19. 迷い犬とあたしの、かってはいけないはなし
雰囲気重視の掌編シリーズ。
毎回ひとつの独立したエピソード。どの話からでも、サクッと読めます。
基本、妖精スフレと魔法使いレイジの、少し甘い日常のひとコマです。
※挿絵は、AIイラストです。(使用ツール:ChatGPT Image Generation)
「返してきなさい。」
玄関を開けてもらったら、即飛んできたレイジのひとこと。
いや、言われるとは思ってたし。
すこーししか期待はしてなかったんだけど。
何を返すかって?
吊り下げたモノを見下ろす。
すると、白い塊のそいつもあたしを見上げて、尻尾をブンブン振って、ワンと鳴いた。
見ての通り、犬。
耳はふたつで足は四つ、尻尾もついてるなんの変哲もない犬。
強いていうなら……、小さくてふわふわで、とてもかわいい子どもの犬。
「なんで拾ってきたんだよ……?
僕もスフレも家にずっと居るとは限らないんだから、飼えないだろ……。
それに、その子。スフレよりずっとデカくなるからな。」
いや、まぁ分かってるし。
だから、妖精は犬なんて飼わないし……。
あたしも飼い方なんて、ヒトの本で知ってるだけ。
でもさ、いつもみてるだけだからさ。
なんか余計に。憧れるっていうか……。
「ねぇ、この子、きっと村から迷い込んだんだよ。
だからさ、飼い主が見つかるまでーー」
「いや、ダメだから。昨日からうろうろしてたから。
心配なら、村の警備の人に渡してこい。
飼うの、絶対にダメだからな。」
バタン、と目の前で閉まる扉。
かくして、あわよくば、なし崩しでうちの子に計画は、未然に防がれた……。
◇◆◇◆
はてさて、あたしは犬と一緒に村の近くまでやって……きてない。
犬と一緒に、家の周りをぐるっと一周。
犬用のお水と、おやつの干し肉も持って来たので、気分はまるきり散歩。
許可は得てないけど。飼い主が誰か分かるように、蔓を編んで首輪とか、作ってみたり。
どうせ飼えないんだし、良いじゃん、雰囲気だけ楽しんだって。
あちこち行くのと、急に走り出すのはあったけど。
それはお互い様なので、全然許容範囲。
体力的にも力的にも、子犬くらいだったらちょうど良かった。
犬って、覚えさせれば番犬とか猟犬になるんだよね……?
なんか、芸とか出来るようになれば、レイジも認めてくれたりしないかなぁ。
村で見てた犬は、たしか……
「お手!」
犬の前にぱっと翔んで、叫ぶ。
えーと、確か手のひらを見せるはず。
持ち上がる、でかいもふもふの手。
しかしそれは、あたしの手のひらに触れる前に目の前で止まった。
ぷにっとした肉球がよく見える。
そして、わん!と元気よく鳴いた。
触って欲しいのかな……?
そう思って、こっちから犬の手に触れる。
あ、なんか、やわらくて気持ちいい。
手のひらに残った感触を楽しんでたら、犬もくるくる地面を回って喜んだ。
かわいい……。
「おてー!」
言えば、始まるあたしと犬のハイタッチ。
なんかちょっと違うけど、これはこれで面白いかなー。
犬もあたしも上機嫌。
同じようにくるくると近くの草原をかけていたら、犬が突然茂みに消えた。
「どうしたのー?」
近づいてみたら、ちょうど茂みから出て来た顔に鉢合わせ。
その口には、茶色いボールがひとつ。
遊びたいってことかな?
ボールを受け取ると、犬はぱっと走って離れて行った。
そして離れて止まって、振り向いて、尻尾を振る。
それで、ピンと来た。
これって、投げて拾ってきてもらうやつじゃない?
わんわんと、催促の声。
投げろってことだね。
あたしにとっては、ボールはちょっと大きいけど。勢いをつけて、犬の方にぽいっと投げる。
そしたら犬は、鼻でポンとボールを弾いた。
あらぬ方向に飛んでいくボール。
おっとっと、茂みに隠れてしまう前に無事キャッチ。
すると、犬はもう一回やると言わんばかりに、わんわんと吠えた。
「もう一回チャレンジだね。いっくよー!」
宙を舞うボール、そして跳ね飛ばす犬、拾うあたし。
「違うってばー。
咥えて持ってくるんだってば。」
そう言って、ボールを直接渡してもみたけれど。
上手く伝わってないのか、面白がってボールを離れたところに飛ばすばかり。
けど、拾って渡すたび、喜んではくれるし。
遊びとしてはこれでいいのかなぁ……。
……まぁ、ボール遊びができる、ということで。
そう思ってたら、犬が前足を上げた。
あ、お手。覚えてくれたんじゃない?
「おてー!」
叫んで、犬とハイタッチ。
肉球のぷにぷに感が、いい感じ。
犬も回って尻尾を振って、喜んだ。
良いんじゃない?賢いんじゃない?
この子犬。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「えー、もうお別れー?」
口を尖らすスフレの足元で、
目当ての犬は、似たポーズで抗議の後ずさり。
「もともと飼うって言ってないだろ?
ほら、ルカに渡して。」
後ろの、幼馴染のルカを指差す。
彼はいつもの馬で、僕宛の荷物を届けてくれたところだった。
「すっかり、仲良くなったみたいっすね。
白いふさふさの犬、たぶんこれ、レオン君ですよ。」
心当たりがあるとのことだったが、見知った犬らしい。
行く当てができたことに、こっそり安堵する。
「レオン君ー!」
ルカが呼びかけると、犬は尻尾をふって、ワンと吠えて応じた。
「何をしてたんだい?」
ルカが尋ねると、スフレが胸を張った。
「芸をね。覚えたんだよ。」
そして、犬と顔を見合わせる。
「じゃあ、レオン君、いくよー!」
笑顔のスフレに、レオン君が尻尾を振った。
ワンと大きく吠えて、差し出された犬の手。それをすかさずスフレがタッチ。
「おてー!」
「……お手か?それ……?いや、お手だけどさ。」
「いいね……、スフレちゃん。それ、もう一回やってみてくれる?」
ツボに入ったらしい。
後ろで、ルカの震える声が聞こえる。
「ん?いいよ?」
すかさず、ワオンと吠えて、手を翳す犬。
それにタッチするスフレ。
「おてー!」
満面の笑み。
褒めて褒めてと言わんばかりのそれに、無いはずの尻尾を幻視する。
「……スフレちゃん……。凄いよ……、傑作。
他に何ができるんだい?」
ルカは面白いもの、として犬とスフレをロックオンしたようだった。
声を震わせたまま、続きを促す。
「ボールあそびかな。」
そしてボールを持って離れるスフレと、動かず鎮座する子犬。
「いっくよー!」
身を低くした子犬は、飛んできたボールに……。
ワオンと応じながら、あらぬ方向に跳ね飛ばした。
「はっ……!」
「よっ……!」
「おおっと……!」
ボールは、犬に返されるたびにあらぬ方向に飛び、
その度に空中でスフレがキャッチを決める。
パチパチ手を叩くルカと、くるくる回って喜んで吠える子犬。
そして、例の「お手」を決めて喜ぶスフレ。
「すごいすごい。スフレちゃん。ご褒美にお菓子をあげよう。」
首を傾げるスフレ。
表情は……わかってなさげ。
何でー?と言わんばかりの表情をしながらも、渡された飴はしっかり受け取っていた。
「いやいや、いいもの見せてもらったわ。
スフレちゃんは、最高だね。」
笑い転げるルカに目を遣れば、彼は何故か俺の顔を見て姿勢を正した。
「……おっと、これは失礼。
真面目に仕事に戻るとするわ。」
ルカはそう言って、ひょい、と子犬を摘み上げる。
「あー……。」
漏れた声は、スフレのもの。
「だめだよ、スフレ。飼い主がいるんだから。」
言うと、彼女の翅がすこし下向きになり、動きが遅くなる。
同じ視界に映る、ルカに持ち上げられて垂れた子犬の耳。
両者のイメージが重なる。
「……はぁーい。」
とても残念そうな声音ながら、バイバイと手を振って。犬と、ルカを見送るスフレ。
表情は見えないが、たぶん笑っているのだろう。
犬もわんわんと応じた。
……そして、ふと、彼女の下げてるバスケットからはみ出しているものに気づく。
そっと取り出してみたら、それは輪だった。
蔦製の、手作りの犬の首輪か……。
スフレが作ったものだろう。
編みはいくつも間違ってる、なのに、内側のささくれや皮は丁寧に取り除いてある。
どこかちぐはぐで、優しい大雑把さだった。
見送るスフレの背中と、その輪を見てるうちに……。
魔が差した、としか言いようがないが。
輪を、スフレの頭にかぶせる。
「んん……なに?レイジ。」
振り向いた彼女に、かかった首輪。
全然サイズが合わず、首から垂れ下がっている。
が。まるで耳みたいに、頭に両手を乗せていた。
いろいろ違うが、間違いではない、か?
うっかり宿った思いに、ふっと笑う。
『待て』がなかなか上手にならない、小さな彼女。
その頭を撫でれば、長くて細くて、しっとりとした金色の髪の感触。
ちょうど首元にぶら下がったタグには、何故か『スフレ』とだけ書かれていた。
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(挿絵: 被せられたスフレ(使用ツ―ル:ChatGPT Image Generation))
◆◇◆◇
本文終わり。
……おまけ画像。




