エピローグ ~星の魔法少女になってから~
日曜日の深夜二時。
葵は再び、あの丘の上に立っていた。
見上げれば、あの夜と同じ星空が広がっている。横浜の街灯りが届かないこの場所は、まるで星だけのための舞台だ。銀色の髪が夜風に静かに揺れる。
「あの日から、変わった」
十五歳の誕生日。流れ星が直撃したあの瞬間から、葵の人生は大きく変わった。
「星の力。使いこなせないけど」
彗星も、惑星も、恒星も。あらゆる星の力を操るユニークスキル――魔法少女(星)。その規模はあまりに大きく、消費MPも莫大で実用的ではない。だが重力と斥力だけは別だった。燃費がよく、強力で使いやすい。
「それだけで十分」
美少女になったことも今では良いと思っている。元から女顔で華奢で小柄な男だった。女の子になったことで、すっぱりと諦めもつき前を向けた気がする。
「優羽姉に、甘えられる」
昔は、自分より男らしい姉に反抗心があった。手をつなぐのも少し恥ずかしかった。でも今は違う。優羽の大きな手は、何よりも頼もしい。素直に甘えられる自分がいる。
「母さんにも、孝行しやすい」
女同士になり家族仲も以前より良くなった。父が死んで三人になってから、ずっとどこかで張り詰めていたものが少しずつほどけていく。
「真由。志乃舞。健太」
真由とは親友になった。志乃舞という可愛い友人もできた。健太は相変わらずのモテモテ野郎だが、それでも信頼できる幼馴染だ。
「みんな、信じられる」
信頼も信用もできる仲間に恵まれ探索者としても順調だ。Dランク中堅。レベルは42。存在力は57100。スキルは空間魔法Lv3。この数字が、今の自分のすべてだ。
Eランクで四苦八苦していた日々。真由の剣術がLv2に上がった日。志乃舞が初めてバックスタブを決めた日。健太が大型の突進を盾で受け止めきった日。
「全部、宝物。だから」
葵はそっと目を閉じた。そして、星に感謝を捧げる。
「ありがとう」
星が葵に何を視て、何を望んだのかはわからない。けれどたまに感じる祝福は、純粋に葵の幸せを願ってくれているように感じた。
「家族を、守ろう」
「仲間を、守ろう」
「そして余裕があれば、星を守ろう」
きっとそれができる力だから。星が、いつもより大きな祝福をくれた気がした。
* * *
ふいにふと、空の一部が歪んだ。星の光が一瞬だけ揺らめいた。星の意志を感じる気がする、けど
「……?」
葵は目を細める。しかし、それはすぐに消えた。ただの気のせいだったのかもしれない。
「気のせい」
首を振り、葵は丘を降り始めた。明日からまた日常が始まる。学校に行き、ダンジョンに潛り笑い合う日々。でも、その日常の裏側で何かが動き始めている――そんな予感が、確かにあった。
* * *
ところでこの世界に、魔王を冠するユニークは1つも存在していない。けれど勇者を冠するユニークは、現存17。そう、魔王と対になるのは勇者ではないのだ。勇者とは勇気ある者であり、勇気を与える者。生命体の為にある存在であり、そして魔王とは星を終わらせる者であり滅ぼす者。つまりは星の天敵であった。
だからそう。魔王の顕現を予見した星の意志が、魔王に対抗するため選んだのは、魔法少女(星)だった。
「魔法少女を冠するユニークは――世界にただ一つ」
それはこの世界の誰もが知らない、しかし確かに存在する運命の話だった。
* * *
第一章・星の魔法少女になった日 完
……そして物語は、第二章へ。




