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TS星の魔法少女  作者: ゆん
第一章 星の魔法少女になった日
7/24

第三話 星の魔法少女スキルを使ってみました。星魔法ではありません

訓練場の空気が、がらりと変わった。


「なんだよアイツ……」

「なんだ如月のやつ、美少女と知り合いかよ」

「くそっ、うらやましい」


周囲の男たちがヒソヒソと話している。どうやら葵と健太のほのぼのとしたやり取りを見てトラブルはなさそうだと安心したらしい。だが同時に超絶美少女と仲良さそうな健太への嫉妬も渦巻いている。


(まあいいや。邪魔されないならそれで)


葵は小さく息を吐くと、改めて訓練場の中央に立った。


「で、どんなスキルなんだよ。魔法少女って」

「……使ってみる」

「おう」


葵はゆっくりと目を閉じた。


(星の力……)


意識を自分の内側に向ける。するとそこにはまるで宇宙空間のような無限の広がりがあった。無数の星々が瞬き、彗星が尾を引き惑星がゆっくりと回っている。


(これが、私のスキル……)


その中から、なんとか実用的に使えそうなものを探す。


(星魔法といえばメテオストライク…中級か。由緒正しき隕石召喚だけど。ダメだこれ、本物だ。地球が氷河期になる。)

(プロミネンスバスター…初級星魔法。…直径15万kmを5000℃の炎で焼却。無理だ、地球ごと燃える。)

(ニュークリアカノン…見習い級星魔法。…ダメだ。全然ダメだ。核兵器じゃんかこれ。)


葵の額に冷や汗が浮かぶ。中級。初級。そして手習いのはずの見習い級。

星にとってはただ友達を家に呼んだり、プロミネンスだってクシャミする程度のものなんだろう。

見習い級の核撃魔法なんて、星にとってはただ心臓を動かしてるようなものだ。

なるほど、星になったなら誰でも当たり前にできることである。


(どれもこれも規模がおかしい……)


「おい葵、大丈夫か?」

「……ん。ちょっと規模が大きすぎて選べない」

「規模?」

「気にしないで。もうちょっと待って」

「お、おう。」


葵は再び意識を集中させる。


(もっと小規模で使えるもの……消費MPで調整できるもの……)


そこで、ふたつの力に気づいた。


(重力と斥力……)


これなら消費MPによって自由に強度を変えられる。まだ現実的に使えるレベルだ。


「健太」

「おう」

「手伝って」

「了解」


*  *  *


「とりあえず防御力から試す」


葵は両手を前に出した。


(斥力……)


イメージするのは自分の周囲に見えない壁を作ること。すべてを弾き返す、絶対の拒絶。


「……ッ!」


瞬間、葵を中心に透明なドームが展開された。


「おおっ! なんだこれ。魔法なのに詠唱もいらないのか?まさか無詠唱スキルなんてないだろ?」


健太が目を丸くする。


「斥力の壁。星にとっては自転するだけで勝手に生成されるもの。無詠唱スキルはもちろんない。けど、これは星魔法のなり損ないだから、詠唱もいらない」

「なんじゃそら……どれくらい硬いんだ?」

「わからない。だから試す」

「なるほどな。じゃあ遠慮なく行くぜ!」


健太は拳を握りしめ、身体強化のスキルを発動させた。


「見習い級ね。ならまずは10%……!」


ドゴッ!


健太の拳が斥力の壁に叩きつけられる。


(……びくともしない)


葵は自分でも驚いていた。Lv21の健太の身体強化10%の一撃を完全に防いでいるのに、壁には傷ひとつついていない。


「おいおい、まじかよ。この手ごたえじゃ、中途半端は意味ねーな。次、50%!」


ドゴゴッ!


先ほどより、ずっと強力な一撃。しかし結果は同じだった。


「……まだ余裕」

「くっそ! なら100%だ!」


健太は全身に力を込めた。筋肉が隆起し、血管が浮き上がる。身体強化を全開にしたLv21の全力の一撃。


ドゴゴゴッ!!!


衝撃音が訓練場に響き渡る。周囲で見ていた男たちも、思わず息を呑んだ。


「……なっ」


健太の声が震えている。


「まじかよ……びくともしてねえ……」


斥力の壁は、健太の全力の一撃を受けてもまったく動じなかった。まるで最初から何もなかったかのように静かにそこに存在している。

Lv21とはEランクの中堅。一般人とプロの探索者、その境界に位置するような実力である。


(これならひとまず防御力は十分だな)


葵は小さくうなずいた。


「消費MPも許容範囲。強度も自由に変えられる」

「つかこれ、俺が本気で殴っても無傷とか……はぁ。どんなスキルだよ…」

「魔法少女」

「いやそれはわかってるけど!」


健太が頭を抱える。その様子を葵はキョトンと見つめた。


(次は重力……)


「今度はこっち」


葵は斥力を解除し、今度は重力をイメージした。


(重くなれ……)


「うおっ!?」


健太の身体が突然、地面に押しつけられる。


「なんだこれ……重い……!」

「重力。消費MPで強度を変えられる」

「それも無詠唱かよ。なんでだよ。……まぁこれも便利そうだな。敵の動きを止めたり速度を落としたりできるわけだ」

「ん。多分もっと細かい使い方もあると思うけど」

「まあそれは実戦で覚えていくしかないな」


葵は重力を解除した。


「ふう……。全然意味わからんがすげえな、お前」

「……ん」

「どうした? なんか浮かない顔だな」

「戦える。それはわかった。でも……」


葵は自分の小さな手を見つめた。


「火力がない」

「ああ……なるほどな」


健太は腕を組み、うんうんとうなずいた。


「うーん、俺のスキルもどちらかといえばタンク寄りだしな。防御と制御はできても、決定打に欠けるってことか」

「ん。星魔法は全部規模が大きすぎる。」

「さっきも言ってたな?でかいのならいいんじゃねーの?まぁ消費MPも大きいだろうから、継戦能力が不安か。」

「そういう規模じゃない。地球上で使ったら地球が地獄に変わる」

「なんだそれ、意味がわからん。」

「同意。」


(まじで意味がわからないから。健太も思い知れ。)


「例えば星魔法の見習い級。これ以下は魔法のなり損ない。星魔法と呼べるのはここから」

「おう」

「名前はニュークリアカノン。デフォルト威力は50メガトン。その閃光は1000km先まで届き、衝撃波が地球を3周しちゃう規模。」

「何言ってんだお前。意味わからんぞ」

「同意。」


(でも星にとって・・・小さい惑星である地球規模でも、リンゴに例えるなら薄皮すら剥けない程度の魔法なんだよな。)


なんだそれ、と健太は苦笑いを浮かべた。


「と、とにかく。お前のスキルは間違いなく強力だ。無詠唱で結界が張れて、敵の動きを阻害することもできるんだぜ?自信持てよ。防御力も制御力も俺が保証するさ。」


健太はニカッと笑って親指を立てた。


(……そうかな)


葵は小さく息を吐いた。


「立派な探索者に、なれる?」

「余裕だろ。つか、逆になれなかったら誰がなれるんだよ」

「……ん」


葵はこくりとうなずいた。


(よかった…。これで探索者になれる)


胸の奥がじんわりと温かくなる。これで高校から探索者として活動できる。父の後を継げる。そのことがなにより嬉しかった。


「お、今度はちゃんと笑ったな」

「笑ってない」

「笑った笑った。お前、さっきも言ったけどそれ、あまり男に見せるなよ?」

「?」

「破壊力がすごいからだよ。周りのやつらみんな見とれてるだろ。」


健太が顎で示す方向を見ると、訓練場の男たちが一斉に視線をそらした。


「……?」

「わかっただろ。お前は自覚なさすぎなんだよ」

「……意味がわからない。」

「……高校が始まったら苦労しそうだなぁ。」


健太が苦笑した。


(……よくわからないけど、まあいいか)


葵は小さく首をかしげた。


「さてと、俺はそろそろ行くわ。入学式で会おうぜ」

「ん。また。」

「おう。あ、あとその服なかなか似合ってるぜ」

「……うるさいだまれ。」


葵が重力で軽く押すと、健太は「うおっ!?」と声を上げてよろけた。


「おいおい、危ないだろ!」

「…むぅ。」

「へいへい、すみませんでしたっと!」


健太はひらひらと手を振りながら訓練場を去っていった。


(ふう……)


葵はもう一度、自分の手を見つめる。


(戦える。まだ火力は足りないけど、工夫次第でなんとかなる)


その時、ステータスカードが淡く光った。


**スキル取得:空間魔法Lv1**


「……え?」


葵は目を瞬かせた。


(さっきまでなかったはず……)


もしかして、重力や斥力を使ったことで解放されたのだろうか。

重力は空間を歪ませると聞くけど、そんな規模で発動した記憶はないが…


「空間魔法……」


転移や収納が使えるようになる汎用性の高い魔法だ。

そのスキルオーブは例えLv1であっても極めて高値で取引される、国家戦略級の超高級品である。

そんなスキルが、スキルオーブを使わずに取得できるなんて。


(これもユニークスキルの効果……?)


葵は首をかしげた。


(まあ、わからないことは多いけど……)


でも、ひとつだけ確かなことがある。


(私は、探索者になれる)


その事実が、葵の胸を熱くさせた。

夜空を見上げる。星々が瞬くその光は、まるで彼女の未来を祝福しているかのようだった。

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