11.ごめんなさいを後押しする、花の瞬きのはなし
毎回ひとつのシーンだけを書く掌編シリーズ。
シーン単品なので、結末がない場合もあります。物語より雰囲気重視。
妖精スフレと魔法使いレイジの、少し甘い日常のひとコマです。
※挿絵は、AIイラストです。(使用ツール:ChatGPT Image Generation)
(挿絵: 花に聞いて貰うスフレ(使用ツ―ル:ChatGPT Image Generation))
◆◇◆◇
「はぁ……。」
深い深い、ため息を吐いて。
窓辺に置かれた、植木鉢。
そこに植えられた、ランプのような花の葉に、あたしはそっと手を添えた。
花は、今は青く仄かな光を宿してる。
この植物は、妖精灯花。
図らずも育てた、あたしの魔力に…‥気持ちに反応する植物。
深く埋もれて、幹に抱きついて……。
少し下がって、手頃な枝に腰を下ろす。
見える景色は、葉っぱだけの、緑の世界で。
他の色は、吊り下がった花に灯る光くらい。
近くの花を引き寄せる。
閉じた楕円の傘みたいな花の中には、青い、仄かな色が灯ってる。
……今日は、散々な日だった。
買ったばかりのレイジの…‥魔法の道具。
魔道具作りに使う、秤とか言ってたかな、ガラスの管みたいなやつ。
それを、壊しちゃったのだ。
「……ひとこと、言ってくれてたらさ。」
呟くと、青い光は、消えかけの蝋燭みたいにゆらゆらと揺れた。
掃除はしないでいいって言われてた書斎。
だから、あれは本来必要の無い行為だった。
青い光が、濃くなって揺れる。
そう、余計なこと。
……荷物で、散らかってたから。
――光が、明滅する。
でもそれが、良くなかった。
閉めてたカーテンを開けたから……。
それで、機材の細かい部品が陽に焼けて。ダメになっちゃったみたい。
……レイジに、めちゃくちゃに怒られた。
言葉は荒くないのに、いつもは丸めてくれてる角が尖ってて……。
目の奥が、声が、態度が、言葉に無くても、失望したって言ってる感じで。
呑み込んだ胸に、……刺さってる。
触れてる花に、ぽっ、と濃い色が灯った。
あたしが悪いのは、…‥わかってる。
……けど、今日はモヤモヤしてて。
ふぅ、と息を吐き出す。
……うん。言い訳。
言われた通り、入るべきじゃ無かった。
「……でも。酷いよね。
ドアちゃんと閉めてたらさ。あたしだって入ろうとか思わなかったし……。」
チカチカ、と光の明滅が強まる。
世話をするうちに気づいた。
花の灯りの色はあたし、明滅はこの子。
理解してるかは知らないけど、反応はある。
「分かってる、ってば。
あたしが悪いなんて事は。」
花に聞こえるように。声に出して呟く。
そして、少しトーンを抑えて続けた。
「でもさ。あたし。
レイジのことが大好きなんだよ?
……だから。何でもやってあげたくなるの。」
チカチカ、チカチカって、まるで訴えかけるような、忙しない星みたいな瞬き。
「…‥わかってるってば。
それで、迷惑かけたら何にもならないって知ってるよ。」
告げると、瞬きが少しゆっくりになる。
「たださ、……その。
あたし的には、悪気も失敗も無かったからさ。
……凄く、凄くびっくりしたの。」
悪気は無かったのに。
落としたとか、汚したとかも気をつけたから、無かったのに。
それでも……上手くいかなかった。
思い返していたら、花は、ぴかぴかと、まるで注意を引くように強く瞬く。
「…‥悪いことしたんだから、反省?
してるってば。凄く。
だから。あなたに呟きに来たんじゃん。」
そう。この家、あたしとレイジしか居ないもんだから。喧嘩しちゃうと、居づらいんだよね。
妖精の村、出てきちゃったから。
相談相手とか…‥居ないしさ。
そんなわけで、言ってる事はわからないまでも、言葉に反応があるこの子には、けっこう愚痴を聞かせてしまっていた。
返答は……妄想。
花の気持ちがわかるなんて特技はないから、何となくそんな気がするってだけ。
少し感傷に浸っていたら。
花は、チカチカチカチカと瞬きを返した。
まるで何か言いたげな、光の明滅。
「…‥師匠の家?
そりゃ、逃げれるし、迎え入れてくれるかもだけどさ。」
ひょっとしたら、今も魔法で見てくれてるかもしれない、ミナ先生を思い浮かべる。
……けれど。思いに浸る前に半眼になった。
「……それは。ほんとうに最後の手段だよ。
こんな程度で逃げ込んだら。
優しくどころか……ね。」
こんな理由で、師匠の家に行くくらいなら。
ここでウジウジしてた方が、ずっとマシ。
――ええ。だから危機的状況、では無い。
できることはある。それはそう。
「……あなたさ。あたしに厳しくない?」
呟いて、幹を撫でる。
「お世話は、あたし担当なんだからね?
優しくしてくれないなら、水やりの回数、減らしちゃうんだから。」
そう脅すと……。
やや、青みの薄れた花の灯りは、静かになるどころか、跳ねで揺れる瞬きを返した。
非難とか抗議、というよりもむしろ……。
「……レイジに貰うから平気……って?
あんたね……。」
……確かに。水をあげるの忘れてたら、レイジがフォローしてくれたりしてたけど。
「あなたまでレイジ頼みで、彼の味方なら。
あたしの味方は誰も居ないわけ?」
ぴかぴか光る花の灯りを感じつつ、拗ねるように幹に寄り添って目を閉じる。
…………。
ちかちか、ちかちか、と、あたしの機嫌を伺うような、あるいは単に眠るのを妨害してるだけのような。
うざったく囁くような光。
「…‥レイジはさ。優しいよね。」
呟くと、ぽわっと明るく光の反応が返る。
「……だってさ。
役に立たない、同族ですらない。
こんなあたしを、恋人としてくれてるんだよ?」
すると、瞬きが強く早くなった。
「……悪かったってば。本気じゃ無いよ。
大事なのは……そんなことじゃないよね。」
……考えるのは。
あたしが彼に、してあげられること。
しなくちゃいけないことだよね。
いつの間にかおとなしくなった瞬きは、今度は大人しく、あたしに寄り添った。
暗くはない、ぼやっとした灯りの中で、思考の海に身を沈めていく。
…………ぷかりと浮かんだのは。心残り。
ごめんなさいって、ちゃんと言えばよかったってこと。
けど、今更……、って。
あんな怒ってた彼に、それだけを言いに……?
それに、そのあとは……?
何かしたら、また、余計なことになるかな……?
ーーでも、何もしなかったら。
明日、顔を合わせたら…‥どうしよう……。
悩み始めたあたしの瞼を、強い光が灼く。
目を開けると、花のランプは、紫がかった白色で。
あたしの見てる前で、見せつけるように眩い光を放ち始める。
「…‥あなた。やっぱりあたしに厳しくない?」
言い残して……。
眩しい花に、光に追い出されるように、妖精灯花から離れる。
離れた途端、妖精灯花は、きらきらっと踊るように黄色い輝きを放ちだした。
綺麗だけど、呑気なその輝きに。
そんな簡単じゃないんだからって、そっぽを向く。
……でも。
悩むよりもまず行動。動けない花にそんなことを言われては、仕方ない。
情けない愚痴をいっぱい聞かせちゃってたのもあって。威厳はどうやら、マイナススタート。
……だから、やる時はやるんだって。
ちゃんと見せつける必要もあるみたいだし。
ちらりと、振り返ったら。
早くいけと言わんばかりの、特大の瞬きを返された。
「はいはい、ほんともー。お節介なんだから。」
一体、誰に似たのやら。
後押しを受け、その勢いを借りる形でーー
仲直りの第一歩を、上げてしまった足を踏み下ろすことに決める。
後のことは、…‥全く何も分からないけれど。
きっと、立ち止まったまま明日を迎えよりは、ずっといい。
あたしはふわりと浮かぶと、花に手を振って、レイジの元へと翔んでいく。
ただ彼に、ごめんをしっかり言って……。いや仲直りして。
ぴかぴか光る心配性のあの花に、今度はちゃんと、嬉しい気持ちを伝えてあげる為に。




