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小さな妖精スフレ、魔法使いの家でやらかしてます 〜彼といっしょの、ちいさな毎日〜  作者: 久寿 たまや
2期目

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15/24

15. 月鏡に浮かぶ、一夜の奇跡と冒険と、寝てるだけのあたしのはなし

雰囲気重視の掌編シリーズ。

毎回ひとつの独立したエピソード。どの話からでも、サクッと読めます。。

基本、妖精スフレと魔法使いレイジの、少し甘い日常のひとコマです。

※挿絵は、AIイラストです。(使用ツール:ChatGPT Image Generation)

 鏡に映ったその裏に、入ることができる。

 最初に噂話をしたのは、誰だっただろうか。



 足で鏡面をなぞって、その輝きを確かめる。

 銀の面を透かせば、下には妖精の少女。

 もちろん、あたしと瓜二つ。


 当たり前。それが鏡なのだから。



 境界を隔てて向き合う、よく似た姿。

 違いは、閉じた目に、意識がないことくらい。


 ……あってはいけない。鏡なのだから。



 身体のわりに、平らじゃない。

 生意気な膨らみの、微かな上下。


 それは終わりまで、止まない不思議な動き。


 つられて動く、あたしの鼓動。

 見入って、それを感じながら。



 手のひらをかざすように押し付けて。

 あたしと彼女を隔てる、ほんの僅かな境界に触れた。



 一時にして、偶然の、陽炎のような奇跡。



 それは、脆くて、眩くて、抗い難い誘惑の。

 壊さず潜れるルールの穴を、ぎりぎり通れる快感で。



「ちょっと行ってくるね。」



 聞いてない、聞こえないのは、分かってる。


 だって、これは鏡なのだから。




 触れそうで触れない距離で、彼女に暫しの別れを告げる。



 あたしが離れて、彼女が残る。

 ふたつの姿は全く同じ。


 ひとつは中で、ひとつは外。


 

 ルールは、何も変わらない。

 なぜならこれは、鏡なのだから。



 翅を使えば、軽い身体はいとも容易に宙へと浮かぶ。


 あたしは、揺れない空を楽しみながら。

 見覚えのある人影に、ゆっくり近づいた。



◆◇◆◇


 来てたのは、真夜中なのに制服姿の女の子。


 まるで、泉にうっかり金貨を落とした人みたいに、古い鏡の表面をすごく熱心に調べてる。



 警戒心を寮にでも置いて来たのか、どうアピールしても振り返らない。


 そんな銀版なんて眺めていても、あたしみたいに見えてないものは多いんだからって溜め息をついて。



 それから耳元で囁いた。


◆◇◆◇

挿絵(By みてみん)

(挿絵: ラフィにこそっと囁いた(使用ツ―ル:ChatGPT Image Generation))

◆◇◆◇


「こんばんわ。」


「うわぁっ!?」



 ヒトの女学生は、可哀想なほどに大きく仰け反った

 抱えたランプを落としかけたので、努めて、優しくゆっくりの声音にする。



「いい夜だね。」


「びっくりした……。スフレじゃない……。

もう!脅かさないでよ。

心臓止まるかと思ったよ―!」



「それは、ごめん。」



 謝っておく。

 反応に口角が上がるのは、隠せなかったけど。

 夜の闇が、うまい具合に誤魔化してくれた。



「じゃあ行くよ!

学園の不思議を見つけてやるんだから!」



 意外にも、怖がりそうな雰囲気なのに、ずんずん夜の校舎に進んでいく。


 その後ろ姿を追って……失礼ながら忘れた名前を、思い出そうと奮闘する。



「学園の校舎の中を探すの……?

深夜に?怖くない……?」



 引き止めるふりで、前に回って顔を見る。

 学園生には珍しい、日焼けで少し色づく肌。


 ……何か、思い出せる気がするんだけど。



 じっと見つめる。

 照らされた顔は、ランプの光が下にあるから、少し迫力がある感じ。



「あら?スフレも怖いの?

……実は、私も。……でもでも、だからこそ。

分かれば、怖くなくなるはずなのよ。」



 謎の使命感。こういう熱意は嫌いじゃないけれど。



「どんな噂なの?」


「月のある深い夜にだけ、中にね、入り込める鏡があるんだって。」



 止めても無駄そうなので、逆に聞けば、飛び込んできたのは気になる話。


 身体と首を傾けて、続きを促す。



「……で、その鏡に映った景色に、入ることが出来たなら……。」


「出来たなら……?」


「違う自分に出会えて、ひとつだけ、何かを持って帰れるんだって。」



 荒唐無稽な話だった。

 たとえ魔法を使っても、分からないものを分からないまま叶えるのは難しい。


 そもそも……。



「何かって?何なの?」



 とりあえず聞くだけ聞く。

 辻褄とか実現性は、蚊帳の外。



「魔法学園だし、才能とか、魔道具とか?ひょっとしたらお金とか?

鏡なんだから、違う世界の私なのかなぁ?

ウワサ自体が先生たちの罠で、くれるのは課題なんてことは無いと信じたいけど。」



 夢いっぱいの話。

 御伽話としては悪くないと思うけど。


 そして、浮かぶ疑問はもうひとつ。



「なんで何か貰える話なの?それ?」


「何でなのかなぁ。定番だよね。」



 まぁ、意味なんてないよね、噂だし。

 なんて思ってたら、不意に声が飛んできた。



「不思議って秘密が定番だからさ。

見つけて欲しがってる、とか?」



「……なるほど。」



 得心してしまった。


 見つけたことへのご褒美ね。

 だったら、意味も筋も通る。


 女の子を少し見直して、歩く背中に追い縋る。



「それで仮にさ。その鏡。

見つけたらどうするの?入るの?」


「訳のわからないものに入るのは……ちょっとね。」



 そこは、ちゃんと現実的な対処なんだ……。



「せいぜい、鏡をつついたり、物を置いたりする程度かな。」


「え―。変なことするのはやめとこうよ。」


「ここまで来ちゃったもの。

手ぶらで帰れないわよ。」



 言ってから、後ろのあたしに振り返る。

 そして入った校舎の分かれ道、右側の廊下を指差した。



「スフレは、あっち。

私はこっちの鏡を確認してくわ。

片っ端から鏡を触っていってよ。」



 お願いされた協力に。近づいた少女の顔に。

 うんうんと頷きながら応じた。



「一通り終わったら、またここに集合ね。」



 笑ってそう提案し、でも暗闇におっかなびっくり歩き出す。


 その後ろ姿、気合を入れるために腕を上げたポーズをしたのを見て……。


 やっと思い出した。



 時たま泉にきては、願掛けの銅貨と言葉を投げていた女の子の名前を。



「――ラフィ!」


「な―に?スフレ?集合は後だよ?」



 呼んだ名前に応えて、女学生――ラフィはランプを持った方の手を振った。



◆◇◆◇



 これで、10箇所目。



 呟きながら、あたしはラフィに言われた通りに鏡面に触れる。


 当然ながら沈むなんて事はなく。

 ただひとつの手のひらが、冷たい銀の板に添えられるだけ。


 向こうから触れ返すものは、ない。



 分かりきった実験に、分かりきった結果。

 得られたものは……ない。

 でも、それでも満足だった。


 夜の、秘密の探検。あたしとしては、味わえてるそれだけで特別で。



 彼女のくれた奇跡に感謝を捧げ、そして次の鏡に、タッチする。



 何も、起きるはずもない。

 曇った鏡に映るものは空虚だけ。

 他には何も無い。



 ……でも。触れる指の、鏡面の感触。

 見るとか見られることよりも、触れられること。


 それこそが、得難い報酬だった。




「ぎにゃ―!!」



 ……なんて思いに耽っていたら、校舎にラフィの悲鳴が響いた。



「どうしたの―?」



 ひとっ飛びに、いってみれば。

 床にへたり込んだラフィの姿。


 その目の前には……、四角くぽっかり空いた空間。



 ラフィの上を飛び越えて、その暗がりに入ってみれば……。


 なんのことはない。

 横に鏡付きの扉が、あるだけ。


 押し扉にラフィが触れて、開いたんだろう。



 見つめ返すと、ラフィの顔は、だんだん赤くなっていく。



「あのっ、……わた、私っ……、間違いでっ……」


「……一緒に、回ってあげようか?」



 ラフィの目が泳いで、迷って。

 たっぷり10秒は沈黙してから、ぼそっと答えが返ってきた。



「……そうしてもらえると……。」



 ラフィの上目遣いの、恥ずかしそうな仕草は。

 何というか……、すごく保護欲を誘った。



◆◇◆◇



 そこからは、ふたりでの探検。

 校舎中を、鏡を探して歩き回った。


 教室を廊下を、階段を、いろんな部屋を開けては閉めたり。


 秘密の部屋はないのかな、なんて話しながら、心ゆくまで小さな冒険をたのしんだ。




 鏡へのタッチは、全てラフィにお任せ。

 眺めるなら、ひとり分のあたしより、ふたり分のラフィの方がいい。



 ランプを片手に鏡を覗き、そしてまた、顔に指を添えるラフィ。

 見惚れてるのではなく、ずっと色を気にしてた。



「……目立たないと思うけど?」


「目立つの!

王都の子、みんな白くて綺麗なんだから。

どうしよ、気になる―。

絶対シミになってるよ―。」


「日焼けが嫌なら、外に出なければいいのに。」


「そういうわけにはいかないの!

実家の草取りくらいは手伝いたいし……。

お金もないから、安く面白い話題を仕入れたいし……。

……怪談とか、何か出ても出なくても、うってつけなのに……。」



 ぶつぶつ言い訳のような言葉を呟きながら、どう出来るわけでもない日焼けを、わざわざ触って眺めて、気にするラフィ。


 そもそも、色のあるランプの光じゃ、見ようとしても見えないだろうに。



「見てても変わらないでしょ。はやく。」



 鏡を覗くたびにこうなので、軽く催促する。



「わ、分かってるってば。」



 答えたラフィが突然振り返り、鼻先をあたしに掠めて仰け反った。



「ち、近いよ!スフレ!

全然気づかなかったけど!」


「鏡ばっかり見てるからでしょ!」



 頬をむにっと押すと、照れ隠しのように笑った。

 そして前を向いたので、あたしは少し飛び離れる。



 銀の板を挟んでラフィ同士が近づいて、手のひらを合わせていく。

 息を呑み、口を結んだ表情も、ふたつがちょうど向き合った。



 見てると、その瞬間のドキドキは、あたしにまで伝わって……。



 あぁ、いいなぁ、って思う。

 あたしが孤独に触れても、つまらないし。




 時間は、矢のように過ぎていく。



 あたしたちは、最初の中庭に戻ってきていた。


 校舎とは違い、ここは空の、銀の光が余すことなく溢れてる。

 素晴らしい眺めだと自負しているけれど、他がどうかなんて、実のところ知らない。



 そして彼女は……、まだ気づかない。



 あらかた全ての鏡を調べ終えて。

 それでも。まだ目覚めなかった。



 だから、正直、もっと続けたさはあるけど。


 そろそろ月が、傾き過ぎてしまう。

 なのに。肝心要の不思議の鏡を、ラフィはまだ見つけられていなかった。



 楽しかったあたし的には、何かしてあげたいのだけれど……。

 このまま時間切れじゃ、ルール的にはなにもあげれない。


 ラフィを見上げて、そういえばと思い出す。



 ……あぁ、そっか。

 ご褒美って、あげるだけじゃ無いか。


 唐突に、思いつく。



「不思議の鏡は降参かな?

じゃあさ、ついてきてよ。」



 ラフィの指を引き、中庭の真ん中の、あたしの場所に導いていく。



 これは、時間切れの残念証。


 自力で見つけられなかった彼女には、

 貰うとは反対の、ちょっとした(おれい)がある。



「ちょっと!スフレ、どこに行くの?」



 なんにも気づかず、見つめるラフィ。

 余計な色がない顔の、満月みたいな眩さに、目を細め、見つめ返して微笑んで。



 それから飛んで、彼女を先導。


 月明かりの妖精の翅に宿るのは、ランプなんて必要としない煌めき。

 光の尾を引くそれで、遊びながらまっすぐ飛んで、くるっと大きく一回転。



 そこにあるのは――



「わぁ……。」



 水の止まった噴水。

 円形のただの水溜りだけれど。


 魔法で作られた澄んだ水、揺らぎのなくなった水面は、夜の空を反射して、まるで空を切り取ったかのごとく。


 それは地にある癖に、月と星を内に湛える。



 ラフィは、水面に手を入れて、夜空の光をかき混ぜる。

 ゆらゆら揺れて、広がる波紋。



「……そっか、なるほど。

入れる鏡だ、これ!」



「……あれ?」



 ぱしゃぱしゃと、水で遊んでたラフィが、唐突に呟く。

 そして、顔をペタペタと触れて、確かめた。



 そして――、

 漸く気づいたラフィと、彼女。



 見つめる瞳に、手を振って。



 前を見る。

 

 水面の表と裏には、全く同じふたつの妖精。

 浮かんだ、ふたつの空を繋げるように。


 めいいっぱいの勢いをつけて。

 あたしは、波打つ星と月の(そら)に飛び込んだ。



◇◆◇◆



 ――目が覚めたら。



 あたしは、浮かび始めた泡の中だった。

 なんでって一瞬首を捻り、そして思い出す。



 泉の中で、寝落ちしたのだった。



 レイジのくれたリボンの風の守りは、水の中でも有効で。潜れば泡に包まれて。


 だから水底に沈めば。

 そこは静かな、あたしだけの空間になって。


 目を閉じて小川のせせらぎみたいな水音を聴いてるうちに、意識が遠くなって……。


 記憶がないから、そのあと寝てしまったのは間違いない。



 泡が解け、空中に投げ出されてから、翅を使って減速し……。


 まずは、ふあ―って、伸びをする。



 そしてくるっと振り返ったら、ラフィが仰け反った。



「スフレ……!?

あれ?え?あなたなんでそこに……?」



 言われて、彼女との待ち合わせを思い出す。


 噂の鏡を探す、その筈だったけど。

 遅かったから迎えにきたのかな……?



 降り注ぐ月の光。

 夜はもう深くて、あたしの髪は、金色が剥がれて月の銀に染まっていく。



「……ん。」



 月の魔力が満ちていく、温かい感覚に、安堵のような吐息が漏れる。



 ……でも。月がこんなに出てたのに。

 何で今なんだろ?


 月の傾き的にも、目覚めた時にはとっくに変わっていていいはずなんだけど。



 眠気の取れない頭のまま。

 泉の空に、あたしの姿をぼ―っと見下ろす。



「め、女神様!?

すみません、あたし、妖精なんかと勘違いして……。」



 よく分からずに怪訝な顔をしてたら、ラフィは露骨に焦り始めた。



「あ、あのっ、顔、なおしてくれて、ありがとうございましたっ!

し、失礼しました―っ!」



 ラフィが叫んで、脱兎の如く逃げ出す。

 声をかける隙もなくて取り残されるあたし。



 ……ラフィに、この姿見せてなかったっけ?



 暗がりに消えた彼女に向けてた目線を戻し、何とはなしに夜空の泉を見下ろす。


 そこには浮いてるあたしと……。



「ん……?」



 目を擦る。

 見知らぬロ―ブの美女がいた気がして……。



 女神か……。


 この泉の底、今は見えない水底に、見つけたものを思い出す。


 妖精のような翅を持った、ヒトの絵。

 月の魔力が込められた、不思議な絵だった。


 それこそなんか精霊だか幽霊だかが宿っていてもおかしくない雰囲気の。



 月夜に輝き現れるはずのそれは、夜空のヴェ―ルで隠れてる。



 大事な女神様の絵だったならば、なんでひっそり隠すのか。

 ヒトの考えることは、よく分からない。



 ……でも、女神様、ね。

 あたしってば、そんな感じかなぁ……。


 照れ半分、嬉しさ半分みたいな、にやけ顔。



「あいたっ!」



 そんなあたしに、

 ごつん、と、空から固いものが降ってきた。



 コイン……?


 金色のまあるい円板。

 妖精の村で見たことあるアレ。


 いつも使ってる銅貨の色違い。

 価値が違う、なんて知ってはいるけれど。



「い―らないっ。」



 当たったコインを、上に向けて弾く。

 コインは、回りながら輝きの尾を引いて、流れ星のように落ちていった。


 受け取ったら、なんかそれで終わりな気がしたのだ。


 こんな金属のかけらより、あたしは――



 せっかくの、いいお昼寝場所。

 これからも、たまに利用させてもらうつもりだったから。



 ぽちゃんと音を残し、コインはまあるい夜空に飛び込んだ。



『……表ね。じゃあ、あなたの勝ち。

いいわよ。でも使うなら、お互いね。』



 聞こえた幻聴に、振り向くも誰もいない。

 上にも下にも広がる夜空だけ。



 落ちたコインも何処かに消えて。

 飛沫と起こした波紋だけが、残響のように眼下の空を揺らしていた。























◇◆◇◆

挿絵(By みてみん)

(挿絵: 泉で眠ってるスフレと……(使用ツ―ル:ChatGPT Image Generation))

◇◆◇◆

今回は、泉で眠るスフレの上に現れた、神秘的な存在のお話でした。

「あたし」は誰だったのかを意識して読み直すと、何か発見があるかもしれません。

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