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小さな妖精スフレ、魔法使いの家でやらかしてます 〜彼といっしょの、ちいさな毎日〜  作者: 久寿 たまや
2期目

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10/12

10. 小さなあたしとでっかい押し売りの、どんどん膨らんでいくズレのはなし

毎回一話完結の掌編シリーズ。妖精スフレと魔法使いレイジの、少し甘い日常のひとコマです。


※挿絵は、AIイラストです。(使用ツール:ChatGPT Image Generation)

挿絵(By みてみん)


(挿絵: 「奥さん」連呼にとけちゃうスフレ(使用ツ―ル:ChatGPT Image Generation))



◆◇◆◇




 チリンチリン。


 来客を知らせるベルがなったのは、レイジのいない午後のこと。

 窓辺で日向ぼっこしたまま、うとうとしてたあたしは、その音で叩き起こされた。



「う―ん……」



 寝覚めの伸びをしてる間にも、ベルは何度かあたしを催促する。



「はぁ―い……!」



 無視、できなそうなので。

 仕方なく玄関まで、ぱ―っと翔んで。



「今、レイジいないよー!!」



 お決まりのひとこと。

 たいていのお客は、これで帰る。


 荷物も用事も、レイジ宛だし。

 あたしじゃ、上手く渡せないからね。



 しかし、今日のお客は珍しく、立ち去る気配がなかった。


 ドアに近づいて、覗き穴から外を見る。


 すると、外にいたのは……、

 でっかいカバンを抱えたヒトの男。



「お嬢さんは……、娘さん?

それとも奥さんかい?」


「……え?」



 聞かれて。固まる。

 その2択、だったなら……。



「……えーっと。それなら。

奥さん……かな。」



 未来の可能性、だけど。


 答えつつも、恥ずかしくなって。空中で悶えて、ふらふらする。



「お、声でわかるよ。若い奥さんだね。

新婚さんかな。」


「……うん、まぁ……、そんなとこ。」



 奥さんって単語を繰り返されて、悶えたまま壁に頭をぶつけた。


 ……他人に言われると想像以上にむず痒い。

 まだ本当じゃないのが、非常に残念だけど。



「俺は、行商のものでね。

故郷に帰る途中で、路銀が尽きそうなんだ。

だから、持ってるものを売りたい。

もし、興味があれば、買ってくれないか?」


「え―、あたし――」


「いや、いや、無理に買えとは言わない。

持ってきた品の説明だけさせてくれ!

いいだろ!?」



 お金ない、と口を開きかけたところに、台詞を被せられた。



「頼むよ!奥さん!

聞いてくれるだけでいいんだ!」



 断ろうとしたところをダメ押し。

「奥さん」の単語に、びびくっと翅が震える。



「奥さん!お願いだ!

人助けだと思って……!」



 あぅ……。

 それ、連呼されたらすっごい恥ずかしい。



「奥様!どうか、頼みます!」



 やーめーてー!

 内心で叫びながら、むず痒さに身悶えする。


 自業自得だけど、こんな叫ばれるのなんて想定してない。



 覗き窓の蓋の隙間に身を滑らせて、外を見たら、来客の男は、ドアに向かって拝んでた。



「奥様!!」


「わかった!わかったから……!」



 背中を振るわす声量と、単語に、思わず叫んでしまった。



「ありがとうございます!奥さん!」


「……説明したら帰ってよ……?」



 ぴくぴく震える翅を押さえて、男に告げた。



「絶対に、いいものありますから。

期待してて下さい。」



 言いながら、男はカバンをゴソゴソして、何かを並べ始めた。



「まずは、化粧品です。

王都から仕入れた流行りの品の6点セット。」



 並べられたのは、平たい容器。

 でも、当然、ヒトのサイズで……。



「見て下さい。

この色、この艶、王都で流行りの品ですよ。

この旅で、偶々、特別に。

仕入れられたものなんです。」



 ちょっと芝居がかりつつ、筆で蓋に試し塗りで、実演してくれるけど……。



「良くても、流行りでも。要らないから!」



 そんなバカでっかい化粧品。

 いくらなんでも使い辛すぎる。



「まつ毛を整えるビューラーもつけます。

 王都では、そこにも気を払うのがオシャレなんですよ。」



「……そんなのちっちゃ過ぎて見えないよ。」


「そんなこと無いです。印象変わりますって。

何せ、私でもそう思いましたからね。

だから、旦那さまだって……。」



 男のヒトに推されると、気にはなるけど。

 ハサミみたいなのを片手でぱちぱち動かしてるのをじっと見つめる。

 そして、自分の指でまつ毛に触れて……。



「……いや、やっぱりどう考えても絶対見えないから。」



 ため息。

 ただでさえ小さいのに。そのまつ毛なんて、絶対レイジが気づくわけない。



「変わりますって。疑うなら出てきて下さいよ。実演しますよー。」



 そう言って、男はメイク道具を広げだす。

 カバンから出されて、並べられる化粧品と、そして……。



「……それって筆で塗るの?」


「はい。それぞれ専用のがあるんですよ。色混ざっちゃいますから。」



 あたしの背丈を越えそうな、デカい筆。

 ああ、これ間違いなく無理って、安堵する。



「だったら、あたしには無理だねー。

そんな筆、使えないから。」


「簡単ですよー。誰でもできます。

やって見せますって。」



 断る口実ができたって思って言った瞬間、さらっと告げられた。



「え……?そんな筆で?」



 見てる先で、あたしの目より大きい筆が、ぴこぴこと動く。

 そして、そんなデカい筆を構えた男が、笑顔で。自信満々に呟いた。



「はい。これがちょうどいいんですよ。

奥様の顔も、綺麗に塗ってみせますとも。」


「いや……いやいや、それ職人芸だから!!

たとえ、あなたにできたとしても!

あたしには、絶対!できないからー!!」



 叫んで全力拒否。

 すると、男は意外にも。素直に引いた。



「仕方ないですねぇ……。」




 道具をしまい出したので、帰るかなと思ってたら……。

 なんか、別のものがカバンから出てきた。



「そうだ、ピアスなんていかがでしょう?」



 男の手のひらの上で輝くのは、ふたつの丸いガラス玉のピアス。


 ……もちろん、ヒトがつけるサイズ。



「いや、でっかいから。」


「流行りなんですよ。綺麗な球でしょう?」


「要らないー。重い。絶対に邪魔。」



 ひらひらと手を振って、拒否一辺倒。

 さっきと違って、惹かれる余地はゼロ。



「最初はそう思われますけど、慣れますって。

 試しに着けてみません?お似合いに――」


「いや、ほんと無理だから!

そんなの着けたら耳が垂れて、足より先にピアスが地面に着いちゃうんだから!」



 純然たる事実に――

 ……なぜか男は大ウケして。ひとしきり笑ってから、ピアスをしまった。



「……はっは、そりゃなんとも長い耳ですな。

参りました。お上手です。」



 パチパチ、と嬉しくない拍手を貰った。




「……じゃあ、帰ってくれる?」



 一瞬の静寂の後、男が玄関ドアを拝み倒した。



「いやいや、もう一度!

もう一度チャンスを下さい!」



 そしてやっぱり、あたしの返事は待たずに。

 カバンから新しい品が出てきた。



「こんなのはどうでしょう?」



 取り出したのは、指輪。


 小さいリングだったら、あたしでも腕とか腰とかに嵌める使い道が……。


 ――なんて、思って。

 男が並べた指輪たちを、いいのがないかなーって、端から順に見てたんだけど。



 ……太い。


 リングの金属を見て思う。

 重いだけだし。厚みとか太さとか、要らないんだよね。



「1番叶えたいリクエストを言って下さい。その通りのを見繕いますから。」



 男が揉み手をしながら、猫撫でっぽい声で聞いてきた。



「……え?あ、そーなの?」



 そうすると、何かな……。

 シンプルで細いのが良いんだけど。

 あ―、何より軽く無いとダメ。でも、デカすぎるのも嫌だよね。


 やっぱり、用途を伝えるのが良いかな。



「……腕につけるくらいのサイズのが欲しいんだけど。」



「――は?」



 男は面食らって、動きも言葉も止めてキョトンとした。



「……無理?なら、要らないんだけど……。」


「……あー。なるほど。

いやはや、なんともお上手ですな。」



 男は、納得したように顎に手を当てて、うんうんと頷いた。



 荷物をしまいだしたので、これで帰るかと思ったんだけど……。




「奥さん、大変しっかりしなさってる。

私の提案が悪かった。

大丈夫。次こそは、次こそは、とっておき。

……いや、実用品ですよ。

絶対に役立つものですから。」



 ……諦めてない。

 まぁ、期待してはないけど。


 とっておきという響きだけには、ほんの少し心惹かれる。



 男は、カバンの奥底を時間をかけて、ゴソゴソとあさって――



「これは、どうです?

まさに、新婚のおふたりにぴったり!

奥さまの、そして旦那さまのために!

いかがでしょうか!?」



 取り出したそれは……、女性用下着。


 ………………ちょっと過激なデザインの。



 ええ……、ええ、もちろんヒトのサイズ。

 着れるかなんて、まるで考慮の余地無し。



 …………でも。一瞬でも。

 その下着を着けた自分を……想像し――


「……っ!」



「――でっかいから!!

そんなの小さすぎて着けれないんだから!!」



 そう叫んだのに。

 男はさらにカバンを漁って。


 出してきたのは……

 ――なんと、さらに大きいサイズ。



 破廉恥な下着が。目に毒のアレが。

 これ見よがしにふたつも並ぶ。



「やめてぇー!もっとデカいー!!

大きすぎるんだからーー!!」



 なんでなの!?

 叫んだら、増えて大きくなるとか。

 何かの嫌がらせなの……!?



「奥さん、……嘘でしょ!?

本当に、これでも着れないんですか!?」



「着れないからぁ!!

だって物理的にぃ、小さすぎるからぁ!!」



 叫び返す。



 そもそも頼まれないと…‥っ、じゃなくて。

 頼まれたって、着ないんだからー!

 

 そのまま、ぜいぜい肩で息を吐くあたし。

 恥ずかしさも相まって、倍程に、疲れる。




 ――そして……。

 男は、しばらく沈黙してたけど。


 なんか鎮痛な面持ちで、口を開いた。



「そんなん、奥さん……有り得ないです。

そんなデカい胸は、現実には無いんですよ。」


「は……?」



 何を言われたのかわからず、フリ―ズする。



「申し訳ないけども。

その、必死で主張されてる胸は、あり得ん大きさなんです。」


「――ちょ、ちょっと!

デカいって胸の話じゃ……。」



「奥さんの申告の大きさは、ヒトでは――」


「――あぁっ、もう!

ヒト用なんて、求めてないんだからー!!」



 叫んだものの、なんか一気に説得力が無くなってしまい……。



「……奥さん、無理はなさらず。」


「違うぅー!本当にただ、デカいの要らないだけなのにぃ……。」



 言い張れば言い張るほど泥沼。

 可哀想なものを見る目で見られてしまう。



「あたしは!何ひとつ!

嘘なんてついてないからー!!」



 叫んで、ガタガタと覗き窓を揺らす。

 でも、男は居座って、笑うだけ。



「ははは、誠に。ご冗談が上手ですな。

揶揄うのはやめてくださいよ。」



 全く信じてない声音。

 そして、玄関で耳をほじりだした。



「ピアスが地に垂れるほど長い耳、

腕輪のような巨大な指輪がつけられる指、

そして、ヒトとは思えぬ大きいバスト……。

真に受けたら、奥さんの容姿、そんなんになるじゃないですか。」



「……はぁ?なにそれ?なんの怪物――」


「嘘じゃないなら、姿を見せてください。

一個でもあっていたら、素直に帰りますよ。

ええ、詫びの品だってあげますとも。」



 そう言うが早いか、ベルをめちゃくちゃに鳴らし始めた。



「りんりんうるさいってばー!!」


「ほらほら、出てきてくださいよ。」



 完全に舐め腐った態度。

 玄関扉まで蹴りそうな雰囲気だった。



「あー、もう!ほんっとに!!」



 そういう気なら、こっちだって臨戦体勢。

 鍵を外し、ノブを握りながら……。


 魔力で、イメ―ジを紡いでいく。


 使うのは、光弾を生み出す術。

 勿論、威力を落とし数だけを増した脅し用。



LusterBolt(輝光弾)っ』



 玄関を、汚されるその前に――。

 生まれた光弾のひとつを、玄関扉に叩きつける。



 ズドォンッ……!



……大男が蹴り飛ばしたような音をさせちゃったけど。

 扉、壊れてないし。加減できてる…‥、はず。



「――どう!?これでいい!?」



 魔法弾を何個か、空中に浮かべたまま、

 男の前に、バーンと姿を晒した。



「よ、……妖精?」


「押し売り、なんてね!

あたしには、ぜ―んぶ巨大なお世話なんだからー!!」



 残った全ての、陽光の力を宿した弾は。

 あたしの意思に従って、綺麗な光の軌跡を残しながら、男の方にかっ飛んでいった。



◇◆◇◆



「……と言うことがあったんだけど。」



 帰ってきたレイジに今日の報告。


 帰宅直後の彼の一服を、邪魔しない程度に待ってから切り出した。


 男を追い払うのは、まぁ簡単だった。

 後の穴を戻す方が苦労したくらい。


 ……奥さんと呼ばせたことは、当然省略。



「……なるほど。そりゃ、災難だったね。」



 レイジは、空になった紅茶のカップを回しながら呟いた。



「そうなの。なんか化け物呼ばわりされるし、全然帰らないし……。」



 ぶつぶつ文句を言ってたら、ぽんぽんと頭を撫でられた。



「最近、妙な押し売りが徘徊してるって、注意をしとけばよかったね。

 まさか、こんな離れたところまで来るとは思ってなかったよ。」



 頭を撫でてくれてる指を掴んで、引き寄せる。

 彼の指は、いつも暖かい。



「スフレは、怖い思いをしたかい?」


「別に、まあ。

……ムシでも、魔物でもないし……。」



 イヤだし、厄介ではあったけど。

 あの程度の絡みなら、妖精の村でも似た経験がないわけでもなかった。



「怖かったら、逃げて隠れても良いんだよ。」


「……やだ。ああいうのに舐められるのはイヤ。」



 口を尖らせて、レイジの指をぎゅーっと抱きしめる。

 こっそり胸を当ててみてたら……。

 もう片方の手の指に背中をくすぐられて、剥がされた。



「スフレは勇敢だね。

 いつも……助けられてるよ。」



 背中をこしこしと、翅の間を指で擦られるのは、力が全部抜けるくらい気持ちいい。

 ふぁ、あ、って、吐息が溢れる。



「……本当に?」



 ふにゃふにゃになりながら、聞き返す。



「ああ……。」



 レイジは、ぽつりと。でもしっかりと呟いた。



「……だったらさ。なにかご褒美が欲しいな。」



 そう言って、顎に手を当てて。

 レイジの顔をじっと見つめる。


 瞳を逸らさず、出来るだけ、あたしの顔がしっかり見えるように。



「……スフレ。

 あの行商に、何かしてもらったのかい?」



 そうしたら。レイジが聞いてきた。



「……え?」


「なんか、今日は一段と、綺麗だから。」



「……ふ、……ふふっ……。」



 思わず、笑みが溢れる。



「全く。なーんにも、見えてないんだから。」



 呟いて。目を瞑りながら。肩と、顔を傾ける。

 背中を触る指は、まだそのまま。



「あれ?違ったかい?」


「教えてあげなーい。」



 ふっと、翅を動かして。

 彼の方を向きながら、離れる方に翔び立つ。



「あれ?スフレ、ご褒美は?」


「もう、いらなーい。

今はね。そういう気分なの。」



 ばいばいして、背中を向けて。

 窓から夜空に、跳ね上がるように翔ぶ。



 戯れあいの火照りが冷めるまで、夜のお散歩。


 明るい月に照らされて。

 あたしは、ほんのり口角を上げる。



 夜風は、とても気持ちよくて。

 そして、ここなら頭をぶつけることもなく。

 めいいっぱい、ふらふらと、翔ぶことが出来そうだった。

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