14.いっぱいになってくあたしと、からっぽのふくろのはなし
雰囲気重視の掌編シリーズ。
毎回ひとつの独立したエピソード。どの話からでも、サクッと読めます。。
基本、妖精スフレと魔法使いレイジの、少し甘い日常のひとコマです。
※挿絵は、AIイラストです。(使用ツール:ChatGPT Image Generation)
「……。」
じっと見つめてしまう……。
気になっただけ。
そう……、ちょっとだけ。
何か、とか、だれの、とか。
そういうのじゃ、無いんだけど……。
視線を、宙に浮かせるのに。
……やっぱり、そこに戻ってしまう。
視線の先には、レイジのベッド。
あたしの手には、中身の無いクッション。
寝る時に使ってるやつで。
干し草とか入れてもらってたんだけど……。
洗濯したら、何故か……中身が消えていた。
……ただの、不注意なんだけど。
しゅっと翔んで、近づいて。
腕を伸ばして、さらっと布団に、そして枕に沿わせて、手のひらに伝わる感触を楽しむ。
……ここで、いつも寝てるんだよね。
聞かなくても確かめなくても。
知ってる事実を噛み締めて。
静かにそっと……布団の端を抱きしめる。
あったかい……。
ヒトの使う布団は、詰まりすぎてて重いんだけど。端っこならちょうどいい。
……切り取るわけには、いかないけど。
名残惜しげに手を離し。
それから再び、ベッドの上に。
やっぱり、気になってしまうのは……。
すーっ、とシーツの真ん中に。
レイジが寝てるあたりを撫でる。
汚しちゃうから、裸足の足は宙に浮かせて。
……別にさ。他の部分と手触りが違うわけは無いんだけど。
わかってるんだけど……。
ぎゅっと、胸の前で手を握る。
片手はもちろん、シーツにつけたまま。
……胸の手が感じる、揺れの音。
胸の奥の滲みに浸って。
あたしはだんだんとふやけていって、まあるくなって。
自分の名前なんて、指で綴って……。
彼には絶対見せられない、悪戯な……緩んだ表情なんてして。
撫でてるだけで……。
……過ぎちゃう時間に、微笑んで。
…………でも、残念だけど。
持ち帰るなんて無理だから。
ずっと触れてるなんて、出来ないから。
ーーだから。
痺れた胸と手のひらに、言い訳しながら引き剥がし、それから次の場所へと翔んでいく。
……吟味し、触って、確かめて。
逸らして、過ごして、後に回して。
…………それらは全部、前置きで。
紛らわしても……離れない。
知ってた場所にたどり着く。
枕。彼の頭が乗ってたところ。
朝起きたまま、凹んだままの、そのかたち。
足はつかずに、顔は横向きに。
……触れるか触れないかの、その位置に。
翅を動かしたままで、なんて。
頬をつけるのが精一杯なんだけど。
窪みに沈めば。
そこに溜まった違いを……感じちゃう。
なんで、こんなに大きいのかな……。
なんでこんなにーー
……気になっちゃうのかな……。
感触のなかに、答えはないけれど。
触れてるのに、埋もれてるのに……。
指先に絡む気持ちを、撫で回す。
向き直れば、凹みは目の前。
正面から、なんて横向きよりも簡単で。
近づけば、そのまま凹みに迎えられ……
浮かんだ影を、想ったままに。
ぎゅっと、枕を握って。それだけでーー。
息を吸い込む。
「ん……っ」
はしたないかなって思うけど。
……思いっきり。
「……っ、はーー」
顔を離して……。
そして、小さくついたあたしの窪みに手を触れる。
やっちゃった……。
でもさ……。どうせ、見えないから。
……そっと、……もう一度。
赤い綻ぶ顔が、決して誰にも見えないよう。
深く、深く、耳まで赤く染めながら。
窪みについたあたしの形に、寄り添った。
◇◆◇◆
(挿絵: まくらに沈むスフレ(使用ツ―ル:ChatGPT Image Generation))
◆◇◆◇
「え?入れるものが欲しい?」
「うん……えっと、その……無くしちゃって。
……いい?」
ふわふわ、そわそわ、落ち着かない。
彼の目の前にいながら、顔は少しななめ。
指先は、髪の毛を触ってる。
レイジの顔は、まともに見れない。
……彼の方にも、あたしの顔を、耳や瞳を……見られたくない。
後ろ手に、ちらりと見せるふくろの中は。
あたしと違い、恥ずかしいと埋めれなくて。
ぱたぱた翅が、言い訳みたいに動いてる。
「いいよ。何にする?
今度は、紅茶の葉とか入れとくか?」
……それって、すっごく魅力的。
素敵な予感に、ときめいて。
でも、顎に指を当てて、うーん、って考える。
「……棚奥の、あの葉とか入れていい?」
それは、レイジのお気に入り。
大事に飲むのにしまってる、彼の宝物。
「あれか?……まぁいいよ。
他にも好きなのがあれば、入れていいぞ?」
「やったぁ!」
翅を煌かせ、くるくる空中を回るあたし。
彼の顔も少しだけ、楽しい方へ変わってく。
胸に留めてたはずのさざめきが、
奥から沁みて、翅先や顔に馴染んでく。
だんだんあたしは、内側から絆されてーー。
「……ふふっ。」
……撫でて直して。なんでもないを装って。
とすんと彼の肩、いつもの場所に腰掛けた。
横目で眺める彼の顔。
その口元には、おんなじ緩み。
添えた手と身体は、息遣いに寄り添って。
見つけて細まる目の方は、直すかわりにそっと閉じる。
触れて直した唇の、その下で。
まだ見ぬ香りの味わいを、ひと足先に噛み締めながら……。




