第十七話 光り輝くそれは、スキルオーブってやつですか!?
志乃舞が加わってからの『星空』は、まるで別のパーティのように安定していた。以前はちょくちょくあった些細なミスも彼女の慎重な観察眼と優れた聴覚・嗅覚が未然に防いでくれる。戦闘中の位置取りも格段に良くなり、休憩中の不意打ちも事前に察知できるようになっていた。
「今日も順調だな! この調子ならあと二周はいけるぞ」
「ん。志乃舞のおかげ」
「そ、そんな……私はただ、見てただけですから……」
「その『見てるだけ』がすごいんだってば! 志乃舞ちゃんがいると、ほんとに安心できるんだよね」
真由がにこにこと笑いかけると、志乃舞は耳まで真っ赤になって俯いた。尻尾だけが嬉しそうにふりふりと揺れている。
「(あぁ……如月くんにも、褒めてもらえないかな……)」
ちらりと健太を見上げると、ちょうど視線が合った。
「ほんと助かってるぜ、志乃舞。お前がいてくれてよかった」
「ひゃいっ! あ、ありがとうございます……!」
志乃舞の尻尾がぶんぶんと音を立てそうな勢いで揺れる。顔はもう、湯気が出そうなくらい真っ赤だった。
(ああぁぁ……今日も如月くんがかっこいい……こんな幸せでいいのかな……)
* * *
それからも『星空』の快進撃は続いた。
四周目、五周目、六周目七周目。
ミスがなくなったことで周回スピードは格段に上がり、余計な経費も掛からず資金は順調に貯まり始めている。毎週のお小遣いも上がり、葵も真由もご機嫌だ。消耗品の補充も楽になり、少しずつだが装備の強化にも手が回るようになってきた。
レベルも順調に上がっていく。葵が41、健太が32、真由が31そして志乃舞が26。ついこの間まで12だった志乃舞の成長ぶりには、仲間たちも目を見張るものがあった。
「志乃舞、すごい勢いでレベル上がってるな」
「は、はひ……いえ、戦闘に関してはホントに葵ちゃんのおかげですけど……」
「ん。レベルが上がるのは頑張ってる証拠。もうすぐソロでも戦えるようになる」
(めった刺しの成果……目を瞑らなくなったし、剣筋は真っすぐになってきた。目がよく急所を見抜くのもうまい。おそらく敵の背後から不意打ちすれば、良いダメージが出せる)
葵は心の中でそっと付け加えた。相変わらず表情には出ないが。
「この調子なら、そろそろDランクも見えてくるな」
「Dランクかぁ……ちょっと怖いけど、私たちならいけるかな?」
「ん。装備を整えれば問題ない」
「わ、私も……もっと頑張ります……!」
志乃舞が小さな拳を握りしめる。何度も何度も魔物をその手で倒したことで、臆病な自分だけど、みんなと一緒ならきっと大丈夫。そう思えるようになっていた。
* * *
「よし、今日のラストだ。Eランクのボス部屋行くぞ!」
「おー!」
「ん」
「が、がんばります……!」
Eランクダンジョン『深緑の洞窟』の最深部。ボスである巨大なロックリザード・キングが、四人を待ち構えていた。剣と盾を扱う、装備ドロップにも期待できるボスである。
「ギシャアアアアアッ!」
「健太君よろしく!」
「任せろ! 志乃舞は後ろで状況を見ててくれ!」
「は、はいっ!」
健太が大盾を構えて突進してくるボスを受け止める。鋼の肉体がギリギリと軋むが、彼は一歩も引かない。
「真由。」
「了解! 葵ちゃんは左からだね!」
「ん」
葵が重力魔法でボスの動きを鈍らせ、真由が鋭い斬撃を叩き込む。葵の拳が重くボスの頭部にめり込んだ。
「ギシャア……!」
ボスが大きくよろめく。好機だ。
「畳み掛けるぞ! 葵!」
「ん。終わらせる」
葵がボスの頭上に跳び上がり、重力を乗せた渾身の拳を振り下ろす。
ドゴォッ!
岩の砕ける轟音とともに、ボスの巨体が崩れ落ちた。
「やった!」
「ん。いい感じ」
「み、みんな強いです……!」
「お疲れ。まぁ適正超えてるし、正面からの戦闘なら問題ないな。」
ボスを倒した安堵感に包まれる中、ふと葵が魔石とは違う光に気づいた。
「……ん?」
キラリ、と。
魔石の藍色とは違う、白く輝く何かがボスの消えゆく残骸の中に落ちている。
「なんだこれ……?」
「あ、もしかして……!」
真由が駆け寄りそれを拾い上げた。小さなオーブの中に、剣を振るう人のシルエットが浮かんでいる。
「スキルオーブだ!」
「えっ!?」
「おー、やっと出たか! そろそろ出るくらいには狩ったと思ってたが。初めて見たな。」
「ん。でも珍しい。Eランクボスからのドロップ率は五パーセント未満」
スキルオーブ――存在力の枠を消費して新たなスキルを装備できる、探索者にとっては喉から手が出るほど欲しいレアアイテムである。
「何のスキルだろう……!」
「これは……剣術Lv1だね」
「剣術か! 真由にぴったりだな。これで火力が上がるぜ。」
「えっ、いいの!? だってみんなで倒したのに……」
「ん。真由が使うのが一番効率がいい。私も健太も志乃舞も剣は使わない」
「そうだな! 俺は槍だし、葵は素手だし志乃舞はナイフだもんな」
「わ、私なんてまだまだですし……真由さんが使うべきです……!」
真由はそっとオーブを両手で包み込み、仲間たちの顔を見回した。
「……ありがとう。みんなのおかげだよ。大切に使うね!」
オーブを胸に抱く真由の顔は、ダンジョンの薄暗がりの中でもはっきりわかるほど輝いていた。
* * *
「ふぅ、やっぱり周回って大事なんだな」
「私の存在力、まだ余裕あるからさっそく装備してみようかな……!」
「おっ、いいじゃねぇか。どんな感じなんだ?」
「ん。見せて」
真由は緊張した面持ちでスキルオーブを掲げた。オーブが光に包まれ、彼女の体に吸い込まれていく。
「……わぁ」
真由が目を閉じる。その手は、まるで見えない剣を握るかのように動いていた。
「なるほどね…剣を振る時の動きに、補正がかかるんだ。それとダメージの上乗せ。やっぱり基礎技術って大事なんだねぇ。」
「もともと剣術を知らないと、理想の動きがまずわからないもんな。ダメージバフは乗るんだろうけど。」
「ん。スキルは知れば知るほど強くなる。」
しばらくして真由が目を開けるとその立ち姿がそれまでよりほんの少し、剣士としての風格を帯びているように見えた。
「これでまた、パーティの戦力が上がったな!」
「ん。頼りにしてる」
「んふー!まっかせてよ!なんたって私は聖剣の聖女だからね!」
「わ、私も……真由さんについて行けるように、もっと精進します……!」
こうして『星空』はまた一歩、確かな成長を遂げたのだった。
初めてのスキルオーブを手にしたことで、四人はあらためて思う。
探索者としてチームとして、これからもっと高みを目指していける。そう確信できる一日だった。
「さぁ、帰ったら祝杯だ! 真由のスキル獲得と初のスキルオーブゲットを祝して、ジュースで乾杯だ!」
「おー!」
「ん。楽しみ」
「わ、私……こういうの、初めてで……えへへ……」
四人の笑い声が洞窟にこだまする。その声は、これから始まる長い探索者人生の中でかけがえのない思い出となっていくのだった。




