17. 見えてるあたしの欲望と、伝わらない花の味わいのはなし
雰囲気重視の掌編シリーズ。
毎回ひとつの独立したエピソード。どの話からでも、サクッと読めます。
基本、妖精スフレと魔法使いレイジの、少し甘い日常のひとコマです。
※挿絵は、AIイラストです。(使用ツール:ChatGPT Image Generation)
レイジが、あたしにお花をくれた。
鉢じゃない、お花の部分だけ。
あたしが持てて、かつ必要なところだけに切ってくれたもの。
名前は、紅綴花。
赤くて、大きくて、瑞々しい。
匂い立つ素敵なお花。
真紅の花びらは、触れると水気を感じて、指先が滑らない。押すと少しだけ沈んで戻る、弾力が……。
まさに、完璧な状態。
色むらも、いささかの萎れもない。
「……すごい。」
触れたとこから、魅了されちゃう。
とっても新鮮な、採取して間もない一輪。
ここ、アルさん――レイジの師匠のお店に飾られてたもので間違いない。
「ありがとう!とーっても嬉しい!」
あたしの腕だと、レイジの身体はうまく抱きつけなかったから。
代わりに手を取って、指にぎゅーっと身体と頬を押し付けて、感謝を伝える。
序でに指に口付けとかして、離れて、赤いお花を手にくるりくるりと空中を回る。
そんなあたしの様子は、
少し離れたところで、アルさんに全部見られてた。
気づいて、頬に赤みが差すけれど。
手に持ったお花の匂いが、なんだって優しく包んでくれる。
貰った、真っ赤な紅綴花。
見てるだけで、頬が緩んでしまう。
あぁ、口の端から涎が……。
「よく、あたしがコレ欲しがってるって分かったね。」
「スフレは分かりやすいからなぁ。
師匠の店で見てから、ずっと気にしてたし。
家の植物図鑑でも、眺めてただろ。」
バレてた。
以心伝心、すっかりお見通しだねって笑ってしまう。
「花を欲しがるなんて、珍しかったしな。
欲しがるの肉ばっかりだったろ?」
「えへへ……。
でも。こっちも好きだよ?だーいすき!」
食い気ばっかりな自覚はある。だから、こっちは誤魔化しの笑い。
溢れる気持ちのお裾分けを振りまいて、
最後のセリフに、レイジがちょっとたじろいでくれたのを見て、満足する。
「喜んでるところ悪いんだが……。
花だけだしな、あまり保たないらしいぞ。
水につければ少しは持つらしいけど。」
「うん。ありがと。
折角だし、勿体無いから早めがいいよね。」
綺麗に咲いてる花びらを、ぴんっと弾いて楽しみながら、しみじみと呟く。
この村では全然見ないし、諦めてたんだよね。
アルさんのお店で見た時も驚きだったけど。
レイジが選んで、プレゼントしてくれたって思うとね。
…………。
花を抱いて、噛み締める。
ほわほわと、あたたかい気持ちが、どんどん溢れ出してきちゃう。
「見て見て、ここの花びらがさ。肉厚なんだよ?ぷにぷに。」
上がったテンションのまま、彼の指をとって、花を触ってもらう。
「あぁ、まぁ確かに。不思議な感触だな。」
「この色がね、すっごく綺麗なんだよ?知ってる?」
「あぁ、赤い綺麗な花だな。」
むー、さてはいまいちピンときてないな。
むむむ、と悩んで。
それから花びらの端を少しだけ、手で割いて、そして断面を見せる。
ピンと張ってた花びらの、真っ赤な繊維。陽に翳すと奥まですっかり赤い。
割いた花びらからは露も垂れず、瑞々しさは中にずっと宿ってる。
見てわかる、極上の品。
「綺麗でしょー。感動モノの品質だよー?」
アピールすればするほどに。
どっちかっていうと、離れて見てるアルさんの方が嬉しそうになっていく。
……まぁいいか。レイジにも幾分か伝わってるし。
断面を見て、その色、艶、柔らかさに……、
思わず、齧り付きたくなる衝動を抑える。
「念のため言っとくと、そいつの蜜は飲めないぞ?」
不意に、レイジに言われた。
「――え?うん。酸っぱいよね。ピリッとくる。」
味を思い出して、背中と翅がぶるっと震えた。
「経験済みか?」
「あれはねぇ。飲むようなものじゃないよ。」
妖精なら、大概一回はやって……悶絶する。
毒じゃないけど、飲み干すなんてほぼ罰ゲームだった。
でも。たまに出来る妖精いるんだよねー。
野生動物の土潜りとかも、平気で花ごと食べるし。
「……でもさ、蜜とは違って、花粉はね。
ほのかに甘いんだよ。知ってる?」
左手でおしべを触り、粉を一掴み手のひらに乗せる。
さらさらな、粒の揃った手触り。
あぁ、コレを団子にするとかもいいよねー。
「そうなのか?全然知らないな。」
夢想に翔びかけたあたしを、レイジの一言が引き留める。
指先を口に含んで、しっかり甘さを確認し。
そして手のひらを、レイジの口に近づける。
「ほら、これ。……舐めてみてよ。」
そして――
…………。
……ふふ、擽ったい。
いつもと逆の感触に。
背中側が、ぞくぞくってきちゃう。
ざらざらなんだって感じて、手を軽く握って。
……触れた感触を、留めようとしたりして。
ほのかな味を、分かってくれるかなって。
どきどきする。
ちらちらって、目で顔を、口元を見て。
「……どうかな?」
ぱたぱたと、余計にはためいちゃう翅を抑えて聞いてみる。
「悪いけど、……わからない。
粉っぽい感じはするけど。」
「そっかぁ。……残念。」
ヒトの口には、小さすぎるみたい。
口の中で噛み締めると、少しだけ甘いのに。
ため息をひとつ、ついてから。
手のひらに残った花粉を、ぺろっと舐めて。
「……っ!?」
――気づいた。
手のひらに、既に宿ってた濡れのこと。
触れた舌と、唇が感じる、甘い、甘い感覚。
一緒じゃなくて、あたしだけが感じてる。
息まで染まるような、ぎゅっと詰まった甘み。
横目で見るレイジは、素知らぬ顔で。
なんにも伝わって、無いんだけど。
そんな僅かな酸味が、溶けた甘みを強めてく。
甘くて酸っぱくて、溶けて、また甘くなる。
煩い鼓動と、熱くなってく頬はそのままに。
なんとか平静を、冷静を装って。
右手で花の蜜を掬い上げ、
そしてぺろっと、指先をひと舐め。
「んん……」
思わず、小刻みに震える刺激。
舌の上で、ぱちっと弾ける、痺れる酸味。
「きっついだろ。それ。
その昔、僕も師匠に騙されて、舐めたことがあったけどさ――」
レイジのそんな思い出を聴きながら……。
目をぎゅっと、舌はちろっと出し、空気で冷やす。
「……でも、いい酸味だよ。スッキリするの。」
「そうか……?人でもキッツいから、妖精はもっとじゃないか……?」
首を傾げる彼の仕草。
またもや、同意は得られなかった。
男女差?種族差?それも単なる好みの違い?
……分からないけれど。
違う反応、異なる味覚、
分かってくれない感覚も――
おっきな大きな、大好きの……内側にある感覚で。
震えたおかげで、妙な熱さも振り落ちて。
ようやくレイジを……、あたしの顔が、彼に見せれるものになる。
「念のための、確認だけど……。」
彼の目の前にふわっと翔んで、ちょっと上目遣いで、聞いてみる。
「この花ってさ。あたしのためだよね?
あたしだけの、でいいんだよね?
好きにしちゃって、いいんだよね?ね?」
思ったよりも勢いがついて、レイジに苦笑されたけど。貰ったのは――
「もちろん。いいよ。
でも、いったい何をするつもりなんだい?」
煩い胸にじわっと沁みる、オッケーのサイン。
改めていつもより多めに。
でも、もちろん花が散らない程度に。
蔓みたいに、彼の周りを下から上までくるくる旋回。
「やったー!
そ、それじゃ遠慮なく……。」
「良かったねぇ。スフレちゃん。
とれたて、新鮮、いちばんいいときだ。
一息で楽しむいい。
あとで、感想だけは聞かせてね。」
横からふわっと飛んできた、アルさんのお願い。
そんなのもちろん。オッケーに決まってる。
答えの代わりに、口から溢れる微笑みをそのまま返しちゃう。
紅綴花の花を手に、空中で浮かれるあたしと、眺めるふたり。
怪訝な顔のレイジと、面白そうに眺めるアルさん。
ふたりの間をくるくるっと愛想を振り撒きながら翔び回って。
そして。あたしは花に思いっきり近づいて、花びらを抱きしめる。
左手に花粉、右手に花の蜜をつけたまま。
とっても魅力的なソレの匂いと感触を堪能し。
両手で花を撫でながら、大きく口を開けて……、
「いっただきまーす!」
◇◆◇◆
(挿絵: お花をいただきます、なスフレ(使用ツ―ル:ChatGPT Image Generation))
◆◇◆◇
美味しい美味しい、肉厚の花びら。
ほのかな花粉の甘みと、蜜の酸味が合わさって……。
とっても、幸せなひと齧り。
分かってくれない味だけど、雰囲気だけは分け合えるように振りまいて。
甘酸っぱいそれを、若葉のような瑞々しい感触を、身体いっぱいに味わった。




