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小さな妖精スフレ、魔法使いの家でやらかしてます 〜彼といっしょの、ちいさな毎日〜  作者: 久寿 たまや
2期目

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25/30

25. 噂の泉と、つかってるだけのあたしのはなし

復活の泉?それはレイジに聞いた村の噂。萎びた野菜や美味しくない果物を浸すと救ってくれるらしい泉。心当たりはあったけど、仕組みの方はからっきし。いいや、暑いし浸かりながら考えよ……。


妖精スフレと魔法使いレイジの、少し甘い日常のひとコマ。毎回独立、一話完結の掌編。

※イラストは AI生成(ChatGPT)です。

「復活の泉?」



 それはヒトの村(リンデル村)に来た朝にレイジに聞いた噂。

 何やら村の片隅の泉に、野菜とか果物を浸しておくと元気になったり美味しくなるらしい。


 へーって聞いて、照りつける太陽にふへーって喘いで、今はぽちょんと泉の中。


 長い髪がでれーっと水中で広がっていくのに任せる。

 最近特に気温が高く、何も遮るものがない空中を飛んでたら暑くて仕方ない。

 水に浸かれば、ほわぁって生き返る感じ。


 あたしの魔力属性は、陽。だけど日差しに強かったりとかは無い。

 むしろ暑いのは苦手……。



 ……変じゃ無いってば。

 水属性の魔法使いが溺れたり、火属性の魔法使いが火傷するのと一緒。


 ちなみにあたしを拝み倒されても、陽光を弱める魔法なんて知らない。

 これも風属性の魔法使いに嵐が止められないとかと同じ、当然のことなんだから。


 ひとり雷属性で自然発生の雷を蹴散らすお方を知ってるけど……。あんなのは例外。あっちがおかしい、規格外。



 そんなわけで、泉に浸かって翅を一直線に伸ばし、水面にぷかぷか浮かぶ。

 この泉の大きさは、レイジの半分程度。

 彼には狭いだろうけど、あたしが浸かるなら十二分に広い。



 ああ、火照った身体が冷えてくのが気持ちいい。

 水。暑い日に冷たいって贅沢。やっぱり湧き水っていいよね……。



 噂を聞いたから、今日はちょっとばかり期待してやってきたんだけど。


 別にいつもと何にも変わらず。

 精霊とか魔法とか、そういう片鱗は何にも感じない。


 ひょっとしてここじゃ無いのかなー……。


挿絵(By みてみん)


 精霊のいる泉。

 大体、そういう加護とかくれる精霊って植物由来で変じてるのが多い。近くに来たよしみみたいなので、魔力を分けて元気にしてくれるの。


 森の奥地の、木のうろの中にあったっけ。そういう水溜り。絶対に育てたい貴重な種とか浸しに行かされたなぁ……。


 目を閉じると浮かんでくる思い出。



 あたしにも魔力分けてくれたらいいのにって、種と一緒に浸かってみたこともあったっけ。

 ……結果は。種に陽の魔力が混じって怒られたっけか……。


 まぁ、泉自体に秘密がないなら、外部要因ってことなんだろうけど。



 翅を半分起こして半回転。片翅で水を掻いてボートみたいにぐるっと周る。怠惰なことこの上ないけど誰が見てるわけでも無いし。


 見回して感じるいつもとの違いといえば、浮かんでるものだろうか。



 葉野菜、葉野菜、芋、果物。



 どれも品質はやや貧相で、原因というよりは、単に恩恵待ちの一団。


 日照りをもろに受け、葉の縁が縮れた野菜、小さくて、硬そうな芋。


 そして手近にぷかぷか浮かんでる果物は……。


 さっきふらふら村を翔んでたら貰った果実。

 これは、あたしが浮かべたものだった。

 何の実なのかは知らないけれど、熟れれば甘くて美味しいらしい。


 薄黄緑の実に手を触れて、水面でくるくると回転させる。実の微妙な凹凸が、ぱしゃぱしゃ水面を跳ねさせた。


 まだまだ石みたいに、かったい。

 誰かがつけたナイフ傷があるけど、傷つけて調べるまでもなく、食べごろは程遠い。



 そんな感じに、水面に浮かぶ先客たちは雑多。

 けれど泉に漂うのは神聖さよりも生活臭。



 浮かんだものの共通点は、どれもこれもあたしより大きいってことくらいかなぁ。



 『貧相』は、共通点じゃないってば!

 小さいけど凹凸はあると自認してるんだから。

 ………………ヒト視点じゃ誤差だけど。


 おっとと脱線。泉に浮かんでるのはそんなとこ。



 どれもこれも見たまんま。大した魔力も精霊の気配もまるきり何も感じない。



 他に泉にあるのは……沈んでるコイン。銅貨ばかりが数枚程度。


 こちらも不審な点は、特に無し。

 つまり現状本当に、見渡す限り不思議なものは何にもない。



 目を閉じて、見えない魔力の気配も探るけれど。


 ……絶無。何にも反応なし。

 むしろ水の魔力は少ない寄りで、通した魔力はすっと溶けて消えていく。

 これもごく普通の反応。だから泉の正体は、ますますもって澄んでるだけのただの水。



 無理やりに魔法的に考えれば、コインが何かの触媒?

 ここにいるかもしれない精霊への対価になる?……のかも。



 …………


 コインで喜ぶ精霊って、すごく人間的というか、俗すぎて嫌だなぁ……。


 顔に垂れた髪をかきあげて、そのまま解して水中に広げてく。

 暇にまかせて、思考も感覚も回り道してみたけれど、結論はやっぱり変わらない。


 復活の泉なんて、気のせいじゃ無いかなー。

 近頃じゃ、冷やせば何でも美味しいし。



 思考を区切るように、腕をぱたんと下ろせば、反動で、身体が揺れて浮かんで波のひとつになっていく。



 薄目を開ければ、空に居座る眩い(あっつい)光。


 照りつける日差しで、あたしの翅も野菜みたいに萎びてしまいそう。

 やる事ないし、やる気もないから、陽の魔力も溜まる一方で。



 ふーっ、と息を吐く。

 水に入れば、本当に気持ちいい……。

 漂ってれば、熱も余分な力も抜けていく……。



 ……これが、最近のあたしの日課。

 レイジを待つ間中、何にもせず泉に漂ってるだけ。



 いいじゃない……。このところ立て続ってなだけで。これからずっと毎日ってわけじゃないんだし。


◆◇◆◇


 鐘の音が水面をさざめかせる。

 お昼を告げる鐘だった。


 結局それらしき魔法も存在も、何の片鱗も感じることはなく。


 目をぱちっと開けて、うーんっと仰向けから身を起こしたあたし。

 瞳に飛び込んできた光景は……。



 瑞々しい葉っぱの野菜たち。



 「……え?」



 びくっと翅と肩を動かし、その拍子にバランスを崩しそうになる。


 驚きは二重。

 見てわかる周囲の違いと、思わず探った周囲の魔力と……。



 ……いやいやぼーっとしてるうちに誰かが、入れ替えただけだって。


 そんなあたしが、水中に手をついた拍子に触れたのは。今は沈んでる。艶のある膨らんだ芋たち。


 それは下に、ぽんと泉の底に押しやって。

 はてさて持ってきた果物は……。



 うん……冷えてる。



 ………………。



 泉の水を、手で掬う。

 たっぷりと陽の魔力を含んだそれを。



 …………さあて。レイジを迎えに行かなくちゃ。



 気のせい気のせい。気にしない。

 だって精霊なんて居なかったし。


 身を起こし、翅先から雫を散らして翔び立って、ざばっ、と果実を引き上げる。


 黄色く柔らかくなって。食べごろの甘い匂いを漂わせたそれを、あたしはしっかり両腕で抱える。


 気温と日差し。そして水、浸けた泉。

 これ程に溢れかえるほどの陽の魔力があれば、熟れるのなんてあっという間かぁ……。



 しみじみ抱きしめて。

 ナイフ傷だった部分から中に触った手のひらをひと舐め。


 ちょっと酸味、そしてすっきり甘い。誘う匂いに見合った充分な味だった。

 冷やしたからその味は一際、身体に染み渡りそう。


 ……それで。レイジに振る舞うべきかって、思い至った。



 舐めた手のひらを見つめる。


 だって…………精霊じゃなかったわけなんだけど。

 でもでも、泉のせいなんだけど。


 泉で、たっぷり陽の魔力を吸ったそれ。

 ふんわり鼻をくすぐる、甘い熟れた果実の香り。



 ………………。



 気にしない。気にしないったら。

 ……食べて貰わないなんて、もったいないんだから。


 水にも溶けてたせいか、それとも吊るして運んでるせいなのか。なんか気づけば全身は、甘い美味しそうな匂いに包まれていた。



 ぎゅっと掴み直し、実を身体に押し付ける。

 身体と頭の芯を香りで揺らして、もう何にも考えないことにする。



 そして溢れるきらきらの陽の光の中を、熱と香りを振り散らしながら、あたしは一途に一直線に翔び去った。

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― 新着の感想 ―
小さなスフレちゃんはとても可愛らしいです。 それにこんなたくさん挿絵を入れることで更に可愛さを実感できています。
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