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TS星の魔法少女  作者: ゆん
第一章 星の魔法少女になった日
28/32

第二十四話 次へのステップ。特別な日は特別なお買い物をしよう


土曜日。朝靄の残るダンジョン前広場に、四人の姿があった。


「よし、今日はDランクだ。気合入れていくぜ」

「ん。無理はしない。午前中だけ」

「了解! 志乃舞も準備はいい?」

「は、はい! 頑張ります!」


健太の号令に志乃舞がぴしりと背筋を伸ばす。今日はいつもより少しだけ早い集合だ。葵の提案で、まずは午前中だけDランクの上層に挑戦しその後みんなで装備を買いに行く予定である。


「今週は日曜が休みだから、少しくらい無理しても大丈夫。でも無理はしない」

「ん。それがいい。休息は大事」

「葵ちゃんが言うと説得力あるなぁ」


真由が笑いながら日本刀の柄に手をやる。四人は揃って転移陣へと足を踏み入れた。


*  *  *


Dランク上層。空気が変わった。


(空気が重い。魔力濃度がEランクとは段違いだ)


葵は小さく息を吸い込み周囲を観察する。薄暗い洞窟のような空間。壁面には青白く発光する苔がびっしりと生えており、かすかな明かりを提供していた。


「ん。志乃舞」

「はいっ」


葵の短い呼びかけに志乃舞はすぐさま反応する。獣耳をぴんと立て、鼻をひくひくと動かした。


「……前方50メートル、左の分岐。一体います。中型四足歩行。たぶん……シャドウウルフです」

「数は?」

「一匹だけです。今のところ他の気配は……ありません」

「りょーかい。じゃあ作戦通りにな」


健太が大盾を構え前に出る。真由がその右側に日本刀を抜いて続き、葵は最後尾から全体を見渡す位置に立つ。


「志乃舞はいつも通り、隠密で背後を取ってくれ」

「はい。……隠密、発動します」


志乃舞の姿がすうっと空気に溶ける。完全な透明化ではないが、存在感が極限まで薄くなるスキルだ。気配も足音もほとんど消え、影のように通路を進んでいく。


(志乃舞の隠密はDランクでも完璧に機能してる。気配察知と合わせて、これなら斥候として申し分ない)


葵は内心で評価しながら、重力操作の準備を始める。


「来るぞ」


健太の声と同時に、前方の闇から巨大な狼が飛び出してきた。漆黒の毛皮に赤く光る瞳。口からはだらだらと酸性の涎が垂れ、地面に落ちるとじゅうじゅうと音を立てる。


「ギャアアアアッ!」


シャドウウルフの咆哮が洞窟を震わせた。しかし健太は一歩も引かない。


「おらよっ!」


盾を前面に押し出し突進を受け止める。どごん、と重い衝撃音が響き健太の足元の岩盤がめり込む。


「真由!」

「任せて!・・・セイッ!」


真由が横合いから飛び出し抜き打ちの一閃を見舞う。Eランクの周回で剣術はLv2に上がっており、よし鋭さを増した銀色の軌跡がシャドウウルフの前足を浅く切り裂いた。


「ギャンッ!」


「ん-。Eランクよりちょっと固いけど、思ったより抵抗ないかな?」


真由は笑いながら二の太刀を構える。その隙に、葵は右手をかざした。


「ん。重力」

「ギャアッ!?」


シャドウウルフの身体が突然地面にめり込む。重さが三倍に増したかのように動きが鈍り、俊敏だった動きが嘘のようにのろくなる。


「今だ志乃舞!」

「は、はいっ!」


ウルフの背後、闇の中から志乃舞が飛び出した。仕込みナイフが一閃し、無防備になった首筋を深く切り裂く。


「ギャ……」


シャドウウルフは断末魔の声すら上げられず、ずしんと倒れ伏した。傷口から青い光が溢れ出し、やがて魔石が結晶化する。


「……やりました!」

「上出来だ志乃舞。完璧なバックスタブだったぜ」

「あ、ありがとうございます……!」


志乃舞はぷるぷると震えながらも、しっかりと魔石を回収する。手のひらに収まるサイズだが、ずっしりとした重みのある青色の魔石だ。


「初めてのDランク戦闘、どうだった?」

「こ、怖かったです……でも、皆さんがいれば大丈夫だって思えました」

「ん。志乃舞は強い」

「葵さん……」


志乃舞はうるうると目を潤ませる。真由がよしよしとその頭を撫でた。

志乃舞が問題なければ、みなDランクは問題ない。


「よし、じゃあどんどん行こう! 午前中にあと二十匹は狩りたいね」

「おう。無理のないペースでな」


*   *  *


二時間後。四人はダンジョン前広場に戻ってきていた。


「ふう……なんとかなったね」

「おう。思ったよりスムーズだったな」


結果は快勝。いずれも大きな怪我なく魔石を回収できた。


「振り返りをしよう」

「ん。大事」


葵が切り出すと三人は真剣な表情で頷いた。ダンジョン前広場のベンチに座り、四人は今日の探索を振り返る。


「まずは志乃舞」

「はいっ」

「気配察知は完璧。罠も見逃さなかった。立ち位置も良い。Dランクでも問題なし」

「あ、ありがとうございます」

「戦闘も問題ない。隠密からの不意打ち、正確だった。慣れればもっと良くなる」

「葵さんにそう言ってもらえると……自信になります」


志乃舞は照れながらも嬉しそうにほほを赤らめる。


「健太も真由も問題ない」

「だろ?」

「ん。健太は大型の突進にもびくともしない。安定して堅実。盾として完璧」

「へへ、そりゃどぅも」

「真由は相変らずの剣豪ぶり。前線で戦えるヒーラーは強い」

「えへへ。今宵の聖女様も血に飢えておるぞー?」


「まぁ、それをいうならお前はまぁ、なんていうか…」

「葵ちゃん、上層ではもう無双だよねぇ。シャドウウルフ、1人で3匹も抱えてノーダメージだもんね。」

「…当たっても斥力でノーダメージなのに、掠ってすらいませんでしたね。敵がかわいそうでした。」

「ん。レベルもDランク中堅。スキルも強力。当然。」


葵は小さく首を振った。


「みんな強くなってる。Dランクは余裕。でも……」

「ん?」

「問題があるとすれば」


葵は真由を見た。


「真由の防具」

「えっ、私?」

「ん。攻撃力は十分。技術もDランクが相手にならないほど高い。けど、防具が薄い。万が一の時、回復役の真由が倒れたら終わり。」

「……たしかに」

「俺が守りきれれば問題ねぇけどよ。万が一ってのはあるからな」


健太も腕を組みなからうなる。


「でも防具を重くすると、私の戦闘スタイルに合わないんだよね。スピードも落ちるし」

「だな。真由はスピード命だもんな」

「ん。だからパーティ資金で、いい防具を買う。軽くて強靱な素材。」

「おう、確かにふさわしいな。スキルも買ってないし、かなりいい装備買えるぞ。これさえあえばDランク周回を始めても問題ないだろ」

「あは。やった、私頑張っちゃうよ!!」


真由がパッと顔を輝かせる。


「よし、じゃあ決まりだな。午後はみんなで装備探しだ!」

「おう!」

「はい!」


*  *  *


午後。四人は都心の大規な探索者用品店を訪れていた。


「うわあ……すごい品揃え……」

「ん。ここはプロ向け」

「おっ、これなんか良さそうだぜ。ミスリル繊維の防具。軽いが魔力を込めれば強靱になる。合金だからギリギリ買えなくもない。」

「見て見て葵ちゃん! こっちはドラゴンの鱗使ってるんだって!」

「ま、真由ちゃん。お値段、お値段見て!」

「んなの買えるか!高位ランクコーナーの目玉商品じゃねぇか!」

「いえーい、ドラゴン聖女真由様、誕生!」


ワイワイと騒ぎながら、しかし真由は真剣な表情で防具を較べ始めた。

ミスリル繊維の胴着を手に取り、重さや動きやすさを確認する。


「……ん-。このカーボン繊維にしようかな」

「いいのか? ミスリルのほうが瞬間的な防御力はかなり上だぜ?」

「うん。でも常にMPを注げるほど余裕はないし、ダメージをもらう瞬間に防御力を上げるのはコツが要りそう。それに最近剣術がいい感じなんだよね。消費MP増えそうだし」

「…攻撃重視だとそうなるか。まぁ防具も念のためだし、万が一でも死ななきゃ回復できるしな。」

「ん。真由らしい。それにデザインが良い。真由に似合う」

「わかります。アニメの戦闘系ヒロインみたいですよね!」

「えへへ、ありがと。よーし、これにしよっと!」


真由は嬉しそぅに防具を抱え、レジへと向かう。健太も新しい盾の補強材を、志乃舞は隠密スキルと相性のいい闇属性のマントを購入した。


「葵ちゃんは何か買わないの?」

「ん。斥力は24時間365日運用しても回復量が多い。これで完全に攻撃を防げるから、まだ不要」

「じゃ、服を買おっか。ローブも痛んできてるでしょ?」

「……む。考えとく」


こうして、四人の装備は一新された。明日はゆっくり休んで、来週からはいよいよDランクの周回が始まる。


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