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TS星の魔法少女  作者: ゆん
第一章 星の魔法少女になった日
29/33

第二十五話 信頼も信用もできる仲間と共に。

待ち合わせは日曜日の午前十時、横浜駅の東口改札前だった。


「葵ちゃーん!こっちこっち!」


真由は遠くから大きく手を振っていた。今日は私服である。白のシャツにデニムのジャケット、そしてスカート。いつもの剣道着とはまるで違う姿に、葵は一瞬だけ目を丸くした。


(真由、私服だとこういう感じなのか。新鮮だ)


「おはよう」

「おはよー!あ、葵ちゃん今日もかわいい!そのワンピース優羽さんと買ったやつ?」

「そう」

「やっぱり似合ってる!水色、葵ちゃんの銀髪にすっごく映えてるよ!」


真由は興奮した様子で葵の周りをぐるぐると回る。まるで元気な子犬のようだった。


「真由もかわいい」

「えっ、ほんと!?やったー!今日のためにけっこう頑張ったんだよね。この服、昨日買ったばっかりなんだ!」

「似合ってる」

「葵ちゃんにそう言ってもらえると嬉しいなぁ」


真由はにこにこと笑いながら、自然な動作で葵の手を握った。


「はい、じゃあ行こっか!」

「ん。どこ?」

「ふふふ、着いてからのお楽しみ!」


(真由も優羽姉と同じこと言うな。デートの主導権は女の子が握るものなんだろうか)


葵は内心でそんなことを考えつつ、真由に引かれるまま改札を抜けていった。


*  *  *


最初に向かったのは、駅から徒歩十分ほどの場所にある大きな公園だった。


「じゃーん!今日はここからスタート!」

「公園?」

「そ。ここね、実はすごく広くて噴水とか日本庭園とかもあるんだよ。知ってた?」

「知らなかった」

「でしょう!私もこの前偶然見つけてね。それで葵ちゃんと来たいなって思ってたの」


真由はそう言って少し照れたように笑った。葵は金色の瞳をぱちくりとさせて、周囲を見渡す。


(横浜にこんな場所があったなんて。探索者ばかりやってると、知らない街の顔がまだまだある)


公園の中は、日曜日ということもあって家族連れやカップルで賑わっていた。真由は葵の手を引きながら、ぐんぐんと奥へ進んでいく。


「ほら、あそこ見て!噴水!」

「ん。きれい」

「でしょ!しかもね、時間によって高さが変わるんだって。ちょうど今、ショータイムだよ」


中央広場の噴水が、音楽に合わせて高く低く水を吹き上げる。水しぶきが陽の光を受けて、小さな虹を作り出していた。


「わぁ……」

「葵ちゃん、今ちょっと口開いてた」

「む」


葵は慌てて口を閉じる。真由はくすくすと笑った。


「葵ちゃんって、きれいなもの見ると口開くんだね。優羽さんも同じこと言ってた」

「……むぅ。でも、優羽姉も開く。」

「あはっ、そうなんだ!姉妹だねぇ」


真由はそう言って、葵の手をぎゅっと握り直した。


(真由の手、あったかい。優羽姉の手とはまた違う優しいあったかさだ)


*  *  *


公園を一通り散策した後、二人は近くのカフェに入った。


「葵ちゃん、何飲む?」

「真由と同じ」

「じゃあ、いちごミルクで!」

「ん。」


真由はトレイにいちごミルクを二つ乗せて窓際の席に座った。葵は向かいにちょこんと座り、ストローに口をつける。


「……甘い」

「おいしい?」

「ん。」

「よかった!私ね、ここのいちごミルクが一番好きなの。葵ちゃんにも飲ませたかったんだ」

「私も好き。」

「ふふっ、お揃いだね!」


葵は短く答えて、またストローを吸う。真由はそんな葵をじっと見つめていた。


「葵ちゃんってさ」

「ん?」

「いつも短い言葉だけど、ちゃんと伝わるんだよね。不思議だなぁって」

「そう?」

「うん。だから葵ちゃんと話してると、すごく落ち着くの。なんていうか……安心する」


真由は少し照れながら言った。葵は首をかしげる。


「本心。」

「そうだよね。それがいいんだよ。ありがとね、葵ちゃん。」

「……ん。」


葵はよくわからないといった顔で、いちごミルクを飲み干した。


(真由はよくわからないことを言う。でも、悪い気はしない)


*  *  *


カフェを出た後、真由が連れて行ったのはゲームセンターだった。


「じゃじゃーん!ここで葵ちゃんと勝負したい!」

「勝負?」

「そ。葵ちゃん、こういうゲームやったことある?」


真由が指差したのは、対戦型のリズムゲームだった。


「ない」

「だと思った!私ね、これけっこう得意なんだ。だから葵ちゃんと勝負したくて」

「わかった。勝負」


二人は並んで筐体の前に立った。画面に音楽に合わせて流れてくるノーツをタイミングよく叩くゲームである。


「葵ちゃん、まずは練習モードでやってみよっか」

「ん」


最初は簡単な曲で練習した。葵は真剣な表情で画面を見つめ、流れてくるノーツを正確に叩いていく。


「うわ、葵ちゃん上手い!」

「ん。動体視力と反射神経には自信がある。」

「むむっ。これは強敵!よーし、じゃあはじめるよっ!」


本番の曲は、テンポが速くてノーツの数も多かった。真由はノリノリで叩いていくが、葵は相変わらずの無表情で淡々と正確に叩いていく。

結果は――葵の圧勝だった。


「うそー!負けたー!」

「ん。真由も上手かった」

「慰めなくていいよぉ……」


真由はがっくりと肩を落とすが、すぐに顔を上げて笑った。


「でも楽しかった!葵ちゃんの新しい一面見れたし!」

「新しい一面?」

「うん。葵ちゃんって、ゲームでも真剣なんだね。普段と変わらないけど」

「ん。真剣にやるから楽しい。」

「そうだよね。だから葵ちゃんは強いんだ」


真由はそう言って、葵の頭をぽんぽんと撫でた。


「次は負けないからね!」

「ん。楽しみにしてる」


*  *  *


ゲームセンターを出た後、二人は海の見える公園へと向かった。


「ここ、夕方になるとすごくきれいなんだよ」


真由がベンチに座りながら言った。葵も隣に座る。


「夕焼けも良い。」

「葵ちゃん、海好き?」

「嫌いじゃない。広いから」

「はは、葵ちゃんらしい理由だね」


真由は笑って、海を眺めた。夕日がゆっくりと沈んでいく。空が赤やオレンジに染まっていく。


「葵ちゃん」

「ん?」

「今日、楽しかった?」

「すごく。真由は?」

「最高だった!」

「ん。」


真由は嬉しそうに笑って、それから葵のほっぺたをつんつんとつついた。


「やっぱり葵ちゃんのほっぺ、すべすべだね」

「……むぅ」

「ふふ、やわらかい」

「普通。」

「普通ではないかなぁ!だって私が大好きなんだもん。」


真由はそう言って、今度は両手で葵のほっぺたを包み込んだ。


「んぅ……」

「あ、ごめんごめん。つい」

「……だいじょうぶ」


葵はされるがままになっている。真由はそんな葵を見て、また笑った。


「葵ちゃん、本当に可愛いね」

「真由も可愛い」

「えっ、ほんと!?」

「ん。でも私のほうが可愛い」

「……葵ちゃん、それ自分で言っちゃうんだ」


真由は呆れたように笑ったが、その顔はとても嬉しそうだった。


*  *  *


日が完全に沈み、辺りが暗くなり始めた頃。二人は駅へと戻る道を歩いていた。


「今日は本当にありがとう。葵ちゃんとデートできて、すごく楽しかった」

「私も。真由とデートできてよかった」

「また行こうね。今度はどこがいいかな」

「今度は私がエスコートする」

「ほんとっ!?」

「男のたしなみ。」

「あはっ!じゃあ頼りにしちゃおっかな。楽しみ。葵ちゃんとならどこでもきっと楽しいよ!」


真由は満面の笑みで、葵の手をぎゅっと握った。


「葵ちゃん」

「ん?」

「私、葵ちゃんと友達になれて本当によかった。葵ちゃんは私の大切な友達だよ」

「……ん。真由は大切な友達」

「えへへ。じゃあ、また明日ね」

「ん。」


改札を抜け、それぞれの帰路につく。葵は電車の中で今日一日を振り返っていた。


(真由はすごい。どんな場所でも楽しくできる。彼女と一緒にいると、俺も楽しくなる)


スマホを取り出し、優羽にメッセージを送る。


【ただいま帰る。真由とのデート、すごく楽しかった】


すぐに返信が来た。


【優羽姉:おかえり!楽しかったんだ!よかったね!お姉ちゃんも嬉しい!また詳しく聞かせて!】


(優羽姉も真由も、俺の周りにはいい人が多い)


葵は小さく微笑んで窓の外の夜景を眺めた。今日という一日が、静かに終わろうとしていた。


*  *  *


一方その頃、健太と志乃舞もまた別の場所でデートをしていた。


「た、健太さん……あの、私、こんなところに来てよかったんでしょうか……」

「おう、いいんだよ。たまには息抜きも必要だろ?」


健太が連れてきたのは横浜の夜景が見える展望台だった。志乃舞はキョロキョロと周囲を見回しながら、健太の後ろをついていく。


「でも、私、こういうところ慣れてなくて……」

「大丈夫だって。俺がいるから」


健太はそう言って、志乃舞の手を取った。志乃舞の顔が一瞬で真っ赤になる。


「ひぅっ!?」

「お、どうした?」

「な、なんでもないです!なんでもないです!」


志乃舞は慌てて手を引こうとするが、健太は離さない。


「なんだよ、せっかくのデートなんだから手くらい繋ごうぜ」

「で、デート……!?」

「そうだよ。今日は志乃舞とのデート。俺がエスコートするって決めたんだ」


健太はさらりと言ってのける。志乃舞はもう頭がパンクしそうだった。


(け、健太さんとデート……!?私が!?どうして!?でも嬉しい!嬉しいけど!心臓がもたない!)


展望台に着くと、目の前に広がる夜景に志乃舞は息を呑んだ。


「わぁ……」

「きれいだろ?」

「はい……!すごい……!」


志乃舞は夢中で夜景を見つめる。そんな彼女を健太は微笑ましそうに見ていた。


「志乃舞」

「は、はいっ!」

「今日、楽しいか?」

「はい!すごく!」

「そっか。よかった」


健太はそう言って、志乃舞の頭にぽんと手を置いた。志乃舞はびくっと身体を震わせる。


「あ、あの、健太さん……」

「ん?」

「なんで、私なんかをデートに……」

「なんでって。志乃舞とデートしたかったからだよ」

「そ、それは……どうして……」

「そりゃ、好きだからに決まってるだろ」

「っ!!」


志乃舞は完全にフリーズした。目をぐるぐると回し、口をぱくぱくさせている。


「す、す、好き……!?」

「おう。志乃舞のこと、可愛いし、頑張り屋だし一緒にいて楽しいし」

「わ、私……そんな……」

「これからもっと一緒にいたいと思ってる。だから今日はデートに誘ったんだ」


健太は真剣な表情で志乃舞を見つめる。志乃舞はもう限界だった。


(健太さんが私を、好き……!?デートに誘ったのは、そういうこと……!?嬉しい!嬉しすぎる!でも!でも!)


「あ、あの、私……私も……」

「ん?」

「私も、健太さんのこと……」


そこまで言って、志乃舞の思考は完全に停止した。


「~~~~っ!!」


プシューッ。志乃舞は煙を吹くようにして、その場に倒れ込んだ。


「おいっ、志乃舞!?」


健太が慌てて支える。志乃舞は気絶してしまったようだった。


(まだ早かったか……まぁ、これくらいの距離感がちょうどいいのかもな)


健太は苦笑しながら、志乃舞を抱きかかえた。


「今日はここまでにしとくか。また今度、ゆっくり話そうな」


気絶したままの志乃舞の頭を、健太はそっと撫でた。


(ゆっくりでいい。俺は急いでないからな)


夜風が二人の髪を優しく揺らしていた。横浜の夜景は、今日も美しく輝いていた。

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