27.日焼けして、撫でてもらって眠るだけのはなし
日焼け、それは乙女の大敵。……というわけで、ついうっかりで背中を酷く日焼けした妖精スフレ。背中はとっても痛いけど、レイジに看病して貰えてる。だから。せっかくだから、もっと甘えちゃおうかなぁ……。
妖精スフレと魔法使いレイジの、少し甘い日常のひとコマ。毎回独立、一話完結の掌編。
※イラストは AI生成(ChatGPT)です。
「あつつ……。」
あたしは布巾の上で、呻きながら寝そべっていた。
鳥籠じゃ無くて、レイジの手が届くし見える、棚の上。
姿勢は、もちろんうつ伏せ。
翅を下に寝るなんて、翅を痛める……のもあるんだけど。
今は全く別の理由。それは……。
「ひぐぅっ……!?」
背中。
夜風に吹かれた翅が靡き、それでひりつく痛みが身体をはしる。
あたしの喘ぎを聞いて、レイジがぱたんと窓を閉めた。
ふぇえ……、と安堵よりはため息よりの息を吐く。
何してるか、って?
絶賛、日焼けで苦しんでる。
投げ出すように前へと置いた半分赤い腕。多分、後ろから見たら背中も同じように赤いんだろうなって……。
吐いた息が、赤い腕に当たる。それだけで、ぴりぴりする。
じっとしてるのは痛みに意識が向いちゃって、最悪。
……なんだけど、寝るならじっとするしか無くて。
ひりひりが、じんじんの方に傾いて、ちくちくした刺激に変わる。
ちっとも消えて無くならない。まったくもって辟易な、背の痛み。
なぜこうなったか。それは恥ずかしながら、本当に純粋な、自業自得なんだけど。
今日あたしは、あっつい昼に耐えきれず。
それはとっても快適で、陽射しを浴びても全然平気。
皿は程よく浅く。フチに首だけ乗せれば、身体は半分浸かってうつ伏せで。なんかとってもイイ感じ。
……だったんだけど。
ついうっかり、そのまんまぐでっと寝てしまって。
そして、お皿を置いたのが窓際だったりしてたものだから……。
気づけば、背中にひりつく痛み。
「うえぇ……」
バカなことした……。
日焼けで翅が動かせなくなった妖精なんて、あたしぐらいなものだろう。
妖精の村がなんで森の奥にあったのか、今ならその理由がよくわかる。
でも、ひとつだけ、たったひとつだけいいことが……。
顔を上げれば、レイジが見てる。
彼は、あたしの看病をしてくれていた。
「痛むのか……?」
「うぅん……、またひりひりしてるぅ。」
いつものように後ろに回って来た指は、背中を叩かず翅を撫でていく。
指から離れた翅がしなって、震えが微妙に身体に響く。
「んむむ……。」
唸ってたら、頭をぽんぽんされた。
「薬、塗っとくか?」
「……うん。」
待ってました、とばかりに応えて、余計に動く翅を押さえる。
役得というには、少しばかり割に合わないんだけど。
でも、せっかくだから。存分に味合わないと。
身を起こし、両手を広げてねだる。
「翔べないから、運んで♡」
「仕方ないな……。」
目の前に降りてくる手のひら。
でも今日は。たたんと床と手を蹴って、ぎゅっと親指に抱きついた。
ぴりっと背中の方が痛むけど、身体をぴとっと添えて、レイジの表情を伺う。
「……元気そうで何よりだよ。」
つれない返事。だからあたしの膨らみを、ぎゅううっと押し付ける。
そんなあたしの悪戯に。彼の指がぴくっと、少しだけ反応を見せた。
けれど。綻ぶあたしに取り合わず。彼は気付かぬふりのまま。
指はすいっと持ち上がり、あたしをぶら下げ動いてく。
反応してくれない……でも。それは、ふりだから。
片腕で寄せあげて、ぴとっと身体を引っ付けてみれば。
見上げたレイジの口元は、曲がって、僅かに上を向く。
だからあたしはめいいっぱい、口と目元に笑みを溜め、絡めた手足の小指をぴんと反らして、彼の瞳に主張した。
すとんとおろしてくれた先は、小さな丸いテーブルの上。
広さは、寝そべったあたしが3人分くらい。
今日はもう、何度も載せて貰ってる家具だった。
とてとてと、両手を広げて歩く。
羽ばたきを止めたままならば、翅って大きくはみ出た荷物みたいなもの。
転ばないように、ぶつけないように、手を伸ばして周りを掴む。
そして水差しと瓶の横を通り抜け、目的の、小さな布巾の上にぽんと身体を投げ出した。
うつ伏せで、寝転ぶ。
布巾はまだ少し湿ってる。前に来たとき甘搾りな濡れ布巾で身体を拭いたから仕方ない。
レイジがすぐそばの、さっき触れてたビンの蓋を開け、その中身を掬い取る。
中身は白色の塗り薬。
彼の調合してくれた火傷に効く軟膏。
もちろん効果は日焼けにも。
肘をつき、身体の下に隙間を作って呼吸を逃し、そして両手で長い髪をふたつに分け持って。
背中を晒して、レイジに向ける。
「よろしくぅ。」
レイジは、何やらかちゃかちゃと後ろで準備してたけど。
「ひゃっ……。」
振り返ろうとした途端、ぺちょと背中に冷たい感触が乗ってきた。
「冷たかったか?」
「ん、ん……、大丈夫。」
ぬるりと背中をなぞっていく、レイジの指。
最初は丸で、それから伸ばされ広がって。
ぴりぴりと、ひび割れてるみたいな痛みはだんだん和らいでいく。
彼の小指は、あたしの腕くらいの太さ。
だから、きっと塗るだけだったら、すぐ終わるのだろうけど。
レイジの使ってるのは、爪先じゃなく指の腹。
そしてちょいちょいつつくみたいに触れられる。
「ふ、……くくっ………。」
触れるか触れないか、そんな瀬戸際。
変な感じ。くすぐったいには満たないけど。
身体はぞぞぞってなって、ぴくぴく翅が動いてしまう。
「もう。わざと?しっかり触って良いってば。」
さっきのお返しみたいに、背中を優しく何度も触れられる。
それは塗られるというより、撫でられてる感覚で。
痛痒いのに、なんだかどんどん、気持ちの方は安らいで。
ずっと触れてくれてる指に、力は抜けきって。
絆されて、ほわわと蕩けていくような。
「翅、閉じれるか?」
「ん……。」
返事の代わりに、翅を動かして。
なのに、閉じたつもりのひとつがぱたりと広がって、指に寄り添った。
絡まるように引っ付いて指と一緒にひらひら動く。
「人懐っこい翅だな。」
よっつの翅はどれも近づく指に反応し、ぴたっとすり寄った。
覗き込まれる。
レイジの呆れ顔だった。
「上手く塗れないぞ。」
「ごめんね。」
くすくす笑って。
ぴんと翅を立てるとその隙に、指が背中の端を撫でていった。
撫でられるのは、……好き。
ふざけても、お尻は決して撫でない生真面目さも。とっても愛おしい。
熱は、彼の触れてる背中に篭ったままで。
だからその指が離れきる前に、また、ぴとっと翅で挟んでしまう。
「抜けないぞ。」
「んん、翅がね。もっと構ってほしいって。」
言い訳の、あたしの頭をくしゃくしゃと指のひとつが触ってく。
それを迎えるように頭を寄せて、催促すれば。
浮いた指がまた触れて、その感触に。ふふって満足して。
翅は、さわさわ指を擽っちゃう。
むず痒がられて、摘まれるけど。
優しく触ってもらえるものだから、ますます指に懐いてしまう。
「ん……。」
不思議なそわそわが、背筋を通っていった。
「ん、ふぁ……。」
痛みじゃ無いのが、でもぴりりと、身体の内側に染みてく感じ。
少し身を捩って、確かめれば。
レイジが翅を摘んで、根本から先端まですぅっと指を滑らせていた。
されると、翅がぱたぱたっと動いちゃう。
感覚なんて殆ど無いんだけど。なんか凄く、そわそわが湧いて……。
「ん……。」
しなった翅が、ひらひら気持ちよく踊る。
力を込めても抜いても変えられない。どうやら意思では止めれない。
悪戯は、やり返されちゃった感覚で。
先端までなぞって貰えると、翅が勝手にぱたぱたって喜びを返す。
撫でられて、よっつの翅とも順番に。
「……面白いな。」
「おもちゃじゃ無いんだからね。」
口を尖らせながらも、翅はそよそよと満足そうに、風に乗ったみたいに揺れたまま。
「よく効くね……、この薬。」
痛みと熱が、引いてきた。
消えたわけでは無いけれど、小さくなって感じれない。
「師匠直伝さ。スフレ用に薄くしてるから、長くはもたないみたいだけどな。」
ぼんやりと、遠くに声を聞きながら……。
撫で続けられて、ふあぁとあくびが込み上げる。
「なんか……、眠くなるのを混ぜた……?」
「あぁ。安眠系の香りをほんの少しだけ。
もう何度目かだからな。楽になってる間に寝たほうが治るだろ。」
撫でられる髪から生まれる幸福感。そしてますます重くなる瞼。
目の前に降りてきてくれたレイジの手。でも、あたしは首を振る。
「……このまま、寝入ってから……ね。」
呟いて、すぅと息を吸って。目を瞑る。
何も頼んでないけれど。
レイジはずっと、撫でてくれてる。
指の感触に浸って、揺れる翅の感覚を感じながら。
柔らかい感触に溺れるように揺れながら。
ゆりかごみたいなあったかさに……あたしはだんだんとけて、分からなくなっていった……。
次回から不定期更新になります。




