20.外れのクジ屋さんと、カラだけ欲しいあたしのはなし
市場外れに翔び来たスフレ。興味を引かれたのはちょっぴり怪しい露天。それは陶器の置物を使ったクジの店。ハズレだと飴、アタリが出れば豪華な景品というルール。しかし、スフレが気に入ったのは……。
妖精スフレと魔法使いレイジの、少し甘い日常のひとコマ。毎回独立、一話完結の掌編。
※イラストは AI生成(ChatGPT)です。
「え?壊したく無い?なんで?」
目の前には、ヒトのお姉さん。
あたしは、自分の腕に収まるくらいの小さな星形の焼き物を抱えてる。
ここは市場の片隅に布を広げただけの簡素な露天。当て物くじのお店だった。
ルールは簡単。
銅貨一枚で、店頭に並んでる素朴な小さな焼き物をひとつ買って割る、その中に当たりが入っていれば、店頭に置かれてるちょっと豪華なものを貰えるというもの。
そこで割らずにこのまま持って帰ると言ったら、めんどくさそうな表情と声で返された。
ここと似たような仕組みの当て物は、そこそこ見かける。
みんな揃って、市場の真ん中では無くて片隅。
見かけた次の日には、ふらりといなくなってる綿毛のようなお店のひとつだった。
あたしがここに目を止めた理由は単純。
……可愛かったのだ。
くじが中に入ってる焼き物。
お店によって様々だけど、記憶にあるのは丸とか四角とかばかり。
このお店は、それとは違ってた。
星形や三日月形、小さな家や、人の形。
素朴な単色の焼き物だけど、愛嬌があった。
「だってさ。勿体無い。」
「……いや、ここはクジの店だからね?
開けてもらわないとハズレかそうで無いのか、わからないじゃ無いか。
欲しいんだろ?これ?」
そう言って、店頭にあった銀細工の腕輪を見せられる。
「……要らないんだけど。」
「……え?」
告げるとお姉さんが固まった。
その返答は考慮の外だったみたい。
固まりながらも、あたしの他にやってきたお客さんの相手はするお姉さん。
お客さんは、小さな女の子。
……もちろんヒト基準の話。年齢が低いだけで、あたしよりずっと大きい。
その子は、店頭に並んでたうちの一つを掴むと、手の熱が移ってそうな銅貨を一枚手渡した。
お姉さんが受け取って、焼き物が並べられた台の裏の籠に放り込む。
飛び込んだ銅貨は、すでにあった山にぶつかって、チャリンと音を立てた。
そして小さな木の葉のオブジェは、目の前でパキンと破られてしまった。
あぁ、勿体無い。
結果は……ハズレ。
中にはなんにも入っておらず。
お姉さんは、そばにあった壺の蓋を開け、中を木の棒でひと掻き。
それで纏い付いた飴を棒ごと渡していた。
やや残念そうに受け取って、帰っていく女の子。
仲間の子たちと合流する後ろ姿を見送ってから視線を戻す。
まだ並んで無いけど、周囲にはお店を伺う視線がちらほら。
お姉さんもそれを感じて、クジの焼き物の抜けた穴を並び替えた。
やっぱり、……他より少し人気あるよね。
いっぱいに並んだ、小さい焼き物が可愛いし。
それであたしもこのお店に気づいたみたいな感じだし。
「なんでそんなのが良いんだ?」
「だって素朴で可愛いじゃない。」
素直に感想を告げているのに、お姉さんの目は細まっていく。
「冷やかしなら帰ってくれ。それはクジなんだから壊さないといけないんだよ。」
「えー!なんで?これが欲しいんだから。中身なんていらないの!
ハズレでいいから、飴渡してよ。」
市場の片隅とはいえ、人通りはそれなり。
あたしが空中にいて、皆よりひとつ分高いのもあり、止まって話してるだけでちょっと目立つ。
お姉さんは、だんだん高まる注目を気にしてか、周囲を見渡した。
「……そういうわけにいかないんだよ。」
「なんで?」
「だって……、それが……。当たりかもしれないじゃないか。」
「困るの?それ、お店的には得しかないんじゃ無いの?」
「いや困るから。だって……、残りが全部ハズレしかないかも知れないクジなんて、誰も引きたくないでしょ?」
「じゃあさ、絶対にハズレってのを選んでよ。
その中から選ぶから。」
「そんなの……、覚えてるわけないよ。
どれが当たりか……なんてさ……。」
困って周囲のクジの焼き物を見回して、周囲を見回して、それからあたしに向き直った。
「……だいたい、そんなの選んだら、それだけ売れ残るじゃないか。」
向き直った目はまた半眼だった。確かにごもっとも。
「むー。じゃあ、待ってる。
誰か当たったらさ。あとみんなハズレでしょ?」
「いや、そりゃあ……。そうなんだけどさ……。」
歯切れの悪い応答。でもそれは拒否されなかったので、星のオブジェと一緒に空中に浮かぶ。
空はまだ青く、陽は天頂をすぎて少し行ったくらい。
まだまだ時間はあるなぁ、と思いつつ1番星気分で小さな星を担ぎ上げた。
◆◇◆◇
(挿絵: 焼き物の星を掲げるスフレ(使用ツ―ル:ChatGPT Image Generation))
◆◇◆◇
ふらふらと翔んで、ゆらゆら回る。
くるくるオブジェを回して、道ゆく人の視線をあたしじゃなくそっちにずらす。
地面に置いてる彼女の露天の看板よりも、空中のあたしが目立つようで、見物が増え、客の入りはまずまず。
早く当たりが出ないかなぁ……。
……壊されてくクジの焼き物は、とても残念だけど。
割れた犬の形の焼き物を見て思う。
「……ねえ。」
いきなり下から声をかけられた。
視線を向けると、小さい女の子。2回目のチャレンジなんだろう。さっき木の葉の形のを買ってた子だった。
「ん?あたし?なに……?」
すっと降りて近づいていく。すると女の子は、両手のひらを差し出した。
「それ頂戴。」
「えぇ……?」
思わず、本音が漏れる。
でも渋ったことで、持ってる星の置物はますますロックオンされてしまったみたい。
「ずっと掲げてるそれが当たりなんじゃ無いの?それが欲しいんだから、渡してよ。」
そんなわけ、無い……とは思うけれど。
店主のお姉さんを見たけど、目を逸らされた。
どうしようかなぁ……。
周りを見ながら困っていたら――。
「これと交換ならどう?」
当の本人から、提案があった。
手のひらに乗ってたのは……、
魔法使いの人形。
ステレオタイプなローブ姿の小さな人形だけど。
……あ。頭の感じとか目の雰囲気が、なんかレイジっぽく無い?
「どう?」
そわそわ、と翅が余計に動いたのを見られたのかも知れない。
手応えを感じた少女にずいっと詰められる。
「う、うーん……。」
丸めの可愛い星と魔法使い。
どちらも飾っとくには違いは無いんだけど……。
……人形遊びするような歳じゃ無いんだけど。
差し出された人形にじーっと見られてるような、不思議な感じ。
……いやこれ、ここで断ると壊されちゃうんだよね?
…………。
「…………いいよ。」
「やったぁ!」
ぱんと手を打って喜ぶ少女。
ちょっとだけ、苦笑いなあたし。
店主のお姉さんの了承を取ってから交換する。
さて、お星様の中身。その結果は……、
ハズレ。
そう簡単にはいかないよねー。
そう思いながら、地面に衝突しちゃった星と、悔しがる少女を見る。
手に下げた人形と一緒に、ふらふらと翔んで、店の周りを一周。
掲げるのもどうかと思ったから、抱っこするみたいにぶら下げてるんだけど。
そうしたら、道行く人の何人かにくすりと笑われた。
……ちょっと恥ずかしいかも。
思うんだけど、戻すわけにもいかなくて。
かと言って、離れるわけにもいかないから。
あっちへふらふら、こっちへふらふらと、人形を抱えて、通る人が少ない方の空中へ移動しながら翔ぶ。
「欲しいのは星じゃなかったのか?」
お姉さんに揶揄するように言われてしまったので、すぅっと高度を下げる。
「そうだけど……。
別に星だけってわけじゃないの!」
言い訳じみてるなぁと思いつつも、抱えたレイジ……じゃない、人形を持ち上げる。
「ほら見て。
頭だけフードから出てる感じとか、手とか足とかの程よい短さとか。
目とか口なんかも、わざわざ中を描いてるでしょ?」
勢いのままに、ぱたぱたと余計に羽ばたきながら、距離を一段詰める。
「壊しちゃう人形なのに、妙に丁寧なの。
お客さんを楽しませようって感じがちゃんとあるよね。真面目で、少し優しい感じで。
そう言うとこが好き。味が出てるんだから!」
顔の前で捲し立てたら、お姉さんは顎に手を当てて、なんか困った顔になった。
「それ作ったの、私なんだが……。」
「あっ……!」
今度はあたしが口に手を当てる番。
もちろん、それでうっかりレイジを落としたりしないようにちゃんと抱えてる。
「……だから。なんでもじゃ無いから!
良いものは選んでるんだから!」
言いながら、すごすごと空中に戻る。
追ってくる視線で赤くなるのを、翔び周りながらなんとか冷やした。
◆◇◆◇
店じまいは、意外と早かった。
あたしが来てから、だいたい2時間くらい。
夕刻になるより前に。お姉さんは荷物をまとめだす。
「もう帰るの?」
尋ねる。
結局、あたりは出なかった。
客足は、先程からぱったり途絶えて誰も来ない。
店頭に残った置物はふたつ。
妖精と三日月。
妖精は髪がかなり長くて、なんかほんのりあたしに似ていた。
「……ああ。潮時だからね。」
そう言って。ちょいちょいと手招きされる。
近づくと、彼女は、
残ったふたつをあたしの前にすっと並べた。
「くれるの?」
「ああ。こんな売れ残りで良ければね。
クジのあたりは、要らないんだろう?」
「……うん。」
机に降り立って。三日月と妖精と、そしてそのふたつ越しに彼女を見つめる。
目が合うと彼女は、ぱたっと動きを止めた。
そうして、ため息をつく。
「……心外だな。
あたりは、ちゃんとある。残りの三つのどれかだよ。」
「……うん。」
特に何をするわけでもなく。眺める。
市場は夜の準備に取り掛かり始めたくらい。
まだまだ人通りは絶えないけれど。
子供相手のお店なら、そろそろ閉め始めの時間ではあった。
彼女の荷物は少ない。
敷いてた敷物と折り畳みの机と、銅貨の籠くらい。
出立準備はあっという間だった。
彼女は、あたしがまだ眺めていたのに気づくと、籠から移した袋から、銅貨を一枚取り出した。
「私は豪運でね。」
上向きに弾く。
そして受け止めた硬貨。
重ねた手をどければ、表向きだった。
「得意技なんだ。何度だってこうなる。」
弾く銅貨は何度でも、表をさして落ちた。
「……うん。」
彼女の腕に目を細めて、頷く。
あたしの方に向く瞳の、探るような揺れ。
そして、しばらくの沈黙。
……まるで、何かを待ち望むような。
拍手でもするべきだっただろうか。
そう思い始めた時だった。
「……もしも、確かめたいって言うなら。
今ここで全部割ってみるかい?」
痺れを切らしたように、彼女の口端に提案が乗った。
あたしは……、首を横に振る。
「……しないよ?
壊したらハズレになっちゃう。そうでしょ?」
そう言って笑いかける。彼女の表情も仄かに緩んだように見えた。
「……クジのあたりは要らない。だから、ひとつはあなたに返すね。」
そう言って、片方を彼女の荷物の上に載せる。
「そっちなんだな。」
「ツキは、もう充分でしょ?」
告げると、口角が上がった。
「……なるほど。」
彼女は像を摘むと、あたしに重なるように翳す。
「ああ、たしかに当たりだ。見る目は確かだね。」
そう言って、ポケットの中に入れた。
荷物を背負ったのに合わせて、あたしもふわっと浮き上がる。
月は……抱えられないから、地面に置いた。
後で魔法銀の布で包むつもり。
市場の喧騒を背に、彼女は一歩を踏み出した。
左右の商人も、道ゆく人も振り返らない。
「また来てね。割れちゃったらまた買いに来るんだから。」
「……飴を用意しとくよ。じゃあね。妖精さん。」
「そっちもね。」
視界の端に、きらりと陽の反射。
チラリと見たら、地面の月もまるで本物みたいに見送ってくれてる。
魔法使いのような人形を、ぎゅっと抱え直す。
そして、彼女の出立に。ポケットに入ったひとつ残った茶色の妖精に。
あたしは、小さく手を振った。




