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小さな妖精スフレ、魔法使いの家でやらかしてます 〜彼といっしょの、ちいさな毎日〜  作者: 久寿 たまや
2期目

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16/25

16. 降り来た雫と、雨の日の花のはなし

草原の真っ只中で、傘もないまま雨に遭遇したスフレの話。


妖精スフレと魔法使いレイジの、少し甘い日常のひとコマ。毎回独立、一話完結の掌編。

※イラストは AI生成(ChatGPT)です。



「うっひゃー。降ってきたぁ。」



 呟いたのは、草原のど真ん中。

 買って出ていたお使い帰り、村から家に戻る途中の道だった。


 ぽつり、ぽつりと垂れてた雨粒は、いつしか間が繋がって。天気はもやもや曇りから、はっきりしっかり雨へと変わる。



 雲には、気づいていたのだけれど。

 降らないでー、という願いは虚しくこだまする。



 髪に触れ、揺れるリボンを手で直す。

 村で貰った紫の、つるつる綺麗な布紐で、せっかく可愛く結べたのにーって。



 無愛想で、灰色な雲に口を尖らせる。



 出かけにチラ見の閉じてる傘が、心に引っかかって揺れている。

 うっかり置いてきちゃったから、開いて大きくできるのは記憶と心の中ばかり。



 村のおじちゃんにも警邏のウマの人にも、注意はされて、大丈夫って答えたのに。



 あたしの髪と身体に、雫が宿って伝ってく。



 翠色リボンを着けてれば、風の守りがあったのに。濡れずに翔ぶこと出来たのに。



 ……今日は、お出かけ気分だったから。


 朝に試しにちょっとだけって、鏡の前で紫リボンを試していたら、何だか楽しくなっちゃって。

 夢中なってたら、うっかりレイジに見つかって。


 

 ……すごく、可愛いって言われたから。

 見つめて、褒めて貰えたから。


 それで。そういう気分になっちゃって……。



 そのまま、一度も解かずに。来ちゃってた。



 雨かぁ……。



 レイジの仕事もそろそろ終わり、だったのに。

 出かける約束、したかったのに。



 行くも戻るも何もない、草原の真っ只中で。


 濡れて浸って、急ぐ理由も溶け消えて、翅も湿って鈍くなる。



 ぽつぽつと当たる雫は増えゆくばかり。

 手で覆う、髪のリボンもじっとり重くなる。



 雨宿り、できないかな……。



 なんてみまわすけれど。

 見渡す高さに何にもなくて、ただただ草が広がるばかり。


 ……贅沢なんて、言わないけれど。

 やっぱりほんのちょっぴり期待して、遠くの道に黒いカタチを探してしまう。



「はぁ……。」



 息を吐いた口にも、とびこんでくる雨粒が。



 傘がない。

 それだけでもう……すっごい無力感。



 手を翳して見上げても、雫は容易にすり抜けて。睨むなよと、言わんばかりに目に当たる。



 翅にあたって散る雫。

 気になるけども、防げない。



 縛って左右に垂らした髪が、しなっと萎れて縮んでく。

 リボンも濡れて滑って緩んでく。


 少しおしゃれなワンピースの服の上、だんだん広がっていく濃い色も。



 降りゆく雫に、どんどん周りも変わってく。



 跳ねる雫に揺れる葉に……、地面もすっかり雫の流れで覆われて、所々に見え出した、穴のような水たまり。



 水面が、空の模様を広がる波紋で映し出す。




 大きな葉を摘み、伸ばして空へと突き上げた。



 だけど葉っぱの付け根を掴んでも、うまく傘のようにはならなくて。


 雫は手や腕を伝ってく。

 添えた手に、じっとり湿って絡んでく。

 足先も、垂れた髪の先からも、大きな粒がぽたぽた落ちる。



 あたしの先に集まって、まあるくなって零れてく。




「ぅわっと……!」



 解けたリボンが葉に絡み、掴んだ拍子に一回転。うっかりしっかり姿勢を崩し……。


 ぱちゃんと、地面の水たまり。



 持っていた傘の代わりのでかい葉も、ひらひら宙を舞っていく。



 仰向けの視界に映る、分厚い雲と雫たち。



 髪は、浸かった水たまりに広がって。

 解けたリボンも泥まみれ。



 張り付く布に身を捩る。

 服だってもう、ぐっしょり湿ってる。




 ……期待の予定も、リボンなおしゃれも、水に流れて解けていけば。



もうこれ以下は、なにもない。




 泥に塗れて大の字で。

 傘もささずに濡れたまま。

 降りくる粒を眺めれば。




 ――なんかもう。


 むしろ、気楽になっていく。



 雨の草原、空は見渡す限りあたしだけ。



 ぴちゃぴちゃと雨音だけが響いてく。

 ぽちゃん、ぽちょんと雫の音に。

 遠くに聞こえる蛙の声。



 濡れるに任せて、聞き入れば。

 水溜りだって、悪くない。



 開き直って、鼻歌を。



 視界には、固く厚ぼったい雲の群れ。

 雲とあたしの間には、数えきれない雫があって。



 ぐしょ濡れの、あたしに溶けていく。



 服も身体もずぶ濡れで、髪は縮れて広がって、モップみたいになりながら……。



 もう、慌てることなんてなく。


 ゆっくり、ふわりと翔び上がり。

 翅で余った雫を舞い散らし。



 手を広げ、大きくすいっと翔んでみる。



 降りゆく雨の粒を突っ切って。


 伸ばした指先と翅と、解けて長く伸びた髪。

 そして、真ん中で握ったリボン。



 宿しきれない雫のかけらが、先から溢れて散っていく。はためき、ゆらめき、吹き散って、だんだん泥も落ちていく。



 左右になんて弧を描いて。

 尽きなく宿って離れてく、空の雫を弄ぶ。



 髪も服も雫のかけらが浮かんでる。

 貼り付き、乱れて、どうみても。まるっきりに最低なのに。

 なぜか、気分は悪くない。



 さぁっと、風と雨の音。


 ずぶ濡れのあたしは手を広げ。

 雫よりもゆっくりと、宙をまわってる。



 目を閉じて。

 降りくる不思議に揺蕩って。


 宙を舞う、粒のひとつとなって。

 雫の紡ぐ音と、風の流れを味わって。



 あたしだけの空の下、無数の雫を抱きとめる。



◇◆◇◆



 ふと見ると、ぬかるんでいる道の先、雫に紛れて黒色の、微かな揺れが……、瞳に映った気がした。



 ……でもたぶん、見間違い。

 約束だって、してないし。



 目を閉じて。

 深呼吸して、言い聞かせるのに。


 どきっと跳ねて、じっと出来ない翅と胸。

 耳までも、静かになって聞こうとしてる。



 ちゃぷちゃぷと。慣れたリズムが響いてる。期待が先に飛び出して、音より先に見つけてしまう。


 雫では誤魔化しきれない熱いのが、じりじり奥を焦がしだす。

 

 

 ……もう、観念するしか無くて。

 膨らんだ気持ちに押されて、瞼を開ける。



 遠くに目を凝らしたら……。

 道の奥、やってきてたのはーー。



 ーー雨の日だけに咲く、黒い花。

 微かに、確かに、揺れながら、あたしのことを呼んでいた。


 

 濡れない花弁に、その揺れに。

 心がそわっと動きだす。


 頬も緩んで、ふうっ、と吐息も漏れていく。



 地味色で、飾り気も何にもなくて。

 花弁も下向きなんだけど。

 そっと迎えに来てくれた優しいかたち。



 濡れ翅も、揺れて余計に羽ばたいて。



 ……ちょっと。遅かったかもだけど。



 へたってなった髪からも、べっとり張り付く服からも、ぽたぽた雫が垂れ落ちる。



 あたしとしては……、あたしだけなら。

 このままで、雫のひとつになっちゃってたって、いいのだけれど……。



 胸をだんだん占めてくものに、手を添える。


 してなかった約束が、向こうの方からあたしを探しに来ちゃっているし。



 ……だったら。ちゃんと応えないといけないよね。



 大きな大きな布を作り出す。



 頭も髪も覆えるような大きさの、無地でハンカチみたいな薄い布。



 タネも仕掛けもある技で。

 これは服にしていた魔法銀。

 何にでもなる金属を解いて魔力で広げてく。



 けどカサはちょっと足りなさ過ぎて……。

 色は抜けるし肩は丸出し。布から服まで、全てがまるで薄いヴェールのようだけど。


 透けたのは、フリルを増やして誤魔化して。

 髪は軽く絞って、リボンで縛って巻いて、束ねてく。



 濡れ髪も、滴る身体も、纏ったフリルのかたまりも。すぽっと被った薄衣の、中にひっそり覆われて。


◆◇◆◇


挿絵(By みてみん)

(挿絵: 雨中の白い花な気分のスフレ(使用ツ―ル:ChatGPT Image Generation))


◆◇◆◇


 かたちだけでも、白い花。


 灰色ばかりの空のなか、ひとつ浮かんだ違う色。




 仰ぎ見れば。


 まだまだ全然、止まぬ雨。

 降りゆく雫はヴェールの上にも、宿ってく。



 ……願いは、ちゃんと通じたけれど。



 素知らぬ顔の、どんより雲に微笑んで。

 ふわふわひらっと宙を舞う。



 雨の雫を彩りに。

 黒い花の切先に、倣って背筋を伸ばしつつ。


 雫に押され、あたしはゆらりと翔んでいく。

 きっと待ってるその彼の、傍に並んで咲くために。






























◆◇◆◇


挿絵(By みてみん)

(挿絵: 黒い花に向かうスフレ(使用ツ―ル:ChatGPT Image Generation))


◆◇◆◇

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