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リアル

「あれ?隊長さん所の方は?」

「ん?ああ、なんか泣き出したから置いてきた」

「泣かしたの?」

「うっせ。それよかメシ」

「本当図太いわねぇ…その子、お腹すかせてなければ良いけど」

「明日の朝たんまり食わせりゃ良いだろ。クロア、今日は大盛で」

「太るわよ」

「味見し損なったから良いんだよ」







「目背けるなよ。お前がこれから嫌ってほど見る光景だ」






「…」

いつの間に寝てしまっていたんだろう。

部屋にあった鏡を見る。目の回りが真っ赤に腫れ上がっていた。

「夢じゃない…か…はは」

最高の皮肉であった。

夢に見た場所が地獄だったなんて誰が思い付くだろうか。


不意に部屋のドアがノックされる。

「カルムだ。開けるぞ」

カルムが部屋のドアを開け、僕の顔をまじまじと見つめる。

「お前…いや、いい。顔洗って着替えとけ」

「洗面所は?」

「そこの部屋。着替えはそっちの押し入れの中。便所はそっち」

僕は指示された部屋へと向かった。


指示された場所は至って普通のバスルームだった。幾つか小さな点を除いてだが。

「…カルム?」

「隊長な。どうした」

「どうやってこれ…」

取っての代わりにそこには小さく魔法陣が描かれていた。

「ああ、指で触ってみろ」

恐る恐る触ると水が涌き出てきた。

「温水は手のひら当てて右に回せ。回しすぎると火傷するから気を付けろよ」

加減があまり分からないので少しずつ手のひらを捻っていく。水は一瞬で温水に変わった。

「止める時はもう一回指で触れ。風呂もそんな感じで勝手に溜めろよ。洗濯物はメイドに渡せ」

「なんだか本当にホテルみたいだな…」

僕は素直に感心していた。

「これから朝飯なんだけどよ、食えるか?」

そう言えば昨日は余りにも色々有りすぎて何も食べる気力が湧かなかったが、お腹は正直に空腹を訴えていた。

「はい!!」

僕は威勢よく答えた。




「食堂までの道はしっかり覚えとけよ?ただでさえ広いからな」

僕達以外の住人と何度かすれ違いつつ、長い廊下を歩く。

「ま、謁見の間と兵舎の場所と食堂だけ覚えときゃ何とかなる。ここを左な」

何度目かの分かれ道を左へ曲がった。

「カルム隊長」

「おっ、良いねぇ。分かってるじゃない」

僕はカルムにふと気付いた疑問を投げかける。

「皆一緒に食べる訳ではないの?」

カルムはそれを聞くと、声のトーンを落とし話す。

「…名前を聞かなかった理由、どうしてだか分かるか?」

「えっ?」

「これだけは言っておく。あまり肩入れするな」

「…」

それを聞き、僕は察した。

「続きは訓練中にでも話してやる。その前にメシだ」

そしてまた、カルムは普段通りの話し方に戻った。






「おーい、二人分な」

「はーい!!」

配膳中のメイドにカルムは声をかけた。

食堂に着いた僕達は近くの席に座る。満席とまではいかないが、半分以上の席は埋まっていた。僕は働くメイド達に目を奪われていた。

「どうした?」

カルムは聞いたが、その視線に気づいた様子で軽く笑う。

「美人ばっかりだろ」

「なっ!!」

僕はあわてふためく。

「まぁまぁ、男ならいい女に目がいくのは性だ。気にすんな」

「ぐ…」

「はいお待たせ」

そんな会話をしていると目の前のテーブルに朝食がつきだされた。

「おいクロア。厨房は良いのか?」

「隊長さんとこの教え子見たくてね。色々大変そうだし」

顔を見上げる。そこには茶髪で澄んだ瞳、整った顔立ち、頭についたケモミミ…

「ケモミミ!?」

「君?カルムが担当してる子って。私はクロア、よろしくね」

クロアと呼ばれた美女が僕に名を告げる。

「なんだお前、獣人見るのは初めてか?」

「クォーターよ」

「あの…えっと…その…」

美しさと驚きと諸々に僕は声が出せなかった。

「ほらほら、冷めない内に食べて」

「あ、は、はい…いただきます…」

僕はシチューを口に運ぶ。

「…美味しい」

「良かった、口に合ったみたいで」

クロアは微笑んだ。僕は久々に頬が染みる症状が出てしまった。

「パンも絶品だぞ。ほら食っとけ食っとけ」

カルムは僕にバケットに入ったパンを勧めた。

パンはまだ温かく、とても良い香りだった。

一口食べると今までに無い程ふっくらして、香り立ち、正に完璧なパンだった。

今まで食べてきた防腐剤や化学調味料の山の様なパンは何だったのだろうか。そもそもあれはパンと呼べるのだろうか。そんな疑問すら浮かぶ。

「こんな美味しいパン…初めて食べました…」

「本当?冥利に尽きるわ」

クロアは耳をピコピコと動かす。

「おい毛が落ちるだろ」

「落ちませんー」

カルムとクロアが言い争いを始めるが、僕の手は二つ目のパンに延びていた。




求めていた異世界がここには確かにあった。

今だけは忘れよう、そう心に思った刹那。




「はっ…はぁ!?いや大臣今は…せめて30分遅らせて貰っても…はい」

カルムがすっとんきょうな声を指輪にあげる。どうやら大臣からの連絡らしい。

「どうしたの?」

「クロア、すまん。メイド達に袋用意してくれるよう言ってくれ。水が溢れない様なやつ」

「隊長?何に使うんですか?」

袋なんていったい何に使うんだろうか。

「良いから持っとけ。役に立つ」

そう言うとカルムは溜め息を吐き、指輪に声をかける。

「歩兵隊兵士各位。教育生を連れて裏門に集合」

「おい隊長そりゃねーよ!!」

後ろから声がする。そこにはソラもいた。僕に気付いた様で手を振る。

「メシ時になんでだよー!!」

「うるせえ!!大臣命令だ!!」

回りから反論の声が上がる。そして皆が渋々席を立ち移動を始めた。

メイド達は袋を配って回っていた。

「はい」

「あ、どうも」

僕も袋を受け取る。紙袋のようだが、しっかりした強度があった。畳んでポケットにしまう。







「何が始まるんだろうな」

ソラが移動しながら話す。

「うん…ねぇソラ」

「ん?」

「眠れた?」

僕はソラに聞いた。

「…正直全然」

「だよね…」

「…今でも夢だったら良いなって思ってるよ。俺が理想としてた世界ってさ…こんな…殺し…いやでも!!」

ソラは何か思い出した様に声を上げる。

「メシがスゲー美味かった!!初めてあんな美味いの食べたよ!!」

「だよね!!本当びっくりしたよ!!」

ソラは無理をして誤魔化していた様に見えた。僕もまた、逃げるように合わせる。

「びっくりしてる所悪いんだが、置いてくぞ」

カルムにそう呼ばれる。前を歩く二人と少し間が開いていた。

「呑気で良いねぇ本当…ソラ、覚悟しとけよ」

「アルスさん、何がです?」

アルス、ソラの担当の人の名前だろうか。

「裏門に呼ばれるって事は…」

「やめとけ馬鹿」

カルムがその発言を認めなかった。アルスは残念そうに

「見た方が早いね」

そう答えた。





何度か曲がった道の先の扉を開けると、太陽の光が射し込んだ。

「…遅刻確定」

「何が?」

僕の呟きにソラが反応した。

「いや、何でもないよ…それより自己紹介がまだだったね」

「あーいや…何て言うか…聞かないでおくよ…」

ソラもまた、何かを察していたかの様だった。

「アルスさんに言われたんだ…その…辛くなるって」

「そっか…そうだよね、ごめん」

「いや謝る事無いよ!!俺もこうなるなんて思わなかったし…」

誰しもこんな事になるとは思わなかっただろう。例え異世界だとしても皆、夢を見ていたんだ。

ふと、視線の先でカルムとアルスが階段を降りていくのを見る。

「やっべ、置いてかれる。行こう!!」

「ああ!!」

僕達は急いで後を追う。






門の前には既に人だかりが出来ていた。

「隊長…嫌がらせですか?」

若い男がカルムに声をかける。

「俺んとこは寝起きだぞ…」

「メシ食う直前」

「あーもう、うっせえな…俺だってメシの最中だぞ?」

続々とカルムに文句を言う男達がいた。恐らく教育担当達だろう。

その脇には、謁見の間で見た男達が話し合っていた。

「整列!!」

カルムが声を上げる。男達は話し合っていた異世界の住人を呼び並び始める。

「号令!!」

「1!!」

「2!!」

「3!!」

兵士達は数を答え、26の時点でそれは止まった。

「後3組か…集合まで待機!!」


数分後、残る3組が到着した。

「すいません隊長…ちょっとゴネて」

若い男が引き摺られるかの様に合流する。

「まぁ無理も無いだろ…これから処刑場へ移動する」

その発言の瞬間、場の空気がざわついた。

「諸君らは存じていると思うが、先日謁見の間で狼藉を働いた者が居た。王命の元に、今より処刑を執り行う。我々はその処刑を見届ける様にとの事だ」

「何でそんなの見せ付ける必要あんだよ…」

誰かがポツリと呟く。

「これから先、お前達はもっと酷いものを見る事になるからな」

カルムは諭すように答えた。




裏門からしばらく歩いた先、柵に囲まれた広間があった。

その柵を更に囲う様に、様々な模様の腕輪を付けた多くの人が不安そうな顔をしていた。

その横には教育担当だろうか。不機嫌そうに柵の中を眺める。

「目背けるなよ。お前がこれから嫌ってほど見る光景だ」

カルムは僕に諭した後、指輪に何かを話し出した。


しばらくすると、中央に二人の男が転移された。

「…っ!?」

一人の男は青竜刀の様な大きな剣を持ち、もう一人の男は

「おいおい…」

「あれ生きてるのかよ…」

指は全て潰され、体の至るところの皮は剥がされ、所々焦げていた。脚の筋も一文字に切られている。顔は麻袋で見えなくなっていたが、耳と思われる場所から血が滲んでいた。

「この者はアルヴィス王城において狼藉を働いた!!ここに王命の元に斬首刑を執り行う!!」

剣を持った男が吼える。執行人が男の脚の裏を蹴り飛ばし、無理矢理正座させる。首に剣を添えると、麻袋の男は体をくねらせた。


ほんの一瞬だった。麻袋は地面を転がり、血痕がそれに続く。

あるべき物を無くした胴体は一瞬跳ねた後、血を吹き出し力なく前のめりに倒れた。


「うっ…」

ポケットに入れていた物を僕は取り出した。

カルムは分かっていたかの様に僕の背中を擦る。


今まで血が出るテレビゲームなら何度もやってきた。

人が死ぬドラマや映画も何度も見たことがある。

実際の人間が殺される瞬間とはゲームやドラマとは全く違うおぞましさがあった。リアリティーだのの謳い文句なんて、真っ赤な嘘。

真のリアルを見た瞬間、楽園に居た証拠は、地獄の光景へ戻ることになった。


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