼリーの中でぼよんぼよん上下に身体を跳ねさせる。



「おかしいな。材料と動機には、それらしきものは含まれてなさそうだぞ?」


「あたしから滲み出る計算だからいーのー!」


「……最初から料理に落ちる計画なのか?」


「隠し味!……ね、ね、だから。食べるならあたしに近いところがオススメだよ?」



 レイジの冷静なツッコミ、ゼリーといっしょに揺れながら押し切るあたし。

 こう言うのは、有無を言わさぬ勢いが大事。


 そうすると、レイジは素直にあたしの胸の前のゼリーをそっと掬った。



「はいはい。あーん。」


「今の流れで、あたしが食べるの……!?」


挿絵(By みてみん)


 衝撃、な顔をしてたら、レイジにクスッと笑われた。


 はっと慌てて口を閉じたら、ぷりぷりゼリーを顔につんつん当てられる。

 仕方なく開けると、むぐっとまた一欠片が口に押し込まれた。



「……おいひいのにぃ。」



 もにゅもにゅと口を動かす。

 見つめられると、ぽーっと顔が熱くなってきちゃう。


 味は、レイジの趣味かは怪しいけれど。

 彼のよく飲む苦めの紅茶とだったら、合う筈なのにー。

 試さないなんて勿体無い、絶対許せないんだから。


 ……ふと、思考が完全に[[rb:デザート > 食べてもらう側]]になってることに気づいて、くすっとなって口角を上げる。



「そろそろ真面目に助けてよー。ちゃんとまったく、動けないんだから。」


「はいはい。囚われのお姫様にしては緊張感がまるで無いな。」



 スプーンが、あたしをくるっとひとまわり。

 周りのゼリーが削られて、少し身体が楽になった。


 身体を捩って、翅を動かして確かめる。

 手が抜けるまではあとちょっと。

 激しく揺すれば、もう抜けちゃうかも?


 そんなあたしを見ているレイジ。動けないと油断しきって緩んだ目元。

 視線は真っ直ぐ、向けられたスプーンの柄をするっと滑って降りてきて、その先は周りの……花みたいに咲いたグラス。

 蜜のように載ったゼリーに浮かぶのは、きらきら甘い実と、水着を纏ったあたし。



 まるで物語の脚色されたワンシーン。煌めく水に浮かばせたままの手足と身体。


 呑み込んだ喉の奥が熱くなる。


 ……見て、楽しんで、遊んで、構ってもらえるのが嬉しくて。

 だから……少し、勿体無いかもって思いがふっと過った。



「助けてくれたら、お姫様らしく3食昼寝を希望するよ。」


「それじゃあ、いつもと一緒じゃないか。」



 呆れたレイジの手が止まる。


 そのままちらりと時計に目を向ければ……。

 狙い通り、彼の視線もついてきた。



「……こんな時間か。先に、ご飯にするか。」


「あーん。あたしの救助はぁ……?」


「こっそりひとりで飲もうとした罰。

デザートだから、食後にゆっくりとだな。」



 近づくスプーンとじゃれあって、撫でられるとふにゃーと気持ちよくなって。

 スプーンを、硬く冷たい金属を肩で挟んで頬擦りする。


 ……気持ちいい。今は自分で触れない、頬に籠った熱がゆっくりゆっくり移ってく。



「……ねぇレイジ。たべて、ってばぁ。

乙女心はね。足が早いんだよ?」


「……酔ってるな?」



 顔は赤いし、身体も熱い。

 手も足も使えないし、動けないんだから覗き込まれたら隠せなかった。



「これくらい、ぜんぜん平気だよー。」


「分かった、分かった。ときどき構ってやるから、少し静かにしといてくれ。」



 口に放り込まれた小さなゼリーのかけら。

 彼から貰えるひとくちの風味を身体に染み渡らせ、積もってく僅かな熱をふうっと息にする。


 こうして食べさせて貰えるなら、煩くするのは、悪くないかも……?



「考えてること、バレバレだからな。」



 スプーンの背で顎を、そして頬をぺたりと撫でられた。


 あぁ、金属が冷たくて気持ちいい。

 へにゃりと、力が抜けて翅がしなった気もするけど、ゼリーできっと分からない。



 固められた翅、動かしても、弾力で元に戻される手足。

 確かめて、おいしい無力に埋まってるあたしを味わって……。


 スプーンにつつかれる。

 そのさきに繋がる指と、レイジの悪戯な顔。



「……はぁーい。」



 頬を膨らませ、ぷいっとフリだけむくれるけれど。

 唇に隠しきれない満足感。浮かれちゃう。だって手足も最初から地になんてついてない。



 そうしたら……。

 頬に、柔らかな風と感触が。



 ――え?


 振り向こうとしたんだけど。ゼリーがぐにゅんと邪魔をする。


 レイジの顔は、あたしのまったく後ろ側。

 グラスは彼の手の中で、埋まったあたしは、むぐむぐ邪魔するゼリーと戯れて。


 どうにもならなくて、ため息。


 気のせいか、イタズラなのか、分からない。

 触れないから、触れられたと思ったところが余計に気になっちゃう。



 手も足もでない、赤くなってく顔も隠せない。

 でも、口だけは自由なものだから……。



「わっ……!!」



 声をあげて、レイジを驚かせる。

 彼が背後でびくっとする気配。



「ねぇ今ひょっとし……、もごっ……。」



 途中の口にすかさず、放り込まれるゼリー。


 塞がれちゃった。

 いや、拒否せず受け入れたのはあたしだから、塞いじゃったが本当だけど。



 ――ああ、ほんと動けない。

 

 だから内側の感じる変化は、一際に。

 とくっ、とくっ、と篭った熱で高まる鼓動。ふーっと息も漏れていく。



「それじゃ、行こうか。」



 背後のレイジの朗らかな声を聞きながら、たまにはいいかなんて思いながら……。あたしは大人しく、今のされるがままな境遇を、口に含んだ甘さのままに噛み締めた。



挿絵(By みてみん)

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