表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小さな妖精スフレ、魔法使いの家でやらかしてます 〜彼といっしょの、ちいさな毎日〜  作者: 久寿 たまや
2期目

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/12

09. 背伸びの靴に、ちょっと憧れたはなし

毎回一話完結の掌編シリーズ。妖精スフレと魔法使いレイジの、少し甘い日常のひとコマです。

※本話には別ルート(if展開)があります。後書きに収録しています。


※挿絵は、AIイラストです。(使用ツール:ChatGPT Image Generation)

挿絵(By みてみん)


(挿絵: ちょっと背伸びのスフレ(使用ツール:ChatGPT Image Generation))



◆◇◆◇



 レイジの靴が壊れた。

 ……しかも、すっごく間抜けな壊れ方で。


 ………やらかした、って思った?

 失礼な。あたしが壊したわけじゃないよ。



 なんと、いきなり底が剥がれたの。


 先端の底が外れて、パカパカになって。

 生き物みたいに大口を開けてる。



 おかしな格好に、とりあえず大笑いして。

 それから、修理に行くことになった。




 行き先は……、ヒトの村にある靴屋さん。

 だから、あたしも着いてくことにした。


 ……わざわざ、魔法で人化して。


 理由は、あるんだけど。レイジには秘密。



 パカパカの靴のレイジと、村まで歩いた。


 他の靴が無いのかは知らないけれど。

 彼は、壊れててもその靴がいいみたい。



 ヒトになったあたしは、妖精の時より遅い。

 でも、靴のせいで遅くなったレイジとだったら、ちょうどよかった。



 道中、手を引いたり引かれたり。

 転びそうになって支えられたりと、ふたりっきりのデ―トを楽しみながら、村までゆっくり歩いた。




 村に入ってからは……。

 以前と相変わらず、あたしはきょろきょろ。


 でも今日のは、目的のある方。

 気になるアレを探して横目で眺めたり、組み合わせの色とか服とかをみたり。

 靴屋さんにつくまでの道中も、ちょっとばかりそわそわしてた。



 ……だってさ。楽しみだったんだもん。



 靴屋についたのはさっき。

 お店の人とレイジは奥に行ったところ。


 ここに来て、もしも何もなかったら。

 一緒について行く気だったんだけど……。



 …‥見つけちゃった。



 気になるアレ。

 それは店先に並んだ靴の中にあった。



 木や革、蔓を編んだものなど。

 色んな素材の、大小様々なヒト用の靴。


 気になるのは……、釘付けになってるのは。

 その中の一つ。



 踵の高い靴。


 これはピンク色で白い花のデザインだった。


 この靴は、きっと流行りモノ。

 最近よくこの靴の女の子を見るし、ここに来るまでの間にも、幾人か履いてる娘を見た。



 寄って眺めて、あらためて手に取る。


 不思議な靴だった。

 つま先と踵部分しか覆いがないし、何よりすごく斜め。

 ……多分、動きにくいとは思うんだけど。



 履いてる子を見た印象で言えば……。

 可愛いと認めざるを得なかった。



 履いてみたい、ってあたしが思って。

 その為に。人化魔法まで使っちゃうくらい。



 靴になんて、興味を持ったのは初めて。


 あたしは、普段は裸足。

 別に妖精族としては普通だし。

 ヒトでも、子供としてみればごく自然。



 ……そんなあたしだったのに。



 だんだんレイジに。

 ヒトに染まってきてるのかな……。


 そんなことを思いながら。

 小さなその靴を持って店に入って。


 椅子に、トンと座る。



 持ってきた布で、足を拭いてから。

 片足を、斜めの靴の上に。


 踵の輪っかを潜らせて、斜めの底を滑れば。

 つま先は靴の先の、花飾りの中に。

 踵の方も不思議とすっと靴の中に入ってく。



 足が優しくピンクに彩られ、白い花が咲く。

 足の甲は丸見えだけど、肌の色が花と淡い色に馴染んで、まるで誂えたみたいにぴったり収まった。



 なんか、こう、……綺麗に飾られると。

 あたしの足じゃないみたい。



 そして、斜めだから。

 踵の筋がきゅっと縮まる。


 足の指を縮めたり伸ばしたりして、慣れない、包まれた感触を誤魔化せば。

 足裏を柔らかな布の感触が撫でていく。



 翅があったら、ぱたぱた落ち着かない動きをさせてたところ。

 今は無いけれど。代わりにどきどきと背中をくすぐる感覚を、背筋を伸ばして鎮めてく。



 ……続いて、もう片側にも取り掛かる。



 そうして両足を靴に収めて、立ち上がれば。



「うわっと、危ない……」



 ふらついて内股になる。


 斜めの、踵の高い靴は、つま先立ちをしてるみたいな感覚で。

 すこしだけ背丈が高くなったみたい。


 見上げなくてもレイジの顔が見えるかも、なんて考えながら。

 慎重に、近くの大きい鏡の前に歩いてく。



 …‥ちょっと可愛すぎる?どうかな……。



 足には、まるで咲いた花。

 踵から先が華やかで、無防備に晒された足の甲すら可愛さの一部になって。


 彩られ、包まれてるのを見ただけで。

 すっごく、そわそわくすぐったい。



 背筋と、足をのばして、まっすぐ立てば。

 ……なんか、ヒトのお姫様?



 あまりにも浮かれた発想に、口元を緩める。


 でも、近づけるのを期待して。

 膝より長めのスカ―トなんて履いてきてた。


 歩くのに邪魔なのにね。

 苦労の甲斐はあったかなと、ひらひら揺らす。



 そろりそろりと歩く姿を、鏡で確かめる。


 お姫様みたいに、堂々と……。

 腕を水平に広げてバランスをとりながら、足をまっすぐ上げ下ろし。


 ……どうかな?……鳥の動きすぎる……?



 しっかり足を上げないと、踵を擦っちゃう。

 カッコよく、可愛く歩けるように試行錯誤。



 何度目かの練習で、漸くしっかり歩けるようになったから。

 つま先立ちの靴で、鏡を見たまま、てくてくと店内を一周。



 …‥悪くない。


 靴の雰囲気を壊さず、可愛いの一部でいられることに、自然と口角が上がる。


 走ったり、回ったり、は無理があるけど。

 歩くだけなら大丈夫。



 誰も見てないのを確かめてから。

 鏡の、靴のあたしをちらりと眺めて。

 満足感に、たっぷりと浸った。



 さてと、じゃあ脱ぐ前に。

 鏡の前で微笑み、スカ―トを広げて、膝を曲げる挨拶をしてみる。



「……ふふ、じゃあまたね。お姫様。」



 ◆◇◆◇



「終わった―?」



 レイジが店の奥から出てきたのは、結構経ってからだった。

 近づく彼に、あたしも立ち上がる。



「ああ、この通り。」



 彼が足を上げて見せてくれた靴。

 その大口はすっかり閉じて、磨かれて、前より綺麗になっていた。



 そうやって、大事にされてるのを見ると、

 あたしの方まで、おかえり、と労って迎えるような気分になる。



 ……そして。

 いつもより少し近づいたレイジの顔。


 これは……、つま先立ち。



 まっすぐ前を向いても、顔が見える。

 それに、ふっと笑顔になって。



 2、3歩、つま先立ちのまま歩く。



 店の奥の鏡には、ピンと足先を伸ばす、素足のあたし。



「何をしてたんだ?」


「ひみつ。」



 そう答えたら、少し怪訝な顔をされた。

 不安なような心配のような、言いたげで何も言えない雰囲気。

 これは、日頃の行いのせいかも。



「……靴を見てただけだってば。」


「そうか。良いのはあったか?」



 レイジが、あたしの足を見た。


 思わず、片足を引いて重ねる。

 だって、踵と指には証のような赤み。


 距離があるから、見えてないはずなんだけど……。

 ヒリヒリとした擦れの痛みに耐えながら、踵を上げて痕跡を隠す。




 ちらりと、靴に目を走らせた。

 ピンクで白い花の、陽に輝くそれに。



 一瞬、迷って……。

 つま先立ちのまま、いったん目を閉じる。



 綺麗だし可愛いし。褒めてくれるかな。

 つま先で立てば……唇だって近くなる。


 小さな痛みなんて、気にならない。

 心は、すごくふわふわで、そわそわ。

 その感覚を胸に、めいいっぱい抱きしめて。


 ……だけど。



 ……翔び立つみたいに瞼をぱっと開いて。

 鏡と、レイジに見せつけるように。

 くるくると回って、スカ―トを膨らませた。


 広がったスカ―トが戻るのと合わせて、踵も下ろす。



「――ううん。いいよ。気を使わなくて。」



 靴に逸れてた彼の視線をあたしに戻して。


 短い距離をぱたぱたって走って詰める。

 だってね。それじゃだめ。


 あの靴じゃ、レイジの隣を歩けない。



 小走りになっても、転んでもいい。

 でも、待たれるなんて、置いてかれるなんて、そんなの絶対いやだもの。




「じゃあ行こー。レイジ!

 魔法が切れる前に、帰らなくちゃ。」



 一緒に歩けるのも、限られた時間。

 魔法の効果は、あと1時間くらい。



 だから、あたしは彼の手を引っ張る。

 たくさんのヒトが行き交う大きな通りへと。


 まるで舞踏会の会場みたいに輝くその場所へと、彼を誘って……。



 ……でも。彼が歩き出すのは待たずに、先に地を踏みしめて走り出す。



 視線の先に、彼の見ているその場所に。

 このままずっと、あたしが居られるようにするために。



 ……間際に、一度だけ視線を送る。

 そこにある、ピンクの靴に。リベンジを誓って。



 離れ過ぎないそのうちに、立ち止まって、くるっと振り返る。

 そして、背と足をすっと伸ばして、つま先立ちになって。


 あたしは追ってくる彼を見つめて、大きく手を振った。



◆◇◆◇



挿絵(By みてみん)


(挿絵: 背伸びで歩くスフレ(使用ツール:ChatGPT Image Generation))




※あのとき――もし、靴を選んでいたら。


◇◆◇◆◇◆◇◆



 こつこつと音を立てて、地面を踏みしめる。

 少し高くなった視界は、新鮮で。

 いつもの村の通りが、初めて来たみたいに珍しい。


 ……何でだろ。妖精の時に、もっと高くから見てるはずなのにね。



 少し先をいく、レイジの背を見つめる。

 出来るなら、追いつきたいところだけど。


 ぐっ、と足に力を入れると、バランスが怪しくなって……。



「……っ、ぅあっと……」



 手を広げて、倒れるのを防ぐ。


 呻いたのは、転びそうになったのと、もうひとつ。

 こちらも、お店を出てからずっとなんだけど。



 足の指と踵が、ちょっと痛い。

 初めての踵の高い靴、背伸びのそれは。

 ……まだ少し無理があるみたい。



 これ以上、擦れの赤みが進まないように。

 あたしにしては、本当に珍しく。

 歩幅も、速度も減らして、ゆっくりと歩く。



 コツコツと、踵が地面を打つ音。

 それも何だか楽しくて。

 ゆっくり歩くのも、そんなに悪くない。



 レイジが、振り返った。

 だから歩くのを止めて、足のヒリヒリを隠すように片足を後ろに隠す。


 まだか―?って言ってるその顔に向けて。


 背筋をなるべく伸ばして、しっかり可愛く微笑んでみる。



 ……それでも。

 振り返ったままで待ってくれてる彼だから。



 ― ―全くもって、仕方なく。

 コツコツ、と靴を鳴らし、彼に向けて進んでく。


 さっきよりも、ゆっくり慎重に。

 平気だよ、って見せるように、上がった口角の影に疼きを隠して歩いてたんだけど……。



「ぅあ、っとと……。」



 最後の数歩で、油断して石を踏んでしまい……。

 転びかけたのをレイジに抱きとめられた。



 彼は細身のように見えるのに、しっかり根の張った木みたいに。

 優しく、強く、あたしを支えてくれた。



 足を……長い踵を揃えて立ち直し、背伸びのまま寄り添えば。

 ――レイジの顔は、いつもより近くに。


 想像の通りなのに。目の当たりにすれば。

 ……予想外に、心が跳ねる。



 彼に縋ったまま、顔を伏せた。

 ぎゅっと力を入れて、足の指を握る。



 ……鎮めたいのは、じんじん疼く擦れの痛みじゃなくて、どきどきと喧しく鳴ってる胸のほうで。


 ――そうしていたら……。



「痛むか?」



 彼にかけられた、第一声はそれだった。

 安心のような気まずいような、安堵のような不満のような……。

 入り混じった感覚が、さわさわと胸を抜けていく。



 大丈夫だよ、って見栄を張ったら、それ以上は何も言わなかったけれど。



 離してくれた身体のかわりに、手が残された。


 ぎゅっと、しっかり握られた片手。

 それは、遅くて、不安定なあたしを支えてくれる、彼の手。



 リ―ドされてしまうのは、レイジの決めた速度と歩幅で歩くのは……。

 優しくされても、歩きやすくても、正直ちょっぴり悔しいところもあるんだけど。



 下を向いた視界に映る、買ってもらった靴と、そして長めのスカ―ト。



 ……仕方ないか。今日は、お姫様だし。


 スカ―トの端を軽く撫で、開き直って顔を上げて。



 レイジは……彼は背中だったけど。

 それでも、しっかりと笑顔を向けて、ついてく事にする。




 陽は頂点を過ぎた頃。

 舞踏会にお誂え向きな月や星……夜の帳さえも、ずっと先。


 だから、まだまだ上手に踊れないあたしは、素直に彼のエスコ―トに従って……。


 道に、踵でリズムを刻む。



 いつか、あたしの方から迎えにいくんだからって、誓いながら。



 ……そして、そのときにはね。

 まっすぐ前にある優しい手を、握り返す。



 手は、前じゃなくて……、

 ――ちゃんと、横に繋ぐんだからね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ